文化圏の違いで違う犬の扱い。イスラム圏の場合

　国が違えば文化が違う。同じ人間でも教育や歴史的背景、宗教などで異なった価値観が存在する。多数派が正義であるという構図だけはどこの国も同じなので、その国の多数派の振る舞いを「間違っている」と他の国の多数派がその正義をもって裁こうとしても、到底受け入れられないのが現状で、それ故多くの誤解を生じ、戦争の火種となる場合もある。

　これはイスラム圏内でおきた犬にまつわる出来事を記録した映像で、群集が黄色い服を着ている男性と、男性の連れている2匹のジャーマンシェパード犬に石を投げつけている様子がわかる。イスラム圏では古くから、犬は邪悪な存在であり、害獣とみなされる場合が多いのだ。 　男性と犬に石を投げつける群衆たち。犬は飼い主を攻撃する者と認識し、石を投げた者に襲い掛かっている。それを男性が制している。 　おそらくはイスラム教が国教となっているモロッコからの映像ではないかと推測されるが、イスラム圏では牧羊犬以外に犬が飼われることはめったにない。ジャーマン・シェパード犬が訓練されていることを考えると、犬を連れていたのは、警察や軍当局者である可能性が高い。

　古代メソポタミアや古代ギリシアでは彫刻や壷に飼い犬が描かれており、古代エジプトでは犬は死を司る存在とされ飼い犬が死ぬと埋葬されていた。人間と暮らし始めた最も古い動物と言われている犬であるが、イスラム教では古い時代から、犬は不浄な生き物とされるようになった。その起源は定かでなく、コーランにもそういった記述は見当たらないという。たまたま預言者ムハンマドが「不浄（ナジス）」であると言ったので、そう見なされてしまっただけという話もある。

　犬の唾液が体についたならば、「七回洗え」と指示され、犬が口を付けた水は穢れているためその水を利用することはできない。犬が入った部屋は不浄となる。その為、犬を必要としない都市部では、犬を徹底的に排除してきた歴史がある。そういった宗教的背景を考えれば、群集の犬に対する行動は、犬をペットとして家族同様の扱いをする他国から見ると、「虐待」しているようにしか見えないのだが、イスラム圏では正義による勇気ある行動と見なされることとなる。 　インターネット上では、世界中の情報が簡単に入手できるようになったが、自分たちの価値観が絶対であると決めつけては、その情報の裏に隠されている文化的背景や宗教的背景を見逃してしまうことになりかねないので、アレ？っと思うことがあったらいろいろ自分で調べてみることも大事なのかもしれないね。あわよくば、お互いの価値観を擦り合わせ、風習でなんとなく行っていたことに実はなんの意味もなかったという認識を持ち、お互いが理解することで争いをなくしていけたらとも思うけど、これができないから今日まで戦争はなくなっていないわけだろうし、なかなか難しい問題だよね。

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