ヲ級「くー……」
空母棲姫「…………」スゥ
利根「くかー……」
提督「…………」
提督(さて……そろそろしっかり寝たか?)スッ
利根「んんー……」
提督「…………」ピタッ
利根「ん……くぅ……」
提督(……起きていないな。しかし、このままだといずれ起こしてしまうのも時間の問題か……?)
提督(せめて夢の中だけでも楽しくしてくれ、利根……)ナデ
利根「ん……」モゾ
提督(さて、行くか)ソロソロ
ヲ級「くー……」
空母棲姫「すぅ……」
利根「……………………」
金剛「────?」
瑞鶴「──…………」
響「────」
提督(……今日も起きているようだな)
コンコン──。
瑞鶴「中将さん? 入ってきて良いわよ」
ガチャ──パタン
提督「失礼する」
響「いらっしゃい、提督」
金剛「お好きな場所へ座って下サイ」
提督「ああ」スッ
利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 1/2
469:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/20(金) 01:30:19.50 ID:mHrYMh8do
瑞鶴「さてと……。ここに来た理由は分かってるわ。後は私と金剛さんの意見よね?」
提督「そうだ。だが、そっちの方は思い付いたら言ってくれたので構わない。それまでの間は他愛の無い話をしようか」
金剛「利根やあの二人が居ない時でないと話しにくい事とかデスか?」
提督「あるならば、な。それも無かった場合は本当に何の変哲も無い話をしよう」
瑞鶴「うん、分かったわ。──早速だけど、私も答えが出たの」
金剛「!」
提督「ふむ。聞かせてもらって良いか?」
瑞鶴「うん」スッ
金剛(……瑞鶴もイメージ出来たデスか)
瑞鶴「────」コショコショ
提督「…………」
金剛(後は……私だけデスね……。でも、どうしてイメージ出来ないのでショウか……)
提督「……そうか」
瑞鶴「うん。私だったらそう思う」
提督「……………………」
瑞鶴「…………? 中将さん?」
提督「……ありがとう、瑞鶴」ナデナデ
瑞鶴「わっ……。なんだろう……いつも以上に優しい気がする」
提督「そうか?」ナデナデ
瑞鶴「……うん。すっごく、あったかい」
提督「そう思ってくれるのならば、私も嬉しいよ」ナデナデ
金剛「…………」
金剛(羨ましいと同時に、何か胸の奥が引っ掛かりマス。本当に何でしょうか……この気持ちは……)
470:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/20(金) 01:31:08.20 ID:mHrYMh8do
響「どうしたんだい、金剛さん?」
金剛「……いえ。私も、早くイメージしなければと思ったのデス」
提督「前にも言ったが、無理をしなくて構わない。思い付かない場合はそう言ってくれて良いんだぞ?」
金剛「でも、提督は私の言葉も欲しいデスよね?」
提督「それはそうだが……」
金剛「だったら、私も二人と同じようにしたいデス」
提督「……思ったよりも頑固そうだな」
金剛「……お嫌い、デスか?」
提督「いや、そんな事はないぞ」
金剛「リアリー?」
提督「勿論だ」
提督(……少し、心は痛むがな。お前も頑固だと、本当に似てくる)
瑞鶴「んー……でも、難しいわよね……。私もハッキリと思い付くのに時間が掛かったし……」
金剛「一度、提督に艦娘としての指示を出して下さると何か分かるかもしれまセン。何か指示をくれマスか?」
提督「指示、か……」
金剛「ハイ。何かありマスか?」
提督「……無いな」
響「だよね」
瑞鶴「よねー……」
金剛「うぅ……」
金剛(──あ。提督の『私』と同じ事をすれば、答えに近付けるのでは? ──って……それはノーです。提督の心の傷を開いてしまうだけデス……)
471:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/20(金) 01:31:43.39 ID:mHrYMh8do
響「そもそもの話、何も思い付かないの?」
金剛「いえ、そういう訳ではないのデス。テートクの艦娘という前提でしか思い付けなくて……」
瑞鶴「……なんとなく分かっちゃうけど、どう思うの?」
金剛「……えっと……『何があったのでショウか』と『とうとう総司令部から通達を受けてしまったデスか……』の二つデス」
瑞鶴「やっぱりそう思うわよね……」
金剛「あと、どうにかしてあげたいと思うかもしれないデス」
響「……本当に健気だよね、金剛さんって。今まであんな待遇だったのに」
金剛「今になって思うと、普通じゃなかったデスよね……」
瑞鶴「本当よね……」
提督「……三人とも、本当に苦労していたんだな。──さて、そろそろ眠気も強まってきた。勝手ですまないが、今回はここまでにしても良いか?」
瑞鶴「うん、良いわよ」
金剛「オッケーです」
響「また明日も来てくれる?」
提督「ああ、また夜になったら来よう」
響「待ってるね」
提督「ありがとう、三人とも」
利根「……………………」
利根「…………」スッ
……………………
…………
……
472:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/20(金) 01:32:10.27 ID:mHrYMh8do
提督「…………」ボー
利根「……………………」
空母棲姫「……昨日も思ったが、本当にずっとボーっとしているな」
瑞鶴「他にする事もないしねー」
空母棲姫「……まあ、確かに資源が乏しいから何も出来ないか。楽をする為に木を切れば、こんな小さな島ではすぐに枯渇もしてしまう」
提督「そういう事だ。こうして海を眺め続けるのも悪くない」
金剛「流石にそれに飽きたのか、響とヲ級は遊びに出掛けまシタね」
提督「響も遊びたい盛りだろうからな。ヲ級も遊びたいようだから良かったと思うよ」
空母棲姫「……一つ気になったのだが、ヲ級というのはあの空母の事か?」
提督「そうだ。敵艦によって私達は即座に理解できるよう、艦級を付けている。イロハになぞられているという話だ」
空母棲姫「なるほど。しかし、なぜ私は空母棲姫と呼ばれているんだ?」
提督「総司令部が勝手に命名しているから何とも言えん。あくまで私の予想だが、深海棲艦の中でも特別容姿の異なる者に独自の名を付けているのではないだろうか」
空母棲姫「そういうものか」
瑞鶴「一つ思ったんだけどさ、深海棲艦は自分達の仲間をなんて呼んでるの?」
空母棲姫「そもそも前提として会話をする事がほぼ無い。大抵が言葉を発する事が出来ない者ばかりだ。故に名前なんて考えた事もなかった」
金剛「あのヲ級は特別なのデスか」
空母棲姫「確かに色々とおかしい奴ではあるが、そう珍しい訳でもない。……いや、艦娘と仲良く出来ている事は充分におかしいが」
瑞鶴「あなたも割と私達と普通に話してるような気が……」
空母棲姫「そこの人間に恩を感じているからだ。普通に海上で会った場合は敵同士だというのを忘れるな」
瑞鶴「確かにそうだけどさ……。なんかこう、世話を焼くのが好きな人って感じがしてきた」
空母棲姫「どうしてそうなる……」ハァ
473:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/20(金) 01:32:38.46 ID:mHrYMh8do
瑞鶴「だってさ、本当に敵だって思ってたら注意なんてしたら面倒になるだけじゃないの。あの時、一緒に暮らしていた深海棲艦だーって思わせておいて、そこから至近距離まで近寄った所で不意打ちで沈める事だって出来るわよね?」
空母棲姫「……顔に似合わず外道な事を考えるんだな」
瑞鶴「う……。外道……」
金剛「そのやり方は向こうのテートクがやりそうな手段デス。きっと、テートクのやり方を必死になって覚えただけデスよ、瑞鶴」
瑞鶴「今になって思うと、ヤな考え方よね……」
空母棲姫「……お互いの傷を作っていくだけのような気がしてきた。この話は終わらせておこうか」
瑞鶴「そうしましょうか……。──ところでさ、今日は利根さんがすっごく静かだけど、どうしたの?」
利根「…………ん? 何か言ったかの?」
提督「今日のお前が静かだなって話だ」
利根「んー……そういう気分なのじゃ。少し、考え事があってのう」
金剛「何か悩みがあるデスか?」
利根「悩みという訳ではないから安心すると良いぞ。我輩の気まぐれじゃ」
提督「私にはその気まぐれで悩んでいるように見えるが?」
利根「……少しばかり、釣りを楽しんでくる」スッ
瑞鶴「あ──。行っちゃった」
金剛「どうしたのでショウか……」
空母棲姫「……無いとは思うが、あの利根という娘は釣りが好きだったのか? 釣りの必要が無くなって悩んでいるのならば悪い事をしてしまったか」
提督「釣り自体に興味はそこまで無かったはずだ。だが……少し分からん。あんな利根は初めて見る」
金剛「提督も分からないデスか……」
瑞鶴「中将さんが分からなかったら誰にも分からないわね……」
空母棲姫「追いかけないのか?」
提督「一人にさせてやった方が良いだろう。他人に関与されたくない内容のような気がする」
空母棲姫「気がする……という事は、何も根拠が無いのか」
提督「無い。ただ単に私の予想だ。……ただ、特に私が触れてはいけない内容ではないかと思う」
瑞鶴「中将さんが触れちゃいけない……? どういう事なの?」
提督「こればかりは本当に分からん。長年一緒に居る者の勘だ」
金剛「では、そっとしておくべきデス?」
提督「どうするかはお前達に任せる。私は利根が答えを出すまで見守ろう」
空母棲姫「優しいのか厳しいのか分からんな」
提督「私と利根の関係はそういうものだ。本当にどうしようもなくて悩んでいるのならば互いに相談をする。変に関わってしまっては相手の考えを乱すだけになるだろう」
空母棲姫「ふむ。なるほど」
金剛・瑞鶴「……………………」
金剛(お互いを理解している、ですか……)
瑞鶴(良いなぁ……二人が羨ましい……)
…………………………………………。
474:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/20(金) 01:33:10.51 ID:mHrYMh8do
利根「…………」ボー
利根「海、か……」
利根「……………………」チクチク
利根「……我輩、なんでこんな気持ちになっておるんじゃろうか。胸が痛いぞ……」
利根(ああ……この近くの海で、金剛達は沈んでおるんじゃよな……)
利根「……沈みたい…………」
利根「なんでじゃ……? 提督はただ単に、あの三人の部屋に行っているだけではないか……。そこで何をしていようと、我輩に話さぬのだから我輩は知らなくても良い事なのに……」
利根「……我輩には話さぬ事、か。何をやっておるんじゃろうなぁ……」
利根(足を運ぶ度に提督は元気を取り戻しているような気もする……。何か、提督にとって利になる事をやっているとは思うのじゃが……)
利根(……そういえば初めて金剛達の部屋に行った次の日、響がやけに懐いておったのう)
利根「一度は拒否をしておったが、気が変わって女が欲しくなったのかの……? 無いとは思うが……」
利根(……じゃが、愛した金剛と同じ姿の人が居る事を考えると、寂しくなって……とも)
利根(響はその時一緒に……? いや、それでは瑞鶴も一緒でなければおかしいような……。瑞鶴ならばすぐに顔に表れそうなものじゃ)
利根(いや……ケッコンの指輪をしていた事からして、既に経験済みで動揺しなかったのかの……? それならば有り得ぬ事ではないが……)
利根「……そもそも、提督が誰と寝ようと我輩に何かがある訳ではないではないか。いや、その前にそうと決まった訳ではなかろうに」
利根「……………………」ズキズキ
利根(…………じゃが……なぜ、こうも辛いのじゃろうか……)
利根「……百万年ほど昼寝をすれば、この気持ちも無くなってくれる……かの…………」
利根「提督……」
…………………………………………。
475:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/20(金) 01:33:40.48 ID:mHrYMh8do
利根(……今日も、我輩が寝た後に金剛達の部屋へ来たのう)
響「──いらっしゃい提督。今日はここに座ってよ」ポンポン
提督「そこは三人のベッドじゃないのか?」
瑞鶴「私は良いわよ。ていうか、事前に座らせて良いかって聞かれたしね」
金剛「私もオーケーです」
利根(盗み聞きは好かんが……どうしても気になるのじゃ……)
提督「…………」
響「ほら、早く」ポンポン
提督「……分かった」スッ
響「よいしょ」スッ
瑞鶴「あ、また膝の上に」
提督「……最初からこれが狙いだったな?」
響「ダメだったのなら降りるよ」ヂー
響『────────────』
提督「────」
金剛「…………?」
提督「……構わんよ」ナデナデ
響「ん、良かった」
金剛(……今、提督が遠くへ行ったような?)
瑞鶴「もう、響ちゃんは……」
響「瑞鶴さんも座りたいの?」
瑞鶴「どうしてそうなったのよ……」
金剛(気のせい、デスかね?)
476:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/20(金) 01:34:06.97 ID:mHrYMh8do
提督「──どうした、金剛?」
金剛「え? な、何かお話をしていまシタか?」
提督「いや、どことなく上の空だったから気になっただけだ。大丈夫か?」
金剛「ええ……コンディションはグッドです」
提督「何か悩みがあったら言うようにな」
金剛「…………」
金剛(悩み……デスか……。悩みならありマス……ケド、こんな悩みを言っても困らせてしまうだけデス……)
金剛(その悩みの一つを解決できれば──きっと、私の答えも出せるのに……)
瑞鶴「……酷い顔してるわよ、金剛さん」
金剛「え──」
響「うん。物凄く思い詰めてるよね」
提督「どうしようもないのならば相談してくれ。一人で解決できないのならば、私達は力になるぞ」
金剛「……………………」
提督「……………………」
金剛「……迷惑を、掛けてしまうかもしれないデス」
提督「構わん。掛けろ」
金剛「きっと、困るデスよ……?」
提督「困らないかもしれんだろう」
金剛「少しだけ、怖いデス……」
提督「では約束しよう」
金剛「何を、デスか……?」
提督「その悩みを、必ず受け入れると」
金剛「……………………」
提督「……………………」
金剛「……分かりまシタ」スッ
瑞鶴「! それ、提督さんとの……」
金剛「……ハイ。誓いのリングです」
477:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/20(金) 01:34:51.24 ID:mHrYMh8do
響「そういえば、二人はずっと嵌めてるよね」
金剛「…………」
提督「……それを、どうしたいんだ?」
金剛「……私では、決断が出来ないデス。テートクの元から離れ、こうして貴方の元へやって来まシタ。ケド、私はまだ心のどこかで迷ってるデス……」
提督「…………」
金剛「この指輪を離せずにいたのは……私がテートクの事を諦め切れていないからだと思いマス」
瑞鶴(……そっか。だからずっと指輪を付けたままにしていたのね)
金剛「……お願いデス。この指輪を、外してくれマスか。私では……私は自力で外せそうにないデス……」
提督「…………」ソッ
金剛「ぁ……」ピクッ
提督「……良いんだな?」
金剛「……………………ハイ」
提督「…………」ジッ
金剛「…………」
金剛「……………………」コクリ
提督「…………」スッ
金剛「…………あぁ……」
金剛(これで、本当に私は……もう……)
提督「外れたぞ」
金剛「……ハイ。外れまシタ」
提督「ほら」スッ
金剛「…………?」
提督「私は確かに指輪を外した。金剛の絆を取り上げた」
金剛「……ハイ」
提督「だが、私が出来るのはここまでだ。──この絆を本当の意味でどうするかは、お前でしか出来ない事だ」
金剛「──ハイ」スッ
478:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/20(金) 01:35:19.16 ID:mHrYMh8do
瑞鶴「……金剛さん、どうするの?」
金剛「──決まっていマス。このリングは、もうお別れデス。二度と浮き上がってこれないよう、海の底に沈んでもらいマス」
提督「今からか?」
金剛「イエス。お別れをすると決めたのデスから、今しかありまセン」
提督「流石に夜も深い。私が預かっておいて、明日にしてはどうだ」
金剛「ノー。今だからこそ意味があるのデス」
提督「だが、今日はかなり暗いぞ」
金剛「なら、こうしまショウ」スッ
金剛「──loved you テートク…………」
ブンッ────……………………
瑞鶴「そ、外に投げちゃった……」
響「ハラショー」
金剛「これでリングは海の中ネ。──ンー! すっきりデス!」
提督「……なんというか、豪快だな」
金剛「これが私ネ。いつまでもクヨクヨしているのは私らしくなかったデース」
瑞鶴「……本当、吹っ切れたみたいね」
響「なんだか雰囲気が少し変わった気がする」
金剛「とは言っても、私はあまり変わらないと思いマース。ここに来てから、私の気はかなり楽になっているデース」
提督(ふむ。しっかり変わっているじゃないか。これが金剛の素か)
金剛『─────────────、─────!』
提督(……やはり、艦娘が同じならば似る……のか)
479:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/20(金) 01:35:46.62 ID:mHrYMh8do
金剛「ところで提督、お願いがあるデス」
利根(……なぜじゃ。嫌な予感がするぞ……)
提督「なんだ?」
金剛「私達は今、主人の居ない艦娘デス」
利根(…………)
金剛「なので……どうか、私達の提督になって下サイ」
利根「!!」
金剛「私達は、貴方に尽くしたいと思っていマス」
利根「…………っ」
響「いつ言おうか考えていたのに、今言っちゃうんだね」
利根「ッ……!」
瑞鶴「で、どうするの? 私としては、そうなったらすっごく嬉しいんだけど」
利根「……っぁ…………!」ギュゥ
提督「ふむ、そうだな……」
利根「…………!」フルフル
提督「──良いぞ。三人とも、私の艦娘になってくれるか?」
利根「ッ!!」ガタッ
金剛「? 何か、物音が──」
利根「ッ!」バタン
瑞鶴「え、利根さん?」
提督「起こしてしまったのか。すまな──」
利根「嫌じゃ……」
響「?」
480:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/20(金) 01:36:20.01 ID:mHrYMh8do
利根「嫌じゃ……! 取らんでくれ……嫌なんじゃ……!」
金剛「ど、どうしたデスか?」ソッ
利根「ッ──!!」ガバッ
金剛「わっ……とと」ギュゥ
利根「頼む……やめてくれ……! 我輩から、提督を取らないでくれ……」
金剛「え……?」
利根「頼む……頼むから……。我輩の……最後の支えを…………頼む……」カタカタ
金剛「あ、あの……?」チラ
提督「…………」コク
提督「利根」
利根「っ!?」ビクッ
提督「ほら、こっちに来い」ソッ
利根「……っ」ビクビク
提督「…………」
利根「……う、む…………」フラ
提督「…………」ギュ
利根「っ……」ピクン
提督「最近悩んでいたのは、この事だったのか」ナデナデ
利根「そ、うじゃ……。提督が……我輩が寝た後に抜け出して……三人の部屋に……」ポロポロ
利根「我輩に内緒で、何を話して……いるのか……分か、なくて……」ポロポロ
提督「…………」ナデナデ
利根「我輩は不出来で……! 女としても魅力が無いのは分かっておる……! 我輩は我侭なのも、分かっておる……。それでも……それでも……!!」
提督「……それで、私がお前を放っておくと思ったか?」ナデナデ
利根「提督ならばそうしないとも分かっておる……じゃが、怖い……怖いんじゃ……」
提督「安心しろ。お前を放っておくなんて事はしない。今までどれだけの間、一緒に居たと思っているんだ」
利根「本当か……?」
提督「ああ」
481:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/20(金) 01:36:49.79 ID:mHrYMh8do
利根「…………」ビクビク
提督「…………」ナデナデ
利根(ああ……また、迷惑を掛けてしまったなぁ……)
利根「……すまぬ…………」ギュゥ
提督「構わん。お互い様だ」ポンポン
金剛「……………………」
金剛(あの日見た利根は、あれから見なくなっていまシタ。……けど、それは押さえ込まれていただけだったのデスね)
金剛(いつものんびりと出来ていたのも、提督が傍に居たから──。その提督を私達に取られそうになったから、こうして利根の弱い部分が……)
金剛「…………」
金剛(……それもそうデスよね。私達は、利根の代わりに沈んでいった三人と姿は同じなのデス。心の負担になっていたのは間違いないでショウ……)
金剛(その支えになっていた提督までもが居なくなれば、どうなるのかなんて考えるまでもありまセンでシタ)
金剛「…………」ギリ
金剛(なぜ、私は今まで気付けなかったのでショウか……。利根がどうしてあんな風になったのか──どうして、気付けなかったのでショウか……)
…………………………………………。
505:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/28(土) 04:27:03.95 ID:MkagTLVAo
提督「…………」
利根「…………」ノシッ
響「…………」チョコン
空母棲姫(……生簀の管理と塩田の塩を回収が終わったらこれか。やはり、こいつらは怠けているだけなんじゃないのか……?)
瑞鶴「はい、出来たわよ」スッ
ヲ級「花の、王冠……!」キラキラ
金剛「その帽子は脱げるデスか?」
ヲ級「ん」スポッ
瑞鶴「どう?」ソッ
ヲ級「嬉しい」ホッコリ
金剛「とってもチャーミングに見えるデース」ニコニコ
空母棲姫(……こいつらも馴染み過ぎだろう。毎度注意をしても意味が無いのはどうしてだ……)
空母棲姫「……………………」
空母棲姫(のんびりしている私も似たようなものか……)ハァ
響「利根さん利根さん」
利根「うんー? どうかしたのかの響よ」
響「最近になって思ったんだけど、こっちに座ってみない?」
利根「ん? どうしてじゃ?」
響「たまには利根さんも提督に包まれてみてはどうかなと思ってね」
提督「……酷く不思議な言い方をするな、響」
響「そうかな。そんな事はないと思うけど」
506:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/28(土) 04:27:31.16 ID:MkagTLVAo
利根「ふうむ……。提督よ、構わぬかの?」
提督「私は構わないぞ」
利根「ふむふむ。ならば、少し失礼するぞ」スッ
響「私は背中を借りるね」ソッ
利根「ほっ、と」チョコン
響「ん」ノシッ
提督「……こうしていると、私は家具か何かなのかと思ってきた」
響「どっちかと言うと私達が付属品かもね」
利根「強ち間違っておらんのう」
提督「コバンザメとでも言いたいのか」
利根「あれは一方的に共生しておるだけではないか。せめて亀の親子と言ってくれぬか」
提督「小さな亀が大きな亀の背中に乗っているのは親子だからではないぞ。あれは単純に少しでも甲羅を乾かそうと日当たりの良い場所へ行こうとしているだけという話だ」
利根「なぬ。それは本当か?」
提督「詳しくは知らないが、親子ではなくとも背中に乗っている事は多々あるようだ」
響「へぇ……そうなんだ。でも、なんで甲羅を乾かそうとするの?」
提督「乾かさないと甲羅が柔らかくなってしまうそうだ」
利根「ほー。捌いた魚は天日干しにせねば腐ってしまうのと同じかの?」
提督「例えはアレだが、似たようなものなんじゃないか? 恐らくだが」
ヲ級「魚、腐ると臭い。あれ嫌い」
利根「流石の我輩もアレばかりは嫌いじゃぞ」
瑞鶴「あの臭いが好きな人って居ないと思うけど……」
ヲ級「! 確かに」
507:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/28(土) 04:28:02.57 ID:MkagTLVAo
金剛「それに、勿体無いデース」
ヲ級「うんうん」コクコク
提督「ならば、昼食は干物でも食べてみるか?」
ヲ級「干物、美味しい?」
響「美味しいよ。獲ってすぐに捌いてるからね」
金剛「魚の種類によっては噛むほど味が出てくるので、とってもワンダフルです」
ヲ級「食べたい……!」キラキラ
提督「よし。ならば昼食は干物と刺身を炙ったものにしてみよう」
響「刺身って炙るものなの?」
提督「炙った刺身は美味いぞ。今までは割と面倒だったからやらなかったが、約束したからな」
瑞鶴「響ちゃんとの約束ね?」
提督「そうだ。空母棲姫とヲ級のおかげで食料には困らなくなったからな。出来る限り美味い物を作ろう」
響「スパシーバ」キラキラ
ヲ級「美味しい、食べ物……!」キラキラ
空母棲姫「……………………」
空母棲姫(……本当に私達は敵同士だよな?)
響「あ、そうだ提督」
提督「どうした」
響「…………」ソッ
提督(む?)
響「…………」ヒソヒソ
提督「……ふむ」
利根(何を話しておるんじゃろ?)
508:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/28(土) 04:28:28.70 ID:MkagTLVAo
提督「利根」
利根「うん?」
提督「少し失礼するぞ」ギュゥ
利根「おお?」
利根「……おぉ…………」
響「…………」
利根「……のう提督」
提督「どうした」
利根「こう、腕の内を通すのではなく外から頼んでも良いかの」
提督「ふむ。──こうか?」スッ
利根「……うむ。うむうむ。これは良い……とても良いぞ」ホッコリ
金剛「…………」ニコニコ
響「…………」ニヤ
瑞鶴(あー……昨日の夜でも思ったけど、やっぱり利根さんって──)
利根「はぁー……最高じゃぁ……」
空母棲姫「大好きな父親に甘えている二人の娘にしか見えんな」
ヲ級「…………」ジー
響「? どうしたんだい? 背中に乗りたいのかな?」
ヲ級「ううん」フルフル
利根「では我輩の場所かの?」
ヲ級「…………」フルフル
利根「ふむ……?」
ヲ級「──二人は、今、幸せ?」
509:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/02/28(土) 04:29:08.69 ID:MkagTLVAo
利根「うん? もちろん幸せじゃぞ。こうしておるだけで我輩は幸せ者じゃ」
響「私は幸せっていうよりも落ち着く感じかな。凄く良い」ピットリ
ヲ級「良い顔」ニコニコ
利根(…………まあ、三人を差し置いて我輩だけこうして幸せになるのはダメな事なんじゃがの……)
ヲ級「? 笑顔、無くなった?」
提督「…………」ギュゥ
利根「んっ……。どうしたのじゃ提督?」
提督「……ちゃんと、私の傍に居ろよ」
利根「む……? それは勿論じゃが……どうかしたのかの?」
提督「なに。気まぐれだ」
利根「…………?」
響「…………」チョンチョン
提督「どうした、響」
響「私達も、ちゃんと居るよ。ね?」チラ
瑞鶴「ん? うん。勿論よ。これも何かの縁だもの」
金剛「提督が私達に愛想を尽かさない限り、私達は付いていくデス」
提督「──ああ。ありがとう」グッ
利根(? 少し変なように力が入っておる? ……まあ、大方の予想は付くがの)
利根(結局、我輩も提督も似た者同士……という訳か。違う点を挙げるならば、提督は我輩よりもずっと無理をしておるという所かの)
利根「──のう、提督よ」
提督「どうした」
利根「力を抜きたくなったら、いつでも我輩達を頼るが良いぞ」
提督「…………そうか」
響(…………? 今更?)
瑞鶴(何か特別な意味でもあるのかしら……?)
金剛「……………………」
金剛(提督が私達に頼るのを躊躇っている、という意味デスかね。……もしそうなのでしたら、私達が思っている以上に提督は無理をしているという事なのでショウか……)
金剛(提督も、あの時の利根みたいになる事があるのかもしれないデス……。心の準備だけはしておきまショウ)
空母棲姫(……この人間も、難儀な奴なんだな。私に出来る事は──まあ、無いか)
空母棲姫(──って、本当に私も毒されてきているな……。人間の敵である私が、人間の心配をするなどとは……)ハァ
ヲ級「? どうしたの?」
空母棲姫「いや……なんでもない……」
ヲ級「? ??」
…………………………………………。
539:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/09(月) 18:39:04.30 ID:LhWXZDl/o
提督(……さて、夜も深くなった。そろそろ行くとしようか)モゾ
ヲ級「ていとくー……」
提督「…………」ピタ
ヲ級「お魚……おいひ……」
提督(……寝言か。起きたのかと思ってしまった)スッ
利根「──提督、また行くのかの」モゾ
提督「……起こしてしまったか」
利根「いい加減、慣れてしまったのう」スッ
提督「そうか。すまない」
利根「構わぬ。──それよりも、三人の所へ行くのならば我輩も行きたい」
提督「……………………」
利根「提督の事じゃ。我輩に何か気を遣っておるんじゃろ。一人で三人の所へ行くのも、我輩に何か悪い影響を与える可能性があるかもしれんと思っておるのではないか?」
提督「……良く分かったな」
利根「何年一緒じゃと思ってるんじゃ。冷静に考える事が出来ればすぐに辿り着けたぞ」
提督「そうか。……そして、わざわざ話し掛けてきたという事は、そういう事なんだな?」
利根「うむ。そろそろ足を進めねば提督の隣を取られてまうからのう」
提督「……そうか」
提督(自分の気持ちを自覚したのか……? もしそうだとしたら、この先どういう影響が出るか……)
利根「あの位置は我輩のものじゃ。加賀が相手でも譲らぬ」
利根「それに、我輩は提督の近くに居ると不思議な気持ちで落ち着ける。それが堪らなく心地良い。……まあ、こればかりは良く分からぬがの」
提督(……気のせいか)
提督「なら、お前も三人の部屋へ行くか?」
利根「うむ。参ろうぞ」スッ
────────。
540:区切る場所間違えてた ◆I5l/cvh.9A:2015/03/09(月) 18:39:39.21 ID:LhWXZDl/o
空母棲姫(……やっと行ったか。まったく……寝ているというのに会話をするものだから目が覚めてしまった……)
空母棲姫(二度寝は……難しいな。頭が冴えてしまっている。眠くなるまで何かするか……)スッ
ヲ級「ぃみゃぁゎう……たべあれみゃみお……」ホッコリ
空母棲姫「……何語だ、今の?」
…………………………………………。
541:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/09(月) 18:40:27.76 ID:LhWXZDl/o
コンコン──。
瑞鶴「どうぞー」
ガチャ──パタン
提督「夜中にすまんな」
金剛「いえ、私達は大歓迎デース」
響「そうだよ。これからも遠慮なく来てね。──今日は利根さんも一緒なんだ? 珍しいね」
利根「うむ。我輩も居て構わぬか?」
瑞鶴「勿論よ。好きな所に座っちゃって?」
提督「──よっと」スッ
利根「では我輩はここに」チョコン
響「!」
提督「……なぜ私の膝の上に座る」
利根「提督が嫌じゃと言えば降りるぞ」
提督「単純に気になっただけだ」
利根「ふむ。そういう気分なのじゃ。我輩の気まぐれじゃな」
提督「そうか」
利根「うむ」
瑞鶴(これ、どう見てもえっちな体勢にしか見えないんだけど……)
瑞鶴「……な、なんだか、いつも以上にペッタリなのね? お昼でも思ったけどさ」
利根「やはり提督と触れ合っておると落ち着いてのう」
瑞鶴(これはもう確実よねぇ……)
響「羨ましい」
利根「うん? こっちに来るかの?」
提督「待て。流石に二人はキツい」
響「大丈夫だよ。座ったりはしない。こうするだけ」トコトコ
響「んっ、と……」コトッ
金剛「ナルホド。隣に座るデスか」
542:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/09(月) 18:40:58.80 ID:LhWXZDl/o
響「そうだよ。これなら負担にならないよね?」チョコン
提督「ああ」
利根「…………むぅ……」
利根「!」ピコン
利根「そうじゃ提督。足を広げてくれぬか?」
提督「──ふむ。そういう事か」スッ
利根「うむ。……うむうむ。より提督と密着している感がするぞ」ホッコリ
瑞鶴(……ねえ金剛さん。さっきも思ったけど、ビジュアル的にこれってさ──)ヒソ
金剛(ノー……。言うのは無しデス瑞鶴……)ヒソ
提督「話は変わるが、瑞鶴」
瑞鶴「うん? 何?」
提督「いつも付けていた指輪が今日の昼には無かったが、お前も金剛と同じように捨てたのか?」
瑞鶴「ああ、アレ? まだあるわよ」
響「まだ持ってるんだ?」
瑞鶴「私は海に出る機会があった時に捨てようって思ってね。今は外してるだけなの」
利根「ふむ? どうして海に出た時なのじゃ?」
瑞鶴「なんか浅い場所に捨てるのが嫌なのよね。潮の流れとかで陸に上がってくるかもしれないし。二度と浮かび上がってこれない、深い場所で捨てるつもり」
金剛「……私もそうした方が良かったデス」
提督「そんなに気になるか」
利根「徹底的じゃのう」
瑞鶴「まあ、なんとなくね?」
金剛(……でも、提督の艦娘になったのデスから、いつかは記憶の端に追いやられマスよね?)
金剛(…………提督の艦娘、デスか。提督が私のテートクで……提督の『金剛』が今の提督の姿を見たらどう思うか──)
543:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/09(月) 18:41:34.08 ID:LhWXZDl/o
瑞鶴「それにしても、響ちゃんってどうしてそこまで中将さんに懐いたの?」
響「凄く頼りになるから、かな? たぶんだけど」
利根「たぶんなのかの?」
金剛(……沈んだ私達のせいでこんな何も無い島で何年も過ごして……偶然とはいえ新しい私と瑞鶴、響と一緒に居て……)
響「なんとなくだけど、一緒に居たいって思うんだ。詳しい事は私にも分からない」
瑞鶴「ふうん……? 好きとかじゃなくて?」
響「好きなのは確かだけど、恋かって言われたら首を傾げるね」
金剛(……………………)
利根「譲らぬぞ?」
響「今の言葉は女性として譲らないって事なのかな?」
利根「…………。うーん……? どうなんじゃろ……?」
瑞鶴「じ、自分で分かってないのね……」
利根「我輩もなんとなく譲りたくないって思ったからじゃからのう……」
提督「……そもそも、私とお前は恋仲ではないだろう」
利根「ハッ! そうじゃった!」
金剛(……まだこの島に居るという事は、私達の死に捉われているという事デス。早く、立ち直って欲しいデスね。……ケド)
提督「ところで聞くのを忘れていたんだが、明日の朝食は何が良い?」
響「私は焼いた魚が良いかな。シンプルであっさりしてるし」
瑞鶴「あ、私もそれが良い」
利根「ならば焼き魚じゃな」
提督「金剛はどうだ?」
金剛(……私達の事は、忘れて欲しく……ないデス)
提督「……金剛、どうした?」
金剛「──え、あ、ソーリィ……。考え事をしていまシタ……」
544:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/09(月) 18:42:01.89 ID:LhWXZDl/o
利根「ふむ。焼き魚以外のものが良かったのかの?」
金剛「いえ、全く別の事を考えていたデス……。何の話なのかも分かっていまセン……」
提督「明日の朝食は何が良いか、という話だ」
金剛「あ、それならば焼き魚に賛成デス」
提督「そうか、分かった。──しかし、どうしたんだ? 何か悩みでもあるのか?」
金剛「……むしろ、悩みが解決した方デスかね?」
提督「ほう」
金剛「提督、私が提督の金剛だったらどう思うか、という答えが出まシタ」
提督「……ふむ」
利根「?」
提督「利根、私がここ最近一人でここに来ていた理由の一つがそれだ。……沈んでしまった金剛や瑞鶴、響が今の私達を見たらどう思うか、というのを三人に考えて貰っていたんだ」
利根「ああ、なるほどのう。それが我輩に何か悪影響を与えかねぬから我輩には秘密にしておったのか」
提督「そういう事だ。……逆効果のようだったが」
利根「まあそれは仕方あるまい。提督は我輩ではないのじゃ。──それよりも、我輩も金剛の考えが気になるぞ」
提督「辛いかもしれんぞ」
利根「知らぬ方が辛いじゃろうて。今のままでは死んだも同然じゃからの」
響「!」
利根「我輩は生きておるから前に進まねばならぬ。それならば、金剛の考えを糧に前に進むのが良かろう」
提督「ほう。そう考えるか」
瑞鶴(……なんか、あの提督さんと似たような言葉ね。あっちと違って随分前向きな考えだから良いけど)
利根「なに。我輩だけの考えではない。──それは置いておくとして、金剛。頼めるかの?」
金剛「……提督も良いデスか?」
提督「ああ。頼む」
545:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/09(月) 18:42:28.58 ID:LhWXZDl/o
金剛「分かりまシタ。──私は、いつまでも私達の事を引き摺っているテートクと利根が、早く立ち直って欲しいと思いマス」
提督・利根「…………」
金剛「……ケド、立ち直った後で私達の事を忘れられると……寂しいです。なので、頭の片隅でも構いまセン。どうか、私達の事を忘れないで下サイ」
提督「────────」
金剛「これが、私の思った事デス。……お役に立てたデスか?」
利根「なるほどのう……。確かに金剛ならば言いそうじゃ。提督もそう思うであろう?」
提督「……ああ。……本当に、そう言いそうだ」
提督(三人とも、私の予想と同じ事を言うんだな……。それだけ、あの子達は私に素を見せてくれていたという事か)
利根(……少し、元気付けなければならんかの? 提督の手を握って、と……)スッ
利根「……………………」
提督「……どうした、利根」
利根(いかん……上手い言葉が思い浮かばぬ……。どうすれば良いのじゃ……。むう……やはり常日頃から頭を使わねばならん……)
提督「…………」ポン
利根「む?」
提督「言葉が無くとも伝わっている。……ありがとう、利根」ナデナデ
利根(……結果オーライ、かの?)
利根「──さて、我輩は瑞鶴と響の考えも知りたいぞ。聞かせてくれぬか?」
瑞鶴「……そうね。金剛さんも言った事だし、私達の考えも言いましょうか」
響「ハラショー。それは良い考えだ」
瑞鶴「じゃあまずは私ね。私は──」
…………………………………………。
546:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/09(月) 18:43:10.33 ID:LhWXZDl/o
空母棲姫「──夜の海、か。昼とは違い、一風変わった趣があるな」
空母棲姫(……少しこの辺りを遊覧してみるか。最近は海の中か陸の上だったからな)パシャッ
空母棲姫(艤装は──まあ良いか。浅瀬でこの島を一周するだけならばすぐに逃げられるし見つかる事もないだろう)
空母棲姫「────ああ、潮風が心地良い……。やはり、陸に居るよりも海の上の方が好ましい」
空母棲姫「いやまあ……陸の上も悪くはないが。美味い物も食えるしゆったりと出来るし──」
空母棲姫「…………。私は何にフォローしているんだ……」ハァ
空母棲姫(──そろそろ四分の一といった所か? やはりこの島は小さいな……)ゴツッ
空母棲姫「む? 何か足に……」ソッ
空母棲姫「……ドラム缶か? ほう、資材とはありがたい。持って帰ってあいつを喜ばせてやろう」
空母棲姫「む、もう一個ある……」
空母棲姫「…………フフッ……フフフフッ、今夜は良い物を見つけました。流石に気分が高揚します。他にもあるか探してみましょう」
空母棲姫「例え見つからなくても、この島で資材は重要。手に入るだけでも大きいわ」
空母棲姫「~♪ ~♪♪」
??艦載機「……………………」
……………………
…………
……
561:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/19(木) 22:48:04.29 ID:YmOkseDXo
夕立「加賀さん加賀さん! ちょっと聞きたい事があるっぽい!」
加賀「あら、何かしら?」
夕立「…………」クイクイ
加賀「何? 内緒話?」ソッ
夕立(四日後は第一艦隊の私達が休みよね? だから、提督さんに許可を貰ってあの島に行こうと思ってるの)ヒソヒソ
加賀(なるほどね。良いと思うわ。……メンバーは勿論あの時の六人よね?)ヒソヒソ
夕立(一応、全員には聞いて回ってみてるっぽい)ヒソヒソ
加賀「……ん? という事は、貴女が提案した事じゃないの?」
夕立「そうっぽい。飛龍さんが始めに誘ってきたよ」
加賀「そうなのね。私の返事は分かってると思うけれど──」
夕立「だよねだよね! 今から楽しみっぽいー!」
加賀「そうね。あれから忙しくて足を運べなかったものね」
夕立「夕立、提督さんと利根さんに戦果をいーっぱい自慢するっぽい!」
加賀「ええ。今までの戦果をたんと聞かせてあげましょう。二人が悔しがるくらい、ね」
夕立「それでそれで──!」
電「あれ?」
夕立・加賀「!」
電「こんにちは、なのです。夕立ちゃんと加賀さんが二人でお話しているのは珍しいですね?」
加賀「──ええ。この間、無傷の黄のオーラを纏ったタ級を一射で沈めた事を褒めていたの」
夕立「そ、そうっぽい!」
562:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/19(木) 22:48:31.61 ID:YmOkseDXo
電「あ、私もそれは聞いたのです。駆逐艦でそれをするのは、本当に凄いですよねっ」
夕立「日頃の訓練の成果だよ! 電も頑張れば出来るかも?」
電「そ、そんな……! 私には出来ないのです!」
夕立「最初から無理と思っていたら、何も出来ないっぽい!」
電「流石に戦艦を一発で倒そうとするのは物凄く無謀ですよね……?」
夕立「そう? 確かに私もたまにしか出来ないけど、志は大事……っぽい?」
電「うぅ……同じ駆逐艦なのに住んでる世界が違い過ぎてる気が……」
加賀「夕立。貴女の砲撃威力はもう駆逐艦の枠組みを超えているわ。あまり自分が基準だと思わないようにしなさい?」
夕立「えーっと、褒められたっぽい?」
加賀「同時に相手も思いやりなさいと言っているの」ポン
夕立「うーん……分かったっぽい」
加賀「返事はハッキリとなさい」グイグイ
夕立「あ、あぁああ! か、髪の耳を押さえないでぇ! はっきりとした返事をしなくてごめんなさい!」
加賀「よろしい」スッ
電「……前にも思ったのですが、その耳状の髪を押さえられると嫌なのですか?」
夕立「なんだか頭の横がゾワゾワってなるから、すっごく嫌い……」
電「不思議なのです」
加賀(……さて、二人に会ったら何を話しましょうかね──)
……………………
…………
……
563:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/19(木) 22:49:01.07 ID:YmOkseDXo
加賀(──なんて思っていたけれど……)
飛龍「偵察機より入電!! ウェーク島の陸に敵影発見!!」
北上「ちょ、ちょっとちょっと!? それは冗談でもキツ過ぎるんじゃない!?」
時雨「飛龍さん! それは確かなの!?」
飛龍「間違いありません! 敵の艦種は姫──空母棲姫です!」
加賀(……これは……ただ事じゃないわ)ギリッ
北上「なんで敵の空母が陸に居るのさ! 意味が分からないよ!!」
夕立「提督さんは!? 提督さんと利根さんはどうなってるの!?」
飛龍「……現在、確認できているのは空母棲姫のみ。あまり言いたくはありませんが、これはあまりにも……」
加賀「飛龍、貴女はそのまま索敵を続けてて。私は爆撃機を飛ばします」スッ
時雨「加賀さん、何を!? まだ提督は生きているかもしれないんだよ!?」
加賀「提督一人だけならばまだ可能性はあったでしょう。……けれど、あの地には艦娘が四人居るわ。間違いなく交戦──いえ、虐殺されているはず」
夕立「で、でも! 艦娘が四人も居れば戦う事だって──!!」
加賀「あんな島に弾薬があると思うの? 仮にあったとしても、空母棲姫のみ居るという事を考えればどういう意味なのかは分かるわよね」
夕立「う……そ、そうだけど……」
加賀「……ごめんなさいね。私はこの煮え滾っている感情を抑える手段を知らないの」
加賀(……正確に敵へ爆撃して、周囲にはなるべく被害を出さないようにしなければ。……せめて、二人の遺品は持って帰りたいもの)グッ
飛龍「──え? え、そ、それはどういう……!? か、加賀さんストップストーップ!!」
加賀「何? 何か異常でも発生したの?」
飛龍「そ、それが信じがたいのですが……」
加賀「報告は早くしなさい」
飛龍「す、すみません!」ピシッ
飛龍「……その、提督が建物から出てきました。今は空母棲姫の……隣に立っています」
夕立・時雨「え?」
北上「……何それ? どういう事なの?」
加賀「飛龍、今この状況で冗談を言える貴女を尊敬と同時に軽蔑するわ」
飛龍「ほ、本当ですって!! 嘘だと思うのならば加賀さんも確認してみて下さい! というよりも、加賀さんも確認して下さい……私の夢や幻なんじゃないかって思うくらいなので……」
加賀「……偵察機も一緒に飛ばします。貴女がそこまで言うのだから本当でしょうけど、流石にこれは信じられないもの」
飛龍「ええ……。どういう事なんでしょうね、これって……」
…………………………………………。
564:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/19(木) 22:49:41.90 ID:YmOkseDXo
空母棲姫「なるほど。そういう事か」
提督「……まだ言っていなかったな。すまん」
空母棲姫「何を言っている。私とお前は敵同士だ。こうなるのは当然だ。しかし、私達をここまで油断させるとは大したものだ」
空母棲姫(ちっ……。やはり人間を信用などするべきではなかった……。今から逃げるのも無理な話か……)
提督「勘違いするな。攻撃などさせん」
空母棲姫「……なんだ? 捕虜という事か?」
提督「物々しく考えるな。お前達に危害を加えたり加えさせたりせんよ」
空母棲姫「……意味が分からん。どういう事だ」
提督「昔、私に付き従ってくれていた艦娘が居た。その艦娘は偶然、作戦中にこの島を見つけたんだ。……そして、その子達は時々だがこの島へ来ると言っていた」
空母棲姫「話が見えん」
提督「詰まる所、今ここに向かってきている艦娘達は純粋に私と利根へ会いに来たという事だ」
空母棲姫「……信用ならんな」
提督「構わん。直に分かる」
空母棲姫「その時は、私とあいつの最後か」
提督「そう思ってくれて構わんよ。後で拍子抜けするのはお前だ」
空母棲姫「そうなるよう、せいぜい祈っておこう」
提督「言っていなかった侘びとして、後で手の込んだ料理を作ってやるから許せ」
空母棲姫「最後の晩餐か? という事は、磔にでもするのか」
提督「私は神に祈りを奉げた事はないから知らんな」
空母棲姫「ふん。末代まで呪ってやる」
…………………………………………。
565:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/19(木) 22:50:28.69 ID:YmOkseDXo
加賀「──それで、これはどういう事なの?」
提督「その前に、お前たち全員兵装を向けるな。こいつは深海棲艦ではあるが敵ではない」
飛龍「それは出来ません。提督が捕虜になっている可能性も拭えませんから」
提督「……………………」
夕立「っ!!」ビクンッ
夕立「!」ピシッ
提督「整列」
飛龍・北上・時雨「!!」ビクッ
飛龍・北上・時雨「っ!」ピシッ
加賀「…………」
提督「……どうした加賀。列から乱れているようだが?」
加賀「今はその時ではありません。厳戒態勢です」
提督「ほう。私の命令が聞けないか」ジッ
加賀「…………」ジッ
加賀(……全く危機感の無い目。という事は、本当に……?)
提督(さて、信じてくれると良いのだが)
加賀「……分かりました」スッ
加賀「提督。先程の非礼を詫びます。申し訳ありません」ピシッ
提督「よろしい」
空母棲姫(……なんだ? まさか、こいつらは本当にただ会いに来ただけなのか……?)
空母棲姫(──いや、油断させてから沈めにくるかもしれない。これからは信用しない方が良い)
空母棲姫(これからは……? なんだそれは。それではまるで、今まで信用していたような言い方ではないか)
加賀「……提督、説明はして下さるのよね?」
提督「ああ。中で話そうか──」
…………………………………………。
566:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/19(木) 22:50:55.24 ID:YmOkseDXo
提督「──そんな事があって、今現在はこの六人と暮らしている」
飛龍「……あの、本人の前で言うのもアレなんですけど……本当に大丈夫なんですか?」
提督「今まで無事なのが何よりも証拠だ」
空母棲姫「だから、私は何度も信用するなと言っているだろうが」
時雨「……こう言ってるみたいだけど」
提督「知らん。私は相手を見て信用するかどうかを決める。少なくとも、現状では敵どころか安定した暮らしを提供してくれる大切な存在だ」
空母棲姫「……………………」
夕立「なんか、呆れてるっぽい?」
北上「まあ……そうなるよねぇ……。私も未だに夢でも見てるんじゃないかなって思ってるくらいだし」
加賀「そうね。でも、この二人を見れば──」
ヲ級「…………」ジー
響「…………」ジー
加賀「──本当に危害を加えてこないというのは分かるわ」
飛龍「こうも無垢な目で仲良く並んで座られると、私達が悪い事をしてきたみたいに見えますね……」
利根「別にどちらも悪い事をしておらんじゃろう。堂々としておれば良いのではないか?」ノシッ
時雨「……なんというか、利根さんが提督にベッタリとしてるように見えるのは僕の気のせいかな」
夕立「良いな良いなー! 提督さん、私もくっついて良い?」
空母棲姫(……なぜだ。尻尾を振っている犬に見える)
提督「人前だ。程々にしておけよ?」
夕立「やったぁー! 提督さん! 頭撫でて撫でて~っ」ギュー
提督「ああ」ナデナデ
夕立「えへへー」ニパッ
567:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/19(木) 22:51:22.45 ID:YmOkseDXo
飛龍「ところで提督。元気でやっていけてますか?」
提督「至ってのんびりと暮らしている。お前の艦載機が見えていたくらいには暇だ」
飛龍「ああ、そういう事だったんですね。なんだかちょっとおかしいなって思っていたんです。そっちの……えーっと……空母棲姫、さん? と話す為に出てきたって風には見えなかったんで。庇う為ですかね?」
加賀「私ならば爆撃するだろうとでも思ったのかしら」
提督「そういう事だ。実際に艦爆を飛ばしていただろう?」
加賀「……ちゃんと、私達の事を憶えてくれているのね」ニコ
提督「何年経っても忘れんよ。未だにお前達のやりそうな事は大体予想が付くくらいにはな」
時雨「僕達も、提督や利根さんの事を忘れた事はないよ」
提督「ありがたい話だ」
提督(……比叡が来ないのも、なんとなく予想が付いていたくらいにな)
北上「でさ、提督。あたし達は深夜くらいには戻っておかないといけないんだ。ここに居られる時間も長くはないからさ、とにかく色々と話したいんだよね。良い?」
提督「ここは遠いから仕方が無いだろう。時間が来るまでいくらでも話そうか」
夕立「じゃあ私が最初ね! 提督さん。提督さんはいつになったら帰ってくるの? 夕立達、寂しいっぽい」
提督「もう少しだけ待ってくれるか。帰られる心境になるにはもう少しだけ時間が掛かりそうだ」
夕立「むー……。それって『もう少し』をずっと続けていくパターンじゃない?」
提督「本当にもう少しだ。もしかすると、次にお前達が来た時には帰りの船を呼んでもらうかもしれん」
夕立「本当!? やったぁー!」
時雨「次からは船を用意した方が良い?」
提督「いや、まだ決まった訳ではない。その時が来るまで船を持ってくるなどという事はしないでくれ」
時雨「うん、分かった。それと、提督──」
提督「それは──」
568:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/19(木) 22:51:54.01 ID:YmOkseDXo
金剛・瑞鶴・響「…………」
瑞鶴「……なんだろね。羨ましいわ」
金剛「ええ……」
響「入る隙も無いね」
金剛「響、今は皆さんに譲りまショウ。時間を割いてまで来たのデスから」
響「うん」
飛龍「ちょっと良いですか?」
瑞鶴「ん? 良いけれど、どうしたの?」
飛龍「私は三人ともお話ししたいと思ったので。──あ、隣に失礼しますね」スッ
金剛「ケド、良いのデスか? 折角の提督とのお時間が……」
飛龍「私は最後でも大丈夫です。……というよりも、今は提督を取り合いっこしていますから、少し遠慮している形です」
響「なるほどね」
金剛「──あ、皆さんには謝らないといけない事があるデス……」
飛龍「え? 何ですか?」
金剛「下田鎮守府まで送って下さったのに、またここへ戻ってきてしまってすみまセン……」ペコッ
飛龍「いえいえ、仕方の無い事ですって。悪いのは貴女達じゃないですから」
金剛「ありがとうございマス……」
飛龍「それよりも、提督の事を聞いても良いですか?」
瑞鶴「中将さんの事? それなら私達よりも飛龍さん達の方が良く分かってるんじゃ?」
飛龍「いえ、この島での提督の事は利根さんと三人以上に知っている人は居ません。……特に、前に来た時は帰らないって言ったのに、今はもう少しすれば帰るって言った事が気になります。何かあったのですか?」
瑞鶴「……アレ、かなぁ」チラ
金剛「そうとしか思えまセンね」
響「だよね」
飛龍「お聞きしても良いですか?」
瑞鶴「んっとね、中将さんに頼まれた事なんだけど……今の中将さんと利根さんの姿を、沈んだ三人の視点で見たらどう思うか──っていうのを答えたの。考えられるのはそれくらいしかないかな」
飛龍「沈んだ三人で見れば……ですか」
響「気になる?」
飛龍「……ええ。お願いします」
響「いつまでも後ろに居る私達に目を向けていたら、いつまでも前に進めない。ちゃんと前を見て進んで──って言ったよ」
瑞鶴「辛いのは分かるけど、私達はもう居ないの。捕らわれないで、ちゃんと乗り越えてよね……なんて言ったかしら」
金剛「私は、提督と利根が早く立ち直って欲しいと思いまシタ。……ケド、頭の片隅でも構わないので忘れないで欲しいとも思いまシタ」
飛龍(…………ああ……あの三人なら、本当にそう言うんだろうなぁ……)
飛龍「……なるほど。それで提督はこの島を出ようと思っているんですね」
飛龍(それにしても、ちょっとだけ懐かしい気分になりますね……。空の向こうに居る三人は今、どう思っているんだろ……)
…………………………………………。
569:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/19(木) 22:52:21.15 ID:YmOkseDXo
夕立「んー! 楽しかった!」
時雨「夕立は終始甘えていたね」
夕立「だってだって! 次にまた来れるのはいつになるか分からないだもん!」
北上「まあ、そうだよねぇ。夕立がああしなかったら、たぶんあたしがやってたし」
飛龍「え……? それ本当ですか……?」
北上「冗談だよ冗談」
加賀「貴女の場合、本当か冗談なのか分からない所があるから怖いわ」
時雨「本当、掴み所のないマイペースな性格だよね」
北上「ふふん。それがあたしの良い所だから」
加賀「同時に欠点でもあるわよ。分かりにくいもの」
飛龍「あ、あはは……。──ん、索敵機より入電。……敵艦隊見ゆとの事!」
加賀「──総員、戦闘態勢に入りなさい。敵の艦種は?」
飛龍「戦艦ル級が二隻、重巡リ級が一隻、雷巡チ級が一隻、駆逐ハ級が二隻! いずれも赤と黄のオーラを纏っています!」
加賀「……勝てない事はないけれど、戦力的に見ればこちらが少し乏しいわね。後の事もあります。ここは無理をせず迂回しましょう」
飛龍「ええ。向こうの索敵機は全て落としました。こちらの位置は知られていませんし、そうしましょう」
加賀「流石ね。……気付かれないように進むわよ」
四人「はいっ!」
加賀(少し胸騒ぎがするのだけれど、大丈夫かしらね……)
……………………
…………
……
580:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/25(水) 22:35:19.23 ID:BMkZa6ejo
利根「ふぃー……久々の湯じゃのう」チャポン
提督「ああ、やはり風呂というのは良いものだ」
利根「……のう提督よ」
提督「どうした」
利根「前に、艦娘は深海棲艦と変わらないのかと言ったであろう?」
提督「ああ、言っていたな」
利根「あの二人と暮らしていて思ったのじゃ。やはり、ほとんど違いが無いとな」
提督「人種の違いのように見えたのか?」
利根「うむ。我輩達と同じく艤装を付けておるし、海の上を滑れる。何よりも、我輩達と同じく感情があってしっかりと会話できるのじゃ。むしろ違う箇所を探す方が難しいぞ」
提督「ああ、私もそう思う。違いなど、ほとんど無い。生まれた場所が違うだけの同種なのかも知れないな」
利根「うむ」
提督「…………」
利根「…………」パシャパシャ
提督「……………………」
利根「……それでの、提督」
提督「ん?」
利根「ギューッと抱き締めてくれぬか」
提督「いきなりどうした」
利根「……これから話す事は少し胸が苦しくなる。だから、お願いじゃ」
提督「……そうか。無理はするなよ?」ギュゥ
利根「んっ……。うむ……大丈夫じゃ。提督がこうしてくれておる限り、我輩は安心できる。──じゃが」ソッ
提督「ん?」
利根「腕は腹に回すだけでなく、片方は胸の方へやってくれぬか」
提督「それは遠まわしに触れと言いたいのか」
581:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/25(水) 22:36:00.20 ID:BMkZa6ejo
利根「違うぞ。別に触れずとも良い。しっかりと抱き締めて欲しいんじゃ」
提督「……そうか。なら、これで良いか?」スッ
利根「ほう、胸の下か。……うむ。ありがたいぞ提督」ニカッ
提督(本当にいかがわしい気持ちは無いようだな)
利根「出来れば我が慎ましき下乳を腕に乗せるくらいが望ましいが、ダメかの?」
提督「これ以上は譲らん」
利根「残念じゃ」
提督(……お前、本当にいかがわしい気持ちは無いんだよな?)
利根「……それでの、提督。提督は今日、夕立に『帰るのは少し待ってくれ』と言うておったじゃろ?」
提督「ああ」
利根「我輩もな、その気持ちは分かるんじゃ。沈んでしもうた『あの三人』が何を思うておるのか……それはここに居る三人が言うてくれた。あの言葉を信じるならば我輩達は前に進まねばならぬ。進まねば……『あの三人』は浮かばれぬ」
利根「……じゃがの、同時に怖い。……提督よ、なぜか分かるか?」
提督「…………鎮守府の皆に何を言われるか分からないからか?」
利根「いや、違う。我輩が怖いのはな…………提督が、我輩から離れるのが……怖いのじゃ」
提督「どういう意味だ……?」
利根「…………」チラッ
利根「……提督、当たり前じゃが……お主と我輩はこの島から出たら、互いの距離は離れてしまうよの?」
提督「…………」
利根「もう、このように風呂を入る事も無くなる。共に布団で眠る事も無くなる。提督と共に居られる時間も短くなる。……間違ってはおらぬよな?」
提督「……ああ。違わない」
利根「我輩はそれが怖い。今のこの生活は、我輩にとって理想に一番近かったからじゃ。もう戦わずに済む。その上、提督と共に生きている。……それだけで、我輩は充分だと思うておった」
提督「……一つ聞く。お前は私の事をどう思っている」
利根「ああ、確かに言うてなかったのう。我輩は……」
提督「…………」
582:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/25(水) 22:36:36.50 ID:BMkZa6ejo
利根「……我輩は、お主の事を好いておる。人としてではなく、伴侶になりたい程に」
提督(……やはりか)
利根「とは言うても、最近まで自覚しておらんかった。提督が夜な夜な三人の部屋で楽しそうに話しているのを聞いてから分かったのじゃ」
提督「……そうか」
利根「だからの、提督……」
提督「……ああ、それでも私達はこの島を出なければならない」
利根「……やっぱりか」
提督「すまん。こればかりは堪えてくれ。あの三人に沈んだ事を後悔させたくないのならば、私達は乗り越えて進むべきだ」
利根「……ああ、そうじゃのう」
提督「すまん」
利根「謝るでない。本当に申し訳ないと思うのならば、向こうでも同じようにしてくれぬか」
提督「それは流石に無理だ。周りの目を気にしてくれ」
利根「むう……。ならば、我輩を秘書艦にしれくれぬか? これならば常に近くに居ようと不思議ではなかろう? あと、寝る時は共に寝たい」
提督「お前に秘書艦が務まるのか?」
利根「初めは出来ぬじゃろうな。だが、我輩は仕事の内容を覚えるぞ。金剛がやっていた事を全てじゃ」
提督「ほう。利根が金剛と同等の紅茶を淹れるか」
利根「う……」
提督「金剛の腕を超えようものならば並大抵の努力では追い付かんだろう」
利根「……頑張る。我輩は頑張るぞ、提督」
提督「冗談だ。真に受けなくて良い。だが、秘書艦にはなって貰おう」
583:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/25(水) 22:37:11.02 ID:BMkZa6ejo
利根「! 本当か!?」
提督「ただし、秘書艦として不充分でありながら上達が見込めない場合は降りて貰うぞ」
利根「うむ! 我輩は頑張るぞ!」
提督「さて、湯もヌルくなってきた。そろそろ出ようか」スッ
利根「あ、ちょっと待ってくれぬか」
提督「なんだ? まだ抱き締めて欲しいと言うのか?」
利根「強ち間違ってはおらぬが、違うぞ」クルッ
提督「……なんとなく言いたい事が分かった」
利根「察しの良い提督じゃ」ギュゥ
提督「やっぱりか」
利根「うむうむ。やはり背後からと正面とでは違うのう」スリスリ
提督「向こうではこんな事をするなよ?」ナデナデ
利根「うむ。分かっておる。……じゃから、今の内に堪能させてくれ」
提督「……湯が水にならないようにしろよ?」
利根「うむ……分かっておるよ……」スリスリ
提督「…………」ナデナデ
……………………
…………
……
584:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/25(水) 22:37:52.50 ID:BMkZa6ejo
空母棲姫「──今日は弾薬とボーキサイトの入ったドラム缶が見つかった」
ヲ級「見つけた!」
提督「ほう。珍しいな」
空母棲姫「弾薬はともかく、ボーキサイトは専用の設備でも無い限り艦載機にならんから邪魔なだけだがな」
提督「そう言うな。何かの役に立つかもしれん」
空母棲姫「ふん」
ヲ級「撫でて、撫でて」ワクワク
提督「ああ、ありがとうな」ナデナデ
ヲ級「えへー」ニパッ
空母棲姫(……無邪気なものね。今はその無邪気さが羨ましく思えるわ)
ヲ級「ひーめ。姫も頭、撫でてもらう?」
空母棲姫「……私は外へ行く」スッ
利根「なんじゃ? 何かあるのか?」
空母棲姫「馬鹿を言え。そろそろその人間の艦娘がここへやってくるはずだろう? 一週間前がそうだったようにな」
瑞鶴「…………? それが何か問題なの?」
空母棲姫「私はお前達を信用していない。一人で海を眺めている方がマシだ」スタスタ
金剛「……行っちゃったデス」
瑞鶴「そんなに邪険に扱わなくても良いのに……」
響「あの人、素直じゃないね」
提督「ああ、全くだ」
金剛「え?」
瑞鶴「どういう意味?」
585:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/25(水) 22:38:56.92 ID:BMkZa6ejo
提督「ヲ級を見ている目が羨ましそうだった事を考えると、恐らくだが仲良くするべきか敵と見做すか葛藤しているんじゃないだろうか」
響「どっちにも偏れないから、近くには居ないけど敵にもならないっていう微妙な位置に居るんじゃないかな?」
利根「……面倒じゃのう」
提督「意志が強いから仕方がないだろう。何かきっかけでもあればすぐに変わるものだ」
金剛「そのきっかけで何か良い案があるデスか?」
提督「きっかけは無理矢理に作るものではない。それと、きっかけが無くとも何か理由を付けて近くに居てくれるだろう」
瑞鶴「その根拠はどこにあるのよ……?」
提督「このヲ級だな」ポンポン
ヲ級「~♪」ニコニコ
瑞鶴「あー、なるほどね。思ってみれば、いつも一緒に居るもんね」
金剛「ヲ級が私達の近くに居る限りキャントリーヴという訳デスね?」
提督「そういう事だ」
響「きゃんとりーぶ……?」
金剛「放っておけない、という意味ネ」
響「スパスィーバ。勉強になったよ」
提督「なんだかんだで空母棲姫も面倒見が良いからな。自覚しているのかは知らないが」
利根「あの様子ならば気付いておらんじゃろうなぁ」
響「かもね」
瑞鶴「ところでさ、そこで乾燥させている葉っぱって何?」
提督「うん? それはハーブだ。正確にはバジルだな」
金剛「……バジリコって、こんな熱帯に生えている物なのデスか? ヨーロッパの地方にあるようなイメージなのですが……」
提督「バジルは熱帯にある植物だ。割と日本でも生えているぞ。ヨーロッパのイメージが強いのは、色々と料理に使われているからだろう」
金剛「ナルホドー」
瑞鶴「……それは分かったんだけど、バジルなんていきなりどうしたのよ?」
提督「少し前に空母棲姫と一方的に約束してな。手の込んだ料理を作る為に摘んできた」
利根「どんな料理にするつもりなのじゃ?」
提督「小さく切り分けた白身魚を、薄く水を引いた鉄板で焼いてその上にバジルを掛ける。味付けはいつもの塩で、ソテーとまではいかんだろうが不味くはならんだろう」
響・ヲ級「楽しみ」キラキラ
提督「今日の夕食はちょっと贅沢になる。……仮に不味くても文句を言ってくれるなよ?」
…………………………………………。
586:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/03/25(水) 22:39:32.22 ID:BMkZa6ejo
空母棲姫「……はぁ」
空母棲姫(私は、私が何を思っているのかが分からん。私は本当にあいつらを敵だと思っているのか? それとも、敵でも味方でもないと思っているのか?)
空母棲姫「……まったく分からん。味方ではないというのは確かなのだが……どうして私は信用していないのにも関わらず、この島で共に暮らしているんだ……」
空母棲姫「考えるのを諦めるべきか……? だが、それは思考停止になるからあまり──ん?」
空母棲姫(……艦載機? しかも我々深海棲艦の? 珍しい事もあるものだな)
空母棲姫「……いや待て。なんだあの数は……? 近くに戦闘区域でもあるのか……?」
ガガガガガガガガッッ──!!
空母棲姫「────ッ!? な……撃ってきた!? ど、どういう事!!」ザッ
空母棲姫「……ま……待って!! そっちの建物には──ッ!」
ドォオンッッ!!
空母棲姫「────────…………! 外れている……! 良かった……」
空母棲姫(でも……なぜ深海棲艦がこの島を爆撃しているの……? ……いえ、考える暇なんて無いわね。例え相手が同族であっても、危害を加えるのならば迎え撃つまでです。私の艦載機運用能力は伊達ではありません)スッ
空母棲姫「……あ…………」
空母棲姫「そう……でした……。艤装は仕舞っている上に……」
空母棲姫(私にはそもそも……残っている艦載機がありません、でした……)
空母棲姫「ぁ────」
ドォオンッッ!!
…………………………………………。
597:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/01(水) 22:20:47.60 ID:H9ccBGmfo
利根「────ッ!? 何なのじゃ、この爆撃音は!?」
提督「!! 深海棲艦の編隊……!? なぜそんな事が!?」
ヲ級「私も、姫も、違うよ!?」ブンブン
提督「そんな事は分かっている!! そもそも二人には艦載機が無いだろう!」
瑞鶴「じゃ、じゃあなんでこんな!?」
提督「分からん……! だが、何か目的があってこの島を爆撃しているのには違いないはずだ!」
金剛「っ!」バッ
提督「待て金剛! どこへ行こうとしているんだ!!」
金剛「艤装と弾薬を取りに行きマス!! 対空砲撃をすれば多少は──!」
提督「ダメだ!! そもそも消費の多いお前では弾薬が足りないと分かっているだろう!」
金剛「デスが! このままではきっと私達は全滅デス!!」
提督「十秒で良い! 少し考えさせろ!! 出来るだけ高い確率でこの状況を打開する術を──!」
ド──ッ!!
全員「────ッ!!」
響「……────」
ヲ級「──、…………?」
金剛「────! ……か!」
瑞鶴「も……。ひど…………ね……」
利根「いたた……。だいじょ……う、ぁ…………」
金剛「やっと耳が……。────え……?」
瑞鶴「あ、れ……? 中将、さん……?」
響「────」
ヲ級「…………」
598:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/01(水) 22:21:16.21 ID:H9ccBGmfo
瑞鶴「ね、ねえ! 中将さん!? 大丈夫なの!?」
提督「……………………」
瑞鶴「ねえってば!!」
利根「────────は、ハは……」
金剛(!! あの時の利根が出てきたデスか!? いけまセン! ここで余計に混乱を引き起こしては──!!)
金剛「…………っ!」スッ
金剛「……大丈夫デス。提督は生きていマス」
ヲ級「!」
響「本当……?」
金剛「脈もありマス。呼吸もしていマス。きっと、ショックで倒れただけでショウ」
金剛「だから……大丈夫デスよ、利根」
利根「──そうか。それは良かった」スッ
瑞鶴「ちょっ!? ど、どこに行くのよ!?」
利根「決まっておろう? 上の喧しい蝿共を叩き落しに行くのじゃ。──金剛、響、少しお主らの装備を借りるぞ。確か、副砲二つと機銃と電探があったはずじゃよな?」
響「……利根さん、その選択は提督が望ま──」
利根「一秒が惜しい。倉庫で確認する。全員、隠れておれ。一度爆撃した場所は比較的狙われんじゃろう」スッ
瑞鶴「で、でも──!! ……行っちゃった」
響「……私も行く」スッ
金剛「──駄目デス」グイッ
響「! ……どうしてかな、金剛さん。私には利根さんが装備できない高角砲がある。それに、駆逐艦の私は弾薬も──」
金剛「──足りまセン。いえ、きっと足りなくなりマス」
響「弾薬は比較的余ってるはずだよ。足りなくなるなんて事は──」
金剛「──違いマス。足りないのは、燃料と耐久力、そして対空能力デス」
響「…………」
金剛「少し考えれば、私も分かりまシタ……。なぜ利根が、一人で迎撃に出たのかが……」
ヲ級「? …………?」
瑞鶴「……どういう事?」
599:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/01(水) 22:21:51.17 ID:H9ccBGmfo
金剛「戦艦の私は論外だと言うのは分かりマスよね……。空母である二人も普段は対空砲火をメインとする事なんてあまり無いはずなので、精度に心配が残りマス……」
響「…………」
金剛「そして響は駆逐艦なので、一回も攻撃を受けてはいけないのデス……。被弾すれば、装填している弾薬が全て無駄になりかねまセン……。そもそも、響の錬度は私達に及ばないのは分かりマスよね……?」
響「それは……」
金剛「極め付けは、燃料デス。恐らく、利根に全て補給すれば空になりマス。いつまで続くか分からないこの耐久レースでは、例え燃料のほとんどを射撃管制に費やしても足りるか分かりまセン……。しばらく実践や演習をしていなくて衰えていても、身体に叩き込んだ経験が死んでいる事は無いはずデスから……」
瑞鶴「…………だから、利根さんは一人で……?」
金剛「……きっと、そうだと思いマス。悔しいデスが……適任は、利根しか居まセン……」
ヲ級「でも、数が、凄い違う……」
金剛「……これは完全に私の予測デス。もしかしたら利根は、沈んだ仲間と同じ行動を執っているのかもしれません。出来る限り、私達を──いえ、提督を生かす為に……」
響「…………っ」ギリッ
響「本当に私達は、指を咥えて……見ている事しか出来ないのかな……」
金剛「響、勇気と無謀は違いマス。……それに、私達に出来る事はジッと待つ事デス」
響「ジッと待つ事が、出来る事……? 言っている意味が分からないよ、金剛さん……!!」ググッ
金剛「抑えて下さい響。そう言いたい気持ちは分かりマス。……よく、分かりマス。ケド、今ここで私達の誰かが身を曝け出したらどうなりマスか? 仮に無事だったとシテも、響は耐え切られる可能性がありマスか?」グッ
響「…………」
金剛「物分りの良い貴女デス。その行動がどれだけ危険で、どれだけ愚かか分かりマスよね」
響「……理解は出来ても、納得は出来ない」
金剛「良いのデス。それは……私も、私達も同じデス……」ソッ
響「金剛さん……私は、無力な自分が、悔しい……!」ギリッ
金剛「……信じまショウ。それも、強さの一つデス」
瑞鶴(私に艦載機さえあれば、ここまで劣勢にならないのに……。遠慮なんてせずに、良い艦載機を持ってきていれば残ってたかもしれなかったのに……!)
ヲ級(……でも、なんで味方が、攻撃して、きたんだろ)
…………………………………………。
600:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/01(水) 22:22:22.49 ID:H9ccBGmfo
利根「──落ちろ──落ちろッ!! 我輩は逃げも隠れもせぬぞ!!」ドォン! ドォン!
ガガガガッ──!
利根「ぐっぅ……!! まだじゃ……我輩はこの程度ではまだ倒れぬぞ! ──陸に居る分、長く戦えるのじゃからなぁ!!」ドォン!
利根(──ははっ…………。しかし、笑ってしまうよのう。一体、何隻の空母が居るのじゃ? 本当にこの島を集っておる蝿のように見えるぞ)
利根(救いなのは対地砲撃が無い事かのう。もしされておれば、本当に為す術など無かった)
利根「──ああ、そうか」
利根(今、初めてしっかりと分かった気がする。金剛と瑞鶴、響もこんな気持ちじゃったのかな。絶対に敵わないと分かる敵の数、必死で仲間を守ろうとする想い──そして、提督を悲しませたくないと願う気持ち)
利根(なるほど……なるほどじゃ。こんな気持ちを抱いたまま沈めば、今の我輩達の姿を見れば悲しむに決まっておる)
利根「すまん金剛、瑞鶴、響……。我輩は、今の今までボンヤリとしか分かっておらなんだ……!」ドォン! ドォン!
利根(母港へ帰ったら、手向けの花を贈ってやらねばな……)
利根「────? なんじゃ……? 艦載機が帰っていっておる……? ……諦めた? いや、そんな訳があるか。何かがあるはずじゃ。警戒をするに越した事はない」
ザッ──。
利根「……空母棲姫かの? 無事だったようじゃな。すまぬが、我輩は空から目を離す事が出来ぬ。いつ、あの艦載機が反転してくるかもしれ──」
──ドォンッ!!
利根「────カ、は……っ?」
…………………………………………。
601:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/01(水) 22:22:56.21 ID:H9ccBGmfo
レ級「…………」
空母棲姫(ちっ……。流石に艤装が無ければ手も足も出せん……。それに、深海棲艦でも凶悪なこいつが相手では尚更だ……)
レ級「アー、アー。ゴミムシ、聴こえる?」
空母棲姫「聴こえない訳がないだろう。何だ」
レ級「それもそうだよねぇ、こんなに近いし? ──んでさぁ、お前、何してんの」
空母棲姫「惰性に過ごしていただけだ。それ以上は何も言えん」
レ級「いやいや! それはちょーっとおかしいんじゃない?」
空母棲姫「何がだ」
レ級「こっちは確証も得ちゃってる訳。この意味、分かるよねぇ? なんで人間や艦娘なんてゴミムシ共と一緒に仲良く暮らしちゃってたのかな? 裏切り者のゴミムシくん?」
空母棲姫「いきなり撃ってくるような奴に答えようとは思わん。気紛れかなんかだとでも思っておけ」
レ級「あ、そうなんだぁ……。じゃあ沈めちゃっても良いよねぇ!? あ、ここは陸だから殺しちゃわないといけないんだっけ? ギャハハハハッ!!」ジャキン
レ級「まあそういう事だからさぁ、変に避けようとか思わないように。きっと痛いだけだからさ!」
空母棲姫「…………」
レ級「うぅーん、良い子だ。じゃあ、また海の底で逢おうねぇ!」
────────ゥン
空母棲姫(──む? 艦載機の音?)
レ級「……あ?」
空母棲姫(……あの機体のペイントは、確か──)
…………………………………………。
624:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/10(金) 18:29:14.64 ID:6AWSpQ9Xo
飛龍「……状況を報告します。ウェーク島にて空爆を受けていた痕跡を確認……。提督達の住んでいた家屋は……ほぼ、全壊状態です……」
北上「……………………」
夕立「…………嘘、だよね……?」
時雨「提督は……提督や皆は、どうなってるの……?」
飛龍「……確認、出来ません。確認できたのは、負傷した利根と、空母棲姫……そして、空母棲姫に砲口を向けているレ級のみです」
加賀「…………」スッ
飛龍「! ……加賀さん、艦載機を飛ばすのは構いません。ですが、攻撃自体は少し待って頂けますか。まだ報告の途中です」
加賀「いいえ、待ちません」パヒュンッ
飛龍「──島の向こう側に黄のオーラを纏ったヲ級を二隻、護衛艦と思しきイ級を二隻確認しています。恐らく、空爆を主とした艦隊でしょう」
加賀「そう。なら、飛龍も艦載機を今すぐ発艦させなさい。私が空母機動部隊を沈めます。飛龍はレ級を殺しなさい」スッ
飛龍「こ、ころ……」
北上「あのー……加賀さん? 言葉が不穏な気がするんだけど……?」
加賀「何か問題があって?」パヒュンッ
北上「い、いやその……」
加賀「本当ならば四肢を一本ずつ引き千切ってゆっくりと殺す所よ? 今回は時間が惜しいから勘弁してあげているだけ。それとも何かしら? 今の状況にした敵に温情を与えて戦闘しろとでも言うの?」
加賀「戦闘だなんて生温い事などしません。行うのは虐殺です。今回は相手を思いやる必要もありませんし、戦略的にも戦術的にも考える必要もありませんし、しなくても構いません。ただただ相手を殺す事だけを考えて全力をその五隻に叩き込むだけです」
加賀「ああそうね。飛龍、指示を変更するわ。レ級は行動不能状態に留めておきなさい。500kg爆弾がどんな味なのかを噛み締めて貰わないと──」
パァン──ッ
加賀「────…………」
飛龍「……冷静になって下さい。まだ提督達が死んだと決まった訳ではないでしょう。私達の指揮官である貴女が感情に身を任せてどうするんですか」
加賀「…………」
飛龍「あの提督ですよ? そう簡単に死ぬ訳がないじゃないですか。──こんな事で死なれて堪るかってんですよ」
加賀「……ごめんなさいね。今ので頭が冷えたわ。……酷く、痛かったです」
飛龍「私の手の平もヒリヒリしちゃっています。──では加賀さん、指示をお願いします」
加賀「ええ、まずは──」
…………………………………………。
625:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/10(金) 18:29:52.51 ID:6AWSpQ9Xo
レ級「! あーあー……役に立たねぇなあアイツら。自分達の身くらいしっかり守れよ。大事な大事な私の手駒なんだからさあ」
空母棲姫(……なんだ? 随伴艦でも沈んだのか?)
レ級「あー面白くないねぇ……。これ以上ここに居ても負けるだけだし、さっさとトンズラすっか」
ガガガガガガッ──!
レ級「──っとぉ! ……へぇ。簡単には逃がしてくれないってか? ま、そりゃそうだよねぇ……じゃあ」グイッ
空母棲姫「ッ──!?」
レ級「丁度良い所に『盾』があるんだから、使おっかぁ!? ギャハハハハハッ!!」ダッ
空母棲姫「こ、こいつ──!?」
レ級「そんな訳でさ! ちょーっとだけ肉盾になっててねぇ! 大丈夫だって! 結局沈むのには変わりないじゃん!?」
レ級「ハハハハァッ!! 艤装が無いから軽いね軽いねぇ!!」
空母棲姫「こ、この……!!」
レ級「──あれぇ!? 突然撃たなくなってきたよぉ!? あ、そっかそっかぁ! こいつらってお前のお仲間って事かぁ!!」
空母棲姫「な……あいつらがそんな──ッ!?」ゾクッ
レ級「──黙れよ。やはり貴様は敵だ。僅かながらも艦娘に対して仲間意識を持っている。今の発言でよく分かった。それだけで充分に危険分子と言えよう。今ここで殺したいのは山々だが、こちらも余裕が無さそうだ。──だが、海に出てしまえばこちらのもの。盾の役目ご苦労だった、蝙蝠よ」バシャッ
レ級「全機発艦。命令する。制空権を取れ。取れるまで帰ってくるな」カヒュンッ
レ級「そして──」ブンッ
空母棲姫「っあ──!」ザブンッ
レ級「──また逢おうねぇ蝙蝠くぅん!! …………次は殺してやる」
空母棲姫「ぷはっ……! ケホッ……!」
レ級「アハハハハハァッ!! こんな薄い攻撃じゃあ当たんないねぇ──!!」
空母棲姫「……………………」
空母棲姫「……蝙蝠、か。そうね……今の私は、まさしく蝙蝠……。深海棲艦と艦娘……どっちつかずの、半端者……ね」
空母棲姫「…………どうしましょうか、これから……」
…………………………………………。
626:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/10(金) 18:30:27.25 ID:6AWSpQ9Xo
利根「…………」
提督「……息が弱い」
飛龍「背中から強力な攻撃を受けた傷があります。……恐らくですが、あのレ級の砲撃を直接受けたのかもしれません」
夕立「……提督さん、利根さん大丈夫かな」
提督「……分からん。出来ればすぐにでも治療をしてやりたいのだが、この島では……」
提督「……………………ふむ」
時雨「提督? 何かあったの?」
提督「……そうだな。少し心配もあるが、こうする他無い」
金剛「…………?」
提督「頼み事がある。空母棲姫とヲ級を除いた全員にだ」
響「私達にも?」
提督「そうだ。──利根を、本土へ移送してくれ」
加賀「……それは、そういう事なのよね?」
提督「ああ。出来れば横須賀の現提督の許可が欲しいが、無理ならば金を握らせてくれ。口座と暗証番号は────────だ」
時雨「あ、あの……提督? いくら私達を信用しているからって、口座とパスワードを教えるのは良くないよ?」
提督「そんな事は構わん。それで利根が助かるのならば私の金ならばいくらでも出そう。……頼む」
瑞鶴「……それは分かったから置いておくとしてさ、どうして私達も?」
提督「利根を抱きかかえて移動するとなると、一人は戦闘が出来なくなる。だから戦力を追加しておきたい」
瑞鶴「あー、なるほどね」
提督「頼めるか?」
夕立「私は良いわよ。むしろ、早くいかないと危険っぽい!」
時雨「僕も異論は無いよ」
北上「私も問題なしかな。早く直してあげたいなぁ」
瑞鶴「うん、私も問題ないわ」
響「私もだよ」
金剛「すぐに準備しまショウ。──すみまセンが、燃料と弾薬を分けて下さいマスか?」
627:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/10(金) 18:31:23.76 ID:6AWSpQ9Xo
加賀・飛龍「…………」
提督「……二人は何かあるか?」
加賀「あります」
飛龍「その間、提督はどうなさるつもりですか」
北上「あ……。そ、そうだよ、どうすんの? 流石に二人も抱えて行くのは無理だし……」
提督「私は迎えの船が来るまでここで待っている」
全員「……………………」
空母棲姫「……おい待て、今なんて言った。ここに残る? 私たち深海棲艦と共に?」
ヲ級「…………」パチクリ
提督「そうだ」
全員「…………」
加賀「ば──」
空母棲姫「馬鹿を言わないでちょうだい。人間が一人で深海棲艦と共にするですって? おまけに、さっき敵に爆撃された島で? また狙われたらどうする気なの? それよりも、私達に殺されないと考えないの?」
加賀(…………この深海棲艦、私と同じ口調で同じ考えを……? 何の真似ですか、それは……?)
提督「……それが素のお前か」
空母棲姫「ぁ……っ」
提督「前に似たような話をしたかもしれないが、本当に敵と思っている相手にそんな事を言う事にメリットは無い。私はお前を信用する。それに、向こうも馬鹿ではない。敵に発見されて撤退する程の相手と戦うならば、必ず準備をしてくるはずだ。その準備期間が、私達の時間制限となる」
飛龍「えっと……その、提督? 後者は分かりましたが、前者は流石に……ね?」
提督「どうした飛龍。何か問題があったか?」
飛龍「大有りですよ!」
北上「そうだよ提督……。いくら今まで一緒に暮らしてきたって言ってもさ、本来は敵同士なんだよ? 私達は今まで提督がまた帰ってくるって信じてたから別の提督の指示を聞いてきただけで、提督が死んじゃったら私達は解体されるのを待つだけだよ……」
加賀「北上とそこの深海棲艦の言うとおりです。提督、一人で残るなどと言わずに誰かを残して下さい。出来れば空母と駆逐艦以外の子──いえ、出来れば金剛さんを残しておいて下さい」
628:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/10(金) 18:31:56.15 ID:6AWSpQ9Xo
提督「それでは利根を護りつつ本土まで辿り着けるか怪しくなる」
金剛「……私も提督の考えには反対デス。あまりにも危険すぎマス」
提督「ならば選べ。このまま利根を殺すか、充分でない戦力で利根を護り通し甚大な被害と利根の生死が問われる戦いをするか、私の案に乗るかだ」
夕立「う、うぅ……」
提督「言っておくが、利根を死なせた場合は二度と私は提督業に就かん。利根の死を確信した場合、私はその場で自らの命を断とう」
響「……提督、なんでそこまで?」
提督「…………これ以上、私の大切な子達が死んで逝くのは耐えられん。ハッキリと言おう。私は、今度こそ耐える事は出来ない」
加賀「……それは、私達を見捨てる事になってでも、ですか?」
提督「そうなっても、だ。それと、利根だけではない。お前達の誰かが沈んでも同じだ。……私はそんなに強い訳ではないんだ」
加賀「……飛龍に任せるわ」
飛龍「え、ちょっ……私ですか!?」
加賀「そうよ。今、私は感情的になりそうなの。どうするかは貴女の意思で決定して貰うわ。私はその決定に逆らわないし、それが皆にとって最良だと思います」
飛龍「えー……えーっと……皆さんもそれで良いんですか?」
北上「まあ、加賀さんがこう言ってるからねぇ……」
時雨「そうだね。お願いするよ」
夕立「海上ビンタの再来っぽい?」
飛龍「あ、あれはしませんってば!」
金剛(海上ビンタ……?)
飛龍「えっと、その……提督と金剛さん達はどうなんですか?」
提督「飛龍に任せる。私は既に案を出した。後はそれを了承するか別の案を採るかだ」
金剛「私も提督の意思に準じマス。飛龍さん、頼みまシタ」
瑞鶴「……私からもお願いします」
響「金剛さんと瑞鶴さんと同意見だよ」
飛龍「……えっと」チラ
空母棲姫「……何を見ているんだ。この場において私達の意見は無いに等しい。好きにしろ」
夕立(あ、口調が戻ってるっぽい)
629:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/10(金) 18:32:32.78 ID:6AWSpQ9Xo
飛龍「……はぁ。分かりました。私が決めて良いんですね? それでしたら、私は提督の案に乗ります。──でも、よいしょっと」ゴソゴソ
時雨「? 飛龍さん、艤装を外して座ってどうしたの?」
飛龍「ほら提督、膝枕をさせて下さい。それが条件です」ポンポン
加賀「…………」ジッ
飛龍「大丈夫ですって。私もちゃんと考えてるんですよ?」
加賀「……何を考えているのか分からないけれど、必要な事なの?」
飛龍「ええ。どうしても必要です」
加賀「…………そう。好きになさい」
瑞鶴(……本当に何で必要なんだろ。膝枕よね?)
夕立「…………?」
飛龍「ほら提督、早くして下さい。利根さんをすぐにでも送らなきゃいけないんですから」
提督「……何を考えているのやら。仰向けで良いか?」スッ
飛龍「はい。──よしっ! くらえ!! ひとり二航戦サンド!!」ムニュ
提督・金剛「────ッ!?」
瑞鶴「ぶっ!?」
響「……胸と、太ももで……サンド…………」
北上・時雨「…………え?」ポカン
夕立「え……何、それ……?」
空母棲姫・ヲ級「……………………」
加賀「…………っ!」グイッ
飛龍「──あ、あはは……。ほら加賀さん、落ち着いて、ね? 鬼も逃げそうな顔してますよ……?」
加賀「どうやって落ち着けろと言うんですか……!! 貴女は一体何を考えて──っ!?」ビクッ
提督「…………」ユラッ
北上(あ、やば……)
加賀「!!」ササッ
630:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/10(金) 18:33:00.39 ID:6AWSpQ9Xo
提督「……ひりゅうぅ…………」
飛龍「は、はいぃっ!!」ビクンッ
提督「吊るされる覚悟は……出来ているんだな……?」ポン
飛龍「…………っ!」グッ
飛龍「……出来て、います! でも、ここでは……出来ませんよね……!?」ビクビク
飛龍「だから──必ず帰って来て下さい……!! あの鎮守府に!! そこでしたら……いくらでも、吊るされます!」ビクビク
提督「────────」
金剛(そ、その為に……アレを……?)ビクビク
提督「…………はぁ……。全く……意味の無さそうな行動に意味を持たせおって……。誰に似たんだ……」ナデナデ
飛龍「め、目の前に居ます……」ビクビク
提督「……全くもって困った奴だ」ナデナデ
北上(……どっちの意味なんだろ?)
提督「ちゃんと憶えておく。生きて帰らなければならない理由が増えたからな」スッ
提督「──整列」
五人「!」ピシッ
金剛・瑞鶴・響「!!」スッ
金剛・瑞鶴・響「!」ピシッ
提督「今から特別任務を与える。利根を抱えた瑞鶴を中心とした輪形陣を組み、横須賀鎮守府へと戻れ。大前提として、誰一人欠ける事無く辿り着く事。利根には私の軍服を羽織らせておく。必要となったら使え。──良いな?」ソッ
八人「はいっ!!」
提督「良い返事だ。──これより任務を開始!! 必ず成功させろ!!」
八人「はいっ!!」タッ
631:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/10(金) 18:33:30.50 ID:6AWSpQ9Xo
提督「……………………行ったか」
空母棲姫「……本当に行ってしまったな」
ヲ級「…………」フリフリ
提督「行ってくれなかったら困るよ」スッ
提督(しかし……『必ず成功させろ』か……。あまり言いたくなかったのだが……許せ)
空母棲姫「……だが、解せん。いくらそれしか無いとはいえ、どうして深海棲艦である私達と残ろうと思った?」
提督「日頃の行いと、その姿を見れば充分に信用できる。また派手にやられているじゃないか」
空母棲姫「…………」
提督「大方、深海棲艦から敵と認識されたのだろう?」
空母棲姫「……察しの良い奴は嫌いだ」フイッ
提督「まあ、ここを無事抜け出せたら付いて来い。悪いようにはせん」
空母棲姫「…………」
空母棲姫(……ああ、そうだな…………私達にはもう、味方はこの人間しか居ない……。生きる為の選択肢など、他にありません……)
空母棲姫「……ごめんなさいね」
提督「構わんよ。お前達は私達の恩人だ」
空母棲姫「どっちが恩人になるのかしらね。命を助けて貰ったのは、これで二度目なのだけれど?」
提督「さてな。……ん?」
ヲ級「よろしく」ニコニコ
提督「ああ、これからもよろしくな──」
……………………
…………
……
652:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/18(土) 22:34:22.76 ID:0psZeojSo
加賀「──そうですか。ありがとうございます」パタン
飛龍「利根さん、どうでしたか?」
加賀「! 飛龍、秘書艦の代理はどうしたの?」
飛龍「アハハ……提督に利根さんを気にしているのがバレバレだったみたいで……」
加賀「それで暇を出されたって訳ね」
飛龍「そういう事です。それに甘えてしまいました」
加賀「しょうがないわね……。──利根は無事よ。さっき処置をして貰って、容態が安定したらしいわ」
飛龍「ほっ……良かったぁ……」
加賀「……それで、そっちの方はどうなの?」
飛龍「え、えーっと、それなんですけど……。…………出撃の許可は下りませんでした」
加賀「…………」ピクッ
飛龍「ちょ、ちょっと待って下さい! 最後まで話を聞いて下さい!」
加賀「……何があったのかしら?」
飛龍「すぐに出撃をして提督を迎えに行く、というのは危険過ぎるからだそうです。もう日が暮れていますから空母の私達は戦力外ですし、そんな状況で人を乗せられる船なんて出せない、と仰っていました」
加賀「……なるほどね。確かに、私達は焦り過ぎていたわ」
飛龍「ええ……。今出撃をしても、途中で撤退を余儀なくされるのは目に見えている事でした……」
加賀「それで、夜が明けてからは良いという事かしら?」
飛龍「はい。明日に出撃をする許可は貰えました。というよりも、明日と明後日の予定は全てキャンセルして下さいました」
加賀「……よく二日も休日に出来たわね?」
飛龍「提督の制服が役に立ったようです」
加賀「そういう事ね。私達の提督は、あの人よりも上の階級だもの。あの人も悪い人ではないから協力してくれたのね」
飛龍「ええ。本当に感謝で一杯ですよ」
加賀「それならば、選りすぐりの子達で迎えにいけるわね。……その様子だと、編成の事について私と相談もあるのかしら?」
飛龍「そうです。明日の事は私達に一任させてくれるので、加賀さんと私で編成を決めましょう。」
加賀「分かりました。では、空室を一つ借りましょう。その方が良いわよね?」
飛龍「他の子達に知られてしまうと、絶対に押し寄せてきますもんね……」
加賀「そうなるわね。──さて、迅速かつ綿密に編成を考えましょう。私は部屋の鍵を借りてきますので、貴女は全員に早く寝るよう伝えてきて。朝一番の出撃の可能性があるもの」
飛龍「ハイ!」タタッ
加賀「……提督、無事よね?」
……………………
…………
……
653:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/18(土) 22:34:50.66 ID:0psZeojSo
ヲ級「食べ物、採ってきた!」トコトコ
提督「うむ。助かる」ナデナデ
ヲ級「~♪」
空母棲姫「…………」
提督「どうした、そんなに難しい顔をして。苦手な物でもあったか?」
空母棲姫「……いや、単純に何もしていない私が食べても良いのだろうかと思っただけだ」
提督「気にするな。むしろ、その状態であちこち動き回られると心配で堪らん」
空母棲姫「そう、か……」
提督「今はその身体を治す事を考えてくれ。命が無ければ何も出来ないだろう?」
空母棲姫「……………………分かった……」
提督(無理矢理に納得したのか?)
空母棲姫「…………」
空母棲姫「……………………」
提督「……さて、今回は少しだけ面白い料理を作ってみようか」
ヲ級「面白い?」
提督「ああ。今まで作った事のない料理だ」
ヲ級「楽しみ!」
提督「恐らく初めて食べる味だろう。嫌だった場合は言ってくれ」ゴソゴソ
空母棲姫(…………)
ヲ級「葉っぱ?」
提督「これはバジルと言ってだな──」
空母棲姫(……ああ、本当にどうしましょうか…………)
654:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/18(土) 22:35:32.70 ID:0psZeojSo
提督「──とはまた違った────そして────」
空母棲姫(私達は、艦娘からも深海棲艦からも敵視されるでしょう……。そうすると、もう海の上に居る事は出来なくなります……)
ヲ級「──辛い……? それって──」
空母棲姫(そもそも、この人は人間……。絶対的な敵である深海棲艦をどうしようと言うのですか……?)
空母棲姫(もう、他に私達の安全を確保できる場所も人も居ない……。けれど、この人間が安全だとも絶対には言えません。もしかすると鎮守府に戻った際に実験台にされる可能性もありますし、生きた敵艦のサンプルとして研究されるかもしれない……)
空母棲姫(そうであるならば、楽に死ねる方がずっと良いです。気が狂ってしまいそうになる環境で生き続けるくらいならば、さっさと死んでしまう方が遥かに良いでしょう……)
提督「────────」
ヲ級「────?」
空母棲姫(……分からない。分かりません。この人間を信用しても良いのか、してはいけないのか……分かりません)
空母棲姫(今までの行動を省みるならば、私達の身体を修理してくれたり共に協力したりしていましたが……状況が変われば変わってしまうかもしれません……。もしかしたら、抵抗無く鹵獲する為にやってきただけかもしれない。中将の階級である事から、そうであっても不思議では──)
空母棲姫(…………ああ、思考がループする……。何が本当で、何が嘘で、何がどうなるのかが分かりません……)
空母棲姫「……どうしたら、良いのでしょうか」ボソ
提督「ん? 今何か言ったか?」
空母棲姫「……なんでもない。ただの独り言だ」
提督「……そうか」
ヲ級「…………」トコトコ
空母棲姫「……なんだ?」
ヲ級「姫、大丈夫。大丈夫だよ」ニコニコ
空母棲姫「────────」
ヲ級「ね?」ニコニコ
空母棲姫「……本当だな?」
ヲ級「うん」ニコニコ
空母棲姫「…………ならば、私も信じましょう。諦める事はあっても、後悔だけはしないようにするわ」
提督(……どういう話なのか分からんな。だが、空母棲姫のさっき見せた壊れてしまいそうな表情を考えれば、私について行くのが不安といった所だろうか)
655:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/18(土) 22:35:58.86 ID:0psZeojSo
提督(口を挟まないようにしておこうか。今ここで私が何を言っても、こいつを困らせてしまうだけだ)
空母棲姫「……なあ人間」
提督(と思った矢先にこれか)
提督「なんだ」
空母棲姫「私達は、本当に大丈夫なんだな?」
提督「出来る限りの事をする。艤装を外し、多少の化粧でもすれば深海棲艦とバレなくなるだろう。少なくとも、我々人間からすれば見た目だけでは人間と艦娘の違いが分からん。人型の深海棲艦は肌が青白いから区別が付くくらいだ」
空母棲姫「……なるほど。そういうものなのね」
ヲ級「でも、私、艦娘と人間の、違い分かるよ?」
提督「む、そうなのか?」
空母棲姫「ええ。私も分かります。感覚としか言えないけれど、なんとなくで分かるわよ」
提督「ふむ……そうなると、艦娘も同じ可能性があるな」
空母棲姫「人間を欺く事が出来ても、艦娘はどうするのかしら。何か妙案でも?」
提督「……二つ例を挙げるならば、人前に極力顔を出さないという事」
空母棲姫「確実ね。でも、限界はくると思うわ。──もう一つは?」
提督「私に付き従ってくれている子達には言い聞かせ、他言させないようにする。そうすれば、外部の艦娘でも来ない限り気付かれる事はないだろう」
空母棲姫「……難しくないかしら」
提督「ああ、難しい。あの子達ならば時間があれば理解してくれるだろう。だが、何かがあってお前達の情報が外に漏れる可能性も充分にある」
空母棲姫「綱渡りね」
提督「ああ、綱渡りだ」
ヲ級「でも、このままより、ずっと良い」
空母棲姫「ええ。今よりも良いわ。私は二つ目の案を推したく思います」
ヲ級「私も!」
提督「そうか。ならばそれで進めていくとしよう。──だが、それでも問題はまだある。お前達を鎮守府に置いておく理由を作らなければならない」
656:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/18(土) 22:36:25.29 ID:0psZeojSo
空母棲姫「……こればかりは思い付けそうにないわ。ごめんなさいね……」
提督「ああ……。私が鎮守府の運営をしていた時も足りないと思った役職など特に無かった。秘書として仕えさせるのは色々と問題があるから除外だ」
ヲ級「どうして?」
提督「秘書に就くという事は、それだけ外部の人間と接する機会が増える。その分だけお前達の存在がバレやすくなるだろう。そして、深海棲艦を秘書にするまでいってしまえば流石に反対意見を出す者が多く出てくるのが目に見える」
空母棲姫「加賀という艦娘なんかは猛反発しそうね」
提督「ああ。だから、何か良い理由があれば良いのだが……」
空母棲姫「…………」
提督「……………………」
ヲ級「!」ピン
ヲ級「ご飯!」
空母棲姫「……どうしたの? 待ちきれなくなったのかしら」
提督「ああ、そうだな。そろそろ作ると……………………ふむ……そうだな。ふむ……」
空母棲姫「…………?」
ヲ級「ご飯、作る! 私達が!」
空母棲姫「…………」
提督「良いかもしれん。流石に間宮と伊良子の二人で鎮守府の食事を作るのは大変なはずだ。艦娘の数が増えた事による食事を作る人手不足を理由に二人を正式に在籍させてしまえば良いか」
空母棲姫「在籍させるという事は、上に報告書を通すのではなくて?」
提督「そうなる。だが、そういう事例は既にある。大艦隊を率いている大将が居るのだが、元は一般の料理人を在籍させている。詳しくは憶えていないが、確かその大将が募集を掛けて集めた者達という話だ」
空母棲姫「……良いですね。現状、それが一番可能性が高いでしょう」
提督「だが、お前達は料理の事を一切知らない。料理の事について勉強をして貰う事になる」
ヲ級「美味しいもの、作りたい!」キラキラ
空母棲姫「……興味が無いとは言いません。確かに貴方の作る料理はおいし──」ハッ
提督「…………」
空母棲姫「……………………その……」
提督「…………」
空母棲姫「……美味しい、と……思いました」フイッ
ヲ級「照れてる」ニコニコ
空母棲姫「口に出して言わないで下さい……!」
ヲ級「姫、良い顔してる」ニコニコ
空母棲姫「…………っ! ふん……」
提督「気に入ってくれているのならば良かった。では、晩飯を一緒に作ってみようか」
ヲ級「うん!」
空母棲姫「ぅ……はい……」
…………………………………………。
665:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/24(金) 09:45:56.71 ID:/oMgNYkRo
ヲ級「はむはむ……」ガジガジ
空母棲姫「…………」モグモグ
提督「ふむ……味はどうだ?」モグモグ
ヲ級「美味しい! ……けど、何か違う?」
提督「うん? 違う?」
ヲ級「良く分からない。けど、何か違う、気がする」
提督「ふむ……バジルを使ったから味が違うという意味ではないのか?」
ヲ級「うん。自分のより、提督が、作ったの、好き!」
提督「……………………」
提督(……金剛が昔言っていた、料理には愛情をとか言っていたのは本当なのか? ──いや、まさか。単純に腕の違いなだけだろう。それか、料理を知らない自分が作ったものという偏見でもあるのだろうか?)
提督「お前はどうだ? 苦労していた分、愛着が沸いていそうだが」
空母棲姫「……正直に言うと、微妙です」
提督「微妙?」
空母棲姫「あなたが作っていた物が料理ならば、私の作った物は料理と言えないような……そんな不思議な微妙さです」
提督「……お前も難しい事を言っているな」
空母棲姫「私自身もよく分かっていないの。ごめんなさいね」
提督「……そうか。それで、自分で食事を作ってみた感想はどうだ?」
ヲ級「楽しかった!」
空母棲姫「私は難しかったという印象です。ただ焼くだけだと思っていましたが、火加減や魚の様子を見てどうするべきなのかを判断しなければならないとは思いもしなかったわ」
提督「慣れれば難しくはなくなる。何事も経験あってこその実力だ」
ヲ級「頑張る!」
提督「良い子だ」ナデナデ
ヲ級「んー♪」ホッコリ
666:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/24(金) 09:46:31.90 ID:/oMgNYkRo
空母棲姫「……本当、驚くくらいに懐いているのね」
ヲ級「提督、優しくて、頭、撫でてくれる。気持ち良い!」
提督「……そんな事で懐いたのか?」
空母棲姫「あとは人徳ではないでしょうか。初めは敵でしたが、修理をしてくれたのは事実ですし、私達の事も考えて下さっています。……むしろ、今では敵と思いたくないですね」
提督「ほう。随分と素直になってきたな」
空母棲姫「ですが、そうやって私をからかうのは嫌いです」フイッ
提督「なに。私の性分だ」
空母棲姫「今までからかった事はほとんど無かったと思うのだけれど」
提督「それだけ私にも余裕が出てきたという事だ」
空母棲姫「……困った人ね。そういう事をするのだったら、私にも考えがあります」
提督「ほう。何をする気だ?」
空母棲姫「ひとり二航戦サンドだったかしら。あれをします」
提督「やらせるものか。むしろ、恥ずかしくないのか?」
空母棲姫「どうせもう裸を見られているもの。今更どうって事はありません」
提督「…………そういう問題か?」
空母棲姫「そういう問題よ。証明しましょうか?」スッ
提督「やるんじゃない。私には心に決めている人が居る」
空母棲姫「意外ね。仕事一筋のような印象だったのだけれど」
提督「私も人の子だからな。愛したら一筋だ」
空母棲姫(……そう言う割には結婚指輪を付けていないわね。まだ籍を入れていないという事なのでしょうか?)チラ
667:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/24(金) 09:50:38.96 ID:/oMgNYkRo
提督「…………」
ヲ級「ね、提督」
提督「ん、どうした」
ヲ級「寝る場所、無くなったけど、どうするの?」
提督「……そうだな。こうもバラバラだと、寝るどころか雨風も凌げん」
空母棲姫「困りましたね……」
提督「……一先ずは台のようなものを作って、その上に生き残っている布団を敷こう。大きい板は辛うじて残っているから、それで雨を凌ぐしかない。風は諦めるか」
空母棲姫「それしかないわね。……改めて空爆が厄介だと認識しました」
提督「空爆の鬼が何を言っているんだ……」
空母棲姫「やるのと受けるのとでは大きく違うというのも実感しているわ……」
提督「そういうものなのか……?」
空母棲姫「貴方は指揮を受けるのと指揮するのとでは大きく違うと思わないのかしら?」
提督「なるほど、そういう事か」
空母棲姫「……それにしても、作るのは大変そうね」
提督「ああ、本当にな……。さっさと作ってしまおう。暗くなってからでは遅い」
ヲ級「はーい!」
空母棲姫「分かりました」
…………………………………………。
668:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/24(金) 09:51:05.41 ID:/oMgNYkRo
ヲ級「できた!」
提督「……なんとか一つは作れたな」
空母棲姫「……予想はしていましたが、やはり不恰好ですね」
提督「思ったより大きい板が少なかったな……」
空母棲姫「こんなバラバラになる程だったのに、よく死ななかったですね……」
提督「私の悪運は強いという事か」
空母棲姫「悪運なのか天運なのかは分かりませんが、生きているという事はまだ何かやらなければならない事があるのでしょう。……だからと言って無茶はしないでちょうだいね?」
提督「状況によるが、概ね大事にしようか」
空母棲姫「……貴方の事は信用しているけれど、今の言葉は信用できないわね」
ヲ級「無理、しそう」
提督「…………」
空母棲姫「その様子だと、貴方の艦娘からも同じ事を言われていそうね」
提督「……勘が良いな。その通りだ」
空母棲姫「貴方の普段の言動を見ていれば何となく想像がつくわ。それで頭を悩ませた子が一体何人居るのかしら」
金剛『────────!』
瑞鶴『────……?』
響『────。────────』
提督「……さて、何人だったかな」
空母棲姫(……これは踏んではいけない話だったかもしれませんね)
669:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/24(金) 09:51:32.11 ID:/oMgNYkRo
提督「話を戻すが、二人はこの簡易ベッドに乗ってみてくれないか。バランスや傾きが無いか確かめて貰いたい」
ヲ級「はーい!」ピョン
空母棲姫「飛び乗らないの。壊れたら危ないでしょう?」ギシッ
ヲ級「……ごめんなさい」
空母棲姫「分かれば構いません。──バランスや傾きは特に問題ないと思うわ。上々です」
提督「そうか。良かった」
空母棲姫「では、貴方も乗って貰いましょうか」
提督「ん? なぜだ」
空母棲姫「三人が乗れるかの確認は必要で──……まさかとは思いますが、自分は地面で寝ようと考えていたとか言うのかしら」
提督「…………いや、地面ではないぞ」
空母棲姫「ハッキリとした答えではないという事は、地面ではなく板の上だとか言うのでしょうね」
提督「……………………」
空母棲姫「やはりですか……」
ヲ級「それ、だめだよ?」
提督「……心に決めている人が居るというのに、お前達と寝床を共にするのは──」
空母棲姫「利根という艦娘とは共に寝ていたわよね」
提督「……………………」
ヲ級「…………」ヂー
空母棲姫「…………」ジッ
提督「……はぁ…………。どうしてこうなるんだ……」
空母棲姫「それはこちらの台詞です。どうして貴方はそうなのですか。自分勝手かと思えば変な所で自己犠牲があって困ります。まるでどこか壊れてしまっているかのようで……なんて言えば良いのかは分からないけれど、冷静なその顔の向こうは焦っているような……そんな気がします」
提督「……そうか」
空母棲姫(……落ち込ませてしまいました。私は、もう少し言葉を穏やかにした方が良いのかしら……)
提督「…………」
空母棲姫(気遣うような言葉を使えば良いのでしょうか。……いえ、今はこの話題を置いて話を戻しましょう。なるべく、そうしなければならないように思わせて……)
ヲ級「…………?」
空母棲姫「……とりあえず、貴方は体調が悪くならないようにベッドで寝るようにして下さい。貴方の艦娘の為にも、貴方自身の為にも」
提督「……分かった」
…………………………………………。
682:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/27(月) 01:12:25.20 ID:kQjkkuVHo
ヲ級「くー……くー……」
提督「…………」スー
空母棲姫「…………」
もぞ……
提督(……む?)
空母棲姫「…………」ソロソロ
提督(朝か……。空母棲姫はベッドから抜け出してどこへ行く気だ?)モゾ
ヲ級「みぃーやぅぁ……」ギュー
提督「…………」
ヲ級「あぅぁたかぃ……ぃー……」クー
提督(……これでは起こさなければ出られなさそうだな。しかし……なんて言っているんだ、これは……?)
ヲ級「んぅー……」
提督(改めて思ったが、深海棲艦は体温が低いな。こうしてくっつかれていると良く分かる。……いつもは海の上に居るからか?)
提督「…………」
提督(ふと思ったが、普段はどうやって寝ているんだ……? 周りに海しかない場所でも昼夜問わず現れるという事を考えると、海の上で寝ているか……それとも水底で……?)
提督(……本当にそうしていそうと思えてしまう。なんというか、そうしている姿が容易に想像できる)
提督「……少し甘えさせてやった方が良いかもしれん」ナデ
ヲ級「みゅぅ……」スリ
…………………………………………。
683:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/27(月) 01:21:40.81 ID:kQjkkuVHo
空母棲姫(さて……昨日教えて貰った事を思い出しながら作ってみたけれど、あまり上手くいったとは思えないわね……。少し焦げてしまったわ)
空母棲姫(味は……)モグ
空母棲姫「……昨日より微妙ね。どうしましょうか、これは……」
空母棲姫(だからと言って捨ててしまうと食材が足りなくなりますし……難しいです。本当に上手く料理が出来るようになるのかしら……)
空母棲姫「困ったわ……」
提督「何が困ったんだ?」
ヲ級「どしたの?」
空母棲姫「ひゃっ……!」ビクンッ
提督「…………」
空母棲姫「……何ですか、その驚いた顔は? そんなに今の声がおかしかったのですか?」ジトッ
提督「意外だっただけだ。そう噛み付いてくれるな」
空母棲姫「ふん……どうだか」
ヲ級「ね、姫。料理、してたの?」
空母棲姫「……料理と言えるかどうかは分からないけれど、作っていたのは事実よ」
提督「ふむ。お前が一人で作った料理か。楽しみだ」
空母棲姫「嫌味かしら、それは?」
提督「いや、期待している方の意味だ。苦労をして会得する技術は総じて良いものだと私は考えている。だから、楽しみだ」
空母棲姫「……おだてても何も出ないわよ」
提督「朝食は出てくるだろう?」
空母棲姫「……なんですか、その返しは。……もう良いです。さっさと食べて下さい。味は保障しませんが」
684:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/27(月) 01:31:13.49 ID:kQjkkuVHo
ヲ級「姫、ありがと!」ニパッ
提督「うむ。頂こう。──ふむ。昨日の焼き魚のバジル風味からバジルを抜いたのか」
空母棲姫「ええ。本当はバジルを使いたかったのだけれど、あれはもう無いので使えませんでした。……おかげで、本当にこれで良いのか迷ったわ」
提督「構わんよ。あれは薬味みたいなものだ。無くても美味いものは充分に美味い。──では、頂く」ガジ
ヲ級「いただきます!」ガジガジ
提督「……ふむ」モグ
ヲ級「あむあむ……」ガジガジ
空母棲姫「……どうですか? 不味くはありませんか?」
提督「少し焦がしてしまっているが、充分に美味いよ」
ヲ級「うん! おいしい!」
空母棲姫「……本当ですか? 私が味見した時は昨日よりも微妙だったのだけれど」
ヲ級「本当だよ?」
提督「ああ。昨日よりは上手く出来ている」
空母棲姫「…………本当だとしたら、どうして私だけ美味しいと思わなかったのでしょうか」
提督「先入観かもしれんな」
空母棲姫「それが何か関係があって?」
提督「無いとは言い切れないくらいのものだが、あるのは確かだろう。──『自分の腕はまだまだ未熟だから美味しい訳がない』『初めが微妙だったのだから、今回も微妙かもしれない』と思っていたりするとな」
空母棲姫「……驚きました。どうして私が作っている時に思っていた事を言い当てられたのですか?」
提督「それはただの偶然だ。なんとなく、そう思っていそうだと予想した」
ヲ級「…………」ガジガジ
空母棲姫「…………そうですか」フイッ
提督(照れているのか、これは)
ヲ級「…………」ガジガジ
空母棲姫「……まあ、良いです。私も頂きましょう」ガジ
空母棲姫「…………」
提督「どうした?」ガジ
空母棲姫「……なぜか少し味が良くなっている気がします」
提督「そうか。良かったじゃないか」
空母棲姫「何かしたの?」
提督「何もしていないのはお前も分かっているだろう……。単純にお前の意識が変わっただけじゃないのか?」
空母棲姫「……良く分からないわね。料理というものは」ガジ
提督「難しい事は確かだ。色々とな」ガジ
ヲ級「…………」ガジガジ
…………………………………………。
685:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/27(月) 01:41:35.86 ID:kQjkkuVHo
ヲ級「ごちそうさま!」
提督「馳走になった」
空母棲姫「お粗末さまです」
空母棲姫「…………ん?」
提督「どうした」
空母棲姫「……いえ、なんでもありません」
空母棲姫(何か今、心の奥が温かくなったような……? 気のせいでしょうか)
ヲ級「ね、何する?」
提督「……そうだな。以前にも増してやる事が少ないから困るな……」
空母棲姫「今後の事について事前に打ち合わせをしておくのはどうかしら」
提督「なるほど。確かにそれが良いな」
ヲ級「打ち合わせ?」
提督「お前達は今までどこで何をしていたか、というのを決めておく。もし外部の人間に聞かれても問題の無いように、簡単にでもな」
ヲ級「ヲー……」
空母棲姫「たぶん分かっていないわね、この子」
提督「だろうな。後で要点だけ教えておく方が良いかもしれない」
空母棲姫「それが最善かと」
提督「しかし、打ち合わせをする間は暇をさせてしまうな……」
空母棲姫「……………………そうですね、こっちに来なさい」スッ
ヲ級「?」トコトコ
空母棲姫「膝の上に座って」
ヲ級「うん」チョコン
空母棲姫「…………」クシクシ
ヲ級「ヲー……?」
提督「ふむ。髪を梳くか」
686:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/27(月) 01:51:46.56 ID:kQjkkuVHo
空母棲姫「どうかしら。嫌じゃない?」
ヲ級「んー……? ちょっと、よく分からない」
空母棲姫「……そうですか」
ヲ級「でも、もっとして欲しい、気がする? ような感じ」
空母棲姫「そうですか」クシクシ
ヲ級「あ、そこ。気持ち良い」
空母棲姫「ここ?」クシクシ
ヲ級「もう少し、左。──そこ!」
空母棲姫「ここね」クシクシ
ヲ級「んー♪」
提督「どうやら気に入ったようだな」
空母棲姫「……少しだけ、不思議な気持ちになるわね」クシクシ
提督「ああ、分かる」
空母棲姫「あら、貴方も分かるのですか?」クシクシ
提督「既に経験済みだからな。……本当にこれが気持ち良いのかが今でも疑問だ」
ヲ級「良いよ? これ」
提督「だ、そうだ。お前もされてみるか?」
空母棲姫「私の髪は長過ぎて梳くに梳けないと思うのだけれど」クシクシ
提督「そうだな。せめて地面に付かないくらいには短くした方が良いだろう。料理をするから特にな」
空母棲姫「それでも普通よりかなり長くないかしら」クシクシ
提督「長いのは確かだが、何か思い入れでもあるんじゃないのか?」
空母棲姫「……確かにそうですが」
687:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/04/27(月) 02:01:17.93 ID:kQjkkuVHo
提督「ならば必要な分だけ切って、長いままにしても構わないだろう。料理の際にしっかりと束ねて邪魔にならないようにすれば問題無い」
空母棲姫「そんなものなのですか」クシクシ
提督「そんなものだ」
空母棲姫「分かりました。ある程度は切っておきます」クシクシ
提督「切る時は私が切ろう。……確認しておくが、変な物で切ったりしようとするなよ?」
空母棲姫「流石にそんな事はしません。どういった想像をしているのかしら」クシクシ
提督「まあ……海の上にハサミなど無いと思ったからだ」
空母棲姫「だからこそ、ここまで伸びてしまったのだけれどね」クシクシ
提督「なるほど。──さて、それではそろそろ打ち合わせに入るとしよう」
空母棲姫「ええ、そうしましょうか」クシクシ
ヲ級「んぅー……?」ウトウト
空母棲姫「貴女は寝ていても構わないわ。起きた時にちゃんと話します」
ヲ級「分かったー……」
提督(……しかし、改めて見ると子供を世話する母親に見えるな)
空母棲姫「今、何か失礼な事を考えていなかった?」
提督「何も。ただ単に仲睦まじい親子のようだと思っただけだ」
空母棲姫「……微妙ですね、それは」
提督「……そうか」
空母棲姫「まあ、流しておきましょう。──それで、まずは何から決めましょうか」
提督「そうだな。まずはどういった経緯で鎮守府にやってきたのかを──」
…………………………………………。
707:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/05(火) 19:14:51.29 ID:368PJpk6o
空母棲姫「──では、私達は各地を転々としていた根無し草の姉妹で、料理人募集の張り紙があったから雇われたという形で居れば良いのですね?」
提督「それで良いだろう。過去の事についてはヲ級が幼い頃に家庭が崩壊でもしたとして、この子は憶えておらずお前がある程度憶えているくらいで良い」
空母棲姫「父が酒と博打で身を滅ぼし、酔ったまま冬の川に落ちて死亡。生活をする為にコツコツと貯めていた貯金を博打に使われた事と、夫を失った苦悩で母はどこかへ蒸発。その日限りの仕事や拾った物で食い繋いできた──という形だったかしら」
提督「ああ。だが、細かい部分は聞かれない限り話さなくて構わん。あえてぼかす事で勝手に向こうが『そういうものか』と納得する。軽く言う時は『姉妹で彼方此方を転々としていたらこの場所に行き着いた』とでも言えば良い」
空母棲姫「なるほど。ぼかせば曖昧のままですから融通は利きますし、あまり話したがっていないようにも聞こえるから深くは聞いてこないという事ですか」
提督「そういう事だ。相手の態度次第だが、深く聞かれたら一つ二つは答えて後は嫌悪感を示せば良い。人間はあまり語りたくなさそうにしている相手には深く追求しないはずだ。もし追求された場合はハッキリと拒否をして相手しないようにしてしまえ」
空母棲姫「それが貴方の上官だった場合はどうするの?」
提督「丁寧に断れば大抵はどうにかなる。どうにもならなかった場合はハッキリと拒絶して構わん。多くは語りたくない事なのでお許し下さい──とでも言えば良いだろう」
空母棲姫「その上官がゲスだったらどうしましょうか」
提督「その時は無理矢理にでも話を終わらせてから離れろ。権力のある人間がそこまでやってしまえば槍玉に挙げられるか、もしくは女を口説こうとして失敗したという下らん話になるかのどっちかだ」
空母棲姫「分かりました。……ここからが本当の問題なのだけれど、この子にはなんて説明をすれば良いかしら」
ヲ級「くー……」
提督「この性格だからな……。とにかく何も知らないという事と、知らない人には付いていかない、挨拶はすれど深くは接さないを徹底させたら良いかもしれん」
空母棲姫「その場合は相手に不快感を与えて憶えられるのでは?」
提督「それもそうか……。そうだな……姉がいつもなんとかしていたから詳しくは知らないで押し通すか……?」
空母棲姫「それも無茶がありそうね。……私が大体の事をしてきていて、この子は私の言うとおりに過ごしてきた、とでもしましょうか。それならば奔放になっていてもおかしくはないのでは?」
提督「もう少し何か説得力が欲しいな。……陸にかなり近い場所で釣りや素潜りをして魚介類を手に入れていたとしてもするか?」
空母棲姫「そうなると、今までは海に近い場所で転々としていたという方向に変えた方が良さそうね」
提督「ああ。基本的に姉がどこかに働きに出ている間はその日の食材を少しでも集めていたとしよう」
空母棲姫「ええ、そうしましょう。──とりあえずは『姉がやっていた事は詳しく知らない』『海辺で魚や貝、海草を取ってご飯にしていた』くらいで良いかしら」
提督「そうしよう。後、知らない人には付いていかないという事と、しつこく聞いてくる人には『やらなければならない事がある』と言って離れるようにさせなければならんな」
空母棲姫「もう一つあります。私達の名前をどうするか、です。流石に答えられないのは問題があります」
提督「空姫や空(うつほ)にでもするか?」
空母棲姫「……うつほとはどういう漢字なのですか」
提督「空と書いてうつほと読む。本来はうつおと読むんだが、少しでも女らしくなるように古い読みで『ほ』にした」
空母棲姫「どちらにせよ女らしくないのだけれど」
提督「……………………」
空母棲姫「ですが、悪くないと思います。どちらも空母である私達に関連しているものね。それでいきましょう。……一応確認だけれど、空姫は私で空はこの子の事よね?」
提督「ああ」
空母棲姫「分かりました。では、貴方の迎えが来るまでの間はこの事を頭に叩き込ませましょう」
提督「程々にしてやれよ?」
空母棲姫「……出来るだけ優しくします」
提督(……少し不安になるな)
…………………………………………。
708:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/05(火) 19:15:20.67 ID:368PJpk6o
金剛「…………」ボー
瑞鶴・響「…………」
金剛「……隠れているというのは暇デスね」
瑞鶴「うん……。加賀さんの案で横須賀の皆には見付からないようにこの島で待機してるけど、中将さんの所より何もする事が無いわね」
響「お弁当や保存食も貰ったし、本当に何もする事が無いよ。……提督の膝の中が恋しい」
金剛「響は提督にとても懐いているデスね……。サラリとそんな言葉が出るナンテ……」
響「金剛さんはそう思わないの?」
金剛「私は響や利根のようにして下さった事はないので、あまり……」
響「今度して貰うと良いよ。あれは癖になる」
瑞鶴「癖になるって……また不思議ね」
響「本当さ。中毒になるとも言える」
瑞鶴「ふぅん……? じゃあ、私でやってみる?」
響「ん。お願いしたい」
瑞鶴「良いわよ。……えーっと、胡坐だったわよね、確か」スッ
響「うん」
瑞鶴「むー……? こんな感じかしら。この座り方ってほとんどしないから分かりづらい……」
金剛「もう少し閉める感じではないデスか?」
瑞鶴「こうかしら……」グッ
金剛「メイビー……」
響「良い?」
瑞鶴「うん、良いわよ」
響「よいしょ」ソッ
瑞鶴「どう?」
響「……失礼かもしれないけど、少し小さい」
瑞鶴「ち、ちいさ……!? ──って、違うわよね……うん。ごめん」
響(……何と勘違いしたんだろう)
金剛「提督は身長が高いデスからね。そして鍛えていますので、座り心地も違うでショウ」
響「うん。凄く違うよ」
瑞鶴「同じ胡坐でも違うものなのね……」
響「ありがとう、瑞鶴さん」スッ
瑞鶴「どういたしまして」スッ
響「……それで、どうしよう」
金剛「……本当、どうしまショウか」
瑞鶴「困ったわねぇ……」
……………………
…………
……
709:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/05(火) 19:16:32.68 ID:368PJpk6o
北上「やっほー提督ー」
加賀「遅くなってすみません」
飛龍「救命艇を引っ張ってきました。……何分、色々な事情がありそうですので小型で一人でも操縦できるタイプにしました」
提督「ありがたい。それに、遅くなどない。すぐに来てくれているじゃないか」
飛龍「本当はすぐにでも向かおうとしたのですが、夜に出撃するのは危険が多いという事で一晩待ってしまいました」
提督「それは正しい判断だ。……私の後釜に座ってくれている者はマトモのようで助かる」
夕立「それでも提督さんが良いわ! 早く提督さんと一緒に暮らしたいっぽいー!」
時雨「それには僕も同感だよ。……それで、やっぱり連れて行くの?」チラ
空母棲姫「…………」
提督「連れて行く。既に敵意は無いと分かるだろう?」
北上「まあ、確かにそうだけどさ……」
加賀「…………」ジッ
空母棲姫「…………」
ヲ級「?」
加賀「……私は信じます。提督が信用する程ですから、相応の誠実さがあるのでしょう」
提督「さり気なく私を貶していないか?」
加賀「私はアナタが艦娘や妖精以外を信用した姿を見た事が無いのだけれど」
提督「……確かに無いな」
加賀「そうでしょう? だから、てっきり忠誠を誓う艦娘や仕事熱心である妖精以外は信用しないのかと思っていました」
提督「……強ち間違っていないから困る」
空母棲姫(仲が良いですね。……なぜでしょうか。少し、羨ましいと思いました)
提督「……この話は置いておこう。二人の扱いについてだが、本土へ戻る前に説明しておく──」
……………………
…………
……
710:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/05(火) 19:17:14.48 ID:368PJpk6o
コンコンコン──。
後任提督「どうぞ」
ガチャ──パタン
提督「失礼する」
後任提督「!!」ピシッ
提督「いや、手は下げてくれ。私は途中で降りてしまった者だ。敬われるような存在ではない」
後任提督「分かりました。──お久し振りです、中将殿。だいぶ痩せられてしまいましたね」
提督「何分、魚しかなかったからな。──それよりもあの子たちが全員、元気そうで安心したよ。迷惑を掛けてしまっていなかったか?」
後任提督「いえ、そんな事はありません。むしろ私の方が迷惑を掛けてしまい、フォローも受けていました。優秀な子たちで助かっています」
提督「そうか。それは良かった」
後任提督「……ここへやってきたという事は、復帰なされるのですか?」
提督「ああ。やらなければならない事が出来てしまった。三年近くも掛けて、やっと気付いた愚か者だ」
後任提督「そうですか……。勿論、この鎮守府を使いますよね?」
提督「いや、ここはもはや君の鎮守府だ。後から来た私が別の鎮守府に行くべきだろう」
後任提督「そう仰らないで下さい。私ではこの鎮守府は大き過ぎます」
提督「大き過ぎる? ……まさかとは思うが」
後任提督「そのまさかです。新しい戦力はほとんど追加しておりません」
提督「なぜだ? 私の艦隊は軽巡や重巡、大型戦艦の数が少なかったはずだ。色々と苦労しただろう」
後任提督「なんと言いましょうか……。あまり追加したくなかったというのが本音です」
提督「ふむ」
後任提督「私が手を加えてはいけないような、そんな良く分からない感覚です。それと、やはりやるからには自分が一からやりたいと思いました」
提督「そうか。という事は、三年近くも待たせてしまったという訳だな。すまない」
後任提督「ハハ……。そこは下積みの時代と考えます。実は上と掛け合って、空いている鎮守府への異動申請もしているんです」
提督「手が早いな。さぞかし楽しみにしていたと見た」
後任提督「その通りです。後は中将殿のご許可が頂き、引継ぎが終われば申請は受諾という形になります」
提督「……よく私が復帰する事を上は承認したな」
後任提督「なんだかんだで提督に成り得る人は少ないですからね。上も即戦力となる人材が欲しいのでしょう」
提督「そういう事か。──では、私からも願おう。引継ぎを頼む」
711:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/05(火) 19:17:36.99 ID:368PJpk6o
後任提督「分かりました。それではまず、現在の資材量についてです」スッ
提督「……ふむ。思ったよりも多いな」ペラ
後任提督「中将殿の艦娘の錬度が高いおかげで消費量が少ないですからね。──次は新しく進水した艦娘ですが、リストの枠外に記載されている四隻がそれです。この子たちは私が新天地へ連れて行きます」
提督「ふむ。分かった。……沈んでしまった子も居ないな。素晴らしい事だ」
後任提督「加賀さんには耳にタコが出来るほど重要視するよう言われていましたので……。私も危ない作戦を立ててしまわないよう注意しました」
提督「なるほど。その時の加賀の顔が容易に思い浮かぶよ。あいつは怒ると怖いだろう?」
後任提督「ハハ……黙秘しますね。後が怖いので。──資料や整理に関しては法則を変えておりません。極力手を加えないようにしております。些細な部分は変わっていますので、次の紙に纏めてあります」
提督「…………」ペラ
提督「……………………ふむ。把握した。それでも思ったより少ないな」
後任提督「現在は作戦も終わった直後でして、上からの指示を仰いでいる所です。その間はある程度自由に出来るでしょう」
提督「ふむ。では、その間は全員と交流しておくか。……どうせ、扉の向こうでは今か今かと終わるのを待っていそうだからな」チラ
ガタッ!
後任提督「ハハハ。お見通しですね。ビックリさせようって計画を立てていたんですよ?」
提督「私を出し抜きたければもっと上手くやらなければならんよ。──首謀者は川内か?」
ガタンッ!
提督「……どうやら当たりのようだ」
後任提督「それだけ自分の艦娘を理解できるよう、私も努めたいものです」
提督「なれるさ。君ならなれる。私が保証しよう」
後任提督「これは力強いお言葉です。──それと、もう一つだけ伝えなければならない事があります」
提督「うん?」
後任提督「実は、上から厄介な指示を受けていまして……」
提督「……何があった?」
後任提督「反抗的な艦娘を教育しろというものでしてね……これがどうにも扱いが難しく……」
提督「ふむ。その艦娘は今どこに──」
ガチャ──
長門「ここに居るぞ」
川内「ちょっ……!? あ、開けちゃダメでしょ!?」
長門「あと一つと言っていたから問題ないだろう。むしろ、問題児の私が姿を見せた方が話が早い」
那珂「うわー……うわー……。那珂ちゃん、どうなっても知ーらないっと……」
提督「長門か……」
後任提督「この通り、非常に大きな戦力でもあるので無碍に出来なくて……」
長門「ふん。──貴様が新しい提督か? 私は長門。下田に居る愚かな提督に愛想が尽きてしまって教育送りだ」
提督「ほう」
長門「さて、貴様は私をどう教育する」
提督(……これは確かに厄介そうだな)
…………………………………………。
729:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/09(土) 17:36:14.67 ID:gaEulZtpo
空母棲姫「…………」
金剛「…………」
空母棲姫「……何も無いな、この島は」
瑞鶴「うん……私達も来た時に思ったわ。こんな島で何日も隠れるのって、ちょっとキツいかも」
ヲ級「魚、捕ってきた方が、良い?」
金剛「ノー。魚を捕ってきても、クッキングする方法が無いデス。しばらくは頂いた保存食と木の実で過ごしまショウ」
響「捌いて食べるっていうのはダメなのかな。刺身とか」
金剛「魚はそのまま食べると寄生虫が居たりするので危ないデス」
響「そういえば、そんな事を言ってたね。……提督の事だからすぐに来てくれそうだけど、今の内に食べられそうな物を集めておこうか」スクッ
空母棲姫「…………」
空母棲姫(……どうしましょうか。満足に動けない私は、何をしたら……)
金剛「? どうかしたデスか?」
空母棲姫「……いや、なんでもない。行こうか」スッ
瑞鶴「歩きながらで良いんだけどさ、だいぶ酷くやられちゃってるっぽいけど大丈夫なの?」
空母棲姫「気にするな」
金剛(……なんとなくデスが、無理をしているように見えるデス。もしかしたら、動きづらいトカでは……)
金剛「うーん……」
響「どうしたんだい、金剛さん」
金剛「いえ、食べ物を採ってくるのは良い事だと思うのデスが、管理をする人が欲しいと思ったのデス。どのくらい日数が掛かるか分からないデスから、誰か一人が把握しておくべきだと思うデス」
瑞鶴「あー、確かに」
空母棲姫(……こいつ、まさか)
金剛「この中で一番しっかりしていそうな空母棲姫に頼んでも良いデスか? その代わり、私達が食べられそうな物を採ってくるデース」
空母棲姫「……分かった。すまない」
響(ああ、そういう事なんだね)
ヲ級「姫。行ってくる、ね?」
金剛「日が高くなってきたら帰ってくるデース」
瑞鶴「いってきまーす」
響「一杯持って帰るね」
空母棲姫「ああ。……気を付けてこい」
空母棲姫「……………………」
空母棲姫(……まさか艦娘から気遣われるとは思いませんでした。本当、私達は本来敵同士だというのを忘れてしまいそうになるわ)
空母棲姫「……争わないというのも、良いものですね」
……………………
…………
……
730:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/09(土) 17:36:52.88 ID:gaEulZtpo
提督(ここも変化や異常、共に無し。ふむ。本当に大事に鎮守府を使ってくれているな)サラサラ
後任提督「…………」チラ
長門「なんだ? 私に何か用か?」
後任提督「あ、いや……ただ気になって……」
長門「特に気にする必要は無い。気にせず引継ぎ作業を続けてくれ」
提督「そういう事だ。──中佐、もし気が散ってしまうのだったら荷造りをしていても構わんぞ。大事に使ってくれているおかげで私一人で確認するだけでも良さそうだ」
後任提督「いえ、それは──」
提督「何。忠実に規則を守るのは良い事だが、こうも大事に使ってくれているのを見ていれば問題など無いと分かる。全ては確認するが、何か分からない点があった所のみ伺うとしよう」
提督「それに、一日でも早く異動したくて堪らないんじゃないか? 長門の事もあるとはいえ、どことなく別の事を考えているようにも見える」
後任提督「……本当に構いませんか?」
提督「構わんよ。今はこの鎮守府の事を忘れ、新天地を考えてしまえ」
後任提督「ありがとうございます。……では、お気を付けて」スッ
提督「…………」
長門「…………」
提督「……何を気を付けろというのか分からんな。長門、お前は中佐に何か危害でも加えたのか?」
長門「そんな事は一切していない。ビッグセブンの名に懸けて手を上げていないと誓おう」
提督「という事は、心労は掛けたんだな」サラサラ
長門「掛けただろう。何せ、私は問題ある艦娘だからな」
提督「そうか。ならば、お前の事を訊いても良いか」
長門「ん?」
提督「言うなれば、下田で何があったかを訊きたい。艦娘が主である提督の愛想を尽かせる程だ。よっぽどの事でもあったのだろう?」
長門「……なるほど。お前は懐柔するタイプか」
提督「そう思ってくれても構わん。答えたくなければ答えなくても良い。お前のやりたいようにしてくれたら、本当にお前が問題ある艦娘なのかどうかが分かる」
長門「…………」
提督「…………」サラサラ
長門「……………………」
提督「後はそうだな。下田の話は耳にしているから多少の理解は出来る」
長門「……ほう?」
提督「艦娘三人に轟沈命令を出した、とかな」
長門「!! 待て、なぜお前がそれを知っている!」
731:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/09(土) 17:37:22.23 ID:gaEulZtpo
提督「大声を出すな。あまり知られたくない事だろ」
長門「…………っ!」
提督「さて……訊きたいのならば教えてくれ。下田で何があってお前は反抗した」
長門「……………………」
提督(……葛藤か? まだ下田の提督の事を想っているのか、それとも別の何かがあるのか……)
長門「轟沈命令を…………」
提督「……轟沈命令を?」
長門「……出した理由は、艦の把握が面倒だから、というものだった。私はそれを聞いて、本当に愛想が尽きてしまった。ただそれだけだ」
提督「……そうか」
長門「本当は残されている他の艦娘も心配だが、私の権限ではどうしようもない。諦めるしかないだろう。だからと言って、あいつの下で動くというのも我慢ならない」
提督「ふむ、そういう事か」
提督(これならば、教えると協力をしてくれるかもしれんな)
長門「さて……私は教えたぞ。次はそっちの番だ」
提督「簡単な話だ。私はその三人を知っている」
長門「な……!? ……どこだ。どこに居る」
提督「そう遠くではない場所、とだけ言っておく」
長門「勿体振るな。さっさと教えろ」
提督「場所はまだ教えられん。こちらにも計画があるんだ」
長門「計画……?」
提督「そうだ。その三人はこの鎮守府に来る予定だ。だが、それには理由を付けねばならん。今の所、一番良いのは海から拾ってきたというものだろう」
長門「…………」
提督「中佐がこの鎮守府を去った後、その三人を迎え入れる。……本当はもう二人居るのだが、そっちは現地で説明しよう。──今話せるのはこれで全てだ」
長門「……そうか……無事なんだな?」
提督「ああ。三人とも元気だ」
長門「良かった……」ホッ
提督「もし三人がこの鎮守府に来たら、長門はどうするんだ?」
長門「……そうだな。出来れば、また海で共に戦いたい。最後に同じ艦隊で戦ったのがどれほど前なのか、もう分からないくらいだからな……」
提督(……問題のある艦娘、か。おかしいと思ったが、やはり向こうの問題じゃないか。大方、反論が出来なくなって教育送りにしたといった所か?)
提督「時が来たらそうしても良いだろう。ならば、それまでの間は教育を終わらせる訳にはいかないな」
長門「……教育をなんだと思っているんだ貴様は」
提督「お前に教育など必要ないだろう。それとも、最高錬度になっていないから錬度を上げたいとでも言うのか?」
長門「…………不思議な人だ」
提督「よく言われる。──さて、チェックもここで終わりだ。私はやらなければならない事がある。お前は自由にして構わんぞ」
長門「なんだ? 何をするんだ?」
提督「まあ、あまり気分の良いものではないのは確かだ」
…………………………………………。
732:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/09(土) 17:38:34.79 ID:gaEulZtpo
提督「──という訳で飛龍。覚悟は出来ているな?」ポン
飛龍「ひっ……!」ビクンッ
提督「確かに言っていたよな? 私がこの鎮守府に帰ってきたらいくらでも吊るされる、と」
飛龍「は、はい……!」ビクビク
長門(吊るす……?)
提督「提督室は中佐が荷造りをしていて使えん。だからこうして空室を使う。……良かったな、飛龍? ここにはお前と私、そして長門しか居ないぞ」
飛龍「うぅ……良かったのやら良くなかったのやら……。不思議な気分です……」
提督「良かったと思え。ここまで人が少ないのは飛龍が初めてだ」グルグル
長門(……毛布で簀巻きにして、縄で縛って……何だ? 何をするんだ?)
提督「…………」グッグッ
提督「……良し。問題無いようだな。──では飛龍。お仕置きだ」グイグイ
長門(お仕置き? ……お仕置き…………?)
飛龍「わ、わわっ」ブラーン
長門「……は?」
提督「さて飛龍。あの時の弁明をして貰おうか。本当にこの鎮守府に帰ってきて貰いたいが為にあんな事をしたのか?」
飛龍「そ、それは……」
長門(…………お仕置き……こんな事がか……?)
提督「なんだ? 言い淀むという事は別の思惑があったのだろう?」
飛龍「あの……えっと…………実は──」モジ
コンコンコン──。
提督「入れ」
飛龍「なっ!!」
ガチャ──パタン
蒼龍「提督、少し伺いたい事が…………え?」
飛龍「…………!!」
蒼龍「飛龍が吊るされてる……!? 一体何をやったのよ飛龍……」
733:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/09(土) 17:39:08.74 ID:gaEulZtpo
飛龍「そ、それは……」
提督「ひとり二航戦サンドと言いながら、私を膝枕させた状態で屈んできた」
蒼龍「え」
長門「…………」
飛龍「わーっわーっ!!」
蒼龍「……飛龍、本当にアレやったの?」
飛龍「うぅ……うん……」コクリ
蒼龍「よくそんなチャンスが巡ってきたわね……というよりも、本当にやるとは思わなかったわ……」トコトコ
飛龍「だって……あのチャンスを逃したら永遠に出来そうになかったから……」
提督(……そういう理由か)
蒼龍「ふぅーん?」チラ
飛龍「──って!? な、なんでスカートの中を覗くの!?」
蒼龍「いやー、これがこのお仕置きの醍醐味だし、飛龍が今どんな下着を着けてるのかも気になるしね?」ジー
飛龍「蒼龍はいつも私と居るんだから知っているでしょ!? メッですよ! メッ!!」
蒼龍「ふふーん。かーわいい♪ 提督も見てあげたらどうですか? きっと、飛龍なら喜びますよ?」
飛龍「提督はそんな事しません! …………あの、本当にしませんよね……?」モジモジ
蒼龍「ほらほら、今が押し時ですよ提督」ニヤニヤ
提督「……どうやら蒼龍も吊るされたいらしいな」
蒼龍「や、やだやだやだ! 冗談ですってばぁ……!」ビクッ
提督「ところで、何の用があって来たんだ?」
蒼龍「あ、いえ。飛龍の姿が見えないので、提督なら知っているかなーって思ったの。それで場所を聞いてここへ来たのだけれど……まさか吊るされているとは思いませんでした」
飛龍「うぅ……」
蒼龍「提督の事が好きなのはよーく分かるけど、あんまり迷惑を掛けちゃダメよ?」ツンツン
飛龍「私だって欲はあるんですっ。あと、揺らさないでよ蒼龍……」ユラユラ
734:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/09(土) 17:39:36.24 ID:gaEulZtpo
提督「……とりあえず、お仕置きはこのくらいにしておくか」スルスル
飛龍「良かったぁ……。物凄く恥ずかしかった……」
提督「反省したか?」ホドキホドキ
飛龍「はい……それはもう……」
提督「ならば良し」ポンポン
飛龍「……でもですね、提督。私が提督の事を好きなのは本当ですからね?」
提督「……そうか。だが、ああいう事は時と場を弁えるように」
蒼龍「時と場を弁えたらやっても良いんですか?」
提督「飛龍と私がそういう関係になった時に場所も弁えていればという話だ」
飛龍(……あ、この言い方だとチャンスはまだあるかもしれないわね。……あるかもしれない、ですけどね)
提督「では二人共、下がっても良いぞ」
飛龍「はいっ。──では長門さん、私達は失礼しますね」
蒼龍「またね。……それでさ飛龍、古い九九艦爆の事なんだけど──」
ガチャ──パタン
長門「……随分と慕われているようだな」
提督「……艦娘だから、だろう」
長門「否定できそうにないのが虚しいな……」
提督「実際、否定できないだろう? そこに付け込んでいる私は悪党だよ。──さて、この話はあまりするものでもない。他の子達が私を探し回る前に皆に弄られるとしようか」
長門「とても弄られる立ち位置にあるようには見えないのだが、以前はそうだったのか?」
提督「そうだな。飛龍や蒼龍のように私を困らせようとする子は多い。私だからなのか、それとも私があの子達の提督だからなのかは区別が付きにくいがな……」
ガチャ──
長門「…………」
長門(あの提督の所に居る飛龍や蒼龍とは大違いだな。本来の二人は、あんなにも明るくて元気なのだろうか……)
長門(本当に……なぜあんな人間が提督になれているのか理解に苦しむ……。いっその事、あの鎮守府に居る全員がここへ来ればどれだけ救われる子が居るか……──いや、そんな事は起こりえないだろう。あんな環境でも、異動を拒絶する者は出てくる)
長門「艦娘だから、か……」
提督「……………………ああ。艦娘だから、だ」
──パタン
……………………
…………
……
775:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/18(月) 00:31:35.67 ID:l0wrD7Ioo
前任提督「──それでは、私達は新天地の豊橋へ向かいます」
提督「ああ。向こうでも頑張っていってくれ。……しかし、本当に何も支援しなくて良かったのか? ここに備蓄されている資材をある程度持って行っても構わないのだぞ?」
前任提督「お気遣いありがとうございます。ですが、それには及びません。簡単に計画を立てていて、向こうで用意されている資材で充分と判断できました」
提督「ふむ、そうか。ならば、困った事があったらいつでも私へ連絡を入れてくれ。出来る限り協力しよう」
前任提督「ありがとうございます。──それでは中将殿、お元気で」ピシッ
提督「ああ。中佐もな。──全員、敬礼!」ピシッ
全員「!」ピシッ
提督(……………………行ったか。これで漸く私も動く事が出来るな)
提督「さて、このまま朝礼を開始する」
全員「!」
提督「皆が知っている通り、私は長年の孤島暮らしで現在の皆の事をよく分かっていない。昨日まで渾然と話はしていたが、これから一週間は全員と順番に交流していこうと思っている。鎮守府としての仕事はそれからだ」
提督「本日は初日という事もあるので加賀、飛龍、北上、夕立、時雨、の五人で様子を見る。なお、教育をしなければならない長門は常に私の傍に居るように。問題が無さそうであれば順次増やしていく予定だ。なお、その時間は夕食後に行うものとする。──何か質問はあるか?」
赤城「提督、良いでしょうか」スッ
提督「許可する。どうした?」
赤城「交流する艦娘の選定についてですが、何か意図があるのでしょうか? ほぼ常に近くに居る姉妹艦を固めた方が話しやすいかと思うのですが」
提督「長門を除いた五人は、私と利根が孤島で暮らしていた時に何度か様子を見てきてくれた子達だ。その時に発生した問題もあり、今回の交流はその解決も含まれている」
赤城「それは他の子達には話せない事ですか?」
提督「まだ話すべきではない内容だ。だが、いずれ全員に話す事になる。今は堪えてくれ」
赤城「分かりました。──以上です。ありがとうございます」
提督「他に質問のある者は居るか?」
蒼龍・飛龍「はい。あります」スッ
蒼龍・飛龍「!」
提督「僅かに早かった蒼龍から話を聞こう。どうした?」
776:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/18(月) 00:32:03.48 ID:l0wrD7Ioo
蒼龍「えっと、交流する時間は夕食後と言ってたけど、それ以前は提督とお話するのはダメなの?」
提督「いや、構わない。だが、明るい内は出撃や遠征、演習以外の仕事を片付ける予定だ。仕事の邪魔をしないのならば提督室へ来ても構わんぞ」
蒼龍「はい! 分かりました!」
提督「うむ。──飛龍はどうした?」
飛龍「提督としての仕事をする際、暫定的でも秘書を用意した方が良いと思っています。それはどうする予定ですか?」
提督「ふむ……一応、利根が起きたら利根にするつもりだ。そういう約束をしているのでな。それまでの間は……そうだな、その質問をした飛龍に任せよう」
飛龍「!!」
加賀・川内「っ!?」
川内「はい! はいはい!! 異議あり!!」
提督「……どうした、川内」
川内「秘書になりたいって人は他にも居ると思う! だから、希望者の中から一人選ぶって方式が良いと私は思うんだけど!!」
提督「一理あるが、それは時間が掛かってしまう。出来ればすぐにでも仕事を始めたいくらいだ」
川内「じゃ、じゃあ二人を秘書にするっていうのは? ほら、一人よりも二人、二人よりも三人でやる方が早く終わるよ?」
提督「秘書は二人にする必要がないものだ」
川内「う……そうだけど……。────!! 日替わりとかどう!?」
提督「前日の仕事をどこまでやったか、というのを伝えなければならん。却下だ」
川内「うぅ……」
提督「何よりも、真っ先に気付いて質問をしたのは飛龍だ。本人も以前に秘書の経験をしている。その二点を評価しての判断だ。納得できるか、川内?」
川内「…………はい……諦めます……」
加賀「……………………」
提督「……他に質問のある者は居るか? ……………………居ないようだな。それでは、飛龍を除いて各自自由行動して良し。解散」
蒼龍(やるじゃん、飛龍。これを機に一線でも越えちゃいなよ)ニヤニヤ
飛龍(……蒼龍が今何を思ってるのか、言葉に出されなくても分かるなぁ)
……………………
…………
……
777:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/18(月) 00:32:46.30 ID:l0wrD7Ioo
提督「さて飛龍。少しの間だろうが、頼む」
飛龍「は、はい!」ピシッ
提督「そんなに緊張しなくて良い。以前にもやっただろう?」
飛龍(…………以前……。確か、金剛さん達が沈んでしまった後の事でしたよね……)
提督「……すまん、失言だった」
飛龍「い、いえ! 私は大丈夫ですよ!」
提督「そうか……。それと、実は頼み事があるんだ」
飛龍「頼み事、ですか?」
提督「ああ。少し利根の様子を見てくる。容態が安定しているとはいえ、やはり心配だ。仕事を始める前に見ておきたい」
飛龍「そういう事ですね。分かりました」
飛龍(……そういえば、提督は利根さんの事をどう思ってるのかな。もしかして、向こうでもう恋人の関係に……?)
飛龍「…………」チクチク
飛龍「提督、私も付いて行きます」
提督「うん? どうしてだ」
飛龍「提督が時間を忘れないようにする為です。提督は変に優し過ぎる所がありますから、ブレーキ役は必要です」
提督「……そうか。頼む」
飛龍「……まあ、そう言うのは建前で、本音は利根さんとの関係が気になるんですよね。勿論、私も利根さんの容態が気になりますけれど」
提督「不器用に真っ直ぐだな、飛龍は」ポン
飛龍「……そういうのは嫌いですか?」
提督「そんな訳あるか。──さて、行くのならばすぐに行こう。夕方までには仕事を終わらせておきたい」ガチャ
飛龍「はい!」
飛龍(……まあ、そうよね。期待は少ししていたけれど、やっぱり『好き』とは言われないか)
飛龍「──よし、頑張ります!」
提督(……飛龍の望んでいる言葉を掛けてやった方が良いのだろうか。…………いや、それは飛龍を傷つけるだけか)
提督(苦しいだろうな、飛龍……)
──パタン
…………………………………………。
778:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/18(月) 00:33:13.96 ID:l0wrD7Ioo
利根「……………………」
飛龍「…………」
提督「……利根はまだ眠ったままなのか?」
救護妖精「そうだねぇ。まだ一回も起きてないよ」
飛龍「えっと、それって本当に大丈夫なんですか? もう何日も眠ったままですよね?」
救護妖精「大丈夫だよ。あたしを信じな。流石に運ばれた当時の状態がずっと続けばヤバいけど、今はそこそこ健康だよ」
提督「起きない原因は分かっているのか?」
救護妖精「外部からのショックに加えて精神的なストレスが大きいと見てる。怪我はもう治ってるから、利根の中で心の整理が出来たら起きるんじゃないかな」
提督(心の中で、か……)
救護妖精「まー、そうだねぇ。何か話し掛けてやったら少しは効果があるかもしれないよ」
提督「こんな状態でもなのか?」
救護妖精「精神的なものが原因だろうから、効果はあるかもね。案外、提督が命令すれば起きたりしてね」
飛龍「意識不明でもそんな事があるんですか……?」
救護妖精「あるよ。というか、利根の場合は正確に言うと半昏睡っていう状態だから、充分に起きる可能性があるね。強い痛みとか与えたら何らかの反応を示す状態だよ」
提督「ふむ……試してみるか。──利根、起きろ」
利根「……………………」
飛龍「……反応しませんね」
提督「そうだな……」
救護妖精「まあ、そんな都合良くいくものでもないさ。根気良く続けていたら、その内目を覚ますだろうね」
提督「ふむ。ならば、これから毎日何回か声を掛け続けてみるか」
救護妖精「そうしてやんな。……利根も、疲れてるんだろうね」チラ
提督「なぜ私の顔も見る」
救護妖精「そういう意味だからさ。──飛龍、提督の事をちゃんと見てやんなよ。提督は顔を見るだけじゃ分かりにくいから、細かい所も見てあげてね」
飛龍「はい! 仮ですが秘書にもなりましたので、無理をしそうだったら止めますね」
救護妖精「うんうん。良い事だよ」
提督「……………………」ナデ
利根「……………………」
飛龍「……さて、提督。そろそろお仕事に戻りましょうか」
提督「そうだな。そうしよう」スッ
提督「では救護妖精、利根の事を頼んだ」
救護妖精「あいよ。じゃあ、頑張ってねー」フリフリ
ガチャ──パタン
救護妖精「……なんだろうね。やっぱり、どことなく吹っ切れてるような顔になってた。それとも、他にやらなきゃならない事でも出来たのかねぇ?」
…………………………………………。
779:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/18(月) 00:33:45.26 ID:l0wrD7Ioo
飛龍「…………」カリカリ
提督「…………」サラサラ
飛龍「…………」チラ
提督「…………」サラサラ
飛龍(……やっぱり、提督はしっかりしてるなぁ。流石に前よりは書類を処理するスピードが落ちてるけど、ちゃんと迷わずに書いているみたいね)
提督「…………」ズズッ
飛龍(あ、お茶注いだ方が良いかな)スッ
提督「ん、すまな──……」
飛龍「…………? どうかしましたか、提督?」コポコポ
提督「いや、訂正する。ありがとう、飛龍」
飛龍「────!」
飛龍「い、いえ! このぐらいどうって事ありませんよ!」
提督「……なぜそんなに動揺しているんだ」
飛龍「いやー……なんと言いますかね? 何気ない事でもお礼を言われるのって、嬉しいんだなぁって思ったんです」
提督「……そうか」
飛龍「はい、そうです」ニコニコ
飛龍(……ああ、良いなぁこの空気。適度に緊張していて、それでもどことなく柔らかくて優しい雰囲気がする)カリカリ
提督「…………」サラサラ
飛龍(ああ……本当、秘書の事について質問して良かったぁ……)カリカリ
提督「……ところで飛龍」サラサラ
飛龍「? どうかしましたか?」
提督「お前の茶碗に茶が入っていないようだが、良いのか?」サラサラ
飛龍「え? ──あ、本当。入れておかなくちゃ」スッ
飛龍「気遣ってくれてありがとう、提督」コポコポ
提督「そんなお礼を言うほどの事でもなかろう」サラサラ
飛龍「いえいえ。私が言いたいって思ったんですよ」
提督「ふむ、そうか」サラサラ
飛龍「はい、そうなんですっ」カリカリ
提督「前から思っていたが、お前も不思議な奴だな」サラサラ
飛龍「飼い主に似るって言いますからね」カリカリ
提督「私はお前たちを飼っているとは思っていないのだが……」サラサラ
飛龍「比喩ですよ、比喩」カリカリ
提督「……そうか」サラサラ
飛龍「…………♪」カリカリ
飛龍(ああ……この時間が、ずーっと続けば良いのになぁ……)
…………………………………………。
798:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/24(日) 21:17:24.00 ID:OvaleJqJo
夕立「提督さん! これで全員集まったっぽい!」
提督「そうだな。では、早速話をしようか」
加賀「その前に、長門さんが居ますけど良いのかしら」
長門「……なんだ? 私に知られるとマズい事でもしているのか?」
提督「今回の事は長門にも関係している事だ。むしろ居てくれた方が良い」
北上「関係してる……? どういう事なのさ、提督?」
提督「そうせっかちになるな。ちゃんと説明する。──長門を除いた全員は共通点が分かると思うが、お前達はあの島での秘密を知っているだろう。その事について改めて話しておこう」
長門(……秘密?)
提督「これは長門も知っている通り、あの島では金剛、瑞鶴、響の三人が居た。そして三人からの要望もあり、この鎮守府の艦娘となるように理由が必要だ。理由は海域から拾ってきたというもので問題ないだろう。私が提督業を真面目にやっていた時期でもよく耳にしていた事から、怪しまれる事は無いはずだ」
飛龍「ですが、それでも一応分けて就役させた方が良いですね。特に金剛さんと瑞鶴さんは分けるべきだと思います」
提督「ふむ。やはり現状でも瑞鶴はあまり見掛けない艦娘か」
飛龍「はい。南方海域などの危険な海域くらいでしか確認されていません。例外として、総司令部から通達された大規模作戦の時も報告に上がっています」
時雨「実は提督があの島に行ってから、僕たちも見掛けたのは一回だけだったりするんだ」
提督「ふむ……。では、金剛と瑞鶴の就役はずらしておこう。どちらが先かは本人達と相談だな」
長門(なるほど。秘密とは他の鎮守府に居た艦娘を内密に就役させるという目的の事か。……いや、この男は何を考えているのか読めない所がある。わざわざ呼び出す程だ。他にも何かあるだろう)
提督「さて、前置きはここまでにしておこう。本題に入る」
長門(む。きたか)
提督「──今から、この六隻で五人を迎えに行くぞ」
長門「何……?」
北上「えっ」
時雨「……本気なの、提督?」
加賀「もう夜が深いのよ。それを承知の上?」
夕立「ナイトメアパーティでもするの?」
飛龍「……提督?」
提督「それぞれ反論はあると思う。だが、少しだけ考えて欲しい。引継ぎや中佐の異動の関係で、何日放置している。あの島に食料となるものは自生していたものの、やはり心配だ。……いや、そろそろ危ない可能性もある」
799:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/24(日) 21:17:51.09 ID:OvaleJqJo
加賀「ですが、ヲ──……あの子も居た事を考えると、食料の問題は無いのでは?」
提督「調理する方法が無い。そして、私は『そのまま食べないように』と教えてきた。その教えを忠実に守っている可能性は非常に高い」
加賀「せめて明日の朝にするという事は出来ないの?」
提督「明るい内は間違いなく誰かにバレる。出撃もさせないと言った事から、いきなり出撃させるのも無理がある。──お前達はどう判断する」
夕立「んー……私は提督さんの意見に賛成かな。早めに助けてあげたいっぽい」
時雨「僕は…………難しいけれど反対かな。やっぱりリスクが大き過ぎると思うんだ」
飛龍「判断が難しいなぁ……。うーん……保留です」
北上「私は賛成かなー。提督が何も考え無しに言ってるとは思わないからねー」
加賀「私もどちらかと言うと反対ね。確かに判断が難しいけれど……」
飛龍(……あれ? なんか物凄く嫌な予感が……)
提督「ふむ。綺麗に意見が分かれたな。──客人の長門には悪いが、お前はどう思う」
長門「私は貴様の行動を見ている。居て居ないものと思え」
長門(だが、その作戦を決行しようものならば私は見限るがな)
提督「なるほど。尤もだ。──という訳で飛龍、全ての決定権はお前に任されたようだ」
飛龍「う……。やっぱりこうなるんですね……」
提督「さて、秘書艦代行飛龍。お前はこの状況にどういう判断を下す? 飛龍の意見で全てが変わるだろう」
飛龍「あの……提督? そんなに島での出来事を根に持っているんですか……? 私にこんな重要な判断を任せるだなんて……」
提督「そういう訳でもない。意見というものは重要なものだ」
飛龍「うぅ……。今日の提督は私を困らせます……」
提督「時間は十分だけ与える。その時間の間に答えを出すように」
飛龍「じゅ、十分だけですか!?」
提督「そうだ。何か問題があるか?」
飛龍「そ、そんな……滅茶苦茶ですよ……!? どうしてこんな──!」
飛龍(……え? 滅茶苦茶……?)
長門(む? あんなに慌てていたのにも関わらず、なぜ急に大人しくなった?)
800:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/24(日) 21:19:17.35 ID:OvaleJqJo
飛龍(……そうよね。おかしい。よく考えてみれば、絶対におかしい。いくら提督にとって思い入れのある姿の三人といえど、こんな強攻策を通そうとするなんて異常です)
飛龍(それに、言葉の端々に違和感がありました。何か……的を得ていないというか……別の事を話しているような──)ハッ
飛龍(別の事……そうですよ! 提督は別の事を話しているんですよ! 私の意見で『全てが変わる』だなんて、そんなまどろっこしい言い方なんてするはずがありません!)
飛龍(時間が十分だけというのも、すぐに気付けるはずのものだから短いだけ。意見が重要と言ったのも、日々提督が言っていた事。その意見を全て無視しているという事は──)
提督「……ふむ」ニヤ
飛龍「! ……やっぱりですか」
提督「気付いたか」
飛龍「気付きました。ええ、気付きましたよ……。もうっ……」ハァ
長門「…………?」
加賀「……まさか」
飛龍「どうしてこんな試すような事を言ったんですか、提督。意地悪にも程がありますよ? 最初から作戦をやるつもりなんてありませんでしたね? そもそも食料の問題だったら哨戒を理由に届けたら良いだけなんですから、今すぐに行く理由なんて無いですし」
提督「なに。久々の私の相手で勘が鈍っているのではないかと思っただけだ。そうなると、色々と問題が起きそうな気がしてな。それに、朝にも言っただろう? 交流していく、と」
飛龍「うわ……そこからもう答えを出していたんですか……?」
提督「正直に言うと、それは夜になってから思いついたものだ。過去の言葉など状況次第でいくらでも変えねばならん」
加賀「不覚です……。何かおかしいとは思いましたが、まさかそんな意図があっただなんて……。話の焦点は『作戦内容』ではなく『提督を止める事』でしたか……」
提督「個人的には加賀が言い当てると思ったが、どうやら中佐の相手に慣れてしまったようだな」
北上「えーっと……じゃあ、さっきの作戦の意味って……遊びって事?」
提督「遊びと同時にお前達の『今』を見る為でもある。以前ならば、全員が気付きそうなものだっただろう?」
時雨「間違った事を言った時はちゃんと止めるようにって言われていたのに……ごめん。忘れてたみたいだ」
夕立「ぽい……」
提督「三年近くも離れていたんだ。忘れていてもおかしくない。だが、思い出せただろう?」
北上「そうだねぇ……。これからも提督のイタズラに引っ掛からないようにするよー」
長門(……やり方はアレだが、これも意見を言わせる為……か? 確かにこの子達は意識して意見を言うようにはなるか……)
提督「さて、見事に見抜いた飛龍には何かしらの褒美でもやろうか」
加賀「!!!」
飛龍「え? ……え!?」
夕立「うー……良いなー良いなー!」
時雨「次はご褒美を貰えるようにしよっか、夕立」
夕立「……頑張るっぽい!」
801:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/24(日) 21:19:44.37 ID:OvaleJqJo
北上「まったく……三年もサボってたはずなのに全然変わらないねぇ提督は」
提督「そうでもない。私とて変わっている所は変わっている」
北上「ふーん? どこが変わったのか、あたしには分かんないけどね」
提督「それを見つけるのも楽しみの一つだろう。存分に悩むと良い。──さて飛龍。お前は何を希望するんだ?」
飛龍「あ、え……」
加賀「…………」ジッ
飛龍(加賀さんの無言の圧力が怖いっ!!)ビクン
提督「加賀、そう睨むな」
加賀「……ごめんなさいね」フイッ
北上「ちなみにだけどさ提督。ご褒美って何でも良いの?」
提督「ある程度までだ。内容にもよるが、せいぜい普段では出来ない事を許可するくらいだろう」
時雨「例えばどんなの?」
提督「そうだな……。ふむ、間宮と伊良子の甘味を三人前ほど味わっても良い……とかか?」
夕立「何その贅沢!? そんなの良いの!?」ガタッ
提督「それくらい大事な事だった。……言っておくが、今回の意見の事を他の子には言うんじゃないぞ?」
北上「提携してご褒美を貰い合うのはダメって事かー」
提督「そういう事だ。お前達ならばしないとは思うが、念の為にな」
加賀「……それで、飛龍はどうするのかしら?」ジッ
提督(……色々な意味で機嫌が悪そうだな)
飛龍「ごめんなさい。後に取っておきます……」
長門(無難だな。……それにしても、この鎮守府の子達は提督と如何に親密に接するかで苦労していそうだ)
提督「そうか。いつでも言ってこい。──さて、一応先に計画を言っておこう。時が来たら今居るこの六隻で五人を迎えに行く。実際に出撃し、その帰りに回収だ」
長門「その三人は分かったが、残りの二人は誰なんだ?」
提督「前にも言ったかもしれんが、向こうで説明をする。今ここで言うよりもずっと良いはずだ」
長門「なんだか怪しいな……」
提督「そう思ってくれて構わん。お前の前でだけ見てくれを良くしても意味が無い」
長門「本当に食えない奴だな、貴様は……」ハァ
加賀「大丈夫よ。すぐに慣れるわ」
長門「むしろ、慣れなければやっていけそうにないのだが……」
飛龍「アハハ……間違ってはいないですね……」
長門(……さて、この五人の反応を見る限りでは信頼出来るであろう人物だが、他の艦娘はどういう反応をするかが気になるな)
……………………
…………
……
802:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/24(日) 21:20:20.20 ID:OvaleJqJo
利根「……………………」
提督「……ふむ。今日も起きず、か」
救護妖精「そうだねぇ……。流石のあたしもちょっと心配になってきたよ」
飛龍「よっぽど辛かったんですかね……」
提督「かもな……。色々と辛い思いをさせてしまったのは確かだ」
救護妖精(……医者の立場的に何か気の利いた事でも言えば良いんだろうけど、あたしはそういうのが苦手だからねぇ……。さて、どうしようかな……)
提督「救護妖精、昏睡──いや、半昏睡状態の者にしてやれる事は他に無いか?」
救護妖精「ん? んー……………………あ」
飛龍「あるんですか?」
救護妖精「そうだね、ちょっとやってみると良い事があるかも」
提督「どういったものだ?」
救護妖精「ボディタッチとかしてみるのとかどうかな。頬とか頭とか撫でてみたりとかさ」
飛龍「痛みに反応するのなら、そういったものにも反応を示すかもしれない──というものですか?」
救護妖精「そんな所だよ。意味があるかは分からないけどさ、やらないよりは良いと思うよ」
提督「なるほど」ポンポン
飛龍(頭をポンポン……向こうでもやっていたんですかね?)
救護妖精「それっていつもやってた事なのかい」
提督「いや、あまりやった事がない」
救護妖精「なるべくなら、今までずっとやってきた事とか気に入られてるような事をした方が良いんじゃないかな。身体が覚えてて、反応するかもしんないしね」
提督「ふむ……。ならば少しやりたい事があるんだが」
救護妖精「んー? 何をやりたいんだい」
提督「私の背中に圧し掛からせたり、足の間に座らせたりしたい。良いか?」
飛龍(え、何ですかその羨ましい体勢は)
803:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/24(日) 21:20:48.66 ID:OvaleJqJo
救護妖精「んー……。足の間に座らせる方なら良いよ。ただ、変に腕とか弄らないようにね。たぶん大丈夫だろうけど抜けたりしたら良くないから」
提督「分かった。──よっと」グッ
飛龍(あ……まるで抱っこされてるみたい。…………良いなぁ。良いなぁ……)ジー
救護妖精(その体位なら、点滴スピードはこんくらいか)クイッ
提督「……ふむ。起きるだろうか」クシクシ
飛龍「……あの、提督。どういう状況になれば、そんな体勢で髪を梳くなんて事になるんですか?」
救護妖精「セックスでもしてんじゃないかねぇ?」
飛龍「ぶっ!?」
提督「冗談でもそんな事を言うな……。加賀辺りが耳にしたら深海棲艦すら射殺しかねん目で問い詰めてくる……」
飛龍「……じゃあ、どうしたらそうなるんですか?」
提督「……………………」
飛龍「あの……何か言って下さい提督……。それとも本当に──」
提督「違うから、そんな物欲しそうな目で見るんじゃない……」
飛龍「…………」ジー
提督「…………」
飛龍「…………」ジー
救護妖精「……これは、はぐらかすなんて事が出来そうにないねぇ。もう素直に言っちゃえば、提督?」
提督「……はあ……分かった。だが、絶対に誰にも言うなよ?」
飛龍「約束します」
提督「…………向こうでドラム缶の風呂に入った際、こうして背中を預けると安心できると言われたんだ。いつもは背中に圧し掛かられていたが、それが出来ないならばこっち……という形だ」
飛龍「お風呂……」ヂー
提督(……非常に嫌な予感がする)
飛龍(……………………)
利根「ん……」
三人「!」
804:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/24(日) 21:21:26.98 ID:OvaleJqJo
利根「ん……んん……?」
提督「起きたのか、利根?」
利根「お、おぉ……? 提督? それに飛龍と救護妖精……? ──ああ、なるほどのう。ここは本土か」
救護妖精「おー……本当に起きたねぇ」
飛龍「本当にって……」
救護妖精「いや、起きる可能性も勿論あったよ。ただ、一発で起きるのは予想外だったというかなんというか……」
利根「……頭がふらつく」
提督「救護妖精、頼む」スッ
利根「ぁ……」
提督「…………」ピタッ
救護妖精「……あー、うん。もう少しそのままにしてあげたらどうかな? そんな母親から離れそうになった小さい子供みたいな声を出されたら、気の済むまでそうさせた方が良いんじゃないかね」
救護妖精「だけど、気分が悪くなったらちゃんと横にさせるけどね」
利根「既に気分が少し悪いぞ……」
救護妖精「じゃあ横にさせよっか。提督、ほらどいたどいた」
提督「そうだな」スッ
利根「あ、ちょっ! う、嘘じゃ! 嘘じゃからもうちょっと──!」
提督「ダメだ」ポフッ
救護妖精「身体は大事にしな」
提督「代わりにこうしておくから、これで我慢しろ」ソッ
利根「ぬ……。額に手を置かれると、何やら看病されているような気持ちになるのう」
提督「嫌か?」
利根「心地良いからもっと頼む」
提督「お前らしいな」ナデナデ
利根「……思ったよりも良いのう、これ」
提督「そうか」ナデナデ
飛龍(……良いなぁ)ヂー
飛龍(…………胸がチクチクしますね。やだな……私、嫉妬してる……)チクチク
救護妖精「まあ、それもこれくらいにしておきな。利根、これから検査だよ。何日も寝たきりだったんだ。あと、筋肉や関節も固まって身体が痛いはずだから軽くストレッチさせるよ」
利根「むぅ……」
提督「また見舞いとして来る。──夜ならば良いか?」
救護妖精「明日にしな。今日一日は安静だよ」
提督「だそうだ。また明日だ、利根」
利根「むぅー……」
飛龍「まあ……早く元気になったら提督の傍に居放題ですよ、利根さん」
利根「! ならば早く元気になるぞ!」
提督「……単純な奴め」
飛龍「……………………」
飛龍(利根さんが起きたという事は、私の臨時秘書も終わりですね……)
飛龍(良くて三日──いえ、下手をすれば今日が最後になりかねませんから、思いっきり秘書として頑張りましょうか。……早く終わらせたら、その分だけ提督と自由に居られるのかな)
…………………………………………。
818:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/27(水) 03:00:22.34 ID:NvrEa/aEo
飛龍「…………」カリカリカリカリカリ
提督「……さっきから思っていたが、今日は一段と張り切っているな」サラサラ
飛龍「はい。ちょっと、やりたい事がありまして」カリカリカリカリカリ
提督「ほう。珍しいな」サラサラ
飛龍「…………」カリカリカリカリカリ
提督(ふむ……。相当集中している。何をやりたいのかは分からないが、私もそれなりに急いで片付けておこうか)スッ
提督「…………」パラパラパラ
飛龍「…………」カリカリカリカリカリ
提督「…………」スッ──サラサラサラサラ
提督(……書く事が少ないな。出撃も遠征もしていないから当たり前だが、それでもこの報告書やら何やらを書かなければならないのは面倒だ)サラサラサラサラ
飛龍「…………」カリカリカリカリカリ
提督(しかし、茶にも手を付けないとは……よっぽどやりたい事なのか。そうだったら一言相談をして休みを貰えば良かっただろうに……。真面目だな)サラサラサラ
提督(む……終わってしまった。簡単な書類はこっちに集中していたのか。…………飛龍の分を貰ってしまおう)ソッ
飛龍「…………」カリカリカリカリカリ
飛龍(さて次の……って、あれ? なんか物凄い少なくなってるような……)カリカリ
飛龍「…………」チラ
提督「…………」サラサラサラ
飛龍(……あ。やっぱりそうでしたか。……ダメだなぁ。周りの事もちゃんと見ないといけないのに。──っとと、提督のお茶を注いでおかなきゃ)ソッ
提督「む。すま……助かる」ズズッ
飛龍「いえ、これも秘書としてのお仕事ですっ」カリカリカリ
提督「……………………」サラサラサラサラサラ
飛龍「……………………」カリカリカリカリカリ
819:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/27(水) 03:01:02.07 ID:NvrEa/aEo
提督(……ふむ、終わりか。ならばそこの最後の一枚を貰うか)スッ
飛龍(さて、そろそろ終わりますから次のを──)スッ──ピトッ
提督「む?」
飛龍「え? ──あ」
提督「先に手を付けたのは私だから、これは……ん?」
飛龍「ぁ……う、ぁ……」ドキドキ
提督(ああ……)
提督「……すまん」スッ
飛龍「い、いえ! 私こそ気付かなくてすみません!」ビクン
飛龍(あー……もう……。提督と触れる事なんて滅多にないから、つい頭の中が真っ白になっちゃった……)ドキドキ
飛龍(……手、温かかったなぁ。提督はなんて思ったんだろ)チラ
提督「…………」サラサラ
飛龍(……読み取れないや。昔っからこれだから、嫌に思ってるのかどうなのかが分からないんですよね)カリカリ
飛龍(っとと、書類が全部終わりましたね)スッ
提督「こっちも終わる所だ。──いや、もう終わった」スッ
飛龍「はい。お疲れ様です」
飛龍(もう当たり前になっていますけど、提督は見ていないようでちゃんと見ててくれているんですよね。……そういうのが嬉しくて、好きになっちゃったんだっけな。──あー、でも……終わったのは良いんだけど、どうしようかぁ。さっきまでは『終わらせたら目一杯、提督と二人きりの時間を過ごそう』って思ってたのに……)
飛龍(……とりあえず、書類を纏めておこう)スッ
提督「さて、後の書類の纏めは私がやっておこう。飛龍は好きにしていて良いぞ」スッ
飛龍「……え? 好きに?」
提督「やりたい事があるのだろう? 蒼龍との約束か、それとも別の何かがあるのかは分からんが、お前はこれから自由時間だ」ゴソゴソ
飛龍「あー……なるほど。そういう事ですか」
飛龍(鋭いのか鈍いのか……いえ、たぶん自分の事をあまり勘定に入れないんでしょうね)
820:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/27(水) 03:01:38.02 ID:NvrEa/aEo
飛龍「他に秘書としての仕事は無いんですか?」
提督「無いから安心しておけ」
飛龍「そっか。なら安心かな。……提督、私のやりたい事はですね? 提督と二人の時間を過ごしたい……ですよ」
提督「……そういう事か」
飛龍「そういう事です。早くお仕事を終わらせたら、その分だけ提督と二人で一緒に過ごせますよね?」
提督「こんな駄目な上に傷物の男の何が良いのか分からんな」
飛龍「傷物って……本来は女性に対して使う言葉じゃないですか、それ……? というか、傷物だとかなんだとか関係ありませんよ。提督だから良いんです。そもそもの話、提督はしっかりとしているじゃないですか」
提督「幻想かもしれんぞ。そう見えるだけだというのも充分に有り得る」
飛龍「でも、私の目からはそう見えます」
提督「盲目はいかんぞ」
飛龍「もう……。ああ言えばこう言いますね。どうすれば信用してくれますか?」
提督「……何も言わんぞ?」
飛龍「むむ。言ってくれたらそれをしたのに……」
提督「本当に何でもやりかねないから言わないんだ……」ハァ
飛龍「流石に限度はありますけどね?」
提督「仮にこの場で服を脱げと言ったとしてもやりかねん。どこまで許容するかが分からない相手に条件を突き付けるのは怖くて堪らんよ」
飛龍「……なんというか、割と変態的な事を言う割りにやらしさが無いですね?」
提督「あくまで例えだからではないか? ……まあこの話は置いておこう。昨日の褒美でも使うか?」
飛龍「それは……ううん……難しいですね。…………そうだ。ちょっとズルいですけど、確認して良いですか?」
提督「……なんとなく察しは付くが、言ってみろ」
飛龍「もし……もしですけど、私にキスとその続きを下さい、って言ったら……どうします?」
821:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/27(水) 03:02:34.01 ID:NvrEa/aEo
提督「……どっちが変態的な事を言っているんだか」
飛龍「ほら、目の前の人に影響されちゃってますしね?」ニヤ
提督「困った奴だ……。──その時の飛龍に依る。無条件でイエスとは言わん」
飛龍「……ふーん」
提督「どうした」
飛龍「いえいえ、なんでもありませんよ♪ ──あ、ご褒美はまだ取っておきますので」
飛龍(無条件では──という事は、条件さえ満たしていれば良いって事ですよね? ……よしっ! 頑張ろう!)グッ
提督「……言っておくが」
飛龍「? なんですか?」
提督「お前の目指している道中は茨の道だぞ」
飛龍「そんなの、ずっと前から知っていますよ」
金剛『──────────────、────!』
飛龍「ずーっと前に……一度諦めた身ですから、よく分かっています。勿論、今は更に厳しいって事も……」
提督(……金剛の事、か)
飛龍「……あ、あはは。すみません。しんみりとさせちゃいました」
提督「……構わん。私もいずれ乗り越えなければならん事だ。でなければ、アイツに怒られてしまいそうだからな」
飛龍「あー……確かに怒りそうですね……」
提督「怒ると加賀以上に怖かった」
飛龍「ビンタも飛んできますからね。──じゃあ、提督」ソッ
提督「……頬に手を添えてどうする気だ? 飛龍も私にビンタをするのか?」
飛龍「違いますって! ……こうするだけですよ」クイッ
──ちぅ
822:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/05/27(水) 03:04:53.35 ID:NvrEa/aEo
提督「────────」
飛龍「……今は頬だけです。いつかは茨を渡りきって、きっと提督の心を掴んでみせます。だって……私は提督のあの笑顔が好きですから」
提督「……好き者め」
飛龍「お返しをくれても良いんですよ?」
提督「その時が来たらだ。……本当、不器用に真っ直ぐだよ、お前は」
飛龍「じゃあ、頭を……いえ、頬を撫でて下さい。不器用な私は、真っ直ぐ言うしかありませんからね?」
提督「……………………」
提督「いや、頭だけだ」ポンポン
飛龍「むむむ……。まあ、一歩前進という事で」ニコニコ
飛龍(悩んでくれたのも事実ですしね)ニコニコ
飛龍「ついでに抱き締めても良いですか?」
提督「調子には乗らさんぞ」ペシッ
飛龍「あー……やっぱりダメですか」
提督「許したら際限が無さそうだからな」
飛龍「言えてますね。──じゃあ提督、一緒にお茶でも飲みませんか? 今あるやつなんで少し温いかもしれませんけれど」
提督「そうだな、頂こう。少しくらい温くても飛龍の淹れる茶は美味い」
飛龍「そうでしょそうでしょ? これでも頑張ったんですからね!」
提督(……本当、苦労を掛けてしまっているな……私は)
飛龍「~♪」
提督(……この楽しそうにしてくれている顔の裏で、どれだけの苦悩があったのか。……いや、考えないでおこう。むしろ、それだけ私の事を想ってくれてありがたいと思うべきだ)
提督「良い子だよ、本当……」ボソリ
飛龍「え?」
提督「いや、なんでもない。独り言だ」
提督(さて……これからどうなるか……)
…………………………………………。
835:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/02(火) 07:49:33.97 ID:L+M5NtALo
コンコンコン──
提督「入れ」
ガチャ──パタン
利根「提督よ!! 救護妖精から許可を貰ったぞ!」
提督「……たった一日でここまで元気になったか」
飛龍「凄いですね、本当に……」
利根「フフフ。何せ今の我輩には目的があるからのう。地獄の底からでも這い戻ってこれる自信があるぞ」
飛龍「…………」
飛龍(……本当に短い間でしたけど、少しでも提督の秘書になれて嬉しかったです。約束のようですし、これからは利根さんに任せましょう……)スッ
提督「待て飛龍。どこへ行く」
飛龍「え……? だって、秘書は利根さんですよね? 提督は秘書を二人取らないと言っていたじゃないですか」
提督「……飛龍、今の利根を見ろ」
利根「む?」
飛龍「えっと……?」
提督「利根、この書類の見分け方は分かるか?」ペラ
利根「……分からぬ」
提督「では、何を書けば良いか答えてみろ」
利根「…………分からぬ」
提督「処理した書類はどうすれば良い?」
利根「むがー!! 分かる訳がなかろう!? 我輩は何も知らぬのじゃぞぉ!?」
提督「こういう事だ。何も知らない利根に教える必要がある。私一人では教える事に集中して、今日中にこの書類の山を終わらせる事が出来ないだろう」
飛龍「……えっと、つまり……私はまだここに残って秘書のお手伝いをすれば良いんですか?」
提督「そういう事だ。利根の教育は飛龍に任せる」
飛龍「────────」
提督「返事はどうした、飛龍」
飛龍「──やったっ! これでまだ近くに居られる!!」グッ
利根「お、おぉ……? それは心の中に留めておくべき言葉ではないか……?」
飛龍「私の気持ちは既に提督も知っていますので、問題ありません!」
利根「むむ、なんと……! 飛龍は提督の事を好いておったのか」
飛龍「勿論です! 秘書になれた時なんて、顔がニヤけないように必死だったんですよ?」
提督「……テンションが高いのは良いが、あまりうるさくするようならば……吊るすぞ?」
利根・飛龍「ご、ごめんなさい……」ビクッ
提督「よろしい。──では飛龍、改めて言い渡す。利根が秘書としてやっていけるよう教育を頼む。……酷かもしれんが、私からの願いと思って堪えてくれ」
飛龍「はいっ! 飛龍、承りました!!」ピシッ
提督「すまんな……」
飛龍「いえ、昨日で終わりだとばかり思っていましたので、まだ続けられると思うと嬉しいです! ──では利根さん、まず書類の説明からしますね」スッ
利根「お願いじゃ。我輩の我侭で迷惑を掛けてしまった……すまぬ」
飛龍「いえいえ。──それでですね、この書類なんですけれど、全て左上のここに書類の種類がありますので────」
利根「ふむ。ふむふむ……」
…………………………………………。
836:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/02(火) 07:50:03.42 ID:L+M5NtALo
提督「──なんとか夕食までには終わりそうだな。調子はどうだ、利根」サラサラ
利根「覚える事自体はそこまで無いが……適切な判断を下せるかどうかが心配になる……」カキカキ
飛龍「最初はそんなものです。私も初めはおっかなびっくりしながらやったんですよ? ──はい、お二人ともお茶です」スッ
提督「ありがたい」ズズッ
利根「ありがたいのう。……のう飛龍、我輩も茶の淹れ方を覚えたいぞ」ズズッ
飛龍「後でです。今は書類の処理を覚えちゃって下さい。焦っても仕方が無いですよ?」
提督「…………」チラ
飛龍「……言いたい事は分かりますけれど、言葉に出さない分キツイですね」
提督「ならば言葉にしようか」
飛龍「ごめんなさい……遠慮しておきます……」カリカリ
利根「……うーむ。飛龍、ここはこれで良いのかの?」スッ
飛龍「どれですか? ──ふむふむ。大丈夫ですよ。この調子で腕を付けていきましょう」
利根「おお、本当か! 少しずつじゃが自信が付いてきたぞ!」カキカキ
提督「利根、突然だが一つ問題を出そう」サラサラ
利根「うむ? どうしたんじゃ?」カキカキ
提督「一番危険なミスを犯すのは、どういう状況だと思う? 無論、日常の範囲内でだ」サラサラ
利根「うむ……? むぅ……寝不足、かの?」カキ
提督「いいや違う。それはだな、物事に慣れ始めた時だ」サラサラ
提督「初めは慎重に行動するが、段々とミスが少なくなってきて慣れてきた所で確認不足をしてしまう。その結果、とんでもないミスを起こしかねない事になる。これは乗り物の運転でよく聞く話で、死人も出るくらいだぞ。……そうだな、今回だと数字の桁を一つ間違えているとかだな」サラサラ
利根「? ────!!」
利根「……今後も今回のようにならぬよう、慢心せず注意して書類を片付けてゆくようにする」カキカキ
提督「よろしい」サラサラ
飛龍「まだまだこれからですよ、利根さん」カリカリ
利根「むむぅ……」カキカキ
…………………………………………。
837:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/02(火) 07:50:30.04 ID:L+M5NtALo
加賀(……さて、暗くなり始めましたね。今の内に食料をあの島へ届けましょうか)スッ
艦戦妖精「いってくるなのー」フリフリ
加賀「いってらっしゃい。気を付けてね。──あと、絶対に誰にも言っちゃダメよ?」
艦戦要請「はーい。──準備完了なのー!」
加賀「発艦」パヒュンッ
加賀(……さて、カモフラージュに本当の哨戒機も出しておきましょうか)スッ
赤城「──あら、加賀さん?」
加賀「! 赤城さん、こんな所でどうしたの?」パヒュンッ
赤城「それはこちらの台詞ですよ。こんな時間に艦載機を発艦させてどうしたのですか?」
加賀「提督からの指示です。妖精も訓練をすれば夜目が利くようになるのか試したいとの事よ」
赤城「なるほど。そうすれば私たち空母も夜間に攻撃が出来る可能性があるという訳ですね?」
加賀「ええ。ついでに哨戒にもなりますから、こうして私が試験的にやってみているの」
加賀(そういう話にしておくようにとは言われましたが……赤城さんに嘘を吐くのは少し辛いですね。……ごめんなさい、赤城さん)
赤城「加賀さん」
加賀「?」
赤城「分かっていますよ。何か言えない事情があるんですよね?」
加賀「なっ……」
赤城「私と加賀さんはどれだけ一緒に居たと思っているんですか? 嘘を吐いている事くらいは分かりますよ」
加賀「そ、それは……その……」
赤城「でも、珍しいですね? 加賀さんが私に嘘を吐くなんて。提督絡みの事かしら」
加賀「……ええ。間違っていないわ」
赤城「やっぱりね。ちょっと嫉妬しちゃいそうです。私よりも提督の方が大事なんだなーって」
加賀「あ、あの……私はどちらも大事だと──」
赤城「分かっていますって♪ 困り顔の加賀さんを見たかっただけですよ」
加賀「……赤城さんも、なんだか提督のようにイタズラ好きになっているような気がします」フイッ
赤城「提督に教えて頂きましたからね。加賀さんはこうすれば困るぞーって」
加賀「なんて事を教えているんですか、あの人は……」ハァ
加賀「……赤城さん。本当は極秘の任務中なの。だから、誰にも言わないで頂けるかしら」
赤城「はい、勿論ですよ。提督が何を考えているのか私では考え付かない事も多々ありますが、悪い事ではないはずですからね。──頑張って下さいね、加賀さん」
加賀「ありがとうございます」フリフリ
加賀「…………」
加賀「後で提督に問い詰めておきましょうか。……提督や赤城さんになら、弄られるのも嫌いではないけれど……一応ね」フイッ
……………………
…………
……
838:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/02(火) 07:50:56.64 ID:L+M5NtALo
提督「──さて、本日より通常の仕事へと戻る。全員が大きく変わっていないようで安心したよ。──まずは出撃組から通達する」
提督「今回の出撃は加賀を旗艦と置いた飛龍、北上、夕立、時雨、そして長門の六隻で行うものとする。……この鎮守府では初の出撃となるが、長門も問題は無いな?」
長門「任せておけ。必ずや戦果を持って帰ろう」
赤城(代理の提督の時はあれだけ反発していた長門さんが、こんなに素直になるなんて……。やはり、提督は惹かれるような何かがあるのでしょうか)
提督「良い返事だ。海域は鎮守府周辺の海域だ。ただし、正面ではなく手付かずである南側となる。強力な深海棲艦が出没するらしく、航路を確保するよう本部から通達が来た。また、黄と赤のオーラを纏った戦艦や空母が確認されているとの事だ。油断はするなよ」
六人「はいっ!」
提督「作戦については朝礼が終わり次第言い渡す。続いて遠征組みは──」
…………………………………………。
飛龍「──加賀さん、周囲に敵影はありません。比較的平和のようです」
加賀「了解したわ。ご苦労様、飛龍」
長門「……しかし、不思議だな。飛龍は秘書艦ではなかったか? なぜ出撃をしているんだ」
飛龍「たまにありますよ。その点につきましては秘書艦も例外ではありません。少ないのは確かですけど、今回みたいな場合ですと他に人員も割けませんしね」
長門「ふむ……そういうものなのか」
北上「むしろそれが普通だと思ってたんだけど、長門さんの方は違ったの?」
長門「私の方では秘書は秘書として専属だった。戦闘に駆り出されるような事も無かったはずだ」
夕立「んー……ちょっとよく分からないんだけど、そんなに違うっぽい?」
時雨「結構違うんじゃないかな。まず、秘書艦の負担は提督のやり方よりもずっと軽いのは確かだよ。だけど、実際の現場の状況を理解するのは難しいと思う。やっぱり、自分の目で見て感じないと問題点とかは見えてこない時もあるしね。どっちが良いか一概には言えないけれど、性質自体は異なると思うよ」
夕立「ふーん……?」
時雨「……まあ、やり方はひとそれぞれって事だよ」
加賀「! 肉眼でも島が確認できたわ」
五人「!」
長門「あの島に三人が……。元気なのか?」
加賀「ええ。不自由はあれど、問題無く暮らしているそうよ。物資として毛布なんかも持っていたそうですし、食料も島に自生している物で食べられる物を選んでいると言っていたわ」
長門「ありがたい事だ……」ホッ
加賀「再度言いますけれど、長門さんは私の指示があるまで攻撃はなさらないようにして下さいね」
長門「ん? それは構わないのだが、なぜ今になってもう一度言うんだ?」
加賀「一応よ。これから何が起こるか、誰にも分からないもの」
長門「…………? そうか」
加賀(……そう。あの二人の姿を見て、この人が何をするのか分からないもの)
飛龍(どうなるでしょうかね……。何も起こらないのが一番なんですけど……)
…………………………………………。
839:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/02(火) 07:51:35.90 ID:L+M5NtALo
瑞鶴「! あ、見てあれ」スッ
金剛「あれは……艦娘デスね」
響「もしかして迎えに来てくれたのかな」
ヲ級「島の暮らし、おしまい?」
瑞鶴「うん。そうなるわよ。これからはちゃんとした場所で住めるわね!」
ヲ級「楽しみ……!」ワクワク
空母棲姫「……………………」
響「空母棲姫さん、どうしたの?」
空母棲姫「……いや、どう見ても一隻、見慣れない顔が居るからな」
金剛「ワーオ……目が良いデスね……」
空母棲姫「……嫌な予感がするから、私とヲ級は隠れておこう」
響「どうしてだい? 提督ならちゃんと分かってる人達を向かわせると思うけど」
空母棲姫「念の為だ。無害だと判断すれば私達から出る」
瑞鶴「ヲ級も嫌な予感とかするの?」
ヲ級「んー……。ちょっとだけ?」
瑞鶴「うーん……そっかぁ……」
金剛「では、一応そのようにしておきまショウか。デスガ、もし何かトラブルが起こりそうでしたら守りマスよ」
空母棲姫「……艦娘に守られる深海棲艦、か」
響「普通ではちょっと考えられないね。でも、私達は二人が他の深海棲艦とは違うって分かってるよ。心境も、そして立場もね」
空母棲姫「……すまん」
響「良いって事さ。──さて、見慣れない顔って誰なんだろうね?」
瑞鶴「……提督さんの理解者とか?」
金剛「あの好かれようを考えると、ほぼ全員が理解者なのではないかと思いマスが、どうなのでショウか」
瑞鶴「んー……まあ、会ったら分かるわね。私達は出迎えましょうか」
響「うん。──じゃあ、行ってくるね」フリフリ
ヲ級「いってらっしゃい!」ブンブン
…………………………………………。
840:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/02(火) 07:52:09.08 ID:L+M5NtALo
金剛「──え?」
瑞鶴「あれ……? えっと、長門さん? どうしてここに居るの?」
響「……久し振りだね」
長門「…………」
金剛「ええと……どうしたデスか?」
金剛(もしかして……あの時の事で怒っているのデスか……?)
加賀(……どうしたのかしら。話を聞く限りではとても喜ぶはずです。……まさか、あの二人が居るのに勘付いた?)
長門「……本当に、お前達なのか」
響「……そうだよ。司令官から──元司令官から轟沈命令を出された私達だよ」
長門「っ……!」ガバッ
瑞鶴「わ、わわっ!?」ギュー
金剛「ど、どうしたのデスかいきなり?」ギュー
響「……ちょっと痛いかも」ギュー
長門「良かった……! 本当に良かった……!! お前達の事が本当に気がかりだったんだ……! 生きてくれていて、本当に……良かった……」ギュゥ
金剛「……ハイ。私達は、提督に拾われたデス。これからもちゃんと、生きていくデス」
長門「ああ……! おまけに、あの場所に居た時よりもずっと元気そうだ。丁寧に扱ってくれていたのがよく分かる」ソッ
響「ところで、長門さんはどうして提督の艦隊に居るの? ……まさかとは思うけど」
長門「いや、そういう訳ではない。私があの愚か者の神経を逆撫でして教育送りとなっただけだ。その先であの人間から話を聞いて、ここへ来させて貰った」
響「なるほどね。確かに長門さんだったら行動に出そうだ。──一緒に私達と提督の所に行っちゃう?」
長門「……そうだな。それも良い。正式に異動が出来るか調べてみよう。……出来れば、あの愚か者を提督の座から引き摺り下ろしたいのだがな」
金剛「どこかで耳にしましたケド、提督になるには特殊な何かが必要らしいデス。きっと、それがあるのではないでショウか」
長門「ふん。あんな愚か者にそんなものがあるとは思いにくいがな」
841:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/02(火) 07:52:43.62 ID:L+M5NtALo
加賀「……そろそろ再開に花を咲かせるのは良いかしら」
長門「む。すまない。つい嬉しくて……」
加賀「構わないわ。そうなるのも無理はないでしょうからね。──長門さん、これから貴女にはとある二人と会って貰いたいの」
飛龍(……ついにきましたね。どうなるか予測が付きません……)
加賀「そこで、艤装を一旦下ろして欲しいの。私達は面識があるのでともかく、初対面の貴女が兵器を持ったまま会話をするのは怖がらせてしまうかもしれません」
長門「……ふむ。確かにそうだな。相手が艦娘でもない限り、そういうのは良くないだろう。少し待ってくれ」ガキン
長門「──よし。これで良いだろう」ガシャッ
加賀「ありがとうございます。──金剛さん、二人はどこに?」
金剛「向こうで待っているデス。呼んでくるネー」スッ
響「……………………」
長門「どうした、響?」
響「いや、なんでもないよ」
響(ただちょっとだけ嫌な予感がしただけさ)フイッ
長門「?」
金剛「連れてきたデース」スタスタ
ヲ級「ひさしぶりっ」ブンブン
空母棲姫「……………………」
長門「────深海棲艦!?」サッ
長門(しま……っ! 艤装は……!!)ダッ
加賀「長門さん、命令です。攻撃の意志を静めなさい」ガシッ
長門「馬鹿を言うな!! 敵を目の前にして何を言っているんだ貴様は!!」
瑞鶴(あちゃぁ……やっぱりというかなんというか……)
加賀「言ったはずです、私の指示があるまで攻撃をしないようにと。私はこの場において指示を出すつもりは毛頭ありません」
長門「黙れッ!! くそっ……! こうなるのであれば艤装を下ろすんじゃなかった……!!」ググッ
夕立(うわぁ……長門さん、凄い剣幕っぽい……)
842:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/02(火) 07:53:22.36 ID:L+M5NtALo
金剛「……あのー、長門。確かにこの二人は深海棲艦デスが、スペシャルな事情があるデス」
長門「…………ッ。……なんだ、お前たち全員は深海棲艦と手を組んだと言うのか」ジッ
瑞鶴「いや、手を組んだというか成り行きでこうなったというか……。単純にこの二人とは中将さん達と一緒に暮らした仲なのよ」
長門「……意味が分からん。どうして深海棲艦と暮らそうと思ったんだ」
響「二人とは艦載機を全て失った状態で会ったんだ。傷付いてたのを見た提督が修理をして、そこから一緒に暮らし始めたね」
長門「何をやっているんだ、あの人間は……」
響「二人が居てくれたおかげで助かった事もあるよ。何も無い島だから食糧問題もあったんだけど、海に潜ってくれて魚とか貝とか海草とか一杯採ってきてくれたりもしたんだ」
ヲ級「提督の料理、すっごく、美味しい! だから、頑張って、採った」キラキラ
長門「…………なんだこの無邪気な笑顔は……本当に深海棲艦とは思えん……」
加賀「落ち着いてくれたかしら」
長門「……話は聞こう。そこから判断する」
空母棲姫(……どうしてここに居る艦娘達は、こうも簡単に敵を理解しようとするのかしら)
加賀「助かります。……ですが、気持ちは分からないでもないわ。私も初めは提督の気が振れたのかと思ったもの」スッ
北上「まあー……やっぱそう思うよねぇ」
夕立「時雨もそう思ったっぽい?」
時雨「……秘密にしておくね」
夕立「えー……」
飛龍「では、説明は空母棲姫さんにお任せしましょうか」
空母棲姫「待て。なぜ私なんだ」
瑞鶴「まあ……自分の事は本人が一番知ってるからでしょ?」
空母棲姫「いや……どう考えても私の口から出る情報は信用ならないだろう。この艦娘からすれば、私の言う言葉の何が嘘なのか分かる訳がない。あの島で暮らしていた三人の誰かが説明した方が信憑性もある」
加賀「なるほど。確かに一理あります」
長門「……意外と常識があるな」
瑞鶴「なんか長門さんが物凄い失礼な事言ってる……」
空母棲姫「構わん。私達は本来敵同士だ。このくらいが一番良い。……むしろ、お前たちがおかしいという事を忘れるな」
響「信頼というものは、その人の行動で得られるものだよ。私にとって空母棲姫さんとヲ級は信頼できる。あの島で一緒に生活をして思ったよ」
長門(……あの愚か者を信頼しなかった響が信頼する深海棲艦、か)ジッ
843:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/02(火) 07:53:56.30 ID:L+M5NtALo
空母棲姫「……ならば、そこの艦娘が信頼できる者を選んで話を聞けば良い。その方が納得しやすいだろう」
長門「なるほど。──では瑞鶴、頼む」
瑞鶴「ちょっ!? どうして私なのよ!? 私、説明とか苦手なんだけど!!」
長門「だからこそだ。嘘も吐けないだろうし、嘘を言ったとしても説明下手ならばすぐに分かる。何よりも、思った事や見た事をそのまま言ってくれたら良い」
瑞鶴「もー……。というか、そもそも何をどう説明したら良いのよ……」
長門「では聞こう。その深海棲艦の二人は信用できるのか?」
瑞鶴「ん、うん。食料では本当に助かったし、攻撃する気だったら島でさっさとやったら良かったしね。私は信用してるわよ」
長門「だが、その空母棲姫が大破しているのはどういう理由だ? 私には鹵獲したようにしか見えん」
瑞鶴「あー……それなんだけど、別の深海棲艦から攻撃を受けたのよ。実際に私たちも空爆されたし……」
長門「それはなぜだ」
瑞鶴「中将さんや私達と一緒に暮らしていたからって話よ。レ級がそれを見て二人を裏切り者って認識したみたい。……というか、たぶん利根さんもレ級に撃たれたからだろうし。あ、利根さんは中将さんの艦娘よ。もしかしたら会ったかもしれないけど」
長門「ああ。秘書艦として四苦八苦しているのを見ていたから分かる。……そうか。負傷したのはレ級から砲撃を受けたからか」
瑞鶴「……えっと、利根さんってもう動けるようになったの? だいぶ酷かったと思うんだけど……」
長門「今は元気に秘書としての勉強をしているぞ。仕事が終わる度に疲れ切った顔をしている」
瑞鶴「そっか。良かったぁ……」ホッ
長門(……今の所、嘘や誤魔化しはしていないように見える。ならば、本当に信用出来る相手なのか……?)
瑞鶴「えーっと、他に言った方が良いのってある?」
長門「……いや、充分だ。一応信用しよう。だが、信頼はせんぞ」
空母棲姫「構わん」
飛龍「ふー……。なんとか纏まりもついたようですし、連れて帰りましょうか」
加賀「そうね。陽も傾いてきましたし、丁度良いでしょう」
飛龍「日没後までの哨戒は利根さんがやる事になっていますので、かなり近くまで帰ってもバレません。金剛さん達には別の場所から上陸してもらい、そこで一先ず待機。その後で提督が迎えに来てくれる手筈になっています」
金剛「オーケーデース」
瑞鶴「今夜はベッドで寝られるのかしら……」
響「どうだろね。提督がどういうやり方でで私達を在籍させるのかによると思う」
飛龍「その辺りは提督がしっかりと説明してくれるはずです。私達で説明するよりも分かりやすいはずです。ただ、簡単に言うと他の子達と同じように海から拾ってくるという形にするそうですよ」
長門「……三人は分かるのだが、どうして深海棲艦も一緒なんだ」
空母棲姫「……あの人間の言う事が本当ならば、私達は恩人だそうだ」
瑞鶴「あー、そういえば確かにそんな事を言ってたわね」
長門「恩人……? どういう事だ」
空母棲姫「分からん……。何か悩んでいた時に私の言葉を聞いて勝手に悩みを解決したようだが、それの事について言っているのかもしれん……」
長門「……あの人はつくづく変な人間だな」ハァ
空母棲姫「全くだ……」ハァ
時雨(なんだか……この口調の空母棲姫さんは長門さんや提督に似ていて、素の時は加賀さんっぽく見えるかな……)
北上「まー、長門さんは納得できたのかな。出来ればちゃっちゃと連れて帰ってあげたいんだけど」
長門「……今は計画の通りに動くが、後で問い詰める。この状態ならば後でどうとでも出来るだろう」
加賀「では帰りましょう。きっと提督も待っているはずよ」
…………………………………………。
863:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/13(土) 22:03:33.52 ID:4qPrfebCo
間宮「伊良子ちゃーん。そっちの準備も終わりそう?」
伊良子「あとほんの少しですよー。味付けもバッチリです!」
間宮「はーい。もうすぐしたら皆が来るから、私は食器類の再確認をしておきますね」
伊良子「分かりましたー。って、あれ?」
提督「邪魔するぞ」スッ
間宮「あら、提督? どうかなされたのですか?」
伊良子「お腹が空いちゃいました? もう少しですので待ってて下さいねー?」
提督「いや、そういう訳ではない。二人に話があるんだ」
間宮「お話ですか? なんでしょう」
提督「この鎮守府での食事の全ては二人に任せてあるだろう。だが、これだけの所帯だ。人手が不足しているのではないかと思っている」
間宮「んー……。確かにあと一人か二人は居て下さると楽になりますけれど、いきなりどうしたのですか?」
提督「なに。少々巡り合わせがあってな。今のところ料理の事はほぼ無知だが、作る事に興味を持ち始めた子が二人居る」
伊良子「その子達をここで働かせたい、というお話ですか?」
提督「そうだ。お願いしたい」
間宮「んー……?」
伊良子「? 間宮さん、どうしたのですか?」
間宮「いえ、提督が直々にお願いをしにくるという所で何か引っ掛かって……。特別な事情でもあるのでしょうか」
提督「……絶対に外へ漏らさないと誓ってくれるだろうか。今回はそれほどシビアな話なんだ」
伊良子「私は構いませんが、そんなに重要なのですか?」
提督「ああ。外部に情報が流れると誇張も比喩も無しに鎮守府が崩壊するという可能性がある」
間宮「…………えっと、お料理をするお方ですよね? なぜそんなに重要なお話になるんですか……?」
提督「本来ならば許されない事だからだ」
864:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/13(土) 22:04:08.80 ID:4qPrfebCo
間宮「どこかの国のお姫様でも雇わせるんですか?」
提督「字面では強ち間違っていないが、もっと深刻だ」
伊良子「ええぇ……」
間宮「……危険や障害はありますか?」
提督「私が見る限りでは無いと言える。……先に言っておくが、私が孤島暮らしをしていたとき共に暮らしていた者なんだ。──念の為だが、利根の事ではないぞ」
間宮「では、提督が信頼をしているお方という事でよろしいですか?」
提督「ああ。私はあの二人の事を信頼できると思っている」
間宮「ならば、私は信頼も信用もします。提督がそう仰るのでしたら問題無いはずです」
伊良子「私も同じ意見ですよー」
提督「ありがたい。──おそらく今夜、顔を合わせる事となるだろう。世間的には問題のある子達だから、日付が変わった時に二人の部屋に足を運ぶ」
間宮「はい。お待ちしていますね」
伊良子「はーい」
提督「最終確認をしておくが、その二人を知ったからには戻れないと思ってくれ。もしその二人が外にバレた場合、この鎮守府に直接関わっている者全てが処刑されてもおかしくはない。──それでも良いか?」
伊良子「しょ、処刑……」
間宮「大丈夫ですよ。提督がやろうとしている事ですから、きっと上手くやってくれます」
伊良子「こ、怖いですけど……がんばります!」
提督「……何を頑張るのかは分からないが、頼む」
間宮・伊良子「はいっ」
…………………………………………。
865:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/13(土) 22:04:43.68 ID:4qPrfebCo
金剛「……夜になってからもう随分と時間が過ぎまシタね」
瑞鶴「そうねぇ。たしか、日付が変わった後くらいに迎えが来るんだっけ?」
金剛「そのはずデース。…………でも、今の時間が分からないネ……。今は何時なのデスかね」
響「たぶん……そろそろ零時を回った頃じゃないかな。本当にたぶんだけど」
ヲ級「…………」ソワソワ
金剛「どうかしまシタか?」
ヲ級「本当に、大丈夫なのか、ドキドキしてる」ソワソワ
空母棲姫「まあ……そう思うのも無理はないだろう。私とて本当に問題が無いのか心配しているくらいだ」
金剛「提督ならばノープロブレムだと私は思うデス」
空母棲姫「ほう。どうしてそう考えた?」
金剛「やっぱり、あのアイレットで一緒に暮らしたからデス。……今だから言える事デスが、私の欲しかったものを提督は私に下さいまシタ」
金剛「言っていないので知らないと思いマスが、私は瑞鶴や響が来る前に提督に優しくされて泣いているデス」
瑞鶴「……え? 金剛さんが?」
響「それは……なんというか、よっぽどだね」
空母棲姫「……私もあまり想像がつかない」
ヲ級「人前で、泣きそうに、ない」
金剛「勿論、二人の前では泣いていまセン。瑞鶴と響と一緒に使っていたルームに逃げて泣きまシタ。──あ、これは誰にも言ってはいけまセンよ? 私のシークレットですからネ?}」
瑞鶴「……それにしても、本当に意外ねぇ。あの鎮守府に居た時は泣くとかどうとかって全く思わなかったわ」
金剛「あの時は……心がどこか死んでいたのかもしれまセン」
響「……………………」
金剛「毎日、提督の言われるがままに出撃をシテ……執務をこなシテ……食事はただの栄養補給のようで……初めこそは褒めて貰いたかったデスが、いつの間にかやらなければならない事や指示された事を必死になって動いていただけだったような気がしマス」
瑞鶴「……そうだったわよね。確かに、あの頃の金剛さんは一番酷使させられてたように思うわ」
響「でも、これからはたぶん、そうならないと思う。提督が私達をどう扱うかによると思うけど、悪くはしないと私は思う」
866:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/13(土) 22:05:19.60 ID:4qPrfebCo
ヲ級「あの人、優しい」ニパッ
金剛「イエス。だから……普通の艦娘として生きていけるのならば、私はそれ以上は何も望みまセン」
瑞鶴「……ちょっと大袈裟な気もするけれど、今までが今までだったから、そう思っても仕方が無いのかもしれないわね」
空母棲姫「……………………」キョロ
響「? 空母棲姫さん、どうしたんだい?」
空母棲姫「……いや、ふと思った事があるだけだ。特に何かがあった訳ではない」
瑞鶴「ふぅん? 何を思ったの?」
空母棲姫「……よくよく考えてみれば、お前達は捨てられた艦娘という訳だ」
響「そうなるね」
空母棲姫「そして、私とヲ級は深海棲艦の群れからはぐれ、そして過去の仲間からは敵と見做されて捨てられた深海棲艦だ」
瑞鶴「えっと……うん、そうなるわよね」
空母棲姫「そしてこの誰も来ないような沿岸……どことなく野良猫か何かと同じような気がして、な……」
金剛「オーゥ……そう言われてみれば……」
瑞鶴(あ、そう言えば野良艦娘で──)
響「! 誰か来たよ」
四人「!!」
提督「──さて、この辺のはずだが」
金剛「……提督デスか?」
提督「む、そっちか。今行く」
間宮「あ、あれ……? 今の声って……」
瑞鶴(え? 誰か連れて来ているの?)
提督「何日か振りだな。大丈夫か?」
響「あの島で鍛えられたからね。問題なく暮らせたよ」
提督「そうか。良かった」
空母棲姫(……間宮と伊良子? どうしてこんな場所に)
867:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/13(土) 22:06:06.04 ID:4qPrfebCo
間宮「っ……!?」ビクッ
伊良子「え……え、え……? し、深海棲艦……?」ビクン
提督「間宮、伊良子。夕方に言っていた二人というのは、この深海棲艦の事だ」
伊良子「ど、どどどどういう事ですか……!?」ビクビク
提督「簡単に説明するならば、深海棲艦から敵と見做された深海棲艦……そして、孤島で私と利根、金剛に瑞鶴、響の食材を調達してくれたりもしている」
伊良子「だ、大丈夫……なのですか……?」ビクビク
提督「大丈夫だからそんなに怯えなくても良い。現に金剛達と一緒に居るだろう?」
間宮「……提督」
提督「どうした」
間宮「提督は……このお二人を信頼しているんですよね?」
提督「ああ。空母棲姫はなんだかんだで常識がある。理由も無く危害を加えてきたりはせんよ。ヲ級に至っては普通に接している分には人畜無害だ」
空母棲姫「単純に貴方の常識が無さ過ぎるだけなのではないかしら」
提督「……このように、割と痛い所も突いてくる」
空母棲姫「特に、少し強引過ぎると思うのだけれど」ジッ
提督「否定はしない」
伊良子(あれ……本当に普通の会話ですね……?)
間宮「……このお二人は本当に深海棲艦なんですか?」
空母棲姫「本物だ。……艦載機があれば証明も出来ただろうが、生憎と全て撃墜されている」
提督「今になって思えば、そうであったからこそ対等に話し合えたのかもしれん」
空母棲姫「違いありませんね。私も艦載機が残っていれば戦おうとしたでしょうし」
間宮(……提督にだけ口調が変わっているような気がしますけれど、向こうで何かあったんでしょうか)ジー
ヲ級「姫はね」チョンチョン
間宮「は、はい?」ビクッ
ヲ級「提督を、信頼してる。だから、素のくちょ──むぐっ」
空母棲姫「余計な事は言わないの……!!」ググッ
ヲ級「むぐー……」
伊良子(あ……なんだか可愛いかも……)
間宮(……深海棲艦も艦娘も、同じなのかもしれませんね)
提督「……という訳だ。この二人に居場所を与えたい。料理を教えてやってくれないか」
間宮「私は大丈夫ですよ。伊良子ちゃんは?」
伊良子「私も問題ありません。むしろ、後輩が出来たのかと思うと可愛がりそうです!」
空母棲姫「……私も可愛がるのか? ビジュアル的に無理があるだろう」
伊良子「あ、あはは……たぶん貴女には普通に接するかもしれません」
空母棲姫「そうしてくれるとありがたい」
提督「では、頼んだぞ二人共」
間宮・伊良子「はいっ!」
868:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/06/13(土) 22:06:32.67 ID:4qPrfebCo
金剛「そちらのお話は纏まったようデスけれど、私達はどうすれば良いデスか?」
提督「こちらで部屋を用意する。私の隣の部屋に監禁のような扱いになってしまうが……許してくれ。隣の部屋は防音仕様となっているが、一応音には気を付けておいてくれるか」
瑞鶴「大丈夫よ。海から拾ってくるっていうのが前提だもん。それに、ちゃんとしたベッドで寝られるのなら今の所は充分よ」
響「正式に入籍できるのを待っているよ」
金剛「……でも、どうして防音仕様なのデスか?」
提督「色々と防音の方が良い事もあるんだ」
瑞鶴「ふぅん? そっか」
間宮「……えっと、提督? 正式に入籍ってどういう意味なんですか?」
提督「三人は別の鎮守府の艦娘だ。……しかし、事情があって捨てられる事となってしまった。そこで私と会ったんだ」
伊良子「艦娘を捨てる……なんでそんな……」
提督「理解し難い事だ。考えなくて良い。──この三人の事だが、誰にも言わないようにしてくれ。頼む」
間宮「ええ、勿論ですよ。捨てられて良い命なんてありませんから」
伊良子「そうですそうです! 後でお夜食を持ってきますからね?」
金剛「ありがとうございマス!」
瑞鶴「ありがとね!」
響「スパスィーバ」
提督「では、鎮守府へ案内する。巡回のルートは外して進むが、一応話さないようにしてくれるか」
全員「はい!」
瑞鶴「……あ、提督さん」トトッ
提督「どうした」
瑞鶴「ちょっとこっちに来てくれるかしら」チョイチョイ
提督「物陰……? なんだ?」スッ
瑞鶴「よし……ここなら見えないわね」チラ
提督「…………?」
瑞鶴「──野良艦娘です、にゃぁにゃぁ」コテッ
提督「……………………」
瑞鶴「…………」
提督「…………………………………………」
瑞鶴「……………………」
提督「……どう反応すれば良い」
瑞鶴「……ごめん。こうすれば良いんじゃないかって聞いたから……」
提督「……ちゃんと拾うから、な?」
瑞鶴「ありがと……」
……………………
…………
……
894:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/02(木) 00:13:32.66 ID:9NY2LLZ/o
提督「──本日から皆と仲間になる子が居る。……挨拶をしてくれ」
瑞鶴「は、はい! ──翔鶴型航空母艦二番艦、妹の瑞鶴です! よ、よろしくお願いします……」ペコッ
響「響だよ。これからよろしく」
翔鶴(ぁ……えっと……)オロオロ
暁・雷・電「…………」
瑞鶴(うぅ……やっぱり凄く難しい顔されてる……)
響「……司令官、私達はあまり歓迎されていないみたいだけど……私達は『二人目』なのかな?」
瑞鶴(ちょっと響ちゃん!? いきなり何を言ってるのよぉ!?)
全員「っ……」
提督(ふむ……。何となく読めたぞ)
提督「……そうだ。瑞鶴と響……両者共にこの鎮守府では『二人目』となる」
響「一人目は、ここに居ないの?」
提督「居ない。……二人とも、私の判断ミスによって沈ませてしまった」
響「……そっか」
提督「ああ……」
全員「……………………」
瑞鶴(ど……どうするのよこれ……。最悪の空気ってレベルじゃないわよ……?)
響「今度は」
提督「…………」
響「今度は、大丈夫?」
提督「……約束する。今度は、必ず沈ませない」
響「ん。だったら良いよ。──司令官、作戦指示を。私は司令官の為に動きたい」
響『…………、…………。………………………………』
提督「ありがとう……。──瑞鶴も、構わないか?」
瑞鶴「え、私? ……えっと、うん。大丈夫、だけど……」
895:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/02(木) 00:14:09.29 ID:9NY2LLZ/o
提督「……そうか」
瑞鶴「あ、いや、うん! 大丈夫! 私は幸運の空母だもん。沈んだりなんかしないわ!」
加賀「あら、そうなのね。だったら……沈まないようにみっちりと指導してあげるわ」
瑞鶴「え……! え、えっと……それは……」
加賀「何か問題があって?」
瑞鶴「…………お、お手柔らかにお願いします……」ビクビク
翔鶴「あのぅ……加賀さん」
加賀「何かしら」
翔鶴「……どうか、優しくお願い致します」ペコッ
加賀「大丈夫よ。その辺りの加減はちゃんとするわ。……それに」チラ
瑞鶴「?」
加賀「きっとこの子は伸びるわ。そんな気がするの」
提督「……ふむ」
提督(加賀も分かってくれているようだな。そうすれば、多少の実力の大きさも目を瞑れるか)
提督「加賀が言うのならば期待が出来る。私からも期待しているぞ」
瑞鶴「う……。が、頑張る……!」
響「私も頑張るよ」
提督「ああ。頼むよ」ナデナデ
響「ん……」
雷(あ、なんだかもう堕ちてる)
……………………
…………
……
896:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/02(木) 00:14:39.73 ID:9NY2LLZ/o
金剛「…………」ボー
金剛「……普通の部屋デスよね。ケド……ベッド以外は何も無いデスね……」
金剛(それにしても……どうして防音にしているのでショウか? 色々と都合が良いと仰っていましたケド……)
金剛「…………」キョロ
金剛(……うーん。やっぱり何に使っていたのかが分からないデス……。窓を近くで見ればまた何か分かるかもしれまセンが、外から見てバレるのも良くありまセンし……)
金剛「……やっぱり、寝ておいた方が良いのでショウかね? ──あ、確か後でテートクが娯楽品を持ってきてくれると言っていまシタっけ」ギシッ
金剛「ちょっとだけ、楽しみデス……」コロン
コツッ──コツッ──コツッ──
金剛「?」クルッ
金剛(今の……ノックですか? テートクでショウか)
カチャッ……ガチャ──パタン
間宮「こんにちは、金剛さん」
金剛「えっと、こんにちは……デス」
間宮「お暇しているかと思いまして、勝手ながら色々な物を持って来ました。──よいしょ」ゴトッ
金剛「? これは……?」
間宮「ガスコンロと小型電気オーブン、後は紅茶の葉っぱに卵や小麦粉、砂糖などもありますよ」
金剛「え……えぇ? ど、どうしたのデスか、これは……?」
間宮「提督からのお願いがありまして、これらを金剛さんの所へ持っていって欲しいとの事です」
金剛「えっと、あの……良いのですか?」
間宮「ええ、勿論ですよ。むしろ提督は、この程度の事しか出来ないーって言っていましたからね」
金剛「……………………」
間宮「……ごめんなさい。お気に召さなかったですか?」
金剛「そ、そんな事はありまセン! とっても嬉しいデス! …………デスけど、気を遣わせてしまったような気がして……」
間宮(……提督から軽く説明はして頂きましたけれど、本当にご自分の事を蔑ろにしてします傾向がありますね)
897:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/02(木) 00:15:16.91 ID:9NY2LLZ/o
間宮「金剛さん」
金剛「ハイ……」
間宮「これは秘密ですよ? ──提督は、金剛さんをここへ押し込んでしまったと思っていて、申し訳ないって本当に思っているんです」
金剛「……え? な、なぜデスか? テートクは何も悪くないデスよ?」
間宮「それと、金剛さんと二人きりで話したい事があるのかもしれません」
金剛「私と……?」
間宮「そこは私の憶測ですけれどね。でも、そうでなければここに一人で残すなんて事をしないと思うんです。何か考えがあるはずです」
金剛「何か考えが……。デスが、どうしてテートクではなく間宮がここへ来たのデスか?」
間宮「今、提督は本部から纏められた指示書の確認と対応に追われています。何でも、提督が帰ってきたという事で急遽資料や指示書なんかを作りあげて送られてきたそうですよ。もう凄い量でした」
金剛「……やっぱり、テートクという立場は忙しいのデスね」
間宮「本当ですよね。私だったら、やれと言われてもやりたくないです」
間宮「まあ、そういう事もあって、提督が金剛さんを暇させないようにと紅茶とお菓子作りの材料を持って行って欲しいと仰っていました」
金剛「……とても嬉しいのデスが、匂いでバレたりしまセンか?」
間宮「大丈夫ですよ。潮風でだいぶ薄れますし、もし匂いに気付いても食堂が近くにあるので私や伊良湖ちゃんが何かを作っているとしか思われません」
金剛「…………えっと」
間宮「?」
金剛「ありがとうございマス」ペコッ
間宮「いえいえ。私はこのくらいしか出来ませんから。──あ、それと、暇を作ったらここへ来るとも仰っていましたので、さっきの私がやったような小さなノックがありましたら提督だと思ってて下さいね」
金剛「……ハイ!」
間宮「良い笑顔です。──さて、私は空母棲姫さんとヲ級ちゃんに料理を教えてきますので、これで失礼させて頂きますね」スッ
金剛「色々とありがとうございまシタ」ペコッ
間宮「どういたしまして。──それでは、また後日に会いましょう」
ガチャ──パタン
金剛「…………テートクが私の為にこれを……」
金剛「……よし。お礼にテートクが食べられるお菓子を作りまショウ。確か、砂糖がお嫌いと言っていまシタから、ノンシュガーのお菓子が良いデスね」
金剛「材料は豊富にありマスから何でも作れます。……パイにビスケット、スコーンも良いデスね」
金剛「久し振りなのでしっかりと出来るかは分かりませんが、頑張るデス……!」グッ
……………………
…………
……
906:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/11(土) 21:58:50.16 ID:oGJEyN/uo
利根「……のう、提督。これは何の冗談じゃ?」
飛龍「これまた凄い量ですね……。通常業務の書類に加えてダンボール三つ分ですか……」
提督「総司令部の嫌がらせか何かだと思ってしまうよ」
飛龍「まあ……提督が居ない間の作戦の資料がほとんどのようですから、読むだけでしたら一週間もあればいけるのでは?」
提督「……面倒だ」
飛龍「諦めて読みましょう、ね?」
提督「…………面倒だ」スッ
飛龍(そうは言っても、ちゃんと読むんですよね。──さて、私はお茶の用意をしますか)トコトコ
提督「利根。お前はいつものように書類の整理を頼む。私も並行してやるが、今日は時間が掛かると思え」
利根「…………」
利根(……我輩が頑張れば、提督はその分だけ楽になるはずよの)
提督「どうした、利根」
利根「ん、なに。ただ単にいつも以上の働きをしようと心に決めておったのじゃ」
提督「そうか。無理はするなよ」サラサラ
利根「うむ。倒れてしまってはお主から何を言われるか分かったものではないからのう」カキカキ
提督「寝ている横で小言を言い続けてやろう」
利根「小言に我輩の身体を気にしている姿が容易に想像できるぞ」カキカキ
提督「そうだな。まず間違いなくそうなる」サラサラ
利根「提督は優しいからのう」カキカキ
提督「さて、早速寝言が聴こえてきたな」
利根「寝言なのじゃから素直に受け取ってくれても良いのじゃぞ?」カキカキ
提督「叩き起こしてやろうか」サラサラ
利根「し、仕事中じゃから後での」カキカキ
提督「後なら良いのか」
利根「イヂメるでないぞー……」カキカキ
飛龍(……仲、良いなぁ)
…………………………………………。
907:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/11(土) 21:59:26.92 ID:oGJEyN/uo
金剛(……さて、そろそろ焼き上がる時間デス。オーブンから取り出しまショウ)スッ
金剛「ふむ……ふむふむ。見た目はグッドです。後は味の方デスが……」
金剛「…………」モグモグ
金剛「……甘味が無くて、私の口には合わないデス。メープルシロップを掛ければ美味しいと思いマスが……」
金剛「うーん……。テートクは美味しいと言って下さるでショウか……」
コツッ──コツッ──コツッ──
金剛(! テートクですかね?)ソワソワ
カチャッ……ガチャ──パタン
提督「調子はどうだ、金剛」
金剛「私は元気デス。テートクは……なんだか雰囲気が少し暗いデスね? 何かあったのデスか?」
提督「まあ……ちょっとした総司令部からの面倒事だ。段ボール箱三つ分の書類をいきなりドカンと送られてきた」
金剛「み、三つ……。大人の人でもスッポリ入れそうなアレですよね……?」
提督「そうだ」
金剛「……お疲れ様デス」ペコッ
提督「長年サボっていたツケだろう。──ところで、何か作っていたのか? スコーンを焼いているような匂いがするが」
金剛「!! 分かるのデスか?」
提督「多少はな」
提督(『金剛』がよく作っていたからな……)
金剛「ぁ……」
提督「ん? どうした」
金剛「い、いえ……」
金剛(…………きっと、テートクの『金剛』も同じようにスコーンを作っていたのデスね……。失敗しまシタ……)
提督(……ああ……この子はたぶん『金剛』の事を考えているんだな。さて……どうしようか……)
908:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/11(土) 22:00:06.48 ID:oGJEyN/uo
金剛「……………………」
提督「…………」
金剛「…………」
提督「…………」ポン
金剛「…………?」
提督「……ありがとう」ナデナデ
金剛「……ごめんなさいデス」
提督「どうして謝る?」
金剛「私は、気を遣わせてしまっていマス……。本当でしタラ、テートクが喜べるようにするべきなのに……」
提督「その気持ちだけで充分だ」ナデナデ
金剛「でも──」
提督「充分だよ、金剛。そう思ってくれるだけで、私は嬉しい」ナデナデ
金剛「……ハイ」
提督「なあ金剛。そのスコーン、一つ貰っても良いか?」
金剛「え──。勿論デスけど……」
提督「けど?」
金剛「…………いえ、ぜひ召し上がって下サイ! とっても久し振りデスが、上手く出来まシタ!」
提督「ああ、頂く」ヒョイッ
金剛「…………」ドキドキ
提督「…………」モグ
金剛「……お口に合いマスか?」ドキドキ
提督「……うむ。良いな、これは。美味い」
金剛「リアリー!? やったデース!」
提督「金剛、確かに防音になっているとは言ったが、少し声を抑えてくれ」
金剛「あぅ……ソーリィ……」シュン
提督「だが……」
金剛「…………?」
提督「やっぱり、お前はそうやって明るい方が似合っている。正式にこの鎮守府に籍を置く事になった時は、素を出してくれ」
金剛「──ハイッ」
提督「うむ。良い返事だ」
提督(私としても、暗い金剛を見るのは辛いからな……)
…………………………………………。
909:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/11(土) 22:00:35.80 ID:oGJEyN/uo
ヲ級「出来た!」
伊良湖「は、初めてにしては早いですね……。しかも、味付けも良いです」
間宮「包丁などは流石に不慣れが目立ちますけれど、一ヶ月か二ヶ月くらいもすれば教えなくても良くなりそうね……」
ヲ級「えへー」ニパッ
空母棲姫「まさか、この子にこんな才能があるとは思わなかった……」
間宮「空母棲姫さんも充分に凄いですよ。包丁の扱いなんて本当に初めてなのかと思ってしまうくらいです」
空母棲姫「……なぜかは知らないが、包丁を昔どこかで使っていたような気がするんだ」
間宮「そうなのですか?」
空母棲姫「ああ。必死になって覚えたような……そんな記憶だ」
伊良湖「不思議な事もあるんですねー……」
間宮「ええ。もしかしたら前世の記憶かも? なんてね」
空母棲姫(……そういう事ですか。この二人は、深海棲艦は元々艦娘だったというのを知らないのですね。……混乱や同情を招きかねませんし、ここは黙っていましょうか)
間宮「それにしても、教えながらなのにいつもと同じ時間に出来上がるなんてビックリしました。これでしたら、すぐに戦力になりますね」
ヲ級「戦力? 私と、姫、戦うの?」
空母棲姫「この場合は役に立つという意味だ。私達はもう戦わなくて良いのだから、戦闘の事は忘れてしまえ」
ヲ級「はーい!」
伊良湖「空母棲姫さんは盛り付けが頭一つ抜けていて、ヲ級ちゃんは調理が良い感じになりそうですね」
間宮「ええ。お二人のこれからが楽しみです」
空母棲姫「……………………」
間宮「? どうかしましたか?」
空母棲姫「……いや、お前達は私達の事が怖くないのだろうかと思っただけだ。こうして深海棲艦に料理を教えるなど異常なこと極まりないだろう?」
伊良湖「あー……えっと……」
間宮「うーん……」
910:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/11(土) 22:01:02.26 ID:oGJEyN/uo
空母棲姫「……すまん。変な事を言ってしまった」
伊良湖「い、いえいえ! そんな事ないですよ!?」
間宮「……私は、お二人の事を怖くは思っていませんね」
ヲ級「提督と、一緒!」
間宮「いえ、提督はきっと本当に怖く思っていないだけです。……私は、正直に言うと料理を教えるまでは怖く思っていました」
空母棲姫「……過去形か」
間宮「はい。料理を覚えて貰っていく内に、そんな気持ちは無くなりました。だって、お二人とも凄く一生懸命になって覚えようとしてくれているんですから」
空母棲姫「そんな理由でか……?」
間宮「はい。物事に対して一生懸命になれる人に悪い人は居ません」
空母棲姫「その言葉をあの方が聞いたら反論されそうだな」
間宮「……確かにですね。悪い事に一生懸命になる者も居るぞーって言いそうです」
ヲ級「姫、提督の事、よく、知ってるね?」
空母棲姫「特殊な方ではあるが、なんだかんだで分かりやすいからな」
伊良湖「ほえぇ……」
間宮「あらあら」
空母棲姫「……なんだ?」
間宮「いえいえ、何でもありませんよー。──それよりも、あと少しで艦娘の皆さんが来ますけれど、一緒に配膳しますか?」
空母棲姫「それはまだ早い。もし目の前に立つとしても、私達の料理が良くなければ信用もされにくい」
空母棲姫「やるのならば私達の料理を気に入って貰ってからだ。……どうせあの方と同じように特異な艦娘ばかりだとは思うが、騒ぎになる要素は限りなく排除しておきたい」
間宮「はい。分かりました。それでは、明日に使おうと思っている材料の灰汁抜きのやり方を教えておきますので、艦娘の皆さんの食事が終わるまでの間はそれをお願いしますね」
ヲ級「はーい!」
空母棲姫「ああ、分かった」
間宮(……さてさて、提督を理解するのが早いように思いますけれど、それは信頼しているからなのか……それとも……?)
間宮(どっちでしょうかねー?)ニコニコ
……………………
…………
……
922:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/21(火) 21:29:12.55 ID:LX86aNYqo
利根「…………」コックリコックリ
提督(ん? ──ふむ。もうそんな時間か)チラ
飛龍「……提督、利根さんをどうしますか?」ヒソ
提督「寝かせてやろう。何年もこのくらいの時間には寝ていたんだ。眠くなるのも仕方が無い」ヒソ
飛龍「分かりました。毛布を取ってきますね」ヒソ
提督「いや、ベッドで寝かせてやろう。このままでは寝ても疲れる」ヒソ
飛龍「……………………」
提督「……すまんな」ポン
飛龍「いえ……大丈夫、で──あっ」
利根「…………」ゴンッ
利根「むがっ……!?」パチッ
提督「む。起きてしまったか」
利根「す、すまぬ! 寝てしまっておった! むぐぐ……ど、どこまでやっていたのか……!」
提督「利根、今日はもう寝てしまえ」
利根「いや、出来る所までやるぞ。提督も忙しいじゃろ」
提督「ならばこう言おう。その状態でどれだけの事が出来る。ミスは限りなく減らせるか?」
利根「む……む、むぅ……」
提督「いつもならばこのくらいの暗さになっていると寝ていただろう。無理はするな」
利根「むう……むむむむむ……」
提督「……珍しく聞き分けが悪いな」
利根「……我輩が頑張れば、その分だけお主が楽になるからじゃ」
飛龍(ああ、だから頑張っているんですね)
提督「体調を崩してしまえばその分だけ負担が掛かるぞ。それに、この調子ならば時間はまだある。心配するな」
利根「……………………」
提督「まだ理由が必要か?」
利根「…………むぐぅ……。分かった……。この一枚を最後にするのじゃ……」スッ
提督「そうしておけ」
923:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/21(火) 21:29:57.32 ID:LX86aNYqo
利根「提督は眠くないのかの?」カキ
提督「少しだけだ。寝ようと思えば寝られる程度といった所か」ペラ
飛龍「提督も無茶はしないで下さいね?」カリカリ
提督「ああ。飛龍、お前もな」ペラ
利根「……よし、終わりじゃ。飛龍、ここまで進めておいたぞ」スッ
飛龍「ふむ……分かりました。ゆっくり休んで下さいね?」
利根「すまぬ。後は頼む……」トコトコ
利根「おやすみじゃー……」モゾモゾ
飛龍(あれ……。当然のように提督のベッドへ入りましたね……)チラ
提督「…………」ペラ
飛龍(提督も気にしていない様子ですし……それがもう当たり前なんですかね……?)
飛龍「……良いなぁ」ボソッ
提督「……………………」
提督「利根、すまんが自分の部屋で寝てくれるか」
利根「ぬ?」
提督「時と場を弁えろと言っているんだ」
利根「む、そうじゃった。すまぬ」モゾモゾ
利根「では、また明日じゃ提督、飛龍よ」
提督「ああ、良い夢を」
飛龍「おやすみなさい」
ガチャ──パタン
飛龍(利根さんって、本当に提督と一緒に居るのが当たり前になってるんだなぁ……)
提督「飛龍」
飛龍「? 何ですか?」
提督「さっきの事だが、一応釘を刺しておく。誰にも言わないでくれ。私の注意不足だ」
飛龍「え、は、はい……」
飛龍(注意不足……? どういう事ですかね……?)
提督(……この書類に集中していて、利根がベッドに入るのを何とも思わなかったとは。私も島暮らしで色々と鈍ったという事か……)
……………………
…………
……
924:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/21(火) 21:30:25.88 ID:LX86aNYqo
金剛「…………」
金剛(流石に少し暇になってきまシタ。……そういう時はベッドで横になるのが一番デス)ギシッ
金剛「んー……♪」コロン
金剛(なぜかは分かりまセンが、このベッド、とても気分が良くなる時があるデス。何か特別な何かがあるのデスかね?)
金剛(誰かに護られているというか……そんな不思議な気分デス)
コツッ──コツッ──コツッ──
金剛(! テートクですか?)ガバッ
カチャッ……ガチャ──パタン
提督「元気にしているか」
金剛「イエス。コンディションはグッドデース」
提督「そうか、良かった。……すまんな」
金剛「何がデ──」
金剛(ああ……間宮が言っていた『私をここへ押し込んだと思っている』の事デスか)
金剛「問題ナッシング。これからはテートクの艦娘として頑張れるデス!」
提督「…………」ポン
金剛「?」
提督「ありがとうな、金剛」ナデナデ
金剛「────────」
金剛「──はい。ありがとうございます、テートク」ニコ
提督「…………」ピタッ
金剛「? どうしたデスか?」
提督「……いや、なんでもない」スッ
金剛「…………?」
925:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/21(火) 21:30:57.74 ID:LX86aNYqo
提督「話は変わるが、明日は金剛を正式にこの鎮守府の艦娘とする予定だ。その上の話だが、初めは多少の手を抜くという事を頼む」
金剛「着たばかりなのに強いのはストレンジだからデスか?」
提督「そういう事だ。いくら戦艦だからとは言っても、私達が向かう海域は錬度が足りない艦娘によるゴリ押しは出来ないような所だからな」
金剛「了解デース。フォローできるようなミスを少しするように心掛けマス」
提督「それと……初めはあまり良い空気が流れないと思う。その事は覚えておいてくれ」
金剛「……覚悟はしていマス」
提督「どうしても辛かったら言うんだぞ?」
金剛「イエス。その時はテートクを頼りにするデス」ニコ
提督「では、もう一日だけ我慢していてくれ。後で瑞鶴と響が来るはずだから、少しは寂しくなくなるだろう」スッ
金剛「あ、待って下サイ」ヒョイ
提督「うん?」
金剛「今回はクッキーを焼いてみまシタ。ティータイムの時にお茶菓子として皆と食べて下サイ」スッ
提督「……悪いな。ありがとう」スッ
金剛「今の私はこのくらいしか出来まセン。少しでも皆さんの、そしてテートクのお役に立ちたいデス」
提督「充分だよ」ポンポン
金剛「他にも何か出来る事があったら言って下サイね?」
提督「ああ。──では、私は戻る」
金剛「行ってらっしゃいませ」
ガチャ──パタン
金剛「……明日、デスか。大丈夫……きっと、大丈夫デスよね」
…………………………………………。
926:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/21(火) 21:31:37.77 ID:LX86aNYqo
提督「──本日の任務は以上だ。加えて、この鎮守府に新しくやってきた艦娘を紹介する。……入ってきてくれ」
比叡「ッ──!!」
榛名「────────」
霧島「…………」
金剛「英国で生まれた、帰国子女の金剛デース! よろし……」
全員「……………………」
金剛「…………く……」
金剛(……やっぱり、混乱しているようデス。どうしまショウか……)
長門(やはりこうなるか……)
比叡「……司令、一つよろしいですか」
提督「……許可する」
比叡「嫌な予感はしていましたけど、これは一体どういう事ですか?」
提督「見ての通りだ」
比叡「また……私は一緒に出撃しなければならないんですか……!」
提督「……行く行くはそうするつもりだ」
比叡「っ!!」グッ
霧島「比叡!?」
パァンッ──!
提督「…………」
比叡「…………!」ギリッ
金剛「ひ、比叡……?」
比叡「!」ハッ
比叡「……すみません」
提督「予想はしていた。グーでなかっただけ良かったと思っている」ポン
比叡「…………」
927:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/21(火) 21:32:03.49 ID:LX86aNYqo
提督「お前がどれだけ金剛の事を慕っているのかは分かっているつもりだ。……この後、執務室へ来るように。利根と飛龍は午後から執務に入ってくれ」
利根「わ、分かった」
飛龍「……はい」
比叡「……………………」
提督「良いな、比叡?」
比叡「……分かりました」
提督「よろしい。──榛名と霧島は金剛にこの鎮守府の案内を頼んで良いか?」
榛名・霧島「は、はい!」
提督「頼む。……色々と話しても構わん」
榛名「提督……」
提督「以上だ。朝礼は終わりとする」ツカツカ
比叡「…………」トコトコ
金剛「……テートク」
提督「なんだ?」
金剛「どうか……お手柔らかにお願いしマス」
提督「勿論だ」ツカツカ
金剛「…………」
榛名「……あの」
金剛「……ハイ」
霧島「これから、この鎮守府の案内をしますね。……それと一緒に、なぜ比叡があんな行動を取ったかの説明もします」
金剛「分かりまシタ。お願いするデス、榛名、霧島」
榛名「お任せ下さいね。……金剛、お姉様」
金剛(……これは、予想以上に受け入れられるのが難しいかもしれまセンね)
金剛(無理もないのは分かりマスが……少し、辛いものがあるデス……)
…………………………………………。
937:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/31(金) 22:58:31.02 ID:acyh+DLJo
ガチャ──パタン
提督「さて比叡」
比叡「……はい。どんな罰も受けます」
提督「そうか。ならばソファに座れ」
比叡「はい」スッ
提督「さて……お前には話さなければならない事がある」スッ
比叡「…………?」
提督「憶えているかは分からないが、あの金剛や瑞鶴、響は一度会っている」
比叡「会ってる……?」
提督「憶えていなかったか。私と利根が居た島──そこに居た三人があの三人だ」
比叡「……そうですか。──って、あの三人は別の鎮守府の艦娘じゃありませんでした?」
提督「そうだ。三人の希望もあってこの鎮守府に籍を入れる事となった」
比叡「……………………」
提督「私はあの三人を放っておく事が出来ない。共に支え合って暮らしてきた事もある。だから私は受け入れたんだ」
比叡「……もう『前の』お姉様達を、忘れるという事ですか?」
提督「いいや、忘れんよ。……むしろ、細かい部分まで思い出しているくらいだ」
比叡「ならばなぜ……!? 司令はどうして三人を受け入れようと思ったんですか!?」
提督「……三人に頼まれたから──というのもあるが、言われた事もあるからだ」
比叡「何をですか……?」
提督「もし自分達が沈んだ立場だったら……立ち止まらず、忘れずに前に進んで欲しい」
比叡「────────」
提督「私に付き従ってくれていた三人だったら、確かにそう言うだろうと思ったよ。いつまでも過去に囚われていて身動きが取れなくなっている姿を見せたら悲しまれそうだ」
比叡「…………」
提督「お前はどう思う、比叡」
938:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/31(金) 22:58:58.46 ID:acyh+DLJo
比叡「……私は…………」
提督「……………………」
比叡「…………いえ。私も、お姉様達に囚われないようにしなくちゃいけないかもしれませんね」
比叡「そもそも、私たち艦娘はいつも死と隣り合わせなんです。どれだけ錬度を積み重ねても、圧倒的な暴力の前では沈むのも当たり前です。……どうしてでしょうかね。いつの間にか、心の底では沈まないって思っていました」
比叡「いえ、何があっても、司令ならば沈ませないって思ってしまってました」
提督「…………」
比叡「……でも、私達がやっているのは戦争です。むしろ、お姉様達が沈むまで誰一人として欠ける事が無かったのが奇跡だったんです」
比叡「沈ませているのだから沈む事もある。総司令部からの伝達でも毎月に何人も何十人も沈んでいるってあったのに……本当、沈むのなんて当たり前の事だったんですよ」
比叡「それが……たまたまお姉様達だっただけの話なのに……」ジワ
提督「……比叡」
比叡「!」ゴシゴシ
比叡「──引っ叩いてごめんなさい、司令。私は、もう大丈夫です! 改めて罰を与えて下さい」
提督「…………」スッ
比叡「? どうかしましたか、しれ──」ポン
提督「……今まで耐えてくれてありがとう、比叡」ナデナデ
比叡「ぇ────」
提督「…………」ナデナデ
比叡「…………」ジワ
提督「…………」ナデナデ
比叡「ぅ、ぁぁ……」ポロポロ
比叡「酷い……酷いですよぉ……! 司令は厳しくしていれば良いんです……! 優しくするのは、金剛お姉様にだけで良いんですよ……!」ポロポロ
比叡「なんでいつもみたいに吊るそうとしないんですか……! なんでいつもみたいに、罰を与えようって……言わないんですかぁ……。なんで……なんで……?」ポロポロ
提督「今のお前に罰を与えるほど鬼ではないつもりだ」ナデナデ
比叡「うあぁぁ……ぁああぁぁぁ……」ポロポロ
…………………………………………。
939:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/31(金) 22:59:24.50 ID:acyh+DLJo
比叡「…………」
提督「落ち着いたか?」
比叡「……司令に泣き顔見られました」
提督「まあ、そういう事もあるだろう」
比叡「なんだかすっごく恥ずかしいです……」
提督「そうか」
比叡「……司令もなんだかんだで寂しそうな雰囲気だった癖に、いつもの調子に戻ってますし」
提督「宥めていた側だからな」
比叡「……もー」フイッ
提督「…………」
比叡「…………」チラ
提督「お前も、受け入れてくれるか?」
比叡「……時間が掛かりますよ」
提督「いくらでも掛けて良い。前に向かってくれるのならば」
比叡「…………はい。私、頑張ります!」
提督「ああ、頼んだぞ」
比叡「少しずつ、ですけどね」
提督「金剛も分かってくれるだろう。悪い子ではない」
比叡「そうですよね! なんたって『金剛お姉様』には違いないのですから!」
提督(……言っている意味はなんとなく分かるのだが、艦娘と人間の感性の違いだろうか)
比叡「どうかしましたか、司令?」
提督「いや、特に。──では、戻って良いぞ比叡」
比叡「はいっ! 今回はお話が出来るように頑張ります!」
提督「ああ」
提督(……私も、しっかりと心の整理をしなければな)
……………………
…………
……
940:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/31(金) 22:59:52.92 ID:acyh+DLJo
利根「提督よ、書類の処理が終わったぞ!」
提督「そうか。今日もご苦労だった利根、飛龍」スッ
飛龍「教えた事もしっかりとこなせるようになっていますし、処理速度も充分ですよ」
利根「本当か!? 頑張った甲斐があったのじゃ!」
飛龍(……ええ。寂しいですけど、もう利根さん一人でも秘書として務められそうですね)
飛龍「ですので、明日からはもう利根さん一人でも大丈夫だと思います」
利根「む? 何を言っておるのじゃ?」
提督「……ああ。確かにそうだな」
利根「む? むむ?」
飛龍「利根さん、私がここに居るのは利根さんのサポートでしたよね?」
利根「……そういえばそうじゃったの。という事は……」
提督「そういう事だ。利根、明日からは私と二人で書類を全て終わらせるぞ」
利根「……………………。のう、飛龍よ。飛龍はそれで良いのか?」
飛龍「良いも悪いもありません。これは決まっていた事です。提督の秘書は一人だけ……。私はあくまで利根さんの教育をしていたに過ぎません」
利根「……提督」
提督「規則を変えるつもりは無いぞ」
利根「むう……」
飛龍「提督、利根さん……ありがとうございました」ニコッ
利根「…………」
提督「今まで良く利根を教育、サポートをしてくれたよ飛龍」
飛龍「いえいえ。私も楽しんでいましたから」
提督「……そうか」
飛龍「はい」
利根「……………………」
941:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/31(金) 23:00:38.35 ID:acyh+DLJo
飛龍「それではお二人とも、私は先に失礼しますね」スッ
提督「ああ。ゆっくり休んでくれ」
利根「……おやすみじゃ」
飛龍「はい、おやすみなさいませ」
ガチャ──パタン
利根「……のう、提督よ」
提督「どうした」
利根「飛龍は、これで良かったのかのう」
提督「どちらかと言うと、良くなかっただろうな」
利根「やはりか……」
提督「だが、これからも飛龍はあまり変わらないかもしれん」
利根「そうなのかの?」
提督「執務の時間は確かに無くなったが、私と接する機会などいくらでもあるからな」
利根「なるほどのう。その機会の時を狙うという訳じゃな」
提督「そういう事だ」
コンコンコン──
利根「む?」
提督「こんな時間に珍しいな。──入れ」
ガチャ──パタン
瑞鶴「やっほー提督さん」
響「遊びに来たよ」
金剛「失礼しマス」
ヲ級「こんばんはー♪」
空母棲姫「お邪魔します」
利根「おお? 珍しいのう」
提督「遊びに来たというのも気になったが、この面子が揃ったのも気になるな」
942:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/31(金) 23:01:09.65 ID:acyh+DLJo
響「私はいつものように部屋から抜け出して外で海を眺めていたよ」
瑞鶴「そこに、なんだか眠れなくて外を歩いてた私と会って」
金剛「ナイトの鎮守府を歩いていた私が二人を見つけまシテ」
空母棲姫「久し振りに海へ出たいと、せがんだこの子に手を引かれた所で鉢合わせしました」
ヲ級「したの!」
利根「……凄い偶然じゃのう」
響「金剛さんと瑞鶴さんはともかく、私と空母棲姫さん達はいつか会ってただろうね」
利根「二人はどうして今日に限って外に出たのじゃ?」
瑞鶴「だって……今この鎮守府の空気って凄く重いし」
金剛「私も気を遣われているのが居た堪れなくなりまシテ……」
空母棲姫「食事中も静かなようでしたし、貴方の『金剛』がそれだけ影響を与える立ち位置に居たというのがよく分かります」
利根「婚約もしておったからのう……」
瑞鶴「……え!?」
響「そうなの?」
提督「ああ。そうだ」
金剛「デモ……私、テートクがリングを指に付けている所を見た事が無いデス。……私や瑞鶴のように仮では無いのデスよね?」
提督「結局、渡せずに居たからな」スッ
瑞鶴(指輪を入れる箱……。まだ保管してたって事は、つまりそういう事よね?)
提督「だが、いい加減に決別するべきだろう。今度、海で眠っている三人の所へ花と一緒に供えるか」
瑞鶴(……と思ったけど、大丈夫そうね。ちゃんと気持ちの整理、出来たのかしら)
響「その時は私も付いていって良いかな」
提督「ん? 構わないが、どうしたんだ」
響「ちゃんと挨拶しておきたいからね。これから司令官のお世話になります──って」
瑞鶴「あ、それ私も行きたい。提督さん、良い?」
提督「ああ。金剛はどうする?」
943:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/07/31(金) 23:01:36.53 ID:acyh+DLJo
金剛「……そうデスね。私も行くデス。紅茶とスコーンを用意して、三人がティータイム出来るようにしマス」
提督「きっと三人も喜ぶだろう。日程が決まったら伝えよう」
ヲ級「私も、作りたい!」
空母棲姫「貴女は黙っていなさい」ポン
ヲ級「? どうして?」
瑞鶴「えーっと……」
響「…………」
提督「すまないヲ級。また今度作ってきてくれないか? 近い内に今ここに居る者達でお茶会を開こう」
ヲ級「あ、お菓子、作ってきてるよ!」パッ
利根「おお? では今から茶の時間かの?」
提督「ふむ。たまにか良いか」
金剛「それでは紅茶を淹れてくるデース!」
瑞鶴「金剛さんの紅茶とかすっごく久し振りよね」
響「うん。本当に久し振りだ。司令官、長門さんも呼びたいのだけど良いかな?」
提督「寝ていなかったら構わん」
響「そっか。じゃあ呼んで来るね」タタッ
提督「心配無いとは思うが、誰にも見付からないようにな」
響「勿論だよ。──じゃあ、行ってくるね」
ガチャ──パタン
…………………………………………。
959:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/08/17(月) 20:49:32.83 ID:0RatcqjDo
長門「……こんな時間に茶の会とは随分とのんびりしているな」
提督「たまたまだ。こんな事は滅多に無い」
長門「むしろ『お茶会』は何かの隠語で実際は緊急作戦会議か何かかと疑ったくらいだ。……本当に言葉そのものだとは思いもしなかった」
響「ああ、だからやけに張り詰めた雰囲気だったんだね」
空母棲姫「何をそんなに身構えているのやら。そんなに私達が脅威に見えるか」
長門「可能性として考えるのは許してくれないだろうか。私はお前たち二人の事を良くは知らないんだ。……艦娘と深海棲艦が一緒の席に着いているという事も違和感ばかりだ」
空母棲姫「そうであってくれ。いい加減、信じ過ぎるこの人間や艦娘達に溜め息を吐きたくない」
提督「単純にお前が頑固なだけという可能性は考えないのか?」
空母棲姫「む……」
提督「極論を言ってしまえば、艦娘と深海棲艦の違いは我々人類に危害を加えてきたかどうかの差でしかない。逆に艦娘が人間を襲い、深海棲艦が人間の味方をしていれば立場は逆転している。危害を加えてくるのならば敵。協力するのであれば仲間。それだけだ」
空母棲姫「確かにそうですが……」
提督「例えば今のこの世情で艦娘が人間を襲えば、その艦娘はいかなる手段を使ってでも排除されるだろう」
空母棲姫「……………………」
提督「全ては認識次第だ。敵という認識ならば敵。味方という認識ならば味方。お前たち二人は味方という認識に置かれているという事だ。行動でな。そもそもの話、お前たち二人は私達に危害を加えてきたか? 逆に協力をしてくれただろう」
ヲ級「お魚、とか?」
提督「ああ。あれは本当に助かった。あのままでは飢え死にするのは間違いなかった」ナデ
ヲ級「えへー」ホッコリ
空母棲姫「……………………」
利根「つまり我輩たち艦娘も深海棲艦も在り方が違うだけで、人間から見て違うのは姿だけというものなのじゃな」
提督「そういう事だ。まだ納得できないか?」
空母棲姫「…………はぁ……まったく、どうしてそんな風に割り切れるのかしら……」
提督「変わり者だとは常々言われている」
960:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/08/17(月) 20:50:05.47 ID:0RatcqjDo
響「違いないね。ここにも変わった艦娘しか居ないし」
瑞鶴「待って。まさかそれって私も含まれてる?」
響「にゃぁにゃぁ」
瑞鶴「ッ!?」ビクンッ
五人「?」
瑞鶴「そ、そそそうねぇ……? 確かに変わり者ばっかりよねぇ?」
金剛「…………? えっと、とりあえず私は紅茶を淹れてきマース」スッ
利根「ぬ、金剛よ。ついでで悪いのじゃが我輩に紅茶の淹れ方を教えてくれぬか? 日本茶は飛龍に教えて貰ったのじゃが、紅茶の淹れ方も知りたいのじゃ」スッ
金剛「勿論デース! 一緒に淹れまショウ!」
利根「うむ! ありがたいぞ!」
瑞鶴「……へぇ。利根さんって紅茶にも興味あったんだ」
提督「最近は色々な事に手を出している。勉強熱心だよ。──ところでヲ級、お茶菓子は何を持ってきたんだ?」
ヲ級「ワッフル! 間宮さん、伊良湖さん、褒めてくれた!」スッ
空母棲姫「もうベタ褒めでした。甘い方も甘くない方も、初めて作ったとは思えないと言っていたわ」
長門「! ……確かに、良い香りだ」
瑞鶴「……ん? もしかして長門さんって甘い物が好きだったの?」
響「そうなんだ?」
長門「む……いや、そのだな……。…………嫌い、ではない……」
提督「そうか」
長門「……なんだ。悪いか? 悪いのか?」ジッ
提督「味の好みなど個人差が激しいものだ。好みで人を左右するようなものでもないだろう。食の好みに口を挟むような者はここには居らんよ」
長門「……そ、そうか。うむ。そうだな。味覚で人は決まらない」
提督「ああ。だから、これからは間宮と伊良湖が甘味を振舞った時も遠慮なく口にして良いぞ」
長門「~~~~~~っ!」
提督「恥ずかしがる事でもない。どうせ向こうでは口にしたくても出来なかったのだろう? ここならば誰も気にせん。むしろ、間宮も伊良湖も手を付けない事から甘い物が嫌いなのかと思っていると言っていた」
長門「……変ではないのか?」
提督「どこが変になるんだ。さっきも言ったように好みなど個人で大きく違う。堂々としていれば何もおかしく思われん。むしろ変に気にしていると周囲もおかしな目で見るぞ」
長門「なるほど……ふむ……」
提督(……長門も頑固な子か。……いや、プライドが高いのか? 自分の好きな物を抑えつけても仕方が無いだろうに)
…………………………………………。
961:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/08/17(月) 20:50:37.00 ID:0RatcqjDo
利根「待たせてしまったのう。紅茶が出来たのじゃ!」
金剛「お待たせしまシタ」
ヲ級「紅茶、始めて……!」キラキラ
金剛「紅茶は良いものデース。きっとお二人も気に入ってくれマス」スッ
利根「……ふむ? 金剛よ、最後に淹れた紅茶を提督に出すのは何か意味があるのかのう?」
金剛「良い所に気が付きまシタね利根。茶葉はティーポットに入っている間も抽出されていマス。最後の一滴はゴールデンドロップと呼ばれていて、一番濃い茶液の一滴が入ると味が引き締まるのデス」
利根「ほー。そんな意味があるんじゃのう……」
瑞鶴「へぇ……」
響「同じティーポットの紅茶なのに、そんな違いがあるなんて初めて知ったよ」
ヲ級「♪」ワクワク
提督「さて、全員に行き渡ったようだ。頂こう。──ヲ級、少ない包みの方が甘くない方か?」
ヲ級「うん!」
提督「うむ。分かった」スッ
響「じゃあ私達はこっちだね」スッ
長門「…………」スッ
空母棲姫(素直に甘い方を手に取りましたね)スッ
利根「我輩も甘くない方を食べてみるかのう」ヒョイ
提督「ほう、珍しいな」
利根「そういう気分の日もあるのじゃ」パク
利根「! ふむ。ふむふむ」モグモグ
ヲ級「どうっ?」ワクワク
利根「これもこれで一興があるのう」ズズッ
金剛「甘い方もとっても美味しいデース!」
瑞鶴「これが初めてなんて、とても思えないわね……」
響「才能かもね」
962:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/08/17(月) 20:51:04.06 ID:0RatcqjDo
長門「…………」モグモグ
長門(……非常に美味い。甘さもくどくなくて、すっきりとしている)
ヲ級「ね、ね、どうっ?」
長門「ぅ……む…………美味い、ぞ」フイッ
ヲ級「♪」ニコニコ
長門「…………調子が狂ってしまう」ハァ
空母棲姫「その気持ちはよく分かるぞ……」
提督「頑固であれば頑固である程この現状に頭を痛めるぞ」
長門「全くもってそうだな……。こんな無邪気な顔を見せられたら、今まで警戒していたのは何だったのかと思ってしまう……」
ヲ級「?」パクパク
長門「ああほら、欠片が口の端に付いているぞ」スッ
ヲ級「! ありがと!」ニパ
長門(……本当に、敵とは思えないな)
空母棲姫「……私も認識を改めるようにする」
長門「ん?」
空母棲姫「…………」フイッ
長門(……本当、私たち艦娘も深海棲艦も……なぜ戦っているのだろうな。二人に訊いてみたいとは思うが──)チラ
金剛「今度一緒にスコーンも焼いてみまセンか?」
ヲ級「すこーん?」
響「英国のお菓子だよ。紅茶と一緒に食べると凄く美味しいんだ」
利根「我輩も作りたいぞー!」
金剛「テートク、今度また隣の部屋をお借りしても良いデスか?」
提督「構わんぞ。その時は私に鍵を取りに来るようにな」
瑞鶴「あ、私も見てみたい」
ヲ級「楽しみ! ね、姫?」
空母棲姫「……新しい料理を覚えるのは楽しみだな」
利根「おお、少し素直になったぞ」
空母棲姫「くっ……! からかうのならば、お前のにだけトマトのように赤くなるまで唐辛子を入れてやろう……!」
利根「す、すまぬ……。激辛は嫌じゃ……」
空母棲姫「ふん」
長門(……この空気を壊したくない。機会があったときにでもするか)
…………………………………………。
963:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/08/17(月) 20:51:55.91 ID:0RatcqjDo
レ級「──あー、あー。えっとぉー! お前ら聴こえてるー!? これから作戦を開始しまーす! 聴いてなかったら殺すから注意しようねぇ!」
レ級「んじゃあ陽動部隊は今すぐにでも突っ込もうかぁ。テキトーに殴ってたら良いよテキトーにね。あ、でも逃げる時は東に逃げる事! これ大事だから頭無くなっても絶対守ろっか! 打撃部隊は命令するまでここで待機。オッケー? はい陽動部隊は突貫して突貫!」
ザアアアアアアアァァァァァァ…………────。
レ級「うぅーん楽しみだ。誰がどのくらい死ぬかなぁ? 出来れば私が蝙蝠クンをぶっ殺したいけど。ま、そう簡単にアイツは死なないし、残ってくれるよね」
レ級「さあ無意味に殺して殺される戦いを始めよっかぁ!! ギャハハハハハァ──!!!」
…………………………………………。
976:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/08/29(土) 01:47:09.21 ID:Xvwctebdo
ドンドンドンッ──ガチャッ!
大淀「提督! 大変で──っ!?」
空母棲姫「なッ!?」
ヲ級「!!」ビクンッ
大淀「深海棲艦!? な、なんでここに!?」
長門(……これは面倒な事になるぞ)
提督「大淀」
大淀「っ!」ピシッ
提督「何があった。先にそれを言え」
大淀「え……? あ、えっと……?」チラ
空母棲姫「…………」フイッ
ヲ級「…………」ヂー
大淀「……ここらの地域の鎮守府が深海棲艦から襲撃を受けたという情報が総司令部より入りました」
金剛「え──」
響「…………」
瑞鶴「ちょっ、それって本当なの?」
大淀「はい。ほとんどの鎮守府は哨戒が役立ち致命的な被害は出ていないようですが……下田鎮守府は爆発音と共に無線が途切れてしまったらしく、安否は不明のようです」
金剛「────────」
提督「全員を叩き起こせ。迎撃──いや、防衛だ」スッ
利根「周辺の鎮守府に支援を送るのではないのか?」スッ
提督「組織的に動いているのにも関わらずこの鎮守府だけ襲撃されていない事を考えると、ここに何か用があるはずだ。大淀、電信室で鎮守府内全域に緊急出撃命令を出せ。全員、兵装を確認した上で外へ出すんだ。そして周辺の灯台を全て使い、海へ向けて照らせ。この夜の中ではまともに戦えん」
977:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/08/29(土) 01:47:36.38 ID:Xvwctebdo
大淀「畏まりました。……そこの深海棲艦の事、後で教えて下さいね」タッ
提督「お前達も自分の兵装を取りに行け。私はここで空母棲姫とヲ級に話す事がある」
長門「……その命令には従えん。危惧している事がある」
提督「そうか。利根、金剛、瑞鶴、響、お前達は先に行け。後で長門も向かわせる」
利根「分かったぞ!」
瑞鶴「うん、行ってくるわね!」
金剛「…………分かりまシタ」
響「思う所はあるだろうけど、長門さんも早く来てね」
──バタン
提督「さて長門、手短に済ませたい。話せ」
長門「私はこの襲撃がそこの二人が手引きしたものではないかという可能性も拭えないと考えている」
空母棲姫(……まあ、そうなるわね)
長門「可能性が低いのは分かっている。だが、この場に貴方を一人にして殺されでもしたら指揮系統を一気に失ってしまう。万が一の事も考えて私を残しておくべきだ」
提督「やはりな。だが、その心配は要らん。この二人は私を襲えない理由がある」
長門「理由?」
提督「前にも話した通り、この二人は深海棲艦から敵と認識されている。空母棲姫に至っては沈められる寸前だった。その二人が今ここで私を殺したらどうなる。海は一面に敵。陸も海から遠く離れてしまうと死んでしまう艦娘と同様、深海棲艦も死んでしまうだろう。何よりも兵装が無くて戦う事が出来ん」
長門「……別の可能性は、まだ一つある。貴様が深海棲艦側に立ったという可能性だ」スッ
提督「やはりそうなるか」
長門「その深海棲艦が人と共存を望んでいる? どんな奇跡だそれは。今まで人間を、艦娘を殺してきた奴らが共存を望むなどと馬鹿げた事があるか! それに、貴様自身もイレギュラーな要因を含み過ぎている。深海棲艦と和解しているというのもそうだが、他所の鎮守府の艦娘を手玉に取っている事も怪しい限りだ!」
長門(……カマを掛けてみたが、さあどうなる)
大淀『緊急事態発生! 緊急事態発生! 深海棲艦が母港を襲撃してきます!! 全艦娘は兵装を整えた上、即刻外へ出て整列をして下さい!! 繰り返します──』
978:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/08/29(土) 01:48:09.43 ID:Xvwctebdo
空母棲姫「…………」スッ
提督「待て、空母棲姫。手を出すな」
空母棲姫「このままでは貴方の身が危険です。兵装が無いとはいえ、生身で艦娘と戦う貴方をただ見るだけなんて出来ません」
提督「前提からして間違っている。私は戦う気など毛頭無い。下がれ」
空母棲姫「……分かりました」スッ
長門「つくづく分からん人間だ」
長門(信用させる為の罠か、それとも私の危惧している事が空振ってくれたのか……。後者ならば良いのだが……)
提督「よく言われる」
長門「……そうだな。お前はそういう人間だった」
提督(だいぶ時間を取ってしまった。そろそろ話を終わらせなければならんが、長引くようであれば実力行使も視野に入れておくか)
提督「さて長門。お前はここでのんびりとしているが、船着場で集まっている艦娘をどう思っている」
長門「どういう意味だ」
提督「分からんのか。こうしている間にも深海棲艦はここへ来ている。そこに指示を出す者が居なかったらどうなるか、と訊いているんだ」
長門「……………………」
提督「仮に私が深海棲艦の手先になっていたとしても、私を殺したからといって何が変わる? お前が艦隊の指揮作戦を取れるのならば私を殺すのも一手だが、お前にそれが出来るのか?」
長門「……………………」
提督「ハッキリと言おう。今この場で利敵行為をしているのはお前だ。──時間はもう無いぞ。さあ、どうする長門」
長門「!」
長門(……初めて敵意を向けてきた。今ここで敵意を出してくるのは、深海棲艦へ寝返ったならばタイミングがおかしい。この方の言う通り、放っておけば艦娘は全滅しかねない。敵であれば、ここは時間稼ぎをしてくるか、もっと前から敵意を見せてくるはず)
長門「…………」
提督「…………」
ヲ級「…………」ハラハラ
空母棲姫(…………)
979:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/08/29(土) 01:48:41.59 ID:Xvwctebdo
長門「……すまない。私の杞憂だったようだ。後で罰を受けさせてくれ」
提督「ああ、後でな。──では長門。お前は金剛達と同じ場所で待機しておけ」
長門「了解した。……頼むぞ。貴方は私の新しい提督になってくれなければならんのだからな」タッ
ヲ級「……怖かった」ホッ
提督「味方と仲間割れだけは勘弁願いたいから助かったよ」
空母棲姫「…………」
提督「さて、二人には話さなければならない事がある。二人は出来れば隣の部屋で大人しくしていてくれないだろうか。勿論、危険だと判断したら外へ逃げてくれ。これが鍵だ」スッ
空母棲姫「……逃げた先に貴方の艦娘が居たらどうしましょうか」スッ
提督「……そうだな。私の予備の軍服を預けておく。それを見せれば攻撃しないようにと指示しておこう」カチャ
空母棲姫「ありがとうございます」スッ
提督「それとだな……」
空母棲姫「? 何かしら。珍しく歯切れが悪いようだけれど」
提督「……かつての同胞を私達が沈めるのに抵抗はあるか?」
空母棲姫「ありません。私達はただそこに居るだけです。なんとなくの目的が同じなだけであって、特に意識をして集まっているという事はありません」
ヲ級「うんうん」コクコク
提督「目的か」
空母棲姫「ええ。艦娘を沈める──という目的です。今となっては、どうでも良い事ですけれど」
ヲ級「そんな事よりも、皆と居る方が、楽しい!」
提督「そうか。安心したよ。──では、いってくる」スッ
空母棲姫「いってらっしゃいませ」
ヲ級「負けないで!」ブンブン
空母棲姫「……………………」
空母棲姫「……ヲ級」
ヲ級「?」
空母棲姫「いざとなったら工廠へ行くぞ。場所は憶えているか」
ヲ級「? うん、憶えてるよ。どうしたの?」
空母棲姫「……あの長門の言ったように、私のも杞憂であれば良いのだが」
ヲ級「? ??」
空母棲姫「一先ず移動するぞ。ついてきなさい」
ヲ級「うん!」
空母棲姫(もしもの時は……そうですね、私が盾になる事も考えておきましょうか。この子はすぐに皆とも溶け込めるでしょうけれど、私は……)
空母棲姫(そうするのが、きっと一番良いはずです)
…………………………………………。
989:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/09/17(木) 15:47:54.33 ID:0EZ9LAzno
レ級「アハハハハァッ!! 艦載機が敵味方問わずにドンドン墜ちてるよぉ! こんなに見栄えの悪い花火大会は初めてだねぇ!!」
レ級「……うんうん。ま、当たり前だけど戦況は今の所こっちが有利って所かぁ。数の暴力って素晴らしいよねぇホント。おまけにゴミムシ共の艦載機は夜だと性能を発揮できない。そりゃあこっちの方が有利になるってもんさッ。なんか一部の艦載機だけ動きが良いように感じるけど、まあそれの数は少ないから良っかぁ!」
レ級「……………………」
レ級「だが……奴等も馬鹿ではないらしい。指揮官が優秀といった所か。わざと隙を作らせているというのに進軍してこないとは……。ここまで統率の取れている艦娘を相手にするのは面倒だ」
レ級「さあ、早く攻めてこい。殲滅する為にかかってくると良い。……その時が貴様らの最後だ」
…………………………………………。
990:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/09/17(木) 15:48:35.78 ID:0EZ9LAzno
大淀「!! 提督、緊急連絡が入りました。周辺に設置してあった灯台の一つが敵の砲撃により破壊されたとの事です」
提督「やはり長くは保たないか。戦線より下がった艦娘に照明弾を撃たせるとしよう。本当は吊光投弾が良いのだが、制空権が劣勢の状況では使えん」
大淀「はい、そうしましょう。撤退した中で射撃精度が一番高い五十鈴さんと名取さんに任せてよろしいですか?」
提督「いや、天龍と龍田に任せよう。早々に撤退してしまって悔しがっているはずだ。二人ならば射撃精度も充分にあるし、連携も取りやすいだろう」
大淀「分かりました。──妖精さん、船着場で待機している天龍さんと龍田さんに指示書を送ってもらって良いですか?」スッ
妖精「はーい。分かったなのー」テテテ
提督「……しかし、戦局が動かんな」
大淀「そうですね……。ですが、あの突いて下さいと言わんばかりの隙を提督は罠だと仰いましたけど、どういう事なのですか?」
提督「これだけ大規模な作戦を展開している奴が、こんなミスをする訳がない。仮にミスをしていたとしても、ここまで気付かないとなると不自然だ。何を考えているのかは分からんが、もしかしたら潜水艦部隊が待ち構えているかもしれんぞ」
提督「あの隙を狙うという前提ならば相当な数の艦娘を動員せねばならん。本当に待ち構えているとしたら、こちらの戦力が半分以上沈んでしまう事になる。そんな事を私はさせたくない。ついでにその時はこちらの敗北が決定される」
大淀「なるほど……。確かにそうなってしまうと背筋が凍ってしまいます。──それともう一つ、気になった事があるのですが」
提督「何かあったか」
大淀「……交戦している敵なのですが、何かおかしくありませんか?」
提督「おかしい?」
大淀「はい。確かに私達は提督の手で育てられた実力のある軍集団です。ですが、それを考慮しても少し上手くいき過ぎているような気がして……」
提督「……………………」
大淀「提督、これは私の杞憂なのでしょうか」
提督「……いや、大淀の言う通りだ。確かにこれは少しおかしい。下田鎮守府は悪名を聞くとはいえ、随時補給の出来る鎮守府での戦闘で早々に陥落する程だ。他の鎮守府も抑えるので手一杯。なのに、どうしてこの鎮守府だけ反攻できそうな状況になっている」
大淀「……提督、これはあまり考えたくないのですが」
提督「悪い予感は的中するものだ、大淀。……今戦っている深海棲艦の大群は陽動と考えて良いだろう。その遥か後ろに本丸が控えているかもしれん。あの隙はもしかすると、それが本当の目的かもな」
大淀「という事は、わざと戦線を後退させていって艦娘を引き寄せ、鎮守府の守りが手薄になった所を叩いてくる可能性があると」
提督「そうだ。もし奴らが退いていった場合、その方向とは逆から奇襲が来るはずだ」
大淀「ただ、そうとしてもやっぱりおかしい部分があります。それだけの物量があるのであれば、どうして一気に攻め込まないのでしょうか。その方が確実にこの鎮守府を落とせるはずです」
991:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/09/17(木) 15:49:08.81 ID:0EZ9LAzno
提督「……………………」
大淀「……提督、何か知っているのではありませんか? ……例えば、提督のお部屋に居たあの深か……二人の事とか」
提督「……間違いなく関係しているだろう。だが、敵としてではないはずだ」
大淀「どういう意味ですか?」
提督「あの二人は深海棲艦から攻撃を受けた過去がある。恐らくだが敵はあの二人を狙ってこんな手段を取ってきているのだろう。一気に攻めてしまえば陸へ逃げられてしまう。だからこうして、勝てるかもしれないという錯覚をさせているのだろうな」
大淀「……それが本当だとしても、どうしてこの場所を突き止められたのでしょうか」
提督「以前、空母棲姫から聞いた話がある。装備の質で言えば深海棲艦が圧倒的な優位に立っていると。こちらのレーダーも最新を使っているとはいえ、誤検出も反応しないというのもあって精度が悪い。艦載機もそうだ。だとすれば、こちらの索敵範囲外から位置を知られていてもおかしくない。追跡された可能性は大いにある」
大淀「…………」
提督「残念ながら装備の差は事実だ。それは、戦っている皆も薄々ながら気付いているだろう」
大淀「……提督、失礼な事を聞いても良いでしょうか」
提督「構わん」
大淀「……提督は、どうしてあの深海棲艦を受け入れたのですか?」
提督「端的に言うならば命の恩人だからだ。あの二人が居なければ、私も利根も餓死していた。それと、大事な事を気付かせてもくれている」
大淀「大事な事、ですか?」
提督「金剛に瑞鶴、響の事だ。……私が沈ませてしまった方の、な」
大淀「……………………」
提督「あの二人が居るからこそ、私はこうして帰ってきた。あの二人が居なかったら、私は死ぬまであの島で暮らしていただろう」
大淀「そうでしたか……。もしかして、提督の軍服を預けている相手というのは、その二人の事ですか?」
提督「そうだ」
大淀「……信用しているのですね」
提督「それだけあの二人には助けられた。共に生活もして、信用に足る者だと思えたよ」
大淀「…………」
提督「……………………」
大淀「……深海棲艦って、何なのでしょうか」
提督「さあ、な……」
…………………………………………。
992:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/09/17(木) 15:49:43.85 ID:0EZ9LAzno
レ級「はぁー……。ここまで誘いに乗ってこないのは感心しちゃうねぇ。お姉さん、ちょっとだけショックだ。ちょっとだけね」
レ級「さって、では次の手に移るとしよっか! ──おーい、そこのお前」
リ級「?」
レ級「そう、お前。作戦は変更。さっさと灯台壊したら好き勝手突っ込んで良いって陽動部隊に伝えて。今すぐ! ここに居る本部隊の連中がテキトーな所で援軍に入るから、後は逃げる時には東へ逃げろっていうのももう一回言っちゃって!」
リ級「…………」コクリ
レ級「んでもって本部隊のキミ達ー! 突っ込んだら私の護衛とか援護とか何も要らないから、絶対にくっついて回らないように! もしそんな事したら容赦無く水底へ直行させるから注意しようねぇ!」
レ級「そんじゃ、合図したら突っ込もっかぁ!」
…………………………………………。
993:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/09/17(木) 15:50:16.84 ID:0EZ9LAzno
大淀「!! 提督、今の報告……」
提督「……このタイミングで積極的に攻撃をしてくるとはどういう事だ?」
大淀「痺れを切らしたのでしょうか……」
提督「分からん。だが、何かの策がある事には違いない。あの二人を追ってきたのであれば強攻策を取るとは考えにくい」
大淀「そうですよね……。どうなさいますか? 流石に今以上の戦力を投入されると厳しいと思いますが」
提督「そうだな……。引き撃ちの指示を出して──……ん?」
大淀「え? これってどういう……?」
提督「……現状の敵戦力であれば迎撃が可能? 殲滅する事も視野に入れられる?」
大淀「私の聴き間違いではないようですね……。何があったのでしょうか……」
提督「分からん……。敵が痺れを切らしたかのような動きで向かってくるのを迎撃しているようだが……。これではいつもの統率の取れていない深海棲艦と同じだ。明らかにおかしい」
大淀「こちらの被害も大きくなっているようですが、それよりも敵の消耗の方が激しいと……。提督、どうしましょうか」
提督「……………………」
提督「大破した者は変わらず撤退だ。そして、撤退した者は母港にて高速修復材を出し惜しみせず使用。休憩を挟んで疲れが取れ次第、再度出撃をして前線の支援と戦闘だ」
大淀「無理をしようとしている方には?」
提督「後で吊るすから覚悟しろと伝えておけ」
大淀「ふふっ。やっぱり提督は提督ですね。──私もその作戦で問題無いと思います」
提督「そうか。ではそう伝えてくれ」
大淀「分かりました。──全艦娘に告げます。作戦内容に修正を加えます。撤退した者は母港にて高速修復材を出し惜しみせず使用の許可を与えます。休憩を取って疲れが取れ次第、再度出撃。前線への支援と戦闘をして下さい。なお、大破した者は変わらず撤退する事を必ず意識して下さい」
大淀「そして提督からの個人的な伝言です。命令に背いたり無理無茶無謀をする者は後で吊るす、との事ですのでお気を付け下さい」
大淀「……なぜかは分かりませんが、最後の伝言を伝え終えたら全員の気が引き締まったかのような気がしました」
提督「よっぽど吊るされたくないようだ」
大淀「そうみたいですね」ニコッ
提督「……さて、何が起きるか分からん。私達も考えられる限りの対策を練るぞ」
大淀「はい!」
…………………………………………。
994:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/09/17(木) 15:52:44.59 ID:0EZ9LAzno
今回はここまでです。また一週間後くらいに来ますね。
金剛飛龍本の通販委託が決まりましたので告知しておきます。
タイトルは『その笑顔が好きデスから』です。分かる人には分かると思いますが、その笑顔が好きという台詞は飛龍のケッコンボイスだったりします。
https://eden1943.booth.pm/items/141653
それでは次スレを立ててきます。
995:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A:2015/09/17(木) 15:58:59.90 ID:0EZ9LAzno
次スレはこちらです。残りの5レスは感想や雑談などご自由にお使い下さいませ。
利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 二隻目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1442473049/
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スレタイ:利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」
元スレ:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416837049/