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勇者「魔王捕まえた」 前編
勇者「魔王捕まえた」 後編
勇者「魔王捕まえたその後に」
元スレ SS速報VIP
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 05:05:51.28:SdirUp2Qo
<帝国>
元帥(馬鹿な)
元帥(馬鹿な馬鹿な……)
元帥「それは、まことかね。何かの間違いでは?」
「いいえ、確かに十日前、我が軍第一師団は撤退を余儀なくされました」
元帥「……まこと、かね」
「……はい」
元帥「信じられん、なぜそのようなことになったのだ」
「相手はコボルトの群れでした」
元帥「コボルト!?」
「はい」
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7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 05:08:51.24:SdirUp2Qo
元帥「あのコボルトか?」
「ええ、確かに間違いありません」
元帥「確かに、人間よりもはるかに強靭だが……」
「六千の、コボルトにです」
元帥(馬鹿な!)
元帥「……」
「……」
元帥「にわかには、信じられんな」
「私もです」
元帥「だが、君が嘘をついているようには見えん……信じよう」
「光栄です」
8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 05:18:40.47:SdirUp2Qo
元帥「となると、だ」
「はい、その通りです」
元帥「ああ、計画を前倒しにする必要が出てきたやもしれん」
「ええ」
元帥「現在の進捗状況は?」
「約三割といったところでしょうか」
元帥「急ぐように伝えろ」
「は!」
元帥(魔界に何か動きがあった……そう見た方が妥当か)
元帥「……勇者」
元帥(まさかな……)
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 06:39:10.12:SdirUp2Qo
<魔界.魔王城>
勇者「と、言うわけで、魔族の強化を始めようと思う」
剣士「唐突に口を開いて何が『と言うわけで』、よ」
メイド「わたくしにも分かりませんわ」
勇者「ん。まあ、大したことじゃないんだ。
今度のことみたいに俺がいちいち出張ってたんじゃ色々都合が悪い。
だから魔族の軍事力を底上げして騎士軍と互角に戦えるようにしようと思って」
剣士「そんなことして大丈夫?
今度は人間側が脅かされるわ」
勇者「そうだな。だから前回みたいに比較的弱い……もとい温和?な種族に戦術を授けようと思う」
剣士「例えば?」
勇者「ゴブリン?」
剣士「どこが温和よ」
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 06:51:10.65:SdirUp2Qo
勇者「まあ、ただの例えだよ。
まあ、そこら辺はメイドに訊こう」
メイド「わたくしですの?」
剣士「まあ、当たり前だけどこの中では一番魔界通だものね」
メイド「ちょっと待ってくださいまし。
わたくしはあなた方の仲間になった覚えはありませんわ」
勇者「でも魔族の強化は悪い話じゃないだろう?」
メイド「……わたくしは戦は嫌いですわ」
勇者「あんまり魔王を脅しには使いたくないんだけれど……」
メイド「それはもう脅しになりませんわ」
勇者「?」
メイド「あなたはそういう人じゃないってなんとなくわかりましたもの」
勇者「……」
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 06:57:47.79:SdirUp2Qo
勇者「でも、俺はやるときはやる男だ。そういう訓練も受けた」
メイド「それでもあなたはやりません」
勇者「どうかな」
メイド「やりません」
勇者「やるよ?」
メイド「やりません」
勇者「……困ったな」
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 07:18:49.78:SdirUp2Qo
メイド「ではわたくしはお洗濯をしに行きますわ」スク
勇者「……」
メイド「……」ツカツカ
メイド「……そういえば、資料室」
勇者「!」
メイド「あらやだわたくしったら独り言を。変な癖は治しませんと」
剣士「……」
メイド「お洗濯お洗濯」ツカツカ……
剣士「……素直じゃないわねえ。
あれでもだいぶ懐柔できたのかしら」
勇者「どうだろうね」
22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 15:31:51.00:SdirUp2Qo
<魔界.会議堂>
コボルト族長「……」
ゴブリン族長「……」
妖精族長「~♪」
勇仮「……」
勇仮(とりあえず、資料室で調べてピックアップした種族はこの三つだ。
個としての力は強くないが、数が多く集団行動が得意で、なおかつ比較的思慮深い。
こいつらを鍛えれば、程よい戦力になるはず……)
コボルト族長「……そろそろ聞かせてもらっても良いのではないか?
我らはなぜここに集められた?」
勇仮「ぬ、そうだな。説明を始めたいと思う」
ゴブリン族長「儂らはあまり頭がよくない。分かりやすく頼む。
出ないといつ手が出るかわからんぞ……?」
妖精族長「~♪」
勇仮「ふむ。鋭意努力いたそう」
23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 15:37:12.93:SdirUp2Qo
勇仮「まず、各部族に報せは回っていると思うが、我輩は新しく魔王さまの側近となった仮面人と申す。
ここであらためて挨拶を申し上げたい。これからどうかよろしく頼む」
ゴブリン族長「仮面人、か」
妖精族長「~♪」
コボルト族長「我々は比較的早くその情報を頂いておる。
先の戦は……まあなかなかのお手前であった」
ゴブリン族長「東平原の戦いか。儂も一応は聞いておるな」
勇仮「ならば話は早い。我輩の実力はもう分かっていただけたと思う」
コボルト族長「まあ、一応は、な。あれがマグレの可能性もあるが。
それに前に出て戦わない指揮官など、ただの臆病者だ」
勇仮「どのように思って頂いてもよい。
我輩の力によって騎士軍を敗走させた……は言いすぎにしても追い払ったのは事実だ」
ゴブリン族長「……ふむ」
妖精族長「~♪」
24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 15:43:46.32:SdirUp2Qo
コボルト族長「それで? 話を先に進めていただこうか」
勇仮「単刀直入に申しあげよう。あなた方の種族の者を我輩の手駒にしたい」
ゴブリン族長「……!」
コボルト族長「ほう……」ピク
勇仮「我輩はまだ就任したばかりで組織を動かすだけの力は持たん。
だが、これから魔王さまを補佐していくうえでその力は絶対に必要となる。
だから、あなた方の力がほしい」
ゴブリン族長「……」チラ
コボルト族長「……」コクリ
勇仮「……」
ゴブリン族長「ずいぶんな物言いではないか、若いの。
儂らは物では――ないぞッ!」バッ!
コボルト族長「ふっ!」シュッ!
勇仮(まあそうだよな!)バックステップ
25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 15:49:43.52:SdirUp2Qo
勇仮「待たぬか。我輩に刃を向けるのは魔王さまへ刃を向けるのと同じこと」
コボルト族長「ぬかせ、この若造が。臭いで分かる。お前は異端の者だ」
ゴブリン族長「儂は仮面から覗く目で分かる。お主はそれほど強くはないな」
勇仮「……」
勇仮(確かに俺はただの暗殺技能者。
たとえ比較的弱い種族相手といえども、真正面からじゃ絶対に負ける)
コボルト族長「覚悟しろ、異端者め」ジリジリ
ゴブリン族長「……」ジリ……
勇仮(いけるか?)スッ
妖精族長「お待ちになってください」
26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 16:13:13.24:SdirUp2Qo
コボルト族長「のんきに鼻歌を歌っていた輩が口をはさむな」
ゴブリン族長「話はこやつを殺してからでも遅くはあるまい?」
妖精族長「いいえ、遅すぎます」
勇仮「……ふむ」
妖精族長「仮面人様、わたしはあなたをたいそう名のある方とお見受けします」
勇仮「いや無名であるが」
妖精族長「ふふ、ご謙遜なさらないで。
先ほどからあなたの鋭い闘気をひしひしと感じます」
勇仮「……」
妖精族長「それに騎士軍を、半分の数のコボルト軍で追い払ったそうですね。
並大抵のことではありませんわ」
勇仮「先ほどから何が言いたい?」
妖精族長「協力して差し上げてもよい、と申し上げているのです」
コボルト・ゴブリン「!」
27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 16:55:25.83:SdirUp2Qo
勇仮「それはありがたい」
妖精族長「ただし条件がありますわ」
勇仮「なんであろうか」
妖精族長「妖精族があなたの手駒になるのではなく――あなたが妖精族の手駒となるのです!」
ヒュッ! ビィィィィイイン!
勇仮(弓射!)
妖精族長「わざと外しましたが、次は当てさせますよ」
28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 16:56:31.25:SdirUp2Qo
ゴブリン族長「……お主」
コボルト「……」
妖精族長「あなた方も動かないでください」
勇仮(どこから射撃を……)チラ
妖精族長「妖精族は魔族の中で一番力が弱いですが、その分隠密行動が得意です。
探しても無駄ですよ」
勇仮「……」
妖精族長「~♪」
29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 16:57:37.85:SdirUp2Qo
妖精族長「ふふ、たとえあなたが異端者であろうと、魔王さまに近いところにいるのは事実。
ならばわたしたちの部族の発展に利用させていただきます」
勇仮「ふむ……」
妖精族長「あなたの持てる知識を全て引き渡しなさい」
勇仮「……」
妖精族長「……」
勇仮「断る」
妖精族長「そうですか。残念です」
ヒュッ!
妖精族長「では痛い思いをしてもらうまで!」
30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 16:59:22.80:SdirUp2Qo
勇仮「くっ」サッ
――ビィィィィイイン!
妖精族長「無駄です」
ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!
勇仮「“連拳”!」ズガガガガ!
妖精族長「打ち落としますか。さすがですね。でも――」
勇仮「く……」
妖精族長「あなたを狙う矢がこの倍に増えたら?」
キリキリキリ……
妖精族長「もっと倍に増えたら?」
キリキリキリキリキリキリ……
妖精族長「さらに倍に増えたら?」
キリキリキリキリキリキリキリキリキリ……
妖精族長「きっとあなたは死ぬのでしょうね」
――ギリリ……!
31:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 17:01:07.24:SdirUp2Qo
勇仮「……」
妖精族長「……」
コボルト族長「……」
ゴブリン族長「……」
勇仮「……プッ」
コボルト族長「?」
妖精族長「……ふふ」
ゴブリン族長「?」
勇仮「ふ、はは……」
妖精族長「ふふふふ」
勇仮「く、はは、はははははははは!」
妖精族長「うふふ、あははははは!」
32:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 17:02:02.12:SdirUp2Qo
コボルト族長「……???」
ゴブリン族長「……いったい何だと言うのだ」
勇仮「ははははは……。いやすまない。随分と面白い冗談だと思ってな」
妖精族長「クスクスクスクス……」
コボルト族長「冗談?」
勇仮「いや、我輩の知識がほしいのに殺してどうする」
ゴブリン族長「む……」
妖精族長「ふふふ、その通りです」
コボルト族長「まさか、最初から」
妖精族長「いいえ、本当に知識を絞り出して手駒にするつもりだったんですけれど」
勇仮「我輩が口を割らないのではどんなに脅しても意味はないしな」
33:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 17:02:47.02:SdirUp2Qo
妖精族長「痛めつけても良かったんですけれど」
勇仮「力の弱い奴が手加減なんて器用な真似は出来まい?」
妖精族長「その通りです。仮面人様、わたしたち妖精族は、あなたに従いましょう」
勇仮「助かる」
コボルト族長「悪ふざけが過ぎる……」
妖精族長「あら知らないんですか?」
ゴブリン族長「?」
妖精族長「妖精族はいたずらが好きなんですよ♪」
勇仮「ははは!」
42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 20:34:01.69:SdirUp2Qo
<魔王城>
剣士「あなたって」パチン
メイド「なんですの?」パチン
剣士「いえ、なんだかずいぶん大人しくなったものねって」パチン
メイド「そうですか?」パチン
剣士「だってちょっと前まで夜ごとに大暴れだったじゃない」パチン
メイド「毎日暴れていては疲れますわ」パチン
剣士「まあ、そうだけど」パチン
43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 20:34:45.25:SdirUp2Qo
メイド「まあ、馬鹿らしくなったっていうのはありますわね」パチン
剣士「ふーん?」パチン
メイド「あなた方を放置していても特に危険はないと分かりましたもの」パチン
剣士「まあ、わたしは暴れたりしないし」パチン
メイド「あ、その手は待ってもらえませんこと?」
剣士「えーまたあ?」
メイド「一生のお願いですわ!」
剣士「一生のお願いいくつあるのよ」
44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 20:35:50.23:SdirUp2Qo
メイド「えーと、何の話でしたか」パチン
剣士「あなたが大人しくなったって話」パチン
メイド「そうでしたわね。ううん、なんといいますか。
わたくし、勇者と一緒に戦闘にいったじゃないですか」パチン
剣士「ええ」パチン
メイド「あの時の大規模戦闘なんですけれど、勇者はなんだか堂々としていて」パチン
剣士「……」パチン
メイド「なんとなく、逆らう気が失せたっていいましょうか」パチン
剣士「……そう」パチン
メイド「あ! 王手ですわ!」パチン!
剣士「……」
メイド「どういたします?」ニヤニヤ
剣士「……降参」
メイド「やったー! ついに勝ちましたわー!」バンザーイ
剣士「飛車・角落ちのハンデ付きだけどね」
メイド「それでも勝ちに違いはありませんわー!」バンザーイ
剣士「……ふう」
45:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 20:36:50.32:SdirUp2Qo
メイド「勝った後のお茶はおいしいですわー」ズズ……
剣士「……でもそうなると魔王がかわいそうよねー」ズズ……
メイド「……あ」
剣士「唯一頼りにしていたメイドも助ける気がなくなっちゃうなんて」
メイド「そ、それは……」
剣士「それは?」
メイド「……」
剣士「……」
メイド「魔王さま、今助けに!」
剣士「させないわよ」サッ
メイド「きゃっ」コケ
46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 21:01:20.87:SdirUp2Qo
勇者「仲がよさそうで何より」
剣士「あ、おかえり」
勇者「ただいま」
メイド「どうでした?」
勇者「かよわい者ほど危険って身にしみたよ」
メイド「なんですのそれ?」
勇者「いいや、こっちのことだ」
48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 21:21:56.83:SdirUp2Qo
勇者「とりあえず三種族の協力は取り付けた」
剣士「じゃあ、第一段階はクリアね」
メイド「次はどうなりますの?」
勇者「教習に入る。とりあえず戦術の基本を頭に入れてやって、実地訓練を積ませるんだ。
できれば戦術だけじゃなくて戦略も叩き込ませたいけど、俺にもよくわかってないから無理だな」
メイド「戦術と戦略ってどう違いますの?」
勇者「俺もよくは呑み込めてない。
戦に勝って何をするのかが戦略で、戦にどうやって勝つかが戦術、かな?
とにかく戦略の方が上位なんだ」
メイド「難しいんですのね」
勇者「ああ、でも戦術だけでも事足りるはずだ。
早速明日から訓練だよ」
剣士「わたしも行ってみたいけど」
勇者「留守番を頼む」
剣士「そうよね」
メイド「わたくしはどうしますの?」
勇者「大人しくしていてくれるならどちらでもいい」
49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 21:28:13.29:SdirUp2Qo
メイド「じゃあ――」
・
・
・
メイドさんの行動安価:勇者についてくor留守番
現レス番+2
※ストーリーの大筋に影響なし。気楽に
51:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/06/03(金) 21:38:01.94:9OMb505M0
メイド「ついていきますわ」
剣士「……なんで?」
メイド「え? なんとなくですが」
剣士「だってあなた戦は嫌いって」
メイド「そういえばそうですわね。あれ、なぜでしょう?」
剣士(この娘……)
メイド「まあ、いいじゃありませんか」
勇者「その方が安全と言えば安全だしな」
剣士「……分かったわ」
54:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 21:58:00.16:SdirUp2Qo
勇者「それじゃ」
メイド「わたくしも失礼します」
ギィィ バタン
剣士「……」
剣士「……気にいらない、わねえ」
剣士「……」
剣士「……!」ハッ!
剣士「だめだめ、ここで余裕を失っちゃだめよ剣士。
もっとどっしり構えなさい。ファイトよ、ファイト」
剣士「……でもねえ」
剣士「……あの娘、勇者に惹かれてるのかしら?」
61:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 01:49:04.21:gD1nMCCqo
<翌日>
ザワザワ ザワザワ……
勇仮「……」ツカツカ……
「お、来たぞ。あいつが噂の……」
「確かに魔王さまの剣だ……」
「あれを使って先陣を切り、鬼のような強さでこないだの人間の軍を蹴散らしたとか……」
メイド(だいぶねじ曲がって伝わっているようですわね……まあどうでもいいですけれども)
62:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 01:49:37.38:gD1nMCCqo
勇仮「あー、諸君、静粛に頼む」
――シーン
勇仮「ありがとう」
勇仮「では、お初にお目にかかる方が大勢なので改めてごあいさつ申しあげよう……」
勇仮「我輩は先日魔王さまの急な任命によりその側近職に就任した仮面人、である。
この間の騎士軍との戦闘で指揮をとり、その撃退に努めたのを知ってる方もおられるかもしれない」
勇仮「我輩は魔王様より一つの使命を頂いておる。
それを成すために全てを賭してかかるようにと」
「それは、一体?」
勇仮「魔王軍の軍事力、その底上げである」
「……」
63:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 01:50:11.61:gD1nMCCqo
勇仮「我輩が諸君らにできることはそう多くない」
勇仮「我輩は諸君らの強化を助けることはできるかもしれないが、実際強くなるのは諸君らである」
勇仮「身命を賭して諸君らを鍛える。諸君らも全力でそれに応えてほしい」
「……」
勇仮「……よいか!」
「……!」
勇仮「諸君らは確かに魔界のあらゆる種族の中で下位の位置にあるかもしれない!」
勇仮「だが! それは持てる能力の使い方を知らない、ただそれだけのことである!」
勇仮「我輩は諸君らに飛び方を教える! それをしっかりと頭に刻み込め! 身体に覚えさせろ! その血肉に嫌という程叩き込め!」
勇仮「そして誓えッ! そうして得た力の全てを魔王さまのために! あの方のためだけに行使すると!」
「……!」
「おお……!」
「おおお!」
勇仮「……我輩からは、以上だ」
勇仮「諸君らの頑張りに期待する」
64:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 01:50:38.63:gD1nMCCqo
メイド(まったく口が達者なことですわね)
勇仮「さて……」
勇仮「今日はこれから、そうだな、簡単なテストを受けてもらう」
勇仮「メイド、説明してやってくれ」
メイド「かしこまりました!」
メイド「ええと、皆さんはこれから各隊に分かれてあの遠くに見える山までの道を往復していただきます」
メイド「簡単にいえばこれだけです」
65:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 01:51:05.31:gD1nMCCqo
「それだけ?」
勇仮「ああ、今日明日はそれだけだ。ただし真剣にやってくれ。
これはテストであるが、大事な下準備でもある」
「……」
勇仮「うむ、諸君はいい目をしておる」
勇仮「そんな諸君によい知らせだ!」
「なんだなんだ?」
勇仮「優秀な成績を残した、つまり往復して一番に戻ってきた指揮官には褒美を与えよう!」
「褒美?」
66:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 01:51:41.49:gD1nMCCqo
勇仮「諸君! ここにいるメイドについてどう思う!?」
「可憐だ」
「可愛い」
「抱きしめたい」
メイド「え? え?」
勇仮「うむ。皆も我輩と同じ感想を持っているようだな、よかったよかった」
勇仮「さて! 優秀な成績を収めた指揮官! そなたにはこのメイドから愛情のこもったキスをプレゼントする!」
「なんだと!?」
メイド「なんですって!?」
勇仮「と、いうわけで頑張ってくれ。
おっと、女性指揮官には別途賞与を用意するから安心してほしい」
67:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 01:52:08.12:gD1nMCCqo
メイド「ちょ、ちょっと!」
勇仮「では出発だ!」
「おおおおおおおおおおおお!」
勇仮「頑張ってくるのだぞー!」
メイド「ま、待って――」
ドドドドドドドドドドドドド!
メイド「ああ、待ってくださいましー!」
勇仮「はーっはっはっはっはっはっは!」
68:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 01:52:35.62:gD1nMCCqo
メイド「……」ムスー
勇者「いたた……」ヒリヒリ
剣士「……お疲れ様」
メイド「わたくし、あんなふうに訓練のダシに使われるのはもう嫌ですわ!」
勇者「でも効果はてきめんだった。
みんなあれほど熱心に……」
メイド「わたくしの意思はどうなりますの!」
勇者「今回は女性指揮官が優勝だったし。結果オーライ」
メイド「それを盲目と言うんです! 結果以外にも目を向けてくださいまし!」
69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 01:53:04.04:gD1nMCCqo
勇者「結果は結果」
メイド「と・に・か・く! もう一度あんなことしたらただでは済みませんわよ!」
勇者「でも」
メイド「……」キッ!
勇者「分かりました」
メイド「よろしい」
剣士(お茶おいしい)ズズ……
70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 01:53:30.99:gD1nMCCqo
剣士「ところで、今回の訓練にはどんな意味があったの?」
勇者「ああ、強化という視点では別に大した意味はないよ」
メイド「破ァッ!」バキ!
勇者「へぶし!」
メイド「何の意味もなくあんなことを!?」
勇者「落ち着くんだ。その手に持ったフォークを下ろしなさい」
剣士「……」ズズ……
71:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 01:54:06.93:gD1nMCCqo
勇者「まあ、平たく言えば、現状把握だよ」
メイド「現状把握?」
勇者「ああ。現在の実力が分からないとこれからの計画も立てにくい
だから移動・機動の速度や手際、そして団結力、統率力を見る必要があった」
剣士「なるほど」
勇者「大体わかった。三つの種族のどの部隊も平均して集団行動は得意だ
でも本能や経験に頼る面が大きくてなかなか効率的じゃない
だからこれからそれを補っていけばいい」
メイド「……」
勇者「そろそろフォークを下ろしてもらえる?」
メイド「……はあ。仕方ないですわね」
72:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 01:54:54.03:gD1nMCCqo
勇者「さて、本腰を入れなきゃな。これから訓練することはいくらもある」
メイド「頑張ってくださいまし」
勇者「何言ってるんだ? 君も勉強すべきだよ」
メイド「え?」
勇者「俺に何かあったときは君が対処できるようにする必要がある」
メイド「そんな」
勇者「まあ一応ね、一応」
メイド「わたくし戦は」
勇者「嫌いな食べ物は食べなくてもいいって? それは違うだろう
別に実際戦うわけじゃなくても知っておいて損はない」
メイド「……分かりました」
勇者「うん、そういうわけでこれからもよろしく」
メイド「はあい……」
87:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 18:09:03.18:gD1nMCCqo
<魔界.会議堂>
ザワザワ ザワザワ……
勇仮「――静かに。それではこれから講習を行いたいと思う」
「実際に身体を動かす訓練はしないのですかー?」
勇仮「実地訓練は後だ。諸君らにはまず、座学によって戦術の基本を学んでほしい」
「……そんなもの役に立つのか?」
「実際に身体を動かして鍛錬を積んだ方が……」
勇仮「諸君らの思いももっともである。だが諸君らは今まで漫然と戦ってきただろう。
それでは良くないのだ。戦い方と言うものを体系的に学んでもらいたい」
「でも」
勇仮「我輩とてそのように学んできたのだ。その前提は呑み込んでくれ、頼む」
「……」
「仕方ないな」
「俺も了解だー」
勇仮「分かっていただけたか、感謝する。では講習に入ろう」
89:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 18:40:34.63:gD1nMCCqo
勇仮「まず戦いにはいくつかの原則がある。それを頭に叩き込んでくれ」
勇仮「まず一つに『目標の原則』だ」
勇仮「目標をしっかり把握しておくこと。簡単にいえばこれだけだ」
勇仮「だがこと戦場においてはそれすらできていない輩がたくさん出てくる」
勇仮「それは仕方のないことかもしれない」
勇仮「だがそれによって自軍を危険にさらしてしまうならばそれは悪だ!」
勇仮「……だから、『今自分が"何のために""何をしているか"』。それを忘れるな」
90:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 18:48:09.20:gD1nMCCqo
勇仮「次に『統一の原則』」
勇仮「集団戦においては、全員がばらばらの行動をしていたのでは勝てない」
勇仮「だから、各人の行動を一つにまとめる必要がある」
勇仮「そのために最高指揮官を一人に定める事が必要だ」
勇仮「二人の指揮官で行動すれば二倍の戦果が望めると思うか?」
勇仮「否! その効率は格段に落ちる! ……四分の一程度だと思っておけ」
91:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 18:54:08.97:gD1nMCCqo
勇仮「さらに主導権を常に握っておくことを説いた『主導の原則』」
勇仮「戦力を一点に集中させることを説いた『集中の原則』」
勇仮「相手の意表をつく『奇襲の原則』」
勇仮「集団の移動について。『機動の原則』」
勇仮「その他『経済の原則』『簡明の原則』『警戒の原則』などがある」
「仮面人殿、一つよろしいか?」
勇仮「うむ、聞こう」
92:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 19:00:18.37:gD1nMCCqo
「聞いていれば当たり前のことではないか。そんなものに時間をかけたのか?」
勇仮「……諸君らは歴戦の戦士だ。当然このようなことは経験的に知っているだろう」
勇仮「だがどうだろう。諸君らの内にこれらの事を明言した者はいたか?」
勇仮「それを書物にのこした者はいたか?」
「それは……」
勇仮「それが人間たちと諸君らの大きな違いだよ。
人間は弱いなりにこのような事をしっかり認識するだけの知恵があるのだ」
勇仮「いいか、原則を甘く見るな、おろそかにするな」
勇仮「そうすればそれらの認識は君たちを強くしてくれるだろう」
「……」
・
・
・
93:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 19:15:16.41:gD1nMCCqo
・
・
・
メイド「ええと、以上が戦闘の原則でしたわね」
メイド「……よし」
メイド「次にやったのは、戦いの基本となる四つの部隊」
メイド「すなわち……ええと」
メイド「前衛部隊、射撃部隊、機動部隊、兵站部隊……」
メイド「……だったでしょうか、たしか」
94:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 19:17:52.65:gD1nMCCqo
メイド「他にも発見、拘束、制圧、機動、打撃……」
メイド「そういう『仕事』という面から部隊をまとめる見方もあるそうですわね」
勇者「まだまだ兵科という分け方もある」
メイド「あ、勇者」
勇者「騎兵、歩兵、魔術兵、工兵、伝令兵エトセトラエトセトラ……」
メイド「あわわ」
勇者「まあ少しずつ覚えていけばいいさ」
メイド「頭が痛いですわ……」
勇者「いや、メイドは頑張ってるよ」
メイド「これからこれが続くと思いますと気分が重くなります」
勇者「もっと頑張ってくれ」ポンポン
メイド「気安く頭をタップしないでくださいまし。まったく……」
103:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 22:37:31.02:gD1nMCCqo
<牢屋>
魔王「……」
魔王「魔王です」
魔王「……ぼくのこと覚えてる人はいるんでしょうか」
魔王「寂しい」
魔王「でも、何気に慣れてきちゃったっていうのが、悔しいです……」
魔王「魔王です……」
剣士「哀れね」
104:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 22:38:43.33:gD1nMCCqo
魔王「あ、剣士さん……」ススス
剣士「なんで逃げるのよ……って仕方ないか」
魔王「なんですか、ぼくを笑いに来たんですか?」
剣士「なんか卑屈になってるし」
魔王「ふ。ぼくなんて勇者に勝てず、なおかつ死ぬこともできないただのゴミですよ……」
剣士「そんなに落ち込んでるならいっそ餓死でもして見せなさい。いつも食事は残さず食べるくせに」
魔王「だっておなかの虫が」
剣士「殺虫剤あるわよ」
魔王「死にたくありません」
剣士「どっちなのよ、まったく」
105:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 22:52:25.34:gD1nMCCqo
剣士「……」
魔王「……?」
剣士「……ふう」
魔王「どうかしましたか?」
剣士「いえ、別に――っていえるほど強くないのよね、わたしも」
魔王「はい?」
剣士「愚痴ってもいい?」
魔王「聞く義理はありません」
剣士「そうよね」
魔王「……でもぼくはゴミなので勝手に話されても止めることはできません」
剣士「……あなた優しいのね」
106:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 23:11:48.28:gD1nMCCqo
剣士「じゃあ、壁に向かって話すわね。
……あるところに女の子がいました。
彼女は父親に厳しく鍛えられてとても強い女の子でした」
魔王「……」
剣士「彼女の父親は名のある、強い剣士でした。
息子がいればその子を鍛えていたのでしょうが、残念ながら男の子が生まれる前に妻が死んでしまいました。
だから一人娘のその女の子を鍛えたのでした」
魔王「……」
剣士「つらく長い鍛錬。女の子は次第に疲弊し疲れ、すりへってしまいます。
それでも父親は訓練と称した暴力をやめてはくれません。
女の子はとうとう家を飛び出しました」
魔王「……」
剣士「女の子には行くあてがありません。
仕方なく魔王を倒すために家を飛び出したのだと思い込むことにしました。
もしくは魔王に殺されたかったのかもしれません。
そんな時、ある男の子に会いました」
魔王「……それって」
剣士「……」
107:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 23:14:47.01:gD1nMCCqo
剣士「男の子は一緒に行こうと言ってくれました。……相棒だと言ってくれました。
女の子はうれしかった……
でもその男の子は今は別の娘と仲良くしています。
女の子は寂しくて仕方ありません」
魔王「……」
剣士「おしまい」
魔王「……」
剣士「悪かったわね、変な話して」
魔王「……別に。ゴミですから」
剣士「ふふ、そうだったわね」
108:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 23:20:31.60:gD1nMCCqo
剣士「ま、そういうわけなのよ」
魔王「ゴミなので聞いていませんでした」
剣士「……徹底してるわね」
魔王「ゴミなりのプライドです」
剣士「あんまり卑屈になると後でつらいわよ」
魔王「後……ってなんでしょう?」
剣士「別に殺すわけじゃないんだからいつかは出られるでしょ」
魔王「いつか……いつですか?」
剣士「さあ?」
魔王「ええ、期待していませんでしたとも」
109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 23:25:02.54:gD1nMCCqo
剣士「聞いてもらったお礼よ。いや、聞いてはないんだっけ。
まあ、なんでもいいわ。あなたも何か話すといいわよ。
わたしは聞き流すから」
魔王「話すこと……何かあったでしょうか」
剣士「天井のしみの数とか、ネズミとの共同生活とか」
魔王「……。そうですねえ」
剣士「……」
魔王「じゃあ、一つ疑問が」
剣士「……?」
魔王「女の子っていいますけど、もうそういう年齢じゃない人もいますよね」
剣士「殺す」
110:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/04(土) 23:29:05.05:gD1nMCCqo
――ギャアアアアアア!
メイド「……?」
勇者「どうした?」
メイド「何か聞こえたような気が」
勇者「そうか? 俺は聞こえなかったけど」
メイド「空耳でしょうかねえ」
勇者「ま、そんなことはともかく勉強勉強、ほら」
メイド「ううう、頭痛いですわー……」
133:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 11:18:15.24:B/++CPHjo
<十数日後.魔界.平原>
メイド「……」
ザワザワザワザワ……
メイド「……全軍、前進です」
――オオオオオオオオオオ!
――ザッザッザッザッザッザッ!
メイド(わたくしの軍も相手の軍も横陣……
ただし相手の方が千名程多い……)
「相手軍も前進を始めました!」
メイド(相手は数を生かしてこちらを多方面から攻撃する手法を取ってくるでしょう。
大勢を一点に集中させる手法によって。つまり外線作戦です)
134:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 11:19:37.14:B/++CPHjo
メイド(ならばわたくしたちは各個撃破、つまり内戦作戦で対抗すればよい)
メイド(……そうでしたわよね、勇者様?)
「衝突まであと少し!」
メイド「今です! 斜行陣に移行を!」
――オオオオオオオオオオオ!
メイド(右側を多く、そして前へ。左側を少なく、そして後ろへ)
メイド(右側がせり出した斜め陣です!)
135:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 11:21:07.08:B/++CPHjo
「右側が敵軍と接触いたしました!」
メイド(さあ、どうなります!?)
カン! ガコン! バキ! ドゴウ!
メイド「押しもせず押されもせず……互角ですか」
――オオ、オオオオオオ……
メイド(勝機はまだ見えませんが……それでもまだいい方でしょうね)
136:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 11:22:35.67:B/++CPHjo
「……大変です。相手軍も陣の変形を始めました」
メイド「報告なさい」
「こちらを相手の右翼がこちらを囲いこむように伸びてきています。
これではこちらから見て左側が囲まれるのも時間の問題かと……!」
メイド「……」
「どうなさいます?」
メイド「ふふ……」
「……?」
メイド「計画通り! ですわ!」
137:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 11:23:31.00:B/++CPHjo
メイド「では、左側背後に用意していた予備を前進させなさい!」
「は!」
メイド「いいですか、変形した相手陣の、屈折点を狙うよう厳命なさい! わかったわね!?」
「合点承知!」
メイド「さあ、これで完了ですわ」
ザッザッザッザッザッザッザッザッザ!
メイド「わたくしの力、思い知りなさい!」
138:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 11:23:58.75:B/++CPHjo
ドゴ! ドガッ! ガゴ!
「……」
メイド「……」
オオオオオオオオオオオオオ!
「成功です。相手の本体と回り込んだ隊とを分断いたしました」
メイド「やったっ!」
139:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 11:24:26.01:B/++CPHjo
「後は各個撃破ですね」
メイド「そこら辺は各指揮官がうまくやってくれるでしょう」
「お見事です」
メイド「ふふふ。もっと褒めてもよいですわよ」
――オオオオオオオオオオオオオ……
141:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 11:35:00.87:B/++CPHjo
メイド「勇……仮面人さまー!」タッタッタ
勇仮「おお、よくぞ――」
メイド「やりましたわ、やりましたわよー!」ダキツキ!
勇仮「うおっと!」
メイド「このメイドやりました! 褒めてくださいまし!」
勇仮「うむ、よくぞこの訓練を乗り越えた。褒めてつかわそう」
メイド「……」ムス
勇仮「すごい。びっくりした」ヒソヒソ
メイド「!」パアァ
142:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 11:37:42.63:B/++CPHjo
勇仮「では今回の模擬戦闘はメイド軍の勝ちである。
残念ながら相手軍の指揮官はメイドとのデート権を逃したわけだな」
指揮官「ちくしょー!」
メイド「べー、ですわっ」
勇仮「だが両軍とも見事であった。この短期間でよくぞここまで成長してくれた。
我輩は誇らしく思うぞ」
「仮面人さまの教え方がうまいのですー」
「私たちも自信がつきました!」
勇仮「うむ、よいことだ。だが慢心するなよ。
落とし穴は常に足元に開いているのだから」
「はい!」
勇仮「では今日は解散だ
皆の者、お疲れ様」
「お疲れさまでーす!」
144:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 11:45:19.43:B/++CPHjo
<魔王城>
メイド「王手!」ビシィ!
剣士「……」
メイド「どうします?」
剣士「……完敗だわ」
メイド「ふぅ、そろそろ勝ち飽きましたわね」フフン
剣士「なんだか鬼のように強くなったわね。
まさかハンデもらって五戦全敗とは思わなかったわ」
メイド「わたくしの成長幅は天井知らずですわ!」
剣士「確かに横幅も増えてきたような」
メイド「えっ」
145:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 11:55:14.93:B/++CPHjo
メイド「ど……どどどどどういう意味ですの!?」
剣士「あなた最近運動してる? 勉強ばっかりじゃなかった?」
メイド「そ、それは!」
剣士「そのくせ食いしん坊だし」
メイド「うぐ……」
剣士「ちょっとは散歩でもしてきなさい」
メイド「……吸血鬼は日光に弱いのです」
剣士「今更何言ってるのよ普通に浴びてたじゃない」
勇者「そういえばなんで日光平気なんだ?
吸血鬼は日光に弱いって嘘なのか?」ズズ……
メイド「あ、いえ、わたくし実はクォーターですの」
剣士「……ってことは吸血鬼の血は薄いってこと?」
メイド「ええ」
剣士「ますます吸血鬼関係ないわね」
146:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 12:03:12.83:B/++CPHjo
剣士「ほら、とにかく散歩してきなさい。勇者も太った娘は嫌いでしょうよ」
メイド「! 行ってきます!」
剣士「いってらっしゃーい」
ガチャ バタン
勇者「なぜそこで俺が出るんだよ」
剣士「分かってるくせに」
勇者「……」
剣士「はぁ、まったく」
剣士(……わたしだって)
147:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 12:05:26.80:B/++CPHjo
勇者「……お茶飲むか?」
剣士「……いただくわ」
勇者「ほい」コト
剣士「どうも」
勇者「……」ズズ
剣士「……」ズズ
勇者「……」
剣士「……」
148:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 12:13:10.37:B/++CPHjo
勇者「行かせてよかったのか?」
剣士「メイド? 大丈夫。今のあの子ならあなたに逆らうことはないでしょうよ」
勇者「……」
剣士「それより聞かせてちょうだい」
勇者「なんだ?」
剣士「いつまでこんなこと続けられると思うの?」
勇者「こんなことって?」
剣士「こんなこと、よ」
149:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 12:24:35.74:B/++CPHjo
剣士「わたし、留守番してる間魔王城の資料室にも何度か足を運んだの」
勇者「……」
剣士「それで、色々な統計――と言えるほど立派なものじゃないけど――を見てわかったわ」
勇者「何が?」
剣士「魔界は何もしなくてもそのうち人間に負ける」
勇者「……」
剣士「魔界の未来は決まっているのよ」
勇者「……」
150:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 12:31:16.92:B/++CPHjo
剣士「言ってることが分からないなんてことはないわよね」
勇者「……ああ」
剣士「魔王軍は、その軍事力を最大限に発揮するための基盤を持ってないのよ」
勇者「分かってる」
剣士「政治も経済も商業も工業も。みんなみんな未熟すぎるの。
軍を支えるだけの兵站が整ってないの」
勇者「分かってる」
剣士「このまま続ければ必ず敗北がやってくる」
勇者「分かってる。いままで互角にやってこれた……ように見えたのは、ただの錯覚だ」
勇者「魔界は常に攻め込まれる側だったし、なんとか自分の陣地で待ち受けることでしか対抗できてなかった」
剣士「……」
勇者「魔獣がうろついているから人間の少数行動は制限される。人間の領域でないから兵站能力も少しは落ちる。
また、人間は疫病に対する対抗策をまだ見つけておらず、そのおかげで何とか滅ぼされずに済んでいる」
剣士「そうよ。人間はうかがってるの。確実に勝てるタイミングをね」
151:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 12:35:57.57:B/++CPHjo
勇者「俺のやっていることは……応急措置だ」
剣士「いいえ、それすらできていないかもしれない」
勇者「俺は彼らに戦術を教えたが、戦術は戦略なしには意味がない。
その戦略を支える政略なしには機能しない」
剣士「……」
勇者「分かってるんだ。そんなこと」
剣士「……」
勇者「分かってる……」
剣士「それでも?」
勇者「ああ、それでも」
152:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 12:46:03.88:B/++CPHjo
勇者「それでも、俺はあがくよ。物事が手の届く範囲にある間は、ずっと」
剣士「……」
勇者「それに剣士は勘違いしてる」
剣士「勘違い?」
勇者「俺たちの目標は、延命であって勝利じゃない」
剣士「……?」
勇者「人間を打ち負かせばいいってもんじゃないってことさ」
剣士「……」
勇者「俺たちがすべきことは、ただ一つ」
剣士「……魔界、人間界間の争いの調停」
勇者「そうだ」
154:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 13:03:59.93:B/++CPHjo
勇者「……いい機会だから話そう」
勇者「いいか。俺は勇者じゃない」
剣士「前にも言ってたわね。どういうこと?」
勇者「俺はただの暗殺技能者だ。騎士軍によって作られたコードネームが勇者というだけの、ね」
剣士「……?」
勇者「勇者計画という。
人間の限界を超えた人間によって魔王を排斥しようという計画だったんだ」
剣士「人間の限界を超えた?」
勇者「これで人間の限界値を超えてるんだよ。一応はな」
剣士「……」
155:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 13:04:44.07:B/++CPHjo
勇者「俺より強い候補者はいくらでもいたよ。それこそ極大広域消滅魔術なんて反則技を使う奴もいた」
剣士「でもあなたが生き残った?」
勇者「そうだ。俺は目的だけは忘れなかったからな」
剣士「生き延びること……」
勇者「ああ。後はそのためにできることをすればいい。
手の届かない範囲に物事があるんだったら手の届く範囲にもってくればいい」
剣士「……」
勇者「極大広域うんちゃらなんて馬鹿らしいものはいらないんだ。
人間なんて耳元で爆竹鳴らせば気絶する。
それだけのことなんだ」
剣士「つまり?」
勇者「目的達成のための力さえあれば後は不要。十分量以上は望むな。
……とは師匠の弁だけどな」
156:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 13:05:12.37:B/++CPHjo
剣士「……」
勇者「話を戻すと、俺は余分なものは求めない。手の届く範囲で何とかする。そういうことだ」
剣士「それでも」
勇者「……?」
剣士「それでも失敗した時は――わたしと逃げてくれる?」
勇者「……」
剣士「ずっとわたしと一緒にいてくれる?」
勇者「……約束は、できない」
157:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 13:06:18.19:B/++CPHjo
剣士「……」
勇者「……」
剣士「それなら話はシンプルよ」
勇者「え?」
剣士「失敗しちゃいけないものは成功させればいい。
一緒に居たければそばに寄ればいい」
勇者「……手の届く範囲にないものは手の届く範囲にもってくればいい」
剣士「いい? 勇者。いえ勇者じゃないかもしれないけれど。
それでもわたしはあなたのそばを離れないわ。ずっとよ」ツカツカ
勇者「……」
剣士「ずっとよ……」ギュッ
勇者「……ありがとう」
剣士「馬鹿……」
168:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 20:30:56.94:B/++CPHjo
<牢屋>
魔王「HAHAHAHA、それは本当かいジョン!」
魔王「本当だともトム! ぼくのママはその時奴に言ってやったんだ、玉無しクソ野郎って!」
魔王「でもジョン、ぼくはその先を知ってるぜ、そいつは既に玉を犬に食いちぎられてたってね!」
魔王「HAHAHAHA!」
魔王「……」
魔王「いまいちですねえ……」
ギィィィィィ ガチャン
魔王「! メイドさん!」
メイド「……」
169:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 20:31:36.90:B/++CPHjo
魔王「助けに来てくれたんですか!? よくあいつらの隙を突けましたね!」
メイド「……」
魔王「どうやったんですか!? あ、いやそんなことより早く出して下さい!」
メイド「……」
魔王「よーし、これで魔王復活です! 見てなさいあの二人!」
メイド「……」
魔王「再びぼくの力を見せつけて……?」
メイド「……」
魔王「……」
メイド「……」
魔王「……どうかしましたか?」
メイド「魔王さま……」
魔王「はい?」
メイド「わたくし、どうしちゃったんでしょう……」
魔王「……はい?」
170:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 20:32:47.54:B/++CPHjo
・
・
・
魔王「……なるほど、そんなことが」
メイド「……」
魔王「……鍵を開けては……もらえませんよね?」
メイド「……はい」
魔王「……」
メイド「わたくしは、今はあの方の嫌がることをしたくないのです、何故か」
魔王「……」
メイド「どうしてしまったんでしょう……」
魔王「……」
メイド「誓って申し上げますのは、決してあなた様への忠誠が薄らいだわけではないことです。
でも何故か今のわたくしにはできない……」
魔王(……なるほど)
171:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 20:33:27.49:B/++CPHjo
メイド「わたくしは……」
魔王「はい」
メイド「……わたくしは」
魔王「はい」
メイド「わたくしは……っ」
魔王「メイドさん」
メイド「はい……」
魔王「ゆっくり、話してください。ゆっくりでいいです」
メイド「はい……っ」
172:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 20:34:03.13:B/++CPHjo
メイド「どこから、何を話しましょう」
魔王「どこからでも、話しやすいことを」
メイド「はい……では。わたくしは楽しいです。いえ、楽しかった……」
魔王「はい」
メイド「あの方と一緒に勉強しているのが……」
魔王「ええ」
メイド「だからそれを壊したくない。どうしてもです」
魔王「はい」
メイド「どうしてもどうしても」
魔王「……」
173:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 20:35:23.28:B/++CPHjo
メイド「初めは嫌いでした、あんな方。妙にひょうひょうと人を馬鹿にしているようで。
見下されているようで嫌でした」
魔王「……」
メイド「でも接してきてみてなんとなくわかりました。あの方はそういう意図があったわけではないと」
魔王「……はい」
メイド「優しかった」
魔王「……はい」
メイド「優しかったんです……」
魔王「……ええ」
メイド「あの頭をぽんぽんと撫でてもらったとき、勉強を教えてもらって目が合ったとき、抱きついて体温を感じるとき」
魔王「……」
メイド「わたくしは胸の奥にぬくもりを感じずにはいられなかった」
魔王「……っ」
174:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 20:36:28.68:B/++CPHjo
メイド「……」
魔王「……」
メイド「……っ」
魔王「……?」
メイド「……っ……っ」
魔王(……泣いて、るんですか?)
メイド「……ひぅっ……ヒック」
魔王「メイドさん」
メイド「っ……ハイ……っ」グス
魔王「ぼくにはメイドさんの話はよく分かりませんでしたが、でもこれだけは分かります」
メイド「なんでしょう……?」
魔王「彼女が何を言ったからといって、気にしちゃダメです。
あなたはやりたいようにやるべきだ」
メイド「……」
175:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 20:37:01.06:B/++CPHjo
魔王「あなたはふるまいたいように、ふるまうべきだ。
遠慮しちゃいけない。気持ちに素直になってください」
メイド「……」
魔王「多分、その方がメイドさんらしいから……」
メイド「っ……」ゴシゴシ
魔王「……ね?」
メイド「はい」
魔王「負けないでください」
メイド「え……?」
魔王「諦めないでください」
メイド「……」
魔王「くじけないでください。絶対に勝ってください」
メイド「……っ」
魔王「応援、しますから」
メイド「はい……!」
176:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 20:37:51.84:B/++CPHjo
メイド「魔王さまのいうこと、よくわからないけど、分かります」
魔王「うん」
メイド「わたくし、がんばりますわ!」
魔王「……うん」
メイド「では、お仕事に戻ります」
魔王「……」
メイド「……お助けできなくて、申し訳ありませんでした」
ギィィィ……バタン
魔王「……」
178:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 20:38:53.13:B/++CPHjo
魔王「……」
魔王「まったく……」
魔王「メイドさんはああ見えて――かどうかは分かりませんが――天然ですから、
本当に自分のことに気付いてないのかもしれませんね」
魔王「……まったく」
『はじめまして、今日からわたくしがあなたのお世話をさせていただきます! よろしくお願いしますわ!』
魔王「……」
魔王「あーあ……」
魔王「ちょっと、寝ようかな……」ゴロン……
魔王「……」
180:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/06/05(日) 20:41:44.88:95JWj1UZo
<魔界>
鬼人族長「……」
鬼人従者「報告は以上です」
鬼人族長「……」
鬼人従者「どう、思われます?」
鬼人族長「……よくない前触れだと」
鬼人従者「同感です」
184:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 21:36:55.71:B/++CPHjo
鬼人族長「弱者どもが力を伸ばしておる、ということだが」
鬼人従者「ええ、仮面人を名乗る者によってです」
鬼人族長「何者だ?」
鬼人従者「分かりません」
鬼人族長「分からない?」
鬼人従者「調査に行った者たちが帰ってこないのです」
鬼人族長「……?」
鬼人従者「魔王城です」
鬼人族長「……」
185:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 21:37:39.30:B/++CPHjo
鬼人従者「ここのところの魔王城は何か様子がおかしい。人の出入りが制限され、中の従者たちも家に帰れていない……」
鬼人族長「そして魔王さまの姿は見えず、仮面人という新参者が出しゃばっておる……」
鬼人従者「極め付けが今回のことです」
鬼人族長「うむ……」
鬼人従者「しかし様子を見ようにも、仮面人に心酔した者たちのせいで近付けません」
鬼人族長「……」
鬼人従者「どうなさいますか?」
鬼人族長「皆の者を集めよ」
鬼人従者「……」
鬼人従者「は!」
186:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 21:40:01.85:B/++CPHjo
<魔王城>
勇者「人間界に行くぞ」
剣士「えっ」
メイド「えっ」
魔王「えっ」
192:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/06/06(月) 01:01:55.83:FIJAV0amo
<ある村.宿>
?「あー」
主人「……」
?「……腹減った」
主人「そうかい」
?「おう」
主人「ならそのまま餓死しちまえ。その方が世のためだ。
金も払えねえくせにずっとここに居座りやがって」
?「悪いなあご主人」
主人「あ?」
?「いつも宿代も出せないのにごちそうしてもらって、悪いなあ」
主人「……」
?「意味もなくごちそうしてくれるなんて、うれしいなあ……」
主人「とうとう頭がやられたか」
?「意味もなくごちそうしてくれるなんてうれしいなあッ!」ガバア!
主人「やかましいわ!」
201:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 16:47:10.15:aTEo4bBjo
<魔王城>
剣士「人間界に」
メイド「行く」
魔王「ぞ?」
剣士・メイド・魔王「……」
剣士「ちょっと待って、どういうことよ」
メイド「そうですわ、いきなりなにを言いだしますの」
魔王「ていうか出てきてよかったんですかぼく」
勇者「まあ、順番にいこうじゃないか」
202:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 16:54:59.04:sLeMI3eIO
勇者「まず、人間界に行く第一の目的。それは俺の師匠に会うことだ」
剣士「勇者の、師匠?」
勇者「ああ」
メイド「先生ですの?」
勇者「先生……か。あの人がそんなできた人かはともかくとして、確かにいろいろ教えてもらったな」
魔王「いろいろ?」
勇者「拳法、兵法、暗殺術。騎士軍で学んだよりも多くの事。
あの人がいなければ今の俺も魔王軍もない。
戦闘の原則や兵科の分類なんかもあの人が考案したからね」
メイド「そんなすごい人ですのね……」
209:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 17:28:43.40:aTEo4bBjo
勇者「そう。だから師匠ならばこの閉塞した状況も打破できるんじゃないかって」
剣士「こちらに入れられれば心強いわね。魔族に理解はあるの?」
勇者「どうだろう……? 結構適当な人だけど、分からないな」
メイド「その人はどこにいますの? 人間界といっても広いですわよ?」
勇者「ああ、あの人のいるところはわかってる。そこは心配しなくていい」
剣士「でも」
勇者「ああ、魔王城を留守にすることか。まあ大丈夫だろう。
魔王を手元に置いとけば、魔王城の連中も無茶はできないよ」
剣士「でも、前も報告した通り――」
勇者「ああ、あれか……」
魔王「?」
勇者「まあ、大丈夫だろう。妖精族長あたりに魔王城の警備を頼むよ」
剣士「不安ね……」
210:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 17:33:06.60:aTEo4bBjo
勇者「あとは見た目の話だが、幸い魔王もメイドも完全に人型だ」
メイド「わたくしには人間の血も入ってますし」
剣士「さすがに近くで見ればバレるだろうけどね」
勇者「まあ、そういうわけだ。準備してくれ」
魔王「まだぼくが出ていい理由を聞いてませんが」
勇者「出たくなかったのか?」
魔王「いえ、そういうわけじゃないです」
勇者「そうだな、それは第二の目的に関係しているが……」チラ
魔王「……?」
勇者「まあ、なにはともあれ、お前の力が必要なんだよ」
魔王「はあ」
211:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 17:41:27.26:aTEo4bBjo
・
・
・
メイド「準備できましたわー♪」
剣士「こっちもOKよ」
魔王「ええと、はい、できました」
勇者「ん、了解」
メイド「見てくださいまし勇者さま! わたくし、どうでしょう!?」
勇者「どうって?」
メイド「……」ムスー
勇者「冗談。可愛いよ」
メイド「本当ですの!?」
勇者「ああ、ワンピースドレスがよく似合ってる」
メイド「ありがとうございますぅ!」ダキツキ!
剣士・魔王「……」
212:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 17:47:44.46:aTEo4bBjo
剣士「……ゴホン。勇者」
勇者「うん、黒いシャツにベージュのスラックス。剣士らしいな」
剣士「似合ってる?」
勇者「最高に」
剣士「よろしい」
勇者「魔王は半ズボンなんだな」
魔王「え? いけませんか?」
勇者「いや、ある意味一番似合ってる」
魔王「そうですか」
剣士・メイド「……」
剣士・メイド(……なんか複雑)
214:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 18:01:39.49:aTEo4bBjo
剣士「……それで、移動はどうするの? まさか正門から堂々と出るわけにもいかないでしょう?」
勇者「それだな。魔王、お前は転移魔術を使えたよな?」
魔王「え、あ、はい、使えますが?」
勇者「じゃあ、それを使って目的地まで移動しよう」
魔王「ちょっと待ってください、転移魔法は奥義の一つです。
そんなにホイホイ使えるもんじゃありませんし、長距離も移動できませんよ?」
勇者「そうだな。だから今回は魔術の併用を行う」
メイド「魔術の併用……ですの?」
勇者「人間の魔術を覚えているか?」
メイド「血陣魔術、でしたか?」
勇者「あれは大規模かつ精密な魔術をするのに適しているってのは前にも言ったな。
その性質を利用するんだ」
215:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 18:08:43.36:aTEo4bBjo
剣士「合成魔術ってことよね? そんなの危険じゃないの?」
勇者「そうだな、あまり例はない」
剣士「じゃあ血陣魔術単体で行なった方が……」
勇者「いや、実は血陣魔術というのはまだまだ発展途上で、物を転移させるほど高度な魔術は使えないんだ。
せいぜい高速移動させるだけ」
魔王「なるほど」
勇者「だから、危険可能性があるからといって尻込みはできない。
事態はこう見えて緊急を要するんだ」
剣士「……」
メイド「……」
魔王「……」
勇者「ついてきてもらえるかな?」
剣士「もちろん」
メイド「聞くまでもないですわ」
魔王「ぼくは怖いです」
勇者「ありがとう」
魔王「え? ぼくの意見は?」
219:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 18:21:12.83:aTEo4bBjo
勇者「じゃあ、準備を始めるからちょっと待っててくれ」
メイド「わたくしも手伝いますわ」
勇者「そう? じゃあ頼むよ」
魔王「ですからぼくの意見は……いやもういいですが」
・
・
・
勇者「じゃあ、そっちのはしを引っ張ってくれ」
メイド「アイアイサー、ですわ」
魔王「……ふう」
剣士「……ちょっといいかしら?」
魔王「あ、剣士さん」
221:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 18:23:03.31:aTEo4bBjo
勇者「じゃあ、ちょっと失礼して」ザシュ ブシャ
メイド「あ。血……」ソワ……
魔王「なんですか剣士さん?」
剣士「いえ、大したことじゃないのだけれど」
魔王「はい」
剣士「あなたずいぶん大人しいじゃない、前はあんなに血の気が多かったのに」
魔王「……」
剣士「何かあった?」
222:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 18:39:10.33:aTEo4bBjo
勇者「ええと、確かここがこうで、あっちがこうで……」
メイド「……」ソワソワ
魔王「……」
剣士「どうなの? 何もないならいいんだけど。
でも何かあるのよね。わたしにはわかるわ」
魔王「まあ……はい……」
剣士「聞いてあげなくもないわよ」
魔王「……」
223:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 18:40:13.61:aTEo4bBjo
勇者「まあ、ざっとこんなもんかな」
メイド「……」ジー
勇者「どうかした?」
魔王「いえ、大したことじゃないんですけど」
剣士「ええ」
魔王「その、気になる人が、ちょっと違うところ向いてるというか……」
剣士「……」
魔王「まあ、そんな感じです」
224:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 18:41:06.24:aTEo4bBjo
メイド「あの」ゴゴゴ……
勇者「な、なに?」
メイド「ちょっと失礼しますわ」グワシ!
勇者「え? え?」
剣士「なるほど、ね」
魔王「……ぼくは諦めるべきなんでしょうかねえ」
剣士「なんで?」
魔王「邪魔しない方がいいかなって。ぼくはゴミですし……」
剣士(後でつらいって言ったのに)
225:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 18:41:57.11:aTEo4bBjo
メイド「……」ペロ……
勇者「あ」
メイド「……」ペロペロ
勇者「ちょ、ちょっと……」
魔王「自信ないんですよ。ぼくなんかじゃ見向きもされないって分かってるんです」
剣士「……」
魔王「ゴミはゴミらしくしてるのが一番なんですよね……」
剣士「はぁ……やめなさいよそういうの」
魔王「え?」
226:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 18:42:21.37:Xd/ytwKIO
メイド「ん……」チュパ
勇者「う……」
メイド「はぁ……ムチュ……」ヌロリ……
剣士「やめなさいっていってるの。見苦しいわよ」
魔王「そんなこと言っても……」
剣士「見苦しいの。いいからしゃんとしなさい。男の子でしょう」
魔王「まあ、ついてますが」
剣士「だったら根性見せなさい」
魔王「……」
230:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 18:51:31.88:aTEo4bBjo
勇者「悪い……これ以上は……」
メイド「あ……ご、ごめんなさいっ」
剣士「いい? わたしの前で今後一切そんな弱音は吐かないこと。
理屈なんてどうでもいいわ。わたしが嫌なの」
魔王「……」
剣士「……大丈夫」
魔王「え?」
剣士「あなたの優しいところは、みんな好きになってくれるはずよ」
魔王「あ……」
剣士「自信もって、ね?」
魔王「……はい」
231:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 18:53:01.24:aTEo4bBjo
勇者「……終わったよ」
メイド「……」ソワソワ
剣士「……あなたたちわたしが見てないところで、なんかとんでもないことしてなかった?」
勇者「いやその別に……」
メイド「否定しますっ、否定しますわ!」
剣士「……まあ、いいけど」
魔王「ぼくはさらに死にたくなりました」
232:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 18:53:48.27:aTEo4bBjo
勇者「ま、まあなにはともあれ準備はできた。
みんな荷物を持って魔方陣の中に入ってくれ」
剣士「入ったわよ」
メイド「おっけーですわ」
勇者「そしたら後は魔王が発動権を握ってる」
魔王「ぼくですか?」
勇者「ああ、目的地は設定してあるから、あとはいつもの感覚で魔術を使ってくれ」
魔王「分かりました。では――」
魔王「“瞬、転”!」カッ!
・
・
・
252:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 22:20:54.09:aTEo4bBjo
<国境近くの村>
――シュン!
勇者「……」
剣士「ついた、のかしら?」
メイド「小さな村ですわね」
魔王「なかなかいいところじゃないですか」
勇者「ああ……久しぶりだ」
剣士「師匠はどこに?」
勇者「大体この時間にいるところは決まってる。
あっちだ、行こう」
253:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 22:21:37.04:aTEo4bBjo
<安宿前>
勇者「ここなんだが」
メイド「この中ですの? じゃあ入りますわね」
――ガチャ
メイド「ごめんくださあい」
?「……」
メイド「あ、こんにち――」
?「お前は」
メイド「はい?」
?「お前はだんだん俺に飯をおごりたくなーる……」ウニョロウニョロ
メイド「な……」
メイド(なんか変なことをつぶやきつつ指をくねらせてるー!?)ガビーン!
?「うう、腹減った……」ガク
メイド(しかも力尽きたー!)ガビビーン!
254:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 22:24:32.33:aTEo4bBjo
勇者「お久しぶりですお師様」
メイド「えっ」
剣士「……」
魔王「はい?」
師匠「お?」
勇者「いきなり押し掛けて申し訳ありません。知恵を拝借に参りました」
師匠「……お前か」グキュルルル……
勇者「はい、勇者です」
師匠「恥ずかしげもなく勇者を名乗るようになったのか。は、上等じゃねえか」キュルルン……
勇者「……」
師匠「お前みたいなやつが名乗っていい称号じゃねえだろ」グギュルギュル……
勇者「……はい」
師匠「分かったら俺に飯おごれ」
メイド(結局そこに行きつくんですのー!?)ガビビビーン!
255:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2011/06/06(月) 22:28:14.30:njGGR1WBo
・
・
・
師匠「なるほど、魔界と人間界の調停ねえ……」パクパク
勇者「ええ」
師匠「ずいぶんと身の程知らずなことしてるじゃねえか」
勇者「はい」
師匠「お前には無理だ。わるいことは言わない、やめとけ」
勇者「……」
メイド「ちょっと! なんですのその対応は!」
師匠「あ?」
メイド「勇者さまは真剣にことに取り組んでるんですのよ!
それをお食事をたかりながらちょっと聞いただけで!」
師匠「そんなこと言ったって、こいつがよくわかってるだろ」
勇者「それは……はい」
257:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 22:35:44.02:aTEo4bBjo
メイド「勇者さま!」
剣士「あなたは黙ってなさい」
メイド「剣士まで!」
魔王「メイドさん、少しだけ我慢しましょう、ね?」
メイド「……分かりましたわ」
勇者「……お師様」
師匠「あん?」
勇者「それでもやりたいんです」
師匠「……」
勇者「やらなければ、ならないんです」
師匠「……」
258:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 22:36:29.58:aTEo4bBjo
勇者「俺だけじゃだめなのは分かってます。
だからみんなここにいてくれますし、また、お師様に会いに来ました」
師匠「……」
勇者「だから、力を、貸してください」
師匠「……フゥゥゥ」
勇者「……」
師匠「俺に得は?」
勇者「満足感が」
師匠「……上等だ」
メイド「ってことは!」
師匠「別にお前らのためじゃないけどな」
メイド「やった!」
259:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 22:37:41.61:aTEo4bBjo
師匠「つってもなー、ぱぱっとアイディアなんて浮かばない。
ちょっと待ってもらうことになるが、いいか?」
勇者「かまいません」
師匠「じゃあ、適当に待っててくれ。主人!」
主人「んだよ!」
師匠「上の部屋借りるぞ」
主人「好きにしろ。金払ってくれるならだれでもいいやい」
師匠「一部屋でいいか? 勇者と嫁三人だし」
勇者「え?」
剣士「は?」
メイド「はい?」
魔王「???」
師匠「ん?」
260:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 22:38:26.87:aTEo4bBjo
師匠「違ったか?」
勇者「ええ、かなり」
魔王「ぼくは男です」
師匠「お? おお……マジか」
剣士「わたしたちは女だけど、嫁じゃないわね。まだ」
メイド(まだ?)
師匠「なんだ、そうか」
勇者「というわけで四部屋ほしいんですが」
師匠「あるように見えるか?」
勇者「いえ」
主人「あと二部屋しかないぞ」
剣士・メイド「!!」ガタタ!
魔王「……!」ビク!
262:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 22:39:54.56:aTEo4bBjo
・
・
・
剣士「ここは魔界組と人間組で分かれるべきだと思うの。
だってその方が気心知れてるわけだし」
メイド「異議あり! やはり教師と教え子は一緒にいるべきですわ!
というわけで少なくともわたくしと勇者さまは一緒の部屋です!」
勇者「……」
魔王「普通に男女で分かれれば……」
剣士・メイド「……」キッ!
魔王「ごめんなさい」
263:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 22:41:38.04:aTEo4bBjo
魔王「まあ結局男女別なわけですが」
勇者「正直ほっとした」
魔王「……」ジト
勇者「ああ、贅沢な悩みだと自覚してはいるよ。
でも怖いものは怖い」
魔王「あーあ、これだから嫌なんです」
勇者「悪いね」
魔王「気分が悪いです。ちょっと散歩行ってきます」
勇者「ああ、行ってらっしゃい」
魔王「まったくもう……」
276:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:12:34.57:OaS0/vZfo
<村>
「――ねえねえ、あの子可愛くない?」
「え、どの子どの子?」
「あの子よあの子」
「あ、かわいー!」
魔王「?」
「あ、こっち向いたわよ」
魔王「何か、用ですか?」
「キャー! 声も可愛いわ!」
「本当、可愛い可愛い!」
魔王「かわ、いい……?」
277:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:20:37.96:OaS0/vZfo
魔王「一応確認します。ぼくのことですか?」
「うんうん、君のこと君のこと」
「鈍いところも可愛いー!」
魔王「ええと」
魔王(これはもしや……)
「ねえねえ、抱きしめてもいーい?」ギュッ
「あ、抜け駆けずるーい!」
魔王(間違いない! ぼくの時代、到来!)
278:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:23:35.13:OaS0/vZfo
<宿>
メイド「……」
剣士「……」
メイド「……」チラ
剣士「何よ……」
メイド「いーえ」
剣士「……」
メイド「……」スク
剣士「……どこへ?」ピク
メイド「いえ、どこにも」トサ
279:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:24:49.80:OaS0/vZfo
剣士「……」ムクリ
メイド「……」ピク
剣士「何よ?」
メイド「いえ、どこか行くのかと」
剣士「ただ身体起こしただけじゃない」
メイド「それはすみませんでした」
剣士「……」
メイド「……」
剣士・メイド(どうにかして勇者(さま)のところに行けないかしら……)
剣士・メイド「……」チラ
剣士「何?」
メイド「そちらこそ」
剣士・メイド「……」ソワ……
280:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:25:21.03:OaS0/vZfo
勇者「……」
『お兄ちゃんは、誰?』
勇者「……」
『そうですか。ぼくも勇者候補なんですよ』
勇者「……」
『じゃあ、ぼくと友達になってください!』
勇者「……」
281:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:26:27.23:OaS0/vZfo
<村>
「ほら、あーん」
魔王「あーん」デレデレ ニヨニヨ
「はい」
魔王「ん」パク
「おいしい?」
魔王「美味です!」
「本当? 良かった!」
魔王「もうひとついいですか~?」デレニヨ
「もう、食いしん坊ね♪ ほら、あーん」
「あなただけ独り占めずるいわ。今度はあたしよ。ほら、あーん」
魔王「あはは、困っちゃいましたね~」ニヨヨ
282:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:27:17.17:OaS0/vZfo
少年「……」コソ
魔王「……?」
少年「!」ササッ!
魔王「あの隠れてる子はなんですか?」
「え? ああ、あの子はあたしの弟よ。ほら、出てきなさいよ」
少年「……」オズオズ……
魔王「こんにちは」
少年「こ、こんにち、は……」
「ごめんね、この子人見知り激しいの」
少年「お、お兄ちゃんは、誰?」
魔王「え、あ、ええと、ぼくは遠くから来たんだよ?」
少年「お、お客さんだ」
魔王「うん、そうだね」
少年「じゃ、じゃあ――」
『――ぼくと友達になってください』
魔王「っ……?」ピクリ
283:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:27:58.01:OaS0/vZfo
<帝国.宮殿>
元帥「皇帝陛下」
皇帝「元帥か」
元帥「失礼ながら挨拶は省かせていただきます」
皇帝「急ぎの用か」
元帥「は」
皇帝「申せ」
元帥「魔術士計画の準備が、整いました」
皇帝「……! まことか」
元帥「は!」
皇帝「では……分かっておるな」
元帥「もちろんでございます。必ずや魔界の全てをあなたに献上いたしましょう」
皇帝「ふ、楽しみにしておるぞ」
284:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:28:41.80:OaS0/vZfo
<数刻後.帝国.騎士軍事務所>
――コンコン
元帥「入れ」
?「……」
元帥「! これはこれは……」
?「久しぶりだな」
元帥「まったくですな。お変わりありませんでしたか」
?「まあ、な」
元帥「……何故剣聖のあなたがここに?」
?「このたびの戦、俺も連れて行ってもらえぬだろうか」
元帥「あなたが!?」
?「駄目か?」
元帥「……断っても、来るのでしょう?」
?「ふふ……」
元帥「よろしいでしょう、ならばあなたの力をお借りします」
?「それでよい……」
285:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:29:12.62:OaS0/vZfo
<村>
少年「お兄ちゃん、そっち行ったよ!」
魔王「オーライ! それ!」
少年「わーい!」
魔王「……」
魔王(さっきのは、なんだったんだろう?)
『友達になってください!』
魔王「まだ聞こえる……」
魔王(ぼくはこの声に聞き覚えがある……?)
少年「お兄ちゃーん!」
魔王「はいはーい!」ダダ!
286:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:29:40.16:OaS0/vZfo
<宿>
メイド「……」スク
剣士「どこへ?」ピク
メイド「……お手洗いですわ」
剣士「そう。行ってらっしゃい」
メイド「ええ」
・
・
・
メイド「……ふぅ」
メイド(勇者さまの部屋は、ここ……でしたわね)
メイド「あ」
メイド(少し開いてる……)
287:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:30:56.90:OaS0/vZfo
――ギィィ……
勇者「すぅ……すぅ……」
メイド「あ……眠ってらっしゃいましたか」
勇者「ううん……」
メイド「……」ソロソロ……トサ
メイド「こうしてみると、精悍な顔つきながら、なかなか可愛い寝顔ですわね」
勇者「zzz……」
メイド「……」ウズ……
メイド「……」ソー……
メイド「っ……」ペロッ
勇者「んん……」
メイド「!」ササ!
メイド(唇舐めちゃいましたわ……!)ドキドキ
288:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:31:53.74:OaS0/vZfo
勇者「……」ゴロン
メイド「……」ソー……
メイド「ん……」カプ
勇者「んあ。……何をしてるんだ?」
メイド「! こ、これは!」
勇者「……」
メイド「その、申し訳ありません……ちょっと血が飲みたくなって」
勇者「……」ムクリ
メイド「……駄目でしたでしょうか」
勇者「いや……」
メイド「……じゃ、じゃあ」
勇者「少しだけならね」
289:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:32:38.19:OaS0/vZfo
メイド「は……ん……」チュウ……
勇者「……」
メイド「んむ……チュパ……」
勇者「……」
メイド「チュルルル……」チロ……
勇者「……ねえ」
メイド「はぁ、ん……なんでしょう?」
勇者「一応聞いておきたいんだけど」
メイド「はい」ペロペロ
勇者「吸血って、君たちにとって、どんな意味があるんだい?」
メイド「意味、とは?」ヌロリ……
290:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:33:35.30:OaS0/vZfo
勇者「つまり……そうだな。
補給行為として特に感慨はないのか。
それとも親しみとかそういう意味があるのか、あるいはその逆なのか」
メイド「……」
勇者「確認しておきたいんだ」
メイド「……わたくしのおばあさまは……血を吸った人間と結ばれました」
勇者「え……」
メイド「わたくしのお母様も、血を吸った魔族と結ばれました」
勇者「……それじゃあ」
メイド「ええ……そういうことです」ムクリ
勇者「……」
メイド「……」
291:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:34:56.66:OaS0/vZfo
メイド「……」ガバ
勇者「っ」ドサ
メイド「ああ勇者さま……」
勇者「ちょっと待ったっ」スッ
メイド「……勇者さまはわたくしのこと、お嫌いですか?」
勇者「好きだな。だからこそ流されるようなことはしたくない。
君にも失礼だ」
メイド(……わたくしは、かまいませんのに)
勇者「離れてくれ」
メイド「わたくしは! 勇者さまの事が好きです!」
勇者「……」
メイド「やっと気付いたんです。わたくしはずっと勇者さまといたい……!」
勇者「……」
メイド「聞かせてください。勇者さまはわたくしと剣士、どちらが好きなのですか?」
勇者「剣士だ」
メイド「え……」
292:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:36:01.70:OaS0/vZfo
勇者「どちらかを選べと言われるなら、俺は迷うことはない」
メイド「……」
勇者「理由も言える。彼女は本気だからだ」
メイド「わたくしだって本気です!」
勇者「ごめん、そういう意味じゃないんだ。
でも、君は俺を勘違いしているよ」
メイド「勘違い?」
勇者「俺は弱いよ」
メイド「そんなことありませんわ!」
勇者「ほら、それが勘違いだ。剣士なら言うさ。俺が弱いってね」
メイド「……そんなこと」
勇者「彼女は俺の弱さを知った上で、ずっとそばにいてくれると言った。
本気だ」
メイド「わたくしに時間をくれればもっと勇者さまの事を知ることができます」ギュッ
勇者「……」グイ
メイド「そん、な……」
293:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:36:39.67:OaS0/vZfo
勇者「本当にごめん、それも多分ごまかしだ」
メイド「……」
勇者「俺は剣士が好きだ」
メイド「……」
勇者「あの長い黒髪が好きだ」
メイド「……」
勇者「その髪からするいいにおいが好きだ。彼女の目が好きだ。
そのたおやかな立ち居振る舞いが好きだ。
強いところが好きだ。それでいて優しいところが好きだ」
メイド「……っ」
勇者「だから、ごめん」
294:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:37:30.51:OaS0/vZfo
ガチャ バタン
勇者「……」
勇者(これで、良かったんだよな……)
勇者「これで……」
ガチャ
剣士「後悔してるなんて言わせないわ」
勇者「……剣士」
剣士「というより、後悔はさせない。してほしくない」ツカツカ
勇者「……」
剣士「……」スル……
勇者「……」スッ
剣士「ん……」ギュッ
295:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:38:53.84:OaS0/vZfo
・
・
・
剣士「ん、はぁ……あ……」
勇者「……剣士」
剣士「うん……」
勇者「もう、俺……」
剣士「うん、きて……」
勇者「……ありがとう」
――ヌチ……
296:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:39:38.54:OaS0/vZfo
『愛しているぞ……我が娘よ』
297:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:40:48.29:OaS0/vZfo
剣士「や……!」
勇者「……? どうした剣士?」
剣士「や、やだ……!」
勇者「どうした……!?」
剣士「や、やめて……!」
勇者「大丈夫か剣士?」
剣士「も、もう逆らわないから、もうしないからやめて……!」
勇者「剣士! 剣士!」
剣士「いや! 助けて勇者っ!」
勇者「俺だ! ここにいる!」ギュッ!
剣士「ハァ、ハァ……!」
勇者「……大丈夫か?」
剣士「うん……大丈夫……ありがとう」
勇者「……」
298:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 07:42:10.53:OaS0/vZfo
勇者「ごめんな剣士……」
剣士「いいえ、あなたのせいじゃないわ」
勇者「……」
剣士「でも、ごめんなさい。わたし、今はできない」
勇者「したい。けど無理強いはしないさ」
剣士「ありがとう……」
勇者「……やっぱり」
剣士「ええ」
勇者「……くそ!」
剣士「……」
勇者「約束するよ。君を、絶対救ってみせる」ギュッ
剣士「ええ……」
勇者「それから、愛してる」
剣士「……ええ。わたしもよ」
――チュ……
301:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 08:13:58.39:2j16RnOIO
<宿>
魔王「ただいまですー」
勇者「ん?」
剣士「あら」
魔王「……なんで剣士さんがこっちの部屋にいるんですか?」
剣士「部屋割変更よ。あなたはあっちの部屋ね」
魔王「そんな勝手な……って、メイドさんは?」
剣士「そっちの部屋」
魔王(やっほい!)
勇者「魔王、頼みたいことがある」
魔王「なんですか? 今のぼくならなんでもできますよ!」
剣士「あの娘をお願いね」
魔王「……?」
307:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 10:31:06.83:OaS0/vZfo
ガチャ
魔王「ただいまですー」
メイド「……」
魔王「メイドさん、どうも」
メイド「……」
魔王「メイドさーん?」
メイド「……」
魔王「……」
メイド「……」
魔王(何があったかわからないけど重傷……いや致命傷だこれは)
魔王「……そんな端っこに座ってないでこっちに来てください」
メイド「……」
魔王「じゃあぼくがそっち行きますからね? いいですね?」
308:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 10:31:46.63:OaS0/vZfo
魔王「……」チョコン
メイド「……」
魔王「……」
メイド「……」
魔王「……なんとなく予想はつきます」
メイド「……」
魔王「頑張りましたね、メイドさん」
メイド「……」グス……
魔王「ちょっと休みましょう。ね?」
メイド「ハイ……」
309:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 10:32:42.48:OaS0/vZfo
メイド「わたくし……」
魔王「ええ」
メイド「……駄目でした」
魔王「……ええ」
メイド「もう……死んでしまいたい……」
魔王「駄目です。それは許しません」
メイド「だって……だって……っ」ヒック
魔王「ほら、顔を上げて」
メイド「……」
魔王「……」ニコー
メイド「……なんですか?」
魔王「ちょっとだけ、笑ってみましょう」
メイド「無理です……」
魔王「まあ、そうですよ。当たり前です」
メイド「……」
魔王「でも、笑っちゃいけないなんてことはありません。だから、ほら」
メイド「……」
310:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 10:33:28.26:OaS0/vZfo
メイド「……」
魔王「……」ニコー
メイド「……」
魔王「……」ニヘラ-
メイド「……っ」ガバ!
魔王「!?」ドサ
メイド「ん……!」ガブリ!
魔王「いたっ! め、メイドさん!?」
メイド「――っ」チュルルルル……
魔王「あっ、あ……っ!」
メイド「ンチュ……」ペロ
魔王「うあ……」
メイド「ジュルルルル……!」
魔王「メ、イド、さん……」
魔王(死ぬ……ほど気持ちいい……!)
311:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 10:35:06.79:OaS0/vZfo
メイド「ハァ……ハァ……」
魔王「メイドさん……!」
メイド「……」グイ
魔王「ちょっと……!」
メイド「魔王さまの、おっきくなってますわ」
魔王「何を!」
メイド「チュパ……」
魔王「うわぁ!」
メイド「ん……ジュル……ムチュ」
魔王「う……ああ、ああ」
メイド「――っ」ヌルルルル……
魔王「や、め……」
メイド「――」ジュル ジュル……
魔王「で――」
メイド「ん――っ」
312:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 10:35:45.76:OaS0/vZfo
メイド「魔王さまの、たくさん……」
魔王「ハァ、ハァ……」
メイド「入れますわね……」スッ
魔王(メイドさん……泣いてる?)
メイド「一緒に"良く"なりましょう……」
バチン――ッ!
メイド「いたっ!」
魔王「ふぅっ、ふぅっ……メイドさん!」
メイド「魔王さま……」
魔王「メイドさん、やめてください! こんなの違います!」
メイド「魔王さま……泣いてるんですか……?」
魔王「こんなの間違ってる!」
メイド「……」
313:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 10:36:32.45:OaS0/vZfo
魔王「あなたは確かに振られたかもしれない。悲しいのは分かる!
でも、こんなことで解決なんて、絶対するものか! 絶対に!」
メイド「……」
魔王「それに言わせてもらうぞメイド! ぼくは勇者の代わりじゃない!」
メイド「っ……」
魔王「もうひとつ! ぼくは君が好きだ!」
メイド「魔王、さま……?」
魔王「ああ、大好きだとも! 初めて会った時からずっとだ!」
メイド「魔王さま……」
魔王「だからこんなの余計に許せない……」
メイド「……」
314:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 10:37:31.55:OaS0/vZfo
魔王「立ちましょう、メイドさん」
メイド「は、い……?」
魔王「今こそ立つべきだ。崩れ落ちそうな今だからこそ」
メイド「それは……」
魔王「君は勇者を諦められますか?」
メイド「……それは」
魔王「諦められないなら、諦められるまで頑張りなさい。
ぼくはその後ろを全力で追いかけます。はさみうちです」
メイド「……」
魔王「先に相手に追いついた方が勝ちです、いいですね」
メイド「でも……」
魔王「でもも糞もあるかあッ! 決めたぞ、ぼくは君を絶対に落として見せるからなあ!」ブンブン!
メイド「……」
315:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 10:38:29.24:OaS0/vZfo
魔王「ハァ、ハァ……」
メイド(……)
メイド「クス……」
魔王「フゥ……やっと笑いましたね」
メイド「あ……」
魔王「そしたら後は泣きなさい。胸なら貸します。初回限定無料セールです」
メイド「……」
魔王「ほら」
メイド「……では、少しの間だけ、お借りします……」スス……ギュッ
魔王「……」ナデナデ
メイド「ふっ……くっ……うう」グス
メイド「うぐ……ヒック……」
魔王「……」ナデナデ
316:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 10:39:18.00:OaS0/vZfo
勇者「……」
剣士「……」
勇者「あっちは大丈夫かな」
剣士「大丈夫よ。魔王は思いやりにかけては世界一だから」
勇者「そうか。そうだな」
剣士「わたしたちはもう寝ましょう。明日も早いわ」
勇者「ああ、そうだな……」
剣士(頑張りなさいよ、魔王……)
329:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 14:01:22.62:OaS0/vZfo
<数日後>
勇者「お師様、いかがでしょう」
師匠「うーむ、それなんだがな……」
剣士「どうなのよ?」
師匠「いや、どう考えても無理難題すぎて」
勇者「お師様でも、無理ですか……」
師匠「いや思いついたには思いついた。が、これはそれこそ子供にでも思いつく」
剣士「どうするの?」
師匠「皇帝への直談判」
勇者「直、談判……」
剣士「……呆れたわ」
330:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 14:02:00.63:OaS0/vZfo
剣士「そんなのアイディアと呼べないわよ。
皇帝に会うには一級の兵士たちの防衛を越えたうえで、さらに実力でのし上がってきたあの元帥を排除しなければいけないわけで」
勇者「皇帝もこれまで幾度も死線を抜けてきた。
そんな大人物が頷くとも思えない……」
師匠「俺だってわかってるよそんなこと。ただ、現状思いつける一番のアイディアってったらこれくらいで」
勇者「でもそうですね。簡明でなおかつ相手が予想だにしない方法だ」
師匠「簡明の原則と奇襲の原則だな」
剣士「でも、ねえ……」
331:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 14:02:30.03:OaS0/vZfo
師匠「まあ、いいじゃねえか。まだ時間はある。
……それよりあの坊主ともう一人の嬢ちゃんはどうした?」
勇者「ああ、彼らはまだ上で寝てます」
師匠「え? できてるのあいつら?」
剣士「あの子たちに限ってそういうふしだらなことはないわよ」
「チュルルル……ん……はぁ、ん……」
剣士「……た、多分」
師匠「思いっきり声が漏れて聞こえてきてるわけだが」
勇者「あれは吸血です」
師匠「どう違うんだ?」
勇者「……あまり違わないかもです」
332:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 14:02:57.46:OaS0/vZfo
<村>
少年「はぁ……お兄ちゃん来ないかなあ」
少年「つまんないなあ……」
?「やあこんにちは」
少年「え、あ……お、おじちゃん誰?」ササッ
?「はは、そんなに怖がらなくてもいいよ。ちょっと探してる人がいるんだけど、いいかな?」
少年「は、はい……」
333:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 14:03:28.64:OaS0/vZfo
勇者「――じゃあ、こんなところですかね」
剣士「あまり収穫はなかったけれど……」
師匠「そう言うなよ、俺だって珍しく頑張ったんだし」
剣士「でも毎日飯たかられてるしねえ……」
師匠「賃金求めちゃわりーかよ」
剣士「……なんでこんな人が勇者の師匠なのかしら」
勇者「これでも国立の大学に通っていたらしいよ」
剣士「マジ?」
師匠「大マジ」
勇者「もっとも途中で抜けたそうだけど。女性を追うためとかで」
剣士「ださ」
師匠「……大事な、人だったんだよ」
334:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 14:04:06.61:OaS0/vZfo
師匠「ま、そんなことより……」
――ゾク……
師匠・勇者・剣士「ッ――!?」
師匠「……勇者」
勇者「ええ」
師匠「上の坊主らを連れてこい」
勇者「了解です」タタッ!
剣士「……」スラリ……
師匠「いい剣だな」
剣士「……ええ」
335:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 14:04:59.55:OaS0/vZfo
魔王「どうかしました?」
メイド「なんですの?」
師匠「こっちに裏口がある。全員でそこから逃げるぞ」
魔王「逃げる?」
勇者「いいから。行こう」
ガチャ
?「おやどちらへ行かれるのかな?」
剣士「!?」
336:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 14:05:28.17:OaS0/vZfo
?「師匠を名乗る人物を探していたのだが……おや」
剣士「っ……っ……」ガタガタ!
?「ずいぶんと懐かしい顔がいるではないか」
勇者「どうした剣士……!?」
剣士「剣聖……!」
剣聖「お初にお目にかかる、剣を極めし者だ。そして……」
剣士「パパ……!」
勇者「何!?」
剣聖「その娘の、父親だよ」
337:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 14:06:28.38:OaS0/vZfo
剣聖「探したよ、我が娘。どこにいたのだ」
剣士「ヒッ……!」
剣聖「なぜ俺のもとから逃げたんだい?」
剣士「ヒッ……ヒッ……!」
勇者「剣士! しっかりしろ!」ギュッ
剣聖「おや、君が娘の良人候補か?」
勇者「どうだろうな」
剣聖「その娘は俺のモノだ。取るんじゃない」
剣士「違うッッ!! わたしはあなたのものなんかじゃない!」
剣聖「違うものか。お前のことならなんでも知っているよ。そう、なんでもだ」
剣士「やめて……」
剣聖「好きな食べ物、本、歌……」
剣士「やめてよパパぁ……」
剣聖「そして最も悦ぶ場し――」
剣士「やめてぇッ!」ダッ!
勇者「剣士、出るな!」
338:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 14:07:24.96:OaS0/vZfo
剣士「うわああああああッッ!!」ブオン!
剣聖「はぁ……」スカ
剣士(わたしの全力が……!)ヨロ
剣聖「ホントに分かってないなお前は」ガシ グイ!
剣士「いや……髪つかまないでぇ……!」
剣聖「お前は俺のモノなんだ。俺を斬れるわけないだろう?」ギギ!
剣士「うう……っ!」
勇者「剣士を放せ!」
魔王「剣士さん!」
剣聖「お前の剣は俺が与えたものだ。お前の技術も俺が与えたものだ」
剣士「放してよぉ……」
剣聖「そしてお前の艶やかな髪も恵まれた躰も、俺が与えたものだろう?」スッ
剣士「やめて、触らないで!」
勇者「くっ!」
師匠「出るな勇者!」
339:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 14:08:04.00:OaS0/vZfo
剣聖「君」
勇者「……なんだ?」
剣聖「この娘の事はどれくらい知っている?」
勇者「相棒だ」
剣聖「零点だ、答えになってない。そうだな、例えば」グニュ
剣士「あっ……」ピク……
剣聖「この娘はこういうふうに触られるのが好きなんだ」グニグニ
剣士「あっ、んっ……!」ビクン
勇者「貴様ァッ!」
剣聖「ふふふ……」ヌロリ
剣士「耳……だめぇ……」ビクビク
剣聖「俺のもとに帰ってこい」
剣士「いやぁ……」
メイド「そこまでですわ!」
340:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 14:08:57.98:OaS0/vZfo
メイド「喰らいなさい、持ってて良かった小型ボウガン!」シュッ!
剣聖「おっと」バッ
剣士「あ……!」ドサ
勇者「剣士!」タタッ
剣士「勇者ぁ……」グス
勇者「もう大丈夫だ。な?」ギュッ
剣士「悔しい……わたし悔しいよぉ……」グスグス……
勇者「……分かった」
341:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 14:10:15.78:OaS0/vZfo
剣聖「邪魔するな小娘。貴様も"汚して"やろうか……?」ギロ
メイド「っ……あ、あなたなんて怖くありませんわ!」
剣聖「そういうことを言う奴ほどいい声で鳴くのが面白い」
勇者「そこまでだ」
剣聖「ほお……」
勇者「あんたに会ったら一言言ってやろうと思ってた」
剣聖「よろしくお願いしますお義父さん、か?」
勇者「相棒を舐め腐りやがってッ! テメエは絶対許さねえッ! 殺してやるッッ!!」バッ!
剣聖「若さとはいいものだ。君も女に生まれるべきだったよ」
勇者「死ねぇッ! "爆拳"!」シュバ!
剣聖「来い、若造!」ジャキ!
348:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 15:47:02.48:OaS0/vZfo
――キャァン! ドゴッ!
勇者「がはッ!」ドサァ!
魔王「馬鹿な、勇者が!?」
メイド「えい!」シュッ!
剣聖「ふっ」カィン!
メイド「矢を斬り落としましたの!?」
剣聖「不意打ちでなければ喰らうことはない。当然だろう?」
勇者「く……」
勇者(太刀筋が、全く見えない……実力が違いすぎる。
超人のさらに上だ!)
剣聖「娘を返してもらおうか」
剣士「いや……!」
349:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 15:48:09.53:OaS0/vZfo
師匠「フッ――!」ズジャ――!
剣聖「なに!?」
師匠「"崩拳"!」
剣聖「チッ」ガキン
師匠「残念、防いでも無駄だ」
剣聖「ぬおお!?」ビリビリ
師匠「伝染する打撃……どうだ、効くだろう。この子たちの怒りだ」
剣聖「ぬかせ!」
350:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 15:49:07.75:OaS0/vZfo
師匠「勇者!」
勇者「お師様……?」
師匠「今は逃げろ、お前では敵わない!」
勇者「でも!」
師匠「まだ"お前の手の届く範囲"にいないんだよ! 分かれ!」
勇者「く……了解です! 逃げるぞみんな!」ダッ
剣士「うう……」
メイド「……行きましょう剣士」
魔王「急いでください!」
351:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 15:50:37.27:OaS0/vZfo
師匠「最後に勇者!」
勇者「はい!」
師匠「どんなにつらいことがあっても諦めるな!
お前の想い人がどんなに姿を変えようと、それでもそれはお前の想い人だ!」
勇者「……」
師匠「お前が諦めるな! 何かあるんだ! 奇跡はないかもしれないがそれと同じものが!
じゃなけりゃ、誰も生きてなんかいけるものか!」
勇者「……はい!」ダダ!
師匠「さて……」
剣聖「……貴様の経験談か?」
師匠「ああ……好きな人が、いや愛した人がいたんだよ」
剣聖「過去形か」
師匠「まあな。御託はいい。行くぞ」
剣聖「まあ、元は貴様に用があったのだ」
師匠「へえ?」
剣聖「騎士軍から勇者に協力する者は殺せとのお達しだ」
師匠「……あんたは強い。だから適当なところで逃げさせてもらうよ」スッ……
352:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 15:51:10.85:OaS0/vZfo
<村>
タッタッタッタッタッタッタッタッ――!
魔王「勇者、どうするんですか!?」
勇者「適当なところで紙かシーツを拝借する! それで転移魔方陣作って逃げるぞ!」
メイド「そんな都合よく手に入りますの!?」
勇者「今はそんなこと考えてられない。強奪もやむなしだ!」
魔王「! そうだ、いいところがあります!」
353:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 15:51:39.70:OaS0/vZfo
――ガチャ
少年「はい」
魔王「こんにちは」
少年「あ、お兄ちゃん! 遊びに来たの!?」
魔王「ごめん、そうじゃないんだ、借りたいものがあるんだけど、いいかな?」
少年「そうなんだあ……うん! わかったよ!」
魔王「ありがとう!」
354:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 15:52:34.64:OaS0/vZfo
勇者「よし、やるぞ」ビッ ツー……
カキカキカキカキ……
剣士「……」
メイド「剣士、元気出しなさい……」
魔王「……」
少年「ねえ、お兄ちゃん」
魔王「ん、なんだい?」
少年「お兄ちゃんは、人間じゃないよね? ぼくにはわかるよ」
魔王「……!」
少年「魔物さんかな。初めて見た」
魔王「そのことは、誰かに?」
少年「んーん。ぼくとお兄ちゃんは友達だもん。友達が困ることはしないよ?」
魔王「え……?」
355:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 15:53:16.30:OaS0/vZfo
少年「それよりお兄ちゃん、帰っちゃうんだよね?」
魔王「あ、ああ」
少年「また会いに来てほしいな……」
魔王「いいのかい?」
少年「駄目なの……?」ジワ……
魔王「いや、駄目じゃないよ! ……分かった。絶対会いに来る」
少年「ホント!?」
魔王「うん、ホントホント」
少年「じゃあさ――」
『指切りしましょう!』
魔王「……」
356:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 15:53:48.79:OaS0/vZfo
勇者「……よし、できたぞ! みんなの準備はいいか!?」
メイド「ええ!」
魔王「はい!」
勇者「じゃあ、魔王、頼む!」
魔王「合点承知!」
少年「ばいばい、お兄ちゃん」
魔王「うん、ばいばい……」
魔王「――"瞬転"!」
――ピシュン!
357:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 15:54:23.03:OaS0/vZfo
・
・
・
<魔界>
――シュン!
勇者「……」
魔王「着きました、けどここはどこでしょう」
勇者「細かい場所を設定する余裕はなかった。でも魔王城近くだ」
剣士「……」
勇者(剣士……)ズキ
メイド「では早く帰還しましょう!」
「お待ちください」
勇者「……!?」
358:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 15:56:19.40:OaS0/vZfo
妖精族長「ごきげんよう……」
妖精兵「……」ギリリ……
勇者(武装した妖精兵たち……!?)
妖精族長「はじめまして勇者」
勇者「……」
妖精族長「それともお久しぶりというべきでしょうかね? 仮面人さま?」
勇者「なんだと!?」
妖精族長「あら、わたしたちに情報収集を教えてくれたのはあなたじゃありませんか」
魔王「……」
メイド「……」
勇者「俺たちを、どうするつもりだ?」
妖精族長「……」
359:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 15:56:53.20:OaS0/vZfo
妖精族長「ついてきてください」
勇者「……」
妖精族長「……お願いします」
勇者「え?」
妖精族長「実は……」
妖精「魔界の危機なのです」
361:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 16:09:54.07:pRnmedHQo
369:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 17:10:42.55:OaS0/vZfo
鬼人従者「族長、魔王城の掌握が完了しました」
鬼人族長「うむ」
鬼人従者「これで、準備が整いましたね」
鬼人族長「魔界の、大掃除の始まりだ」
鬼人従者「わたくしはおそばに」
鬼人族長「……すまぬ」
374:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 18:00:10.05:OaS0/vZfo
<魔界.天幕>
――ファサ……
勇者「……」
「おお、あれが……」
「あれが仮面人の正体……!」
「人間……勇者だ」
妖精族長「どうぞこちらへ」
勇者「ありがとう」
剣士「……」
魔王「……」
メイド「……」
375:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 18:00:42.92:OaS0/vZfo
勇者「いつからばれてたんだ?」
妖精族長「あなた方が人間界に旅立つ少し前でしょうか」
勇者「なぜ放っておいた?」
妖精族長「"仮面人"の存在があまりにも大きすぎたのです。
考えなしに暴露すれば、せっかく築かれた団結が失われる恐れがありました
そうなれば人間に決定的な隙を与えてしまいます」
魔王「なるほど」
妖精族長「事実が判明した時は、妖精族の中だけでも大騒ぎだったんですよ?」
勇者「それはすまなかった……でいいのかな?」
妖精族長「ふふ……」
メイド「今はどのくらいの魔族が知っているんですの?」
妖精族長「魔界の、軍事に関わる魔族はほぼすべて」
勇者「それはなぜ? 何があったんだ? 魔界の危機とは何なんだ?」
376:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 18:01:19.01:OaS0/vZfo
妖精族長「それは一言で説明がつきます。クーデターです」
魔王「クーデター、ですって? 一体だれが!?」
妖精族長「鬼人族をご存知ですね?」
剣士「……最近魔王城に忍び込もうとしてた。わたしが捕まえた……」
妖精族長「ええ。彼らが魔王城を急襲したのです」
メイド「あの鬼人族が!?」
勇者「魔界の人型魔族の中で最も強く賢い種族か……」
魔王「なぜ?」
妖精族長「それは想像でしか分かりません。
これまでの魔王さまのやり方が気に食わなかったのか、それとも仮面人という存在のことを不審に思ったのか。
それともそれ以外の利権などの理由か……」
勇者「それではまだ魔界の危機というほどじゃないな。何が差し迫ってるんだ?」
妖精族長「……」
377:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 18:01:46.61:OaS0/vZfo
妖精族長「問題は、鬼人族がいまだ魔界全体を掌握できていないことにあります。
今はまだ魔王城のみ。他の魔族はいまだ魔王さまや仮面人を信奉しているのです」
勇者「そんな状態で迫っている危機……まさか!」
妖精族長「ええ、騎士軍です」
メイド「数は?」
妖精族長「およそ十万」
魔王「じゅ、十万!?」ガタ!
勇者「……こちらは?」
妖精族長「動員できるのはコボルト、ゴブリン、妖精のみ。
多く見積もっても三万です」
魔王「そ、そんな……」ズルズル……
378:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 18:02:38.51:OaS0/vZfo
勇者「早急に、対処する必要ありだ」
妖精種族「ええ。事態はわたしたちの手に余ります。あなたの、いえあなた様方の力が必要なのです」
剣士「無茶よ……」
妖精族長「ええその通りです。しかしあなた方に選択肢はないのです」
魔王「……」
メイド「……」
勇者「やりましょう」
妖精族長「ありがとうございます……!」
379:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 18:03:22.94:OaS0/vZfo
・
・
・
勇者「じゃあ、作戦通りに」
妖精族長「ええ」
メイド「任せてくださいまし!」
魔王「ぼくも、やります」
剣士「……」
勇者「剣士……もし無理だったら、休んでても」
剣士「……休むって何?」
勇者「え?」
剣士「安らかな場所は、あなたの手の届く範囲よ。なら行くしかないじゃない」
勇者「剣士……」ギュッ
剣士「……ちょっと、みんなが見てる……」
勇者「……」ギュゥゥゥ
剣士「……」……ギュッ
メイド「……」
380:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 18:04:36.03:OaS0/vZfo
妖精族長「……位置につきます。それではご武運を」
メイド「ちょちょいの、ちょいっと」ガチャ!
勇者「メイド」
メイド「地下道への入り口は開きました。それではわたくしはこれで」
勇者「メイド……」
メイド「行ってまいります。そちらも気をつけて」
勇者「メイド!」
メイド「……勇者さま」
勇者「……」
メイド「わたくしあなたのために戦います。魔王さまへと同等の忠誠をあなたに。
それでは」ダッ!
勇者「……君は、俺にはできすぎた生徒だったよ」
魔王(……メイドさん)
381:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 18:05:27.54:OaS0/vZfo
――コォォォォォォォォ……
勇者「では……」
仮面人「行こうか」
魔王「はい!」
剣士「ええ……」
405:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 21:29:52.47:pRnmedHQo
389:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 19:28:51.76:OaS0/vZfo
鬼人従者「来ました! コボルト軍です!」
鬼人族長「弱者どもめ……蹴散らしてやれ!」
鬼人従者「は!」
「伝令です! 城内に不審な者が!」
鬼人族長「もしや……」
「正体がつかめました! "仮面人"です!」
鬼人従者「来ましたか!」
鬼人族長「ふ、ここまで通してやれ」
390:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 19:29:28.26:OaS0/vZfo
仮面「ふっ――」ザシュ!
鬼人兵「ぐはぁッ!」ドサ
仮面「……」ツカツカ ツカツカ……
勇者『いいか、作戦は単純だ』
勇者『メイドが騎士軍を抑え、俺たち三人が城内をかき乱す』
勇者『コボルト・ゴブリン・妖精の三種族小隊には、正門を押さえてもらおう』
勇者『俺たちにならできる。大丈夫だ……!』
仮面「……」ジャキ!
391:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 19:30:04.57:OaS0/vZfo
<玉座の間>
仮面「ずいぶんと、少ないのだな」
「は、余裕じゃねえか」
「確かに少数だが、鬼人族は人間の五倍は強いんだぜ!」
「覚悟するんだな!」
鬼人族長「よくぞ来たな、仮面人。大したおもてなしはできんがね」
鬼人従者「……」
392:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 19:30:57.33:OaS0/vZfo
鬼人族長「……いや、勇者か。お主の正体はばれておる。そのような仮面とローブ、暑苦しいだけだろう。外したらどうだ?」
仮面「……そうだな」
鬼人族長「その顔を、この老人に見せてくれ」
仮面「いいだろう」カポ
「!?」
「あれは、女!?」
鬼人族長「……誰だお主は?」
?「心強い相棒よ……」
剣士「勇者のね!」
鬼人従者「何!?」
393:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 19:31:32.08:OaS0/vZfo
――ズザァァァァァァァ!
勇者「"貫拳"!」
魔王「"炎牙"!」
ドゴドゴォッ!
鬼人族長「ぬぐッ!」
鬼人従者「ぬかった!」
剣士「奇襲、成功ね」
鬼人族長「この、弱者どもがァッ!」
勇者「弱者で結構、凡人で結構」
魔王「止めさせて、もらいますよ!」
394:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 19:32:03.02:OaS0/vZfo
<東平原>
――ヒュオオオオォォォォォォォォ……
メイド(……降るかしら)
「伝令! 騎士軍がやってきます」
――……ザッザッザッザッザッ……
メイド「あの時と同じですわね。いえ、あのときよりもちょっと敵の割合が大きいですか」
「どうなさいます?」
メイド「街道沿いの山は押さえましたわね?」
「ええ」
メイド「ならば後はやることはありません。待ちうけるのみ。
ここはわたくしたちの土地なのですから」
「かしこまりました」
メイド「挑戦、受けて立ちますわよ……!」
395:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 19:32:31.22:OaS0/vZfo
鬼人族長「ぬぅ……」
勇者「あなたの相手は俺が」
鬼人従者「……」
魔王「あなたの相手はぼくです!」
「くっ……」
剣士「あなたたち雑兵はわたしが片付けるわ」
396:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 19:33:23.22:OaS0/vZfo
勇者「先手必勝! "連拳"!」ズガガガガ!
鬼人族長「ふん!」パシ!
勇者「な! 左手が!」
鬼人族長「……」ニタァ……
勇者「っ!」ゾク……
鬼人族長「ふぬ!」グッ!
――バキャアァッ!
勇者「うわあああああ!?」
鬼人族長「我の武器は握力だ」スッ
勇者「ムグ……!」
鬼人族長「ほれ、今度は頭をつかんだぞ? 死ぬか?」ギリギリ……
勇者「ぐ、あ、あ……」
鬼人族長「そうかそうか死にたいか!」
鬼人族長「ならば、死ね!」
――ボグン!
397:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 19:34:08.02:OaS0/vZfo
魔王「"雷爪"!」バリバリ!
鬼人従者「……」ヒラリ……
魔王「当たりませんか……」
鬼人従者「わたしはそのような攻撃に捕まえられる程遅くはないので」
魔王「……」
鬼人従者「いいことを教えてあげましょう」
『いいことを教えてあげる』
魔王「え?」
鬼人従者「私は――」
『魔術の両断も得意なの』
魔王「……」ポカン
鬼人従者「……どうしました?」
魔王「いや、できすぎだなあと……」
鬼人従者「言ってなさい、あなたは私に斬られるのです」
魔王「そうですか」
鬼人従者「ふん……いざ!」ダッ
398:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 19:34:47.07:OaS0/vZfo
<東平原>
「伝令! 騎士軍動きません!」
メイド「ええ。見えてますわ」
「一体どういうことでしょう?」
メイド「わかりません……消耗でいえば、数も多く慣れない土地であるあちらの方が不利なのに……」
「迎撃に絶対の自信があるのか……」
メイド「しかし統率力と機動力は圧倒的にこちらの方が上ですわ」
メイド(しかし――あの妙な密集具合が、気になりますね……)
メイド「なんでしょう?」
「で、伝令!」
メイド「何かしら?」
「や、奴ら武器を持っていません!」
メイド「……なんですって?」
399:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 19:35:28.54:OaS0/vZfo
「一つも、何も持っていないのです! 本当です!」
メイド「罠……」
「と、思うのが自然ですな」
メイド「しかし……」
「どうなさいます? 我々はあなたに従います」
メイド「……」
勇者『選択肢がいくつかあって、どれも不確実なとき』
勇者『そんなときは、大胆な案を採用するんだ』
勇者『これが鉄則だよ』
メイド「大胆な、案……」
メイド「こちらに弓射・魔術部隊はいくらいますか?」
「およそ五千です。魔術隊はいません」
メイド「分かったわ、その隊で弓射を加えなさい。
ついで、戦闘機動に入りますわ」
「アイマム!」
メイド(勇者さま、わたくしを守って……!)
400:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 19:35:59.32:OaS0/vZfo
メイド「行きますわよ! 前進です!」
――オオオオオオオオオ!
メイド「右翼を伸ばしてそちらから囲むように動いて! さらに弓射を加えて! 手加減は無しですわ!」
――ドドドドドドドドド!
メイド(さあ……どうなります!?)
――カッ!
メイド「え?」
――ドゴオオオオオオウッ!
メイド「き、きゃああああああああ!?」
・
・
・
409:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:08:59.78:OaS0/vZfo
・
・
・
<十年前.どこか>
男子「ここ、どこだろう」
キチキチキチキチ……
男子「やっぱり騎士軍の人の言うこと聞いてれば良かった……」
ガサ……!
男子「っ!」ビビクン!
男子「な、何?」
ガサガサ!
410:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:09:52.80:OaS0/vZfo
男子「う、うひゃああああ!」ダダダ!
ガサガサガサガサ!
男子「お助けー!」
「よっと!」ガバ!
男子「わあっ」スッテン!
「あははははは!」
男子「だ、誰だよう……」
子供「お兄ちゃん、はじめまして!」
男子「え?」
子供「ぼく、魔物の子です! あのあの、ええとですね。ぼくと――」
『友達になってくれませんか!』
411:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:10:30.65:OaS0/vZfo
・
・
・
<現在>
鬼人族長「……」
勇者「……」
鬼人族長「これは、どうしたことだ?」
勇者「フゥゥゥゥ……」
鬼人族長「我の右腕が、動かん」
勇者「"崩拳"、了」
鬼人族長「なんだそれは? 我の右腕と関係あるのか?」
勇者「師匠の拳法、その奥義だよ」
鬼人族長「馬鹿な……拳を撃ち込む暇なぞなかったはずだ」
412:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:11:15.94:OaS0/vZfo
勇者「いや、拳は引いてない。押し当てたままだ。というより拳でなくともいい」
鬼人族長「……?」
勇者「爆発的な筋肉の振動。それが崩拳の正体」
鬼人族長「……」
勇者「その振動に触れれば筋肉が共鳴して機能不全を起こす」
鬼人族長「化け物かお主は?」
勇者「ただの暗殺技能者さ。弱者のね」
鬼人族長「……ふ……やれ」
勇者「"貫拳"!」ジャッ!
鬼人族長「ぐハァぁァッ!」
勇者「――終わりだ」
ドサァ……
413:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:12:00.70:OaS0/vZfo
鬼人従者「はああああああッ!」ブオン!
魔王「遅い! "炎牙"ァッ!」ゴウ!
魔王(……終わった!)
鬼人従者「ふん!」ザシュゥッ!
魔王「な!? 魔術を、斬った!?」
鬼人従者「予告したでしょうに」ユラアァ……
鬼人従者「終わりですッ!」ブオン!
414:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:12:38.31:OaS0/vZfo
魔王「ふ――っ」
鬼人従者(――?)
魔王「"貫拳"!」
鬼人従者「なぐハァァッ!!?」ドゴオッッ!
415:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:13:10.38:OaS0/vZfo
魔王「ハァ、ハァ……」
魔王「ぼくが、勇者にやられっぱなしなわけないでしょう……」
魔王「研究しましたとも、たくさん、たくさん」
魔王「コツさえわかれば大したものじゃありませんでした」
魔王「そして、あなたは魔術を切った後は、確実に斬るために近付いてくる」
魔王「チェックメイト、というわけです」
魔王「……や、やった」
魔王「やりましたよ、メイド、さん」ヨロ……
魔王「ふ、はあ……」ヘタリ
416:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:13:53.33:OaS0/vZfo
剣士「ちぇぇぇぇいや!」ズザシュぅッ!
「が……!」ドサリ
剣士「……終りね」
勇者「こっちも終わった」
魔王「ぼくもです……!」ヘロヘロ……
剣士「! 勇者、その手」
勇者「ああ、握りつぶされた」
魔王「痛そうです……」
勇者「ああ……クソ痛い……」
剣士「早く治癒魔術か何かを妖精に……」
「それは大変だ」
勇者・剣士・魔王「ッ――!」
417:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:14:55.77:OaS0/vZfo
剣聖「何を驚くことがあるかね」
勇者「お前……ッ! その肩に担いでいるのは!」
剣聖「ああ、"ごちそうさま"」ポイ!
メイド「」ドサリ!
魔王「メ、メイドッ!」
剣士「『ご、ごちそうさま』って……」フルフル……
剣聖「ああ、美味だったよ」ニタァァ
魔王「このおォッ!」ダッ
勇者「……」ガシ!
魔王「勇者!?」
418:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:15:51.18:OaS0/vZfo
勇者「落ちつけ」
魔王「これが落ち着いてられますか! メイドが! メイドさんが!」
勇者「そんな時間と余裕があったと思うか?」
剣士「あ……」
剣聖「チッ……その通りだよ。私は早漏ではないからな」
魔王「あ……よかった……」ヘナヘナ……
419:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:16:21.95:OaS0/vZfo
勇者「それより、どういうことだ」
剣聖「どういうこと、とは?」
勇者「お前が騎士軍にいたことは分かる。だが、どう考えてもここへ来るのが早すぎる!」
剣聖「兵は拙速を尊ぶ。巧遅よりもな」
勇者「ごり押しにしたって早い!」
剣聖「やかましいな、聞こえないのかあの音が」
魔王「あの、音?」
――カッ ドグォオオオオオオオオオオ!
魔王「う、うわ!」グラグラ……
勇者「まさか、『砲』が実戦投入されたのか!?」
剣聖「惜しいな」
420:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:17:12.64:OaS0/vZfo
剣聖「『砲』が開発されているのは帝国では公然の秘密だ。
だが、その裏にもっと大きな秘密が隠れていることに気付かなかったのか?」
剣士「秘密?」
剣聖「現在の技術で『砲』とタメをはれるものはなんだ?」
勇者「血陣、魔術」
剣聖「ビンゴだ」
魔王「え、あの血陣魔術!? で、でも」
剣聖「ああ、あれに速度はない。
注射器で血を抜いて、専用の道具を使って魔方陣を描写する手間は、戦場では致命的だな」
勇者「まさか!」
剣聖「その通り。『魔術士計画』だ」
剣士「魔術士、計画?」
421:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:18:12.29:OaS0/vZfo
剣聖「血陣魔術に必要なもの。血と魔方陣だ」
勇者「だが、血は人間の体内に充満していて、血管によって巡っている……」
魔王「つまり……?」
剣士「血管を魔方陣の効果があるように並び変えれば、描写の手間は要らない……!」
剣聖「その通り、愛しているぞ、我が娘よ!」
剣士「くっ……」
勇者「それに、メイドは負けたのか……」
メイド「ぅ……ぁ……」
魔王「酷い……こんな……」
勇者「……」スッ
メイド「ゆ……しゃ……」
勇者「ああ……」ナデ……
勇者「大丈夫、あいつは絶対ぶっ飛ばす……!」スク
メイド「……」
422:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:18:54.95:OaS0/vZfo
剣聖「ふふ、ははははははっ! その片方潰れた拳で俺と勝負するかね!?」
勇者「……」
剣聖「三分間待ってやる! その間好きなように治すがいい!」
勇者「……」……クル
剣士「……?」
勇者「……」ツカツカ ツカツカ……
剣士「な、なによ」
勇者「……」ギュッ
剣士「あっ……」
勇者「……勝ってくる」
剣士「……ええ!」
423:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:19:32.02:OaS0/vZfo
勇者「……」ザッ
剣聖「治療はいいのかね?」
勇者「お前もお師様とまともにやり合ってる。そんなに早く怪我が治るはずがない」
剣聖「……」ビリ……
勇者「お師様の崩拳をまともに受けたら握力にも異常が出てるはずだ」
剣聖「……」ペッ
勇者「イーブンだ」
剣聖「勘違いするな若造。俺は生まれながらにして人間の頂点だった。
少しぐらいの不調で揺らぎはせんぞ」
勇者「不調は認めるんだな」スッ
剣聖「……殺す」ジャキ!
424:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:20:02.90:OaS0/vZfo
勇者「……」
剣聖「……」
――…………
――ズダンンッッ!!!
勇者「シッ――!」ジャッ!
剣聖「ふ、破ッ!」キィン!
425:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:20:36.49:OaS0/vZfo
――ガキャンッ!
勇者「っ!」グググ……
剣聖「ぬ!」ギギギ……
――ッキャァン!
勇者「おおおおおおおおおおお!」
剣聖「はああああああああああ!」
ヂィン! ジャッ! ジャァン! ビシ! ガツン!
426:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:21:13.65:OaS0/vZfo
勇者「やっぱりだ! 今は見える!」ジャッ!
剣聖「く! だが右手だけでは防ぎきれんぞ!」ビッ!
勇者「いや、もう詰んでいる!」キィン!
剣聖「ほざけッ!」ビュッ!
バッ! ズザザザザザザザ……
勇者「ヒュー……ヒュー……」
剣聖「ふ……は……」
勇者「……」
剣聖「……」
427:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:22:12.30:OaS0/vZfo
勇者(これが……)
――これが最後だ
勇者(悔いはないか……?)
――あるものか
勇者(そうだ……いつだってそうだった……
手の届く範囲でやってるんだから、それだけでもう、十分だ……)
――……行こう
勇者「ああ、もちろんだともッ!」
428:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:22:40.91:OaS0/vZfo
ズ――ダンッッ!!
勇者「くらえやあああああああ!」
剣聖「ぬうううううううううん!」
――ガ……
勇者(ここだ……ッ! 今なんだッ!)
――ビィィィン!
剣聖「な!?」
勇者「その通り! 持ってて良かった小型ボウガン!」
429:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:23:44.26:OaS0/vZfo
剣聖(こんなもの! 打ち落とせる!)
剣聖(どんなに刹那の間であろうと、俺の剣の方が速い!)
勇者「――って思ってるんだろ?」
剣聖「!?」
勇者「あめえんだよッ!」ズギュウウゥゥ!
――ガキイイイイイィィィィィィンッ!
430:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:24:25.18:OaS0/vZfo
魔王「あ……!」
剣士「うん……!」
勇者「ああ!」
剣聖「がハアああああああ!」カラーン……
勇者「当然だ。矢を撃ち落とそうと思ったら、矢の通る軌道に剣が入る。
その瞬間をねらって崩拳を叩きこめば――」
剣聖「腕が……! 腕が……!」ビリビリビリビリ!
勇者「こうなるってわけだ」
431:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:24:50.96:OaS0/vZfo
勇者「終わりだッ!!」
剣聖「くそおッ!」
勇者「"貫拳"!」カアァァァァン……!
剣聖「ぶごふッッッ!!!」
――ドシャア!
勇者「俺の手の届く範囲に入ったこと……それがお前の敗因だ。覚えとくといい」
432:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:25:23.73:OaS0/vZfo
剣士「勇者!」
魔王「勇者!」
勇者「ふぅ……あれ……」ヨロ……
剣士「っと……」ガシ
魔王「大丈夫ですか?」
勇者「もう、だめかもな」
勇者(でも、悔いはない……)
「お前の手の届く範囲に入ったことが俺の敗因ならば……」
勇者「何!?」
「俺を殺さなかったことがお前の敗因だよ……」
――……ゴウッ!
433:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:25:50.74:OaS0/vZfo
勇者(しまった、投擲剣!)
――ザグンッッ!
「が……は……」
勇者「な……!」
剣士「メ……」
魔王「メイドさんッ!」
メイド「勇、しゃ……さま……」ドサリ……
434:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:26:22.03:OaS0/vZfo
魔王「あ……」
――……ドクン
勇者「……メイド!」
魔王「ああ……」
――ドクン!
剣士「――ッ! ――ッ!」
魔王「あああ……」
――ドクンッ!
435:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:26:55.84:OaS0/vZfo
魔王「ああああああ……」
勇者「どうした魔王、しっかりしろ!」
魔王「あああああああはははははっはははっははははは!」
――ぴいいいぃぃぃぃぃいいん
剣士「何の音!?」
魔王「ふふふああっははははふははふっふふふふはははは!」
勇者「魔王! 魔王!」
魔王「……死ね」
――ゴゴウン!
436:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:27:38.70:OaS0/vZfo
勇者「……広域極大消滅魔術」
剣士「え……」
勇者「これが、それだ……」
魔王「――――」
剣士「そ、そんな、このあたりには今、たくさん人がいるのよ?
止めさせないと……!」
勇者「……」
剣士「勇者!」
魔王「――――」
437:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:28:09.20:OaS0/vZfo
勇者「魔王……」
魔王「――――」
勇者「滅ぼすのか? 全部」
魔王「――――」
勇者「お前らしくもないな」スッ
魔王「――――」
勇者「……」ナデナデ
剣士「勇者……!」
勇者「黙っててくれ」
438:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:28:44.09:OaS0/vZfo
勇者「聞いてくれるか、魔王」
魔王「――――」
勇者「俺はお前の事を覚えていたよ」
魔王「――――」
勇者「懐かしかった。うれしかった。
でも、お前は覚えてなかった……」
魔王「――――」
勇者「いろいろ記憶をいじられたんだな……かわいそうに」ギュッ
魔王「――――」
勇者「なあ、俺、もしかしたら世界を救うなんてどうでもよかったのかもしれない」
魔王「――――」
勇者「ただただ、お前に思い出してほしくて行動してた気がする。あのころを取り戻したくて……」
439:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:29:26.37:OaS0/vZfo
『ぼくと友達に――』
440:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:30:04.45:OaS0/vZfo
勇者「だから信じたかった。お前がまだ俺の手の届かない場所にいってしまってなんかいないって!」
魔王「――――」
勇者「帰ってこい! 魔王! お前、ふざけてんじゃねえぞ!」
魔王「――――」
勇者「いいか、五秒だ! それ以上は待たねえ!」
魔王「――――」
勇者「五、四、三」
魔王「――――」
勇者「二……一……」
勇者(ああ、俺、泣いちゃってるな……)
勇者「……ゼロッ!」バキイッ!
……カッ――――!
441:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:30:32.26:OaS0/vZfo
・
・
・
442:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:31:00.79:OaS0/vZfo
メイド「ん……」
勇者「メイド?」
メイド「あれ、わたくし……」
勇者「起きたか……」
メイド「勇者、さま……?」
剣士「おはよう」
メイド「剣士……」
勇者「大丈夫か? 痛いところとかないか?」
メイド「いえ……あの、わたくし」
勇者「ああ、死んでたのかもな」
メイド「! やっぱり……じゃあなぜ?」
勇者「……」チョイチョイ
メイド「……?」
魔王「スゥ……スゥ……」
メイド「魔王さま?」
443:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:31:28.80:OaS0/vZfo
勇者「ああ、そうだ、あいつのおかげだ。多分」
メイド「え? え?」
剣士「極大広域消滅魔術なんてものじゃなかったわね」
勇者「ああ、大魔術……いや魔法の領域だな」
剣士「あなたが殴ったからかしら?」
勇者「さあ? 殴らなくてもこうしてたのかも」
メイド「……魔王さま」
魔王「んん……」ハッ
444:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:32:01.22:OaS0/vZfo
魔王「……」ムクリ
メイド「魔王さま!」
魔王「……」
メイド「……魔王さま?」
魔王「~~~~~ッ!」ガバ!
メイド「きゃっ!」
魔王「よかった……よかったぁ……」グスグス……
勇者「ん……」
剣士「ふふ……」
445:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:32:30.90:OaS0/vZfo
魔王「もう、駄目かと……駄目かとぉ……!」
メイド「……ありがとうございました」
魔王「え、ぼく?」
メイド「はい、あなたのおかげで生き返ることができました」
魔王「え? え?」
メイド「……」チュッ
魔王「~~~~ッ!」
512:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 00:59:52.09:dv6ioLowo
446:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:33:01.76:OaS0/vZfo
勇者「あー、盛り上がってるところ悪いが……」
魔王「はい?」
勇者「魔王、最後の仕事だ」
魔王「え?」
勇者「行くぞ」
魔王「ど、どこに?」
勇者「決まってる。平和な世界に、だよ」
447:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:33:46.73:OaS0/vZfo
・
・
・
勇者「じゃあ、行ってくる」
剣士「ちゃんと、帰ってくるのよ」
勇者「ああ」
メイド「魔王さまもですよ」
魔王「うん、分かってます!」
勇者「剣士。……頑張れよ」
剣士「……ええ」
魔王「?」
勇者「メイド、病み上がりのとこ悪いが戦の後始末を頼む」
メイド「かしこまりました!」
勇者「じゃあ――」
魔王「はい!」
魔王「――"瞬転"!」
――ピシュウン!
448:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:34:16.77:OaS0/vZfo
<魔王城.廊下>
剣聖「くっ……ふぅ……ぐふっ」ヨロ
剣聖「あの、若造め……!」
剣聖「待っていろ! 必ずやこの屈辱を……」
剣聖「……!」
剣士「……」
剣聖「なんだ、お前か……」
449:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:34:58.61:OaS0/vZfo
剣聖「どうした、抱かれにでも来たか……?」フフ
剣士「……」ポイッ カラン……
剣聖「剣……? 何のつもりだ……?」
剣士「必殺の距離」
剣聖「!」
剣士「パパが教えてくれた殺人の距離」
剣聖「……」
剣士「決闘よ」
450:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:35:25.59:OaS0/vZfo
・
・
・
剣聖「後悔するなよ……」
剣士「パパはするの?」
剣聖「くくっ……」
剣士「剣士に言葉はいらないわ」
剣聖「まったくだ」
剣士「……」
剣聖「……」
451:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:35:52.43:OaS0/vZfo
剣士(わたしは、後悔ばかりだった)
――手の届かない距離
剣士(いつもいつもあがいてて、でもようやく届く)
――泣こう
剣士(そうね。ちょっと泣いて……)
――……立とう
剣士(それから、穏やかに笑おう……)
452:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:36:31.58:OaS0/vZfo
――ブン! ヒュンヒュンヒュン――ザグン!
453:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:36:58.19:OaS0/vZfo
<帝都.宮殿>
――シュン!
勇者「……」
魔王「ここ、ですか」
「何者だ」
勇者・魔王「……!」
皇帝「この庭は、余の領域であるぞ。
どうやって入った」
勇者「皇帝陛下……」
皇帝「何者だ」
454:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:37:30.79:OaS0/vZfo
魔王「ぼくは! ぼくは……魔王です」
皇帝「……なんと」
勇者「わたくしはただの暗殺者です。勝手にあなたの領域に入ったこと、深くお詫び申し上げます」
皇帝「暗殺者……余を殺しに参ったか」
勇者「いえ」
魔王「あの!」
皇帝「ふむ?」
魔王「あの、ですね……色々いいたいことはあるんですが、それよりもまず……」
皇帝「……」
魔王「ぼくと――」
455:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:38:29.48:OaS0/vZfo
子供『ぼくと友達になってください!』
456:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:39:04.34:OaS0/vZfo
皇帝「友達……?」
魔王「はい!」
皇帝「馬鹿な、人間と魔族が友達などと……」
勇者「わたくしは、この子の友達です」
皇帝「……」
魔王「でも、具体的には……ええと」
勇者「魔界と人間界との間の休戦協定の締結、国交の回復、エトセトラエトセトラ……」
魔王「はい、それです!」
皇帝「馬鹿を言え、余がそれを飲むとでも?」
魔王「そうですよねえ……」
勇者「いや、いい案があるぞ」
魔王「なんですか?」
勇者「皇帝陛下を捕まえて人質にしてしまおう」
魔王「なるほど」
皇帝「……!」
457:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:39:34.53:OaS0/vZfo
皇帝「何を……!」
魔王「いえ、捕虜の生活も悪くないですよ」
勇者「経験談です」
皇帝「馬鹿を、言うな……!」
魔王「あの、勇者、思ったんですけれど……」
勇者「ん?」
魔王「皇帝も結構悪いことやってきたんですよね?」
勇者「ああ、そりゃもう」
魔王「じゃあ、ぼくよりも魔王じゃないですか」
勇者「……なるほど」
皇帝「……?」
魔王「つまり、これがホントの――」
458:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:40:09.38:OaS0/vZfo
勇者「魔王捕まえた、だな」
459:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:41:01.83:OaS0/vZfo
・
・
・
本文「……終わりだよ!」
461:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:42:30.19:OaS0/vZfo
<勇者と剣士>
剣士「処女よ」
勇者「えっ」
499:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 00:16:47.32:dv6ioLowo
472:後日談1:2011/06/07(火) 23:20:42.65:OaS0/vZfo
剣士「何よその顔……うれしくないの?」
勇者「うれしいかどうかはわからないけれど、びっくりした」
剣士「まあ、そうよね」
勇者「いやだって普通……」
剣士「普通、何?」
勇者「いや」
剣士「……」
勇者「……」
473:後日談1:2011/06/07(火) 23:21:43.42:OaS0/vZfo
剣士「……わたしは身体の隅々まで、パ……あの男に汚されてるの」
勇者「……」
剣士「顔も、首も、方も、背中も、もちろん乳房やお尻も」
勇者「……」
剣士「でも最後まで汚されなかった場所があるの」
勇者「……」
剣士「一番最後に残しておこうとでもしたのかしら。それともわたしがそれだけは本気で拒んだからかしら。
わからないけれどとにかく事実として残ってる」
勇者「……」
剣士「ねえ、勇者」
勇者「……ああ」
剣士「その……あの……今なら、ね……? なんとかなる気がするの」
勇者「……うん」
剣士「……行こう」
勇者「君となら、どこへでも」
474:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 23:22:41.86:OaS0/vZfo
師匠と魔王把握
486:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 23:44:12.36:OaS0/vZfo
<師匠と魔王>
魔王「とりあえず休戦協定が結ばれて一時の平和が――」
師匠「飯くれ」
魔王「来なかった!」
488:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 23:47:16.59:OaS0/vZfo
魔王「ていうかあなた生きてたんですね」
師匠「ずいぶんな言い草じゃねえか」パクパク
魔王「だってあのシーンは弟子を守って死ぬ感じじゃないですか」
師匠「それに乗っからないカッコよさ?」
魔王「邪道です」
489:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 23:50:19.43:OaS0/vZfo
師匠「だってよー」
魔王「だってもクソもありませんよ」
師匠「そんなこと言うとお前鍛えてやんないぞ」
魔王「勇者さんに学ぶからいいでーす」
師匠「あいつかー。立派になったもんだよな」
魔王「元帥補佐ですもんね」
師匠「実質最高権力者」
魔王「ですよねー」
490:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 23:53:13.32:OaS0/vZfo
魔王「ところで、勇者さんとの馴れ初めってどんなんだったんですか?」
師匠「ああ、あれはいつだったか……」
・
・
・
師匠「腹減った……」
勇者「奢りましょうか?」
・
・
・
魔王「……だけ?」
師匠「いやー、運命だな」シミジミ
魔王「どこが……」
師匠「お前空腹の恐ろしさを知らんのだな!」
魔王「まあ、知りませんが」
師匠「これだからボンボンは……」
492:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 23:58:35.87:OaS0/vZfo
師匠「もっと食い物の大事さをだなー」
魔王「あ、ごめんなさい、メイドさんが呼んでます」
師匠「そういえば最近嬢ちゃんとはどうなんだ?」
魔王「聞きます?」ニヘラ
師匠「やっぱりいい」
魔王「そんなこと言わずにー」
師匠「さっさと行った行った」
魔王「メイドさーん、今行きますよー」
師匠「やれやれ……人の気も知らずによ」
494:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2011/06/07(火) 23:59:40.12:3uYcjoNjo
<剣士とメイド>
剣士「……」
メイド「……」
剣士「あれ以来話す機会、なかったわよね」
メイド「そう、ですわね」
剣士「その、最近どうなのよ」
メイド「まずまず、ですわね」
剣士「……」
メイド「……」
剣士・メイド(なんとなく気まずい……)
503:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 00:30:32.48:N6YWZ/2jo
剣士「あー……」
メイド(ええと……)
剣士「そう、そうよ、あれあれ」ゴソゴソ
メイド「?」
剣士「将棋よ」ドン
メイド「あ……」
剣士「久しぶりにどう?」
メイド「……わたくしに勝てますの?」
剣士「わたしもあれから勉強したのよ?」
メイド「だったら相手になりますわ」フフン
剣士「そうこなくちゃね」
504:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 00:33:51.41:N6YWZ/2jo
メイド「……」パチン
剣士「……」パチン
メイド「なるほどそうますか……」パチン
剣士「少しは成長してるでしょ」パチン
メイド「そこそこ、ですわね」パチン
剣士「見てなさいよー」パチン
505:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 00:36:24.47:N6YWZ/2jo
メイド「win!」エッヘン!
剣士「相変わらずでたらめに強いわね……」
メイド「ああ、頑張ったらお腹が好きましたわ」
剣士「お茶にしましょうか」
506:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 00:37:58.93:N6YWZ/2jo
メイド「……」ズズ……
剣士「……」ズズ……
メイド「……」
剣士「……」
チュンチュン……
メイド「平和、ですわね」
剣士「平和ねー」
メイド「……」
剣士「……」ズズ
507:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 00:42:25.70:N6YWZ/2jo
メイド「さて」スッ……
剣士「……?」
メイド「剣士」
剣士「なによ改まって」
メイド「わたくし、あなたに申し上げなければならないことがありますわ」
剣士「……何?」
メイド「ありがとうございます」ペコリ
剣士「え?」
メイド「剣士には感謝してますの」
剣士「やめてよすぎたこと」
メイド「いえ、あの頃の関連ではなく。
わたくしと友達でいてくれることに関してですわ」
剣士「友達?」
508:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 00:45:49.49:N6YWZ/2jo
剣士「友達、友達……」
メイド「違いますの……?」シュン……
剣士「あ、いや、そうじゃなくて、どちらかというと仲間って方が近いんじゃないかしら」
メイド「なるほど、そうかもしれませんわね。
ともかくわたくし、同性の知り合いがいませんでしたから」
剣士「え? メイド仲間は?」
メイド「その、わたくしは人間の血が入ってますから、その……」
剣士「あーなるほど……」
509:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 00:50:43.00:N6YWZ/2jo
メイド「そういうわけであなたには感謝してますの」
剣士「そういうことね……分かったわ」
メイド「はい……」
剣士「でも、それをいうならあなたにもお礼言わなきゃね。わたしだって同じだったから」
メイド「あ……」
剣士「だからおあいこ。これからもよろしく」スッ
メイド「握手ですわね」ギュッ
剣士「……勇者の事は任せて」
メイド「えっ」
剣士「えっ」
510:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 00:53:18.43:N6YWZ/2jo
剣士「……」
メイド「……」
剣士「まさかと思うけど……」
メイド「はい」
剣士「まだ勇者の事諦めてないの?」
メイド「一応は」
剣士「何でよ! 最近魔王といい感じじゃない!」
メイド「それとこれとは話が別ですわ!」
剣士「呆れた……あなたってそんなに軽い女だったの?」
メイド「違います、純情なんですわ!」
剣士・メイド「むー!」
511:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 00:58:34.58:N6YWZ/2jo
メイド「実は今度勇者さまとデートですの!」
剣士「ええ!? 聞いてないわよそれ!」
メイド「べー、ですわっ」
剣士「魔王にいいつけるわよ」
メイド「そ、それは……」
剣士「……」
メイド「ああ、板ばさみになるわたくし……」
剣士「ハァ……わたし、ちょっとこれからの付き合い方について勇者と相談してくるわ」
メイド「それならわたくしもいきますわ」
剣士「なんでよ!」
メイド「なんですか!」
ギャイギャイ ギャイギャイ……
523:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 05:30:23.79:N6YWZ/2jo
<勇者と魔王>
勇者「よっ」
魔王「あ、どうも」
524:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 05:30:54.84:N6YWZ/2jo
魔王「お茶どうぞ」コト
勇者「どうも」ズズ……
魔王「どうですか最近は?」
勇者「まあ、ぼちぼちかな」
魔王「そうですか」
525:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 05:31:23.77:N6YWZ/2jo
勇者「……」ジー
魔王「……なんですか? ぼく男と見つめ合う趣味はありませんよ?」
勇者「俺もないけど」
魔王「じゃあ、なんですか」
勇者「思い出してはくれないのかな、って」
魔王「ああ、そのことですか……」
526:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 05:32:09.17:N6YWZ/2jo
魔王「ぼくたちはもともと勇者候補生同士だった……でしたよね?」
勇者「ああ。別々のクラスで鍛えられてた」
魔王「勇者さんを信用しないわけじゃないですが、魔王の息子を勇者候補生にしますかね?」
勇者「……」
魔王「?」
勇者「あの頃のお前は、俺のことをお兄ちゃんと呼んだよ」
魔王「それが?」
勇者「いや……」
527:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 05:33:13.54:N6YWZ/2jo
勇者「魔王の息子を勇者候補生とするか、という質問には、イエスとしか答えられない」
魔王「……」
勇者「魔王にも人間並みの情の厚さを求められるかといえば、疑問に思わざるを得ない。
しかし我が息子を簡単に殺す親はいないと判断された」
魔王「子供に親殺しさせようとしたわけですか……」
勇者「酷い話だよ」
528:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 05:33:43.89:N6YWZ/2jo
魔王「じゃあぼく誘拐された子なわけですか?」
勇者「そうだ。そしてまた騎士軍の方から逆に魔界に誘拐された」
魔王「……」
勇者「そして魔術的処理によって記憶を改竄・消去されてしまった」
魔王「……」
勇者「……」
529:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 05:34:22.23:N6YWZ/2jo
魔王「酷い、話です」
勇者「全くだ」
魔王「あの」
勇者「ん?」
魔王「ぼくの話をしてもらえませんか? ぼくはどんな子だったんでしょうか?」
勇者「……元気な子だったよ。いたずらが好きでね。一緒に騎士軍の監視をすり抜けては夜遊びに出かけた」
魔王「へえ……」
勇者「といっても、夜の森で星を見たり、蛍を追いかけたり、花の蜜を吸ってみたりだけどな」
魔王「……」
530:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 05:34:55.73:N6YWZ/2jo
魔王「そうですか。ありがとうございます、勇者さん」
勇者「……」ジー
魔王「だから男と見つめ合う趣味はありませんって」
勇者「……」ジー
魔王「……あーはいはい、お兄ちゃん! これでいいですか!?」
勇者「もっと優しく」
魔王「……お兄ちゃん?」
勇者「もっと情熱的に」
魔王「お兄ちゃーん!」
勇者「もっと――」
魔王「遊ばないでくださいよ」
531:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 05:36:01.93:N6YWZ/2jo
勇者「でも、結局完全には思い出してはもらえなかったな……」
魔王「なんかすみませんね」
勇者「いや……」
魔王「いや、でも……ほんの少しだけ」
勇者「?」
魔王「友達に――」
子供『ぼくと友達になってください!』
勇者「……ああ。お前の殺し文句だ」
魔王「え? ぼくそれいろんな人に言ってたんですか?」
勇者「『お兄ちゃん』と合わせて男女関係なく効く最終兵器だった」
魔王「は、はあ……」
勇者「今度メイドに『お姉ちゃん』って言ってみるといい」
魔王「やってみます」コクコク
532:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 05:36:37.52:N6YWZ/2jo
勇者「よし、じゃあ行くかな」
魔王「もうですか?」
勇者「ああ、仕事が残ってる」
魔王「ええ、分かりました」
勇者「行ってくるよ」
魔王「行ってらっしゃい、……お兄ちゃん」
勇者「……効くな」
魔王「そうですか」
533:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 05:38:14.19:N6YWZ/2jo
<剣聖と剣士>
――わたしの朝は、口腔粘膜の、ぬめり絡み合う感触から始まる
剣士「んん……」ヌチャァ……
剣聖「ん……」ピチャ……
剣士「んはっ……」ビクン!
剣聖「起きたか?」
剣士「ハァ……ハァ……」コクリ……
剣聖「なら鍛錬の用意をするんだ」
――そう言って男は去っていく。気絶から覚めた頭は重い
546:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:28:12.98:N6YWZ/2jo
――朝の走り込み。ここに汚濁は潜まない。わたしの生活の中で唯一清らかな時間
剣士「ハッ、ハッ……」タッタッタッタ……
――透明な日の光の中、身体を引き延ばし拡張していく感覚
剣士「フッ、フッ……」タッタッタッタ……
――このまま帰りたくないとも思う。その意思とは反対に、奥底で疼く躰を見下ろしながら
547:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:29:46.80:N6YWZ/2jo
――走り込みの後は剣をふるう。気の遠くなるような数を、這うような速度で踏んでいく
剣士「フッ、フッ……」ビュッ ビュッ……
――一振りごとに空間に切り傷が刻まれるのを感じる。それを一点にまとめる意識
剣士「フッ、フッ……」ビッ ビッ……
――鋭敏になる意識。だがそこに一筋の違和が差し込まれる
剣士「!」ビク!
剣聖「続けろ」
――躰を蛇が這う。そのように錯覚する。実際に這っているのは人間の腕だ
剣士「ヒュッ、ヒュッ……」ビシ ビシ……
――かざ切り音とともに躰に腕が食い込む。撫でられ、つままれ、痺れが走る。
剣士「くっ、うっ……」ビュン ビュン……
――次第に息が上がる。躰が震える。立っていられない
剣聖「続けろ」
剣士「……はい」
――それでも進まねばならない
548:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:30:39.17:N6YWZ/2jo
――目の前の男を打ち倒すことができたらどんなにいいか。いつもいつも夢想する
剣士「……」ジリ
剣聖「……」
――だがその思いと裏腹に知っている、確信している。わたしは負ける
剣士「やああぁぁッッ!」バッ!
剣聖「……」シュッ!
――出た足を斬りつけられひるむ。その隙を、男は見逃さない
剣聖「……」シュッ ビッ バシュッ!
――一刀ごとに血が散るがごとくに服が裂ける
剣士「やっ……」
――閃きはやまない。服はすぐに原形をとどめなくなり、素肌が外気にさらされる
549:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:31:37.91:N6YWZ/2jo
剣士「やだっ!」ダッ!
――思わず身をひるがえすその背中に、最後の一刀が浴びせられる
剣士「ひぐっ!」ドサァ
――背の真ん中を打たれ、痺れて立てない
剣士「あ……あ……」
――それでも這って逃げようとする背に、覆いかぶさる暗い影
剣聖「お前わざと負けているんだろう」
――するりと肌を何かが滑る
剣聖「俺に嬲ってほしいんだろう」
――違う! 叫ぼうにも声は出ない。背筋にぬめる何かが触れる。
剣聖「いいだろう、我が娘。愛してやるぞ」
――嫌悪感はすぐにかすれて消えていった
550:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:32:23.24:N6YWZ/2jo
剣士「あっ……はっ……」
剣聖「……」ピチャ……ピチャ……
剣士「うあ、あ……」
剣聖「……」ヌロ……
剣士「ひぅ……!」
――躰に打たれた無数の痣。舌と指は、それを丁寧に撫でていく
剣士「いや……いやぁ……」
剣聖「……」ピチャリ……
剣士「パパぁ……」
剣聖「……」ギュッ
剣士「あぅ!」ビクンビクン!
551:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:32:54.96:N6YWZ/2jo
・
・
・
――走っていた走っていた。朝の光の中どこまでも走っていた
剣士「……」タッタッタッタ……
――逃げようと決めたあの朝
剣士「……」タッタッタッタ……
――続く道をどこまでも走っていた
剣士「う……」タッタッタッタ……
552:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:33:43.71:N6YWZ/2jo
――泣こうとして、泣けないことに気付いた
剣士「うう……」
――だから代わりに足を必死に動かした
剣士「ううう……っ」
――どこまでも走っていけそうな気がした
剣士「うぐ……ひぐ……」
――……どこにも行けないのに気付くのに、そう長くはかからなかった
553:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:34:25.05:N6YWZ/2jo
剣士「ああっ! ああっ――!」
――嬲られていた。
剣士「うあ! ああっ!」
――どうしようもない程嬲られていた。
剣士「もうやめて! お願い!」
――夕方になって帰ったあの日。わたしはパパに汚された
剣士「お願い……!」
――もう大抵のことは響かない。信じていたそれはたやすく崩れ落ちる
剣士「きゃああああ!」
――圧倒的な快楽。飛ぶようでいて、なによりも速く落下するような。そんな感覚
554:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:34:29.41:cYKHpjSIO
――悲鳴は口でふさがれた
剣士「――ッ! ――ッ!」
――くぐもって消える悲鳴。もしくは歓喜の声
剣士「……っ」
――ああ認めよう。あの時わたしは堕ちていた
剣士「……」
――唾液にぬめり、そして白濁にまみれ。熱を帯びて波打っていた
556:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:36:08.99:N6YWZ/2jo
――認めよう。あの時わたしは堕ちていた
剣士「……」
――どこまでも底がなく落下していく何か
剣士「……」
――取り返しのつかない何か
剣士「……」
――あの時わたしは堕ちていた。最後まで行かなかったのは奇跡に違いなかった
剣士「……」
――どうしようもなくくだらない奇跡だった
557:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:37:26.12:N6YWZ/2jo
――……
心の底に、みえない小さな器を用意した。
汚濁した何かによって満たされていくそれ。
泥のような中身はどんどんたまっていき、いつかは器からあふれるだろう。
その時は。
わたしはきっと今度こそここを出ていく。
出て行って二度と戻りはしないだろう。
――……
558:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:38:11.94:N6YWZ/2jo
剣士「ねえ勇者」
勇者「何か?」
剣士「ごめんね」
勇者「……」
剣士「ありがとう」
勇者「……」ギュッ
剣士「……」
――あれはそれほど経たないうちに実現し、わたしは新たな世界に足を踏み出したのだが、それはまた別の話
剣士「……」
――身体の痣は消えたが、まだどこかに鈍い痛みは残っている
561:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:39:47.46:N6YWZ/2jo
574:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 20:26:17.73:N6YWZ/2jo
<メイドと剣士と後一人>
メイド「キャッキャ」
剣士「ウフフ」
575:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 20:28:38.19:N6YWZ/2jo
<帝都>
メイド「楽しいですわねー」
剣士「そうね、楽しいわ」
メイド・剣士(今この場においてあなたさえいなければ!)
576:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 20:30:07.62:N6YWZ/2jo
メイド「あれはなんですの? 露店? なんですかそれ」
剣士「あなたそんなことも知らないの?」
メイド「わたくしは勇者さまと話してるんですわっ
……ふむふむ、野外に出したお店ですか」
剣士「……」
メイド「え!? 何か買ってやる? ホントですの!?」
剣士「!」
メイド「ありがとうございます!」
577:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 20:30:36.48:N6YWZ/2jo
剣士「……」ブス
メイド「~♪」ルンルン!
剣士「ねえ、勇者……いえ何でもないわ」
剣士(ここで欲しがっては、女がすたるわよ剣士……!)
メイド「ブレスレット~♪ 勇者さまから買ってもらったブレスレット~♪」
剣士「やめなさいよみっともないわ」
メイド「……」ジー
メイド「フッ……」ヤレヤレ
剣士(『悔しいんですのね』。そう言いたげでムカツク……)
579:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 20:38:18.19:N6YWZ/2jo
メイド「あっちの広場が賑やかですわ! 行ってみましょう!」グイグイ
剣士「あ、ちょっと……」
剣士「……」ポツン……
580:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 20:39:23.33:N6YWZ/2jo
剣士「――フッ……」カタスクメ
剣士「あんな娘に何ムキになってるの剣士。冷静に行きなさい、冷静に」
剣士「決して悲しくなんかないわ。だって冷静だもの」
剣士「だからこれは涙じゃないし、顔も歪んでなんか……」グス
剣士「……あーあ。本当に魔王に言いつけちゃおうかしら」
581:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 20:40:37.69:N6YWZ/2jo
ポンポン
剣士「はい……って勇者」
剣士「!」ササ! ゴシゴシ
剣士「何かしら?」キリ!
剣士「……え。これ指輪」
剣士「高いものじゃないけどって?」
剣士「……そんなのどうでもいいわよ」
剣士「いい? あなたがくれる物は、例え生ごみだろうと宝物になるの」
剣士「だから」スッ
剣士「……」
剣士「……ちょっとくらいサイズが違おうとわたしの宝物になるの」
剣士(……ダイエットって指も痩せるかしら?)
582:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 20:44:19.98:N6YWZ/2jo
剣士「メイドは?」
剣士「あっちで人形劇に夢中になってる?」
剣士「……子供ね」
剣士「……」ウズ
剣士「別にわたしも見たいなんてそんなことないわよ?」
剣士「……そこまで言うなら仕方ないわね。見てあげないこともないわ」
剣士「あ、ちょっと,待って」
剣士「……」グイ
――チュッ
剣士「……さあ、行くわよ」
剣士「別に赤くなってなんかないわ。ホントよ?」
剣士「ホント! 行くわよ!」グイグイ!
604:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 06:59:29.89:kujgr3tlo
<魔族トリオ>
コボルト族長「おう」
ゴブリン族長「うむ」
妖精族長「~♪」
605:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 07:03:17.46:kujgr3tlo
コボルト族長「生き残ったな」
ゴブリン族長「儂もお主も運が良かったとしか言いようがない」
コボルト族長「ああ、あの時の人間の火力は異常だった。あれは魔族並みだったのではないか?」
ゴブリン族長「仮面人、いや勇者が行っていたことが今ならわかる。実力が同じなら、人間の方が戦いは巧い」
コボルト族長「認めたくはないがな」
妖精族長「~♪」
606:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 07:04:21.23:kujgr3tlo
ゴブリン族長「人間が撤退していなかったら儂もお主もここにはおらん」
コボルト族長「あれは一体どういうことだったのだ? なぜ人間たちは退いたのだ?
あのまま攻められていれば魔王城は陥落していたに違いないのに」
ゴブリン族長「儂も後から聞いた話にすぎんが。人間たちの使う魔術は血を使うことは知っておろう」
コボルト族長「ああ」
ゴブリン族長「単純に血液が足りなくなったのが一つらしい」
コボルト族長「何?」
妖精族長「~♪」
607:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 07:05:06.03:kujgr3tlo
コボルト族長「なぜそんな間抜けな事態になったのだ」
ゴブリン族長「魔術士といってな、魔方陣を体内に持つ人間が騎士軍の主力だったそうだ。
魔術を使うごとに体内から血液を失う。それは表からは見えない」
コボルト族長「見誤ったのか」
ゴブリン族長「それともう一つ」
コボルト族長「何だ?」
ゴブリン族長「竜族だ」
コボルト族長「あいつらが?」
妖精族長「~♪」
608:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 07:05:32.30:kujgr3tlo
ゴブリン族長「今回、魔界の危機ということで腰の重いあやつらがようやく動いた」
コボルト族長「本当にようやくだな。プライドばかり高いものぐさどもが」
ゴブリン族長「しかし実力は本物だ。その脅威によって人間は退いていった」
コボルト族長「なるほどな」
妖精族長「~♪」
609:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 07:06:01.43:kujgr3tlo
コボルト族長「さて、一応休戦協定は結ばれたわけだが。これからどうなるのであろうな」
ゴブリン族長「そのうち両者の軍縮が始まるとは思うが、儂らの仕事はなくならんだろうな」
コボルト族長「なぜだ?」
ゴブリン族長「最低限の武力は残しておく必要があるからだ」
コボルト族長「ん?」
妖精族長「怪我のない喧嘩をするにも力が必要ということです」
610:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 07:06:33.19:kujgr3tlo
コボルト族長「……?」
妖精族長「魔族であるあなたも知っているでしょう。本当に力のある者は大きな怪我を負う戦闘は原則しない。
力の弱い者ほど血みどろな戦いをするものです」
ゴブリン族長「そういうことだ」
コボルト族長「なるほどな」
妖精族長「今後わたしたちは抑止力としての働きを持つことでしょうね」
ゴブリン族長「うむ」
611:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 07:07:11.48:kujgr3tlo
コボルト族長「我々は勝てなかったが、負けもしなかったな」
妖精族長「ですが旅立った者も多い……」
ゴブリン族長「儂らがまだ生きているのは、その散っていった者たちのおかげとも言える。
儂らで祈りを捧げよう」
コボルト族長「……そうだな」
――……ヒュルルルルルル
ゴブリン族長「! なんだ!?」
――ドォォォォンッ!
コボルト族長「敵襲か!?」
妖精族長「……ふふ」
612:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 07:07:38.93:kujgr3tlo
・
・
・
――ヒュルルルルルル……ドォォォン!
コボルト族長「……」ポカン
ゴブリン族長「花火……?」
妖精族長「妖精族お手製ですよ」
613:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 07:08:05.41:kujgr3tlo
コボルト族長「妖精族が?」
ゴブリン族長「なぜ?」
妖精族長「旅立った者を祝福するために」
コボルト族長「……」
ゴブリン族長「……」
妖精族長「妖精族はいたずら好きなんですよ」
614:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 07:08:37.08:kujgr3tlo
――ヒュルルルルルル……ドォォォン……パチパチ……
コボルト族長「……」
ゴブリン族長「きれいで、あるな」
妖精族長「……祈りましょう。明日もまた、いい日であるように」
コボルト族長「……ああ」
ゴブリン族長「うむ」
621:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 08:56:33.68:3miwvGcSO
<剣士とメイドと後一人>
剣士「キャッキャ」
メイド「ウフフ」
636:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 19:33:54.26:kujgr3tlo
剣士「楽しいわねー」
メイド「楽しいですわー」
剣士・メイド(今この場においてあなたさえいなければパート2!)
637:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 19:34:21.28:kujgr3tlo
<帝都>
剣士「これはどういうことなのかしら」
メイド「どう、とは?」
剣士「わたしは勇者とデートしていたと思ったら何か余計なものがついてきていた。
非常に恐ろしいものの片鱗を味わってるわ」
メイド「別に超スピードでも催眠術でもありませんけどね」
剣士「ええそうね、あなたが軟派な女ってだけよね」
メイド「純情なだけですわ!」
剣士「純情の使いどころ多分間違ってる」
638:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 19:34:50.14:kujgr3tlo
<店>
メイド「勇者さま! これはいかがですか!?」シャ!
剣士「……」
メイド「じゃあ、こちらは!?」シャ!
剣士「……」プル……
メイド「ふむぅ、ではこれでどうでしょう!?」シャ!
剣士「……」プルプル……
メイド「あら剣士、どうしましたの? あなたも試着しませんの?」
剣士「あなたって痴女だったのね」
メイド「え?」
剣士「勇者も勇者よ! 下着のお店に一緒に入ってどういうつもり!?」
639:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 19:35:17.53:kujgr3tlo
メイド「ほらほら、剣士も試着しませんと!」グイグイ
剣士「ちょ、ちょっと!」
メイド「えい!」シュババババ!
剣士「きゃ!」
メイド「完成ですわ!」シャ!
剣士「……」
メイド「勇者さま、いかがですの!?」
剣士「……っ」
剣士「~~~~ッ!」シャ!
メイド「ああ! なんで隠れるんですの剣士!?」
剣士「見ないで勇者ぁぁぁッ!」
640:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 19:35:46.74:kujgr3tlo
店員「どうしました殿方、やや前かがみでは立ちにくくありませんこと?」
店員「お気になさらず? はぁ……?」
店員(二人もきれいな女性をお連れして……一体この殿方は何者でしょう?)
641:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 19:36:15.05:kujgr3tlo
<夜>
剣士「ああ、もう、今日は散々だったわ」
剣士「勇者、あなたもそう思うでしょう?」
剣士「……どうしたのよ、そんなにそわそわして」
剣士「ちょっとどこ触ってるのどこ見てるのどこおっ立ててるの」
剣士「まったく」
剣士「いえ安心したわ。あなたもちゃんと男なのよね」
剣士「いいわよ……来て」
剣士「んっ……」
剣士「あ、そうそう、今あの下着つけてるの。だから――キャッ!」
剣士「……もう、がっつかないの! わたしは逃げはしないわ」
剣士「うん、そう。ずっと一緒よ。ね?」
剣士「……一緒に――」
647:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 19:57:58.85:kujgr3tlo
<哀愁二人組>
元帥「最後に見せ場がやってくる。そんな風に考えていた時期が私にもありました……」
皇帝「最後に見せ場はあったが、何か釈然とない扱いであった……」
648:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 19:58:28.36:kujgr3tlo
元帥「皇帝は今何をなさっているのですか?」
皇帝「今は密かに魔王城で暮らしておる」
元帥「敵地の真ん中で捕虜ですか。心中お察しします」
皇帝「……」
元帥「……?」
皇帝「……メイドとは良いものだ」
元帥「おいこら」
650:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県):2011/06/09(木) 20:35:09.69:Yp3/0R2Lo
『この物語において、奇跡あるいはそれと同じ何かは起きなかったことを報告する』
656:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 21:51:47.30:kujgr3tlo
――彼女は泣き虫だった俺にいつも言っていた
『泣いちゃだめよ。あなたが悪いんだから
手の届かない範囲に手を伸ばそうとしたのが駄目なの』
――最後においても彼女は言っていた
『泣いちゃだめよ。わたしが悪いんだから』
――彼女の言葉を忘れた日は、ない
657:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 21:52:13.99:kujgr3tlo
<十年前>
女「やっふー!」ガバ!
男「うわあ!」ヨロ……
女「ふふ、元気?」
男「いきなり飛びつかないでよ……」
女「スキンシップスキンシップ♪」
男「全くもう……」
658:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 21:53:09.63:kujgr3tlo
女「大学の講義、どう? タルくない?」
男「いや別に?」
女「そう? あたしはタルいわー」
男「それは姉さんがあまりに頭がいいからだよ」
女「褒めてもキスくらいしかできないわよ?」
男「ちょっ……そんな軽々しくキスとか……!」
女「ん? 何? 期待した?」
男「べ、別にそういうわけじゃないよ」
女「……後であたしの部屋に来なさい」
男「え、え!?」
女「バーカ、期待するんじゃないわよ。
あんたも大概頭いいから、見てもらいたいのがあるだけ」
男「な、なんだ」
女「そんなにがっかりしないの。あんたには期待してるんだから」
――それが最後に見た彼女の姿だった
659:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 21:54:14.12:kujgr3tlo
「あ……あ……」
――彼女はゆっくりと人間をやめていった
「うあ! ああ!」
――それは悲鳴にも歓声にも聞こえた。人間をやめることを彼女が望んでいたならば、それも間違っていなかっただろう
「がああああああ!」
――肉が裂け、崩れ、また膨らみ、はじけ、散り
「……見ないで」
――しわがれた声で最後にそう告げると、彼女はすっかり変わってしまった姿を引きずって、空に消えた
660:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 21:54:52.11:kujgr3tlo
「まさか、あの彼女が……」
――酷く耳障りだった
「実験に失敗……」
――耳障りだった
「魔術士計画の……」
――耳障り、耳障り、耳障り、耳障り……
「魔族の体組織の組み込み……」
――叫んでいた。一人一人殴りとばしていた。取り押さえられるまで暴れ続けた。
「――大学の汚点……」
――それでもどうしてか、涙は止まらなかった
661:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 21:55:29.02:kujgr3tlo
教官「討伐隊を組むことになった」
男「……」
教官「彼女は既に人間をやめている。すぐに排除しなければ帝国が危うい。わかるだろう?」
男(大学の立場が危ういの間違いだろう……!)
教官「君も協力してくれるね?」
男「……お断りします」
教官「君には期待してるんだ」
『あんたには期待してるんだから』
男「期待……期待ってなんですか。彼女を殺すことを期待されても困ります。
彼女は、ぼくの姉なんだ」
教官「だった」
男「……?」
教官「過去形だ。今は違う」
男「違わない!」
――彼女の討伐隊は、その夜出発した
662:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 21:56:02.31:kujgr3tlo
男「……」
――俺は、何もせずに部屋でうずくまっていた
男「……」
――場所は分かっている。彼女には会いに行くことができる
男「……」
――あそこにいるだろう。昔彼女と一緒に暮らしていた場所。そんな気がした
男「……」
――だが動けなかった
男「っ……」
――怖かった。彼女を直視するのが。変わってしまった彼女に会うのが
男「っ……っ……」
――泣いていた。しばらく泣いて、気付かぬうちに眠っていた
663:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 21:56:31.17:kujgr3tlo
◆◇◆◇◆
少年「うわぁぁん……」
「こら、泣かないの」
少年「だって……だってっ……」
「手の届かないことに文句を言っても始まらないわ」
少年「死……母さんがっ……ヒック」
「泣いちゃだめ」
少年「うわぁぁぁぁぁん!」
「……」
少年「グス……グス……」
「……あたしはずっとそばにいてあげるわよ」
少年「……」
「だから泣きやんで。お願いだから。ね?」
少年「……うん」ヒック
◆◇◆◇◆
664:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 21:56:57.72:kujgr3tlo
――部屋を飛び出した
男「……っ」
――暗い夜の道を、どこまでも走った
男(まにあえ……まにあえ!)
――母の生家。そこに向かって脇目もふらずにどんどん走った
男「っ……っ……」
――視界がにじんだ。よく見えなかった
男「姉さん!」
――それでも、走った
665:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 21:57:25.99:kujgr3tlo
男子「おい、やっぱりやめようよ……」
子供「お兄ちゃんは怖がりですね」
男「君たち! ……このあたりで、そうだな、大きな音がしたりしなかったかい?」
子供「ええ、あっちからしましたよ」
男「ありがとう!」
666:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 21:58:22.13:kujgr3tlo
――終わっていた
男「ッ……」
――着いたときには、全てが終結していた
男「……」
――そこには討伐隊と、躯しかなかった
男「姉さん!」
――まだ焼かれた熱が残っている死骸。火傷するのにもかまわずすがりついた
男「姉さん……」
――その時気付いた。彼女は見る影もなく変わってしまったが、ほぼ躯となってしまった彼女の細い吐息は、昔のままだと
667:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 21:59:10.72:kujgr3tlo
『……』
――姉の目が開いた。薄く、弱く
男「姉さん……!」
『――泣かないで』
男「……姉、さん」
668:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 22:00:00.39:kujgr3tlo
・
・
・
師匠「ううん……」
魔王「おはようございます」
師匠「……よう」
669:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 22:00:27.10:kujgr3tlo
魔王「姉の夢、ですか?」
師匠「憧れだった」
魔王「……」
師匠「愛していたよ。本当に」
魔王「……」
師匠「気付くのが遅かったんだ。たとえ姿が変わっていようが、彼女は彼女のままだって」
魔王「師匠さん……」
師匠「気付ければ、奇跡かそれと同じ何かは起きていたかな」
魔王「……」
師匠「……いや、不毛か」
670:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 22:00:55.28:kujgr3tlo
師匠「さて、腹も膨れたし俺は行くよ」
魔王「師匠さん」
師匠「ん?」
魔王「……いえ、なんでもありません」
師匠「そうか」
魔王「でも、これだけは」
師匠「なんだ」
『泣かないで』
師匠「……」
魔王「……」
師匠「……分かった。それじゃあな」
ガチャ……バタン
――彼女のことは、忘れない
682:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 05:12:48.41:lsBUaxylo
<魔王とメイド>
魔王「お姉ちゃん」
メイド「ブフォッ!」
683:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 05:13:28.35:lsBUaxylo
メイド「な、なんですのそれは」ボタボタ……
魔王「メイドさん、鼻血はないでしょう鼻血は」
メイド「だ、だって」
魔王「お姉ちゃん」
メイド「~~~ッ!」ブシャ!
684:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 05:13:54.97:lsBUaxylo
魔王「まったくもう……」フキフキ
メイド「ずびばぜん……」
魔王「いや、ぼくもごめんなさい、遊びすぎました」
メイド「吸血鬼が逆に血を噴き出すなんて屈辱ですわ……」
魔王「その考え方は吸血鬼らしいんでしょうかどうなんでしょうか?」
685:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 05:14:22.77:lsBUaxylo
メイド「もしかして勇者さまですか、入れ知恵したのは……」
魔王「良く分かりましたね」
メイド「いえ、あの方常々魔王さまに『お兄ちゃん』って呼ばれたがってる節がありましたから……」
魔王「そ、そうですか」
メイド「それにしても……」
魔王「……?」
メイド「……」フルフルフルフル……
魔王「???」
メイド「あーん、魔王さまかーわーいーいー!」ガバ!
魔王「わわ!」
686:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 05:14:49.89:lsBUaxylo
本文「濃厚な吸血タイムだよ! しばらく待ってね!」
687:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 05:15:16.76:lsBUaxylo
魔王「……っ」ピクピク
メイド「ごちそうさまでした」
魔王「お……お粗末さまでした」
メイド「魔王さまがかわいすぎるのが良くないんです」
魔王「褒め言葉として受け取っておきましょう……」
688:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 05:15:48.05:lsBUaxylo
魔王「でもぼくだって格好いいところはあるですけれど」
メイド「そうでしょうか?」
魔王「ありますよ!」
メイド「ちょっとよくわからないので実演してもらえますか?」
魔王「分かりました。ぼくの本気、受け取ってください」
689:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 05:16:28.51:lsBUaxylo
魔王「あー、こほん……」
メイド「♪」ワクワク
魔王「メイド……」
メイド「!」
魔王「君が欲しい……」
メイド「……」
魔王「……ど、どうですかね?」
メイド「……」
魔王「メイドさん?」
メイド「――ッ!」ブバ!
魔王「ああ!? 出血過多!?
メイドさん! メイドさーん!」
・
・
・
692:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 06:10:27.79:lsBUaxylo
<魔王と剣士>
魔王「お姉ちゃん」
剣士「……」
魔王「あれ?」
693:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 06:10:55.51:lsBUaxylo
剣士「何それ?」
魔王「え? いや、別になんとなく……」
剣士「そう……」
魔王(さすがに効かないかー)
剣士「――」
魔王「……?」
剣士「……わたしには勇者がいる、わたしには勇者がいる、わたしには勇者がいる……」ブツブツ
魔王「……」
剣士「……浮気は駄目よ剣士、いいわね……」ブツブツ
魔王(思いのほか効いてた)
剣士「……よし」
694:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 06:11:25.04:lsBUaxylo
剣士「ところで、最近あの娘とはどうなの? 進んだ?」
魔王「聞きます?」ニヘラ
剣士「聞かなくても分かった」
魔王「そんなこと言わずに聞いてくださいよー!」
剣士「いいけど……あまりにムカツクこと言ったら帰るわよ?」
魔王「話せるならなんでもいいです!」ニヨニヨ
剣士「今からしてもうムカツキはじめてるわけよ」
695:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 06:11:59.72:lsBUaxylo
魔王「じゃあ、話しますよ。最近一緒に出かけたんですが……」
剣士「……」
・
・
・
魔王「それでメイドさんにお姉ちゃんって……」
剣士「……」
・
・
・
魔王「それからそれから」
剣士「……」
・
・
・
魔王「――というわけです!」
剣士「え? あ、終わったの?」
魔王「さては聞いてませんでしたね!」
剣士「聞いてたわ、一緒に出かけたあたりまでは」
魔王「それ一番最初じゃないですか!」
696:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 06:12:41.62:lsBUaxylo
剣士「でも安心したわ。あの娘と仲悪いわけじゃないのね」
魔王「そんなわけないじゃないですか」
剣士「最近ちょっと心配だったのよ。
あの娘あまりに勇者にべたべたするもんだから、あなたと上手くいってないんじゃないかって」
魔王「え!?」
剣士「一応友達だから心配なの」
魔王「勇者とべたべた……?」
剣士「あ、聞かなかったことにして」
魔王「勇者と、べたべた……」
剣士(しまったわね)
697:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 06:13:09.35:lsBUaxylo
剣士「あー……うん、でも安心なさい」
魔王「何がですか……」
剣士「あの娘、あれでも勇者のこと諦め始めてる節があるから」
魔王「根拠は?」
剣士「女の勘?」
魔王「剣士さんってそんなの持ってたんですね」
剣士「どーいう意味よ」ツネリ
魔王「あいたたた……」
698:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 06:13:37.55:lsBUaxylo
剣士「ま、あんたも頑張んなさい。
その方がわたしも助かるから」
魔王「頑張ります」
剣士「じゃあね」
魔王「はーい、さようならお姉ちゃん」
剣士「……」ツー
魔王「剣士さん、鼻血です」
705:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 10:48:47.08:lsBUaxylo
<皇帝陛下と主人公四人組>
メイド「こーてーへーか、朝ですわ」
皇帝(妻に欲しい)
・
・
・
魔王「おはようございます、おじいちゃん♪」
皇帝(息子に欲しい)
・
・
・
剣士「突然だけど皇帝と童貞って響きが同じよね」
皇帝(妾に欲しい)
・
・
・
勇者「ご機嫌麗しゅう、皇帝陛下」
皇帝「死せよイケメン」
勇者「えっ」
754:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/12(日) 23:32:46.22:d/IgSoXEo
712:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 17:36:53.74:RoG4jT3IO
<世界は――>
勇者「……」
剣士「こんなとこにいたのね勇者」
719:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 21:47:16.90:lsBUaxylo
勇者「剣士か」
剣士「ええ、邪魔しちゃ悪かったかしら?」
勇者「いや……」
剣士「何か考え事?」
勇者「ああ」
剣士「聞いてもいい?」
勇者「うん、いいよ」
720:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 21:47:44.57:lsBUaxylo
勇者「……俺はね」
剣士「うん」
勇者「親がいないんだ」
剣士「……」
勇者「家族のことも、覚えてない」
剣士「……」
721:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 21:48:11.25:lsBUaxylo
勇者「いや、だからどうってわけじゃないんだけど」
剣士「……」
勇者「でも何かが欠けてる気がして、ここまでずっとあがいてきた」
剣士「……」
勇者「手の届く範囲でしか物事は動かせない。それを知っていてもつらかったな」
剣士「……そう」
722:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 21:48:45.71:lsBUaxylo
勇者「でも」
剣士「?」
勇者「今は、違うかな」
剣士「……」
勇者「……」
剣士「……」
勇者「結婚しよう」
剣士「うん……え?」
723:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 21:49:33.22:lsBUaxylo
勇者「結婚しよう。大事なことだから二回だ」
剣士「え? え?」
勇者「……もしかして嫌だったか?」
剣士「そんなわけないじゃない! でも……」
勇者「俺は君以外目に入らない」
剣士「……!」
勇者「……それじゃ、駄目かな?」
剣士「いいえ、十分よ」
724:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 21:49:59.84:lsBUaxylo
勇者「……」
剣士「……」
勇者「夕日がきれいだな」
剣士「ええ」
勇者「……」
剣士「……」
……オーイ!
勇者「ん?」
魔王「何してるんですかー、こんなところで」
メイド「わ、きれいな夕日ですわねー!」
剣士「ここは特等席なの」
魔王「ご一緒してよろしいですか」
勇者「かまわないよ」
725:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 21:50:26.63:lsBUaxylo
勇者「……」
剣士「……」
魔王「……今日が終わりますね」
メイド「……はい、魔王さま」
勇者「でもまた日は昇る」
剣士「そうね」
魔王「明日はどんな日になりますかね?」
メイド「わたくし、勇者さまとなら――いいえ、みんなとならどんな日でもかまいませんわ!」
勇者「俺もだ」
剣士「わたしも」
魔王「もちろん、ぼくもです!」
726:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 21:51:03.88:lsBUaxylo
――世界は
コボルト族長「きれいな夕日だ」
ゴブリン族長「うむ」
妖精族長「~♪」
――時に酷く残酷で
元帥「陛下、ご覧ください」
皇帝「うむ、美麗である」
――だがそれでもどこか美しく
鬼人族長「……」
鬼人従者「……」
――手の届くところに答えを置いていく
師匠「ああ、腹減った……」
――きっとそれは何かの奇跡だろう
子供『……』
男子『……』
727:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 21:51:36.40:lsBUaxylo
――生きようと思えるなら
勇者「……」
剣士「……」
魔王「……」
メイド「……」
――必ずまた、日は昇る
728:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 21:52:23.43:lsBUaxylo
title:勇者「魔王捕まえた」
~了~
729:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 21:53:18.96:lsBUaxylo
本文「――以上、厨二病棟からお送りいたしました! それじゃあばいばい!」
733:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州):2011/06/10(金) 22:15:12.91:2WHd3F/AO
745:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2011/06/11(土) 11:32:13.18:ihdFrIQRo
元帥「あのコボルトか?」
「ええ、確かに間違いありません」
元帥「確かに、人間よりもはるかに強靭だが……」
「六千の、コボルトにです」
元帥(馬鹿な!)
元帥「……」
「……」
元帥「にわかには、信じられんな」
「私もです」
元帥「だが、君が嘘をついているようには見えん……信じよう」
「光栄です」
元帥「となると、だ」
「はい、その通りです」
元帥「ああ、計画を前倒しにする必要が出てきたやもしれん」
「ええ」
元帥「現在の進捗状況は?」
「約三割といったところでしょうか」
元帥「急ぐように伝えろ」
「は!」
元帥(魔界に何か動きがあった……そう見た方が妥当か)
元帥「……勇者」
元帥(まさかな……)
<魔界.魔王城>
勇者「と、言うわけで、魔族の強化を始めようと思う」
剣士「唐突に口を開いて何が『と言うわけで』、よ」
メイド「わたくしにも分かりませんわ」
勇者「ん。まあ、大したことじゃないんだ。
今度のことみたいに俺がいちいち出張ってたんじゃ色々都合が悪い。
だから魔族の軍事力を底上げして騎士軍と互角に戦えるようにしようと思って」
剣士「そんなことして大丈夫?
今度は人間側が脅かされるわ」
勇者「そうだな。だから前回みたいに比較的弱い……もとい温和?な種族に戦術を授けようと思う」
剣士「例えば?」
勇者「ゴブリン?」
剣士「どこが温和よ」
勇者「まあ、ただの例えだよ。
まあ、そこら辺はメイドに訊こう」
メイド「わたくしですの?」
剣士「まあ、当たり前だけどこの中では一番魔界通だものね」
メイド「ちょっと待ってくださいまし。
わたくしはあなた方の仲間になった覚えはありませんわ」
勇者「でも魔族の強化は悪い話じゃないだろう?」
メイド「……わたくしは戦は嫌いですわ」
勇者「あんまり魔王を脅しには使いたくないんだけれど……」
メイド「それはもう脅しになりませんわ」
勇者「?」
メイド「あなたはそういう人じゃないってなんとなくわかりましたもの」
勇者「……」
勇者「でも、俺はやるときはやる男だ。そういう訓練も受けた」
メイド「それでもあなたはやりません」
勇者「どうかな」
メイド「やりません」
勇者「やるよ?」
メイド「やりません」
勇者「……困ったな」
メイド「ではわたくしはお洗濯をしに行きますわ」スク
勇者「……」
メイド「……」ツカツカ
メイド「……そういえば、資料室」
勇者「!」
メイド「あらやだわたくしったら独り言を。変な癖は治しませんと」
剣士「……」
メイド「お洗濯お洗濯」ツカツカ……
剣士「……素直じゃないわねえ。
あれでもだいぶ懐柔できたのかしら」
勇者「どうだろうね」
<魔界.会議堂>
コボルト族長「……」
ゴブリン族長「……」
妖精族長「~♪」
勇仮「……」
勇仮(とりあえず、資料室で調べてピックアップした種族はこの三つだ。
個としての力は強くないが、数が多く集団行動が得意で、なおかつ比較的思慮深い。
こいつらを鍛えれば、程よい戦力になるはず……)
コボルト族長「……そろそろ聞かせてもらっても良いのではないか?
我らはなぜここに集められた?」
勇仮「ぬ、そうだな。説明を始めたいと思う」
ゴブリン族長「儂らはあまり頭がよくない。分かりやすく頼む。
出ないといつ手が出るかわからんぞ……?」
妖精族長「~♪」
勇仮「ふむ。鋭意努力いたそう」
勇仮「まず、各部族に報せは回っていると思うが、我輩は新しく魔王さまの側近となった仮面人と申す。
ここであらためて挨拶を申し上げたい。これからどうかよろしく頼む」
ゴブリン族長「仮面人、か」
妖精族長「~♪」
コボルト族長「我々は比較的早くその情報を頂いておる。
先の戦は……まあなかなかのお手前であった」
ゴブリン族長「東平原の戦いか。儂も一応は聞いておるな」
勇仮「ならば話は早い。我輩の実力はもう分かっていただけたと思う」
コボルト族長「まあ、一応は、な。あれがマグレの可能性もあるが。
それに前に出て戦わない指揮官など、ただの臆病者だ」
勇仮「どのように思って頂いてもよい。
我輩の力によって騎士軍を敗走させた……は言いすぎにしても追い払ったのは事実だ」
ゴブリン族長「……ふむ」
妖精族長「~♪」
コボルト族長「それで? 話を先に進めていただこうか」
勇仮「単刀直入に申しあげよう。あなた方の種族の者を我輩の手駒にしたい」
ゴブリン族長「……!」
コボルト族長「ほう……」ピク
勇仮「我輩はまだ就任したばかりで組織を動かすだけの力は持たん。
だが、これから魔王さまを補佐していくうえでその力は絶対に必要となる。
だから、あなた方の力がほしい」
ゴブリン族長「……」チラ
コボルト族長「……」コクリ
勇仮「……」
ゴブリン族長「ずいぶんな物言いではないか、若いの。
儂らは物では――ないぞッ!」バッ!
コボルト族長「ふっ!」シュッ!
勇仮(まあそうだよな!)バックステップ
勇仮「待たぬか。我輩に刃を向けるのは魔王さまへ刃を向けるのと同じこと」
コボルト族長「ぬかせ、この若造が。臭いで分かる。お前は異端の者だ」
ゴブリン族長「儂は仮面から覗く目で分かる。お主はそれほど強くはないな」
勇仮「……」
勇仮(確かに俺はただの暗殺技能者。
たとえ比較的弱い種族相手といえども、真正面からじゃ絶対に負ける)
コボルト族長「覚悟しろ、異端者め」ジリジリ
ゴブリン族長「……」ジリ……
勇仮(いけるか?)スッ
妖精族長「お待ちになってください」
コボルト族長「のんきに鼻歌を歌っていた輩が口をはさむな」
ゴブリン族長「話はこやつを殺してからでも遅くはあるまい?」
妖精族長「いいえ、遅すぎます」
勇仮「……ふむ」
妖精族長「仮面人様、わたしはあなたをたいそう名のある方とお見受けします」
勇仮「いや無名であるが」
妖精族長「ふふ、ご謙遜なさらないで。
先ほどからあなたの鋭い闘気をひしひしと感じます」
勇仮「……」
妖精族長「それに騎士軍を、半分の数のコボルト軍で追い払ったそうですね。
並大抵のことではありませんわ」
勇仮「先ほどから何が言いたい?」
妖精族長「協力して差し上げてもよい、と申し上げているのです」
コボルト・ゴブリン「!」
勇仮「それはありがたい」
妖精族長「ただし条件がありますわ」
勇仮「なんであろうか」
妖精族長「妖精族があなたの手駒になるのではなく――あなたが妖精族の手駒となるのです!」
ヒュッ! ビィィィィイイン!
勇仮(弓射!)
妖精族長「わざと外しましたが、次は当てさせますよ」
ゴブリン族長「……お主」
コボルト「……」
妖精族長「あなた方も動かないでください」
勇仮(どこから射撃を……)チラ
妖精族長「妖精族は魔族の中で一番力が弱いですが、その分隠密行動が得意です。
探しても無駄ですよ」
勇仮「……」
妖精族長「~♪」
妖精族長「ふふ、たとえあなたが異端者であろうと、魔王さまに近いところにいるのは事実。
ならばわたしたちの部族の発展に利用させていただきます」
勇仮「ふむ……」
妖精族長「あなたの持てる知識を全て引き渡しなさい」
勇仮「……」
妖精族長「……」
勇仮「断る」
妖精族長「そうですか。残念です」
ヒュッ!
妖精族長「では痛い思いをしてもらうまで!」
勇仮「くっ」サッ
――ビィィィィイイン!
妖精族長「無駄です」
ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!
勇仮「“連拳”!」ズガガガガ!
妖精族長「打ち落としますか。さすがですね。でも――」
勇仮「く……」
妖精族長「あなたを狙う矢がこの倍に増えたら?」
キリキリキリ……
妖精族長「もっと倍に増えたら?」
キリキリキリキリキリキリ……
妖精族長「さらに倍に増えたら?」
キリキリキリキリキリキリキリキリキリ……
妖精族長「きっとあなたは死ぬのでしょうね」
――ギリリ……!
勇仮「……」
妖精族長「……」
コボルト族長「……」
ゴブリン族長「……」
勇仮「……プッ」
コボルト族長「?」
妖精族長「……ふふ」
ゴブリン族長「?」
勇仮「ふ、はは……」
妖精族長「ふふふふ」
勇仮「く、はは、はははははははは!」
妖精族長「うふふ、あははははは!」
コボルト族長「……???」
ゴブリン族長「……いったい何だと言うのだ」
勇仮「ははははは……。いやすまない。随分と面白い冗談だと思ってな」
妖精族長「クスクスクスクス……」
コボルト族長「冗談?」
勇仮「いや、我輩の知識がほしいのに殺してどうする」
ゴブリン族長「む……」
妖精族長「ふふふ、その通りです」
コボルト族長「まさか、最初から」
妖精族長「いいえ、本当に知識を絞り出して手駒にするつもりだったんですけれど」
勇仮「我輩が口を割らないのではどんなに脅しても意味はないしな」
妖精族長「痛めつけても良かったんですけれど」
勇仮「力の弱い奴が手加減なんて器用な真似は出来まい?」
妖精族長「その通りです。仮面人様、わたしたち妖精族は、あなたに従いましょう」
勇仮「助かる」
コボルト族長「悪ふざけが過ぎる……」
妖精族長「あら知らないんですか?」
ゴブリン族長「?」
妖精族長「妖精族はいたずらが好きなんですよ♪」
勇仮「ははは!」
<魔王城>
剣士「あなたって」パチン
メイド「なんですの?」パチン
剣士「いえ、なんだかずいぶん大人しくなったものねって」パチン
メイド「そうですか?」パチン
剣士「だってちょっと前まで夜ごとに大暴れだったじゃない」パチン
メイド「毎日暴れていては疲れますわ」パチン
剣士「まあ、そうだけど」パチン
メイド「まあ、馬鹿らしくなったっていうのはありますわね」パチン
剣士「ふーん?」パチン
メイド「あなた方を放置していても特に危険はないと分かりましたもの」パチン
剣士「まあ、わたしは暴れたりしないし」パチン
メイド「あ、その手は待ってもらえませんこと?」
剣士「えーまたあ?」
メイド「一生のお願いですわ!」
剣士「一生のお願いいくつあるのよ」
メイド「えーと、何の話でしたか」パチン
剣士「あなたが大人しくなったって話」パチン
メイド「そうでしたわね。ううん、なんといいますか。
わたくし、勇者と一緒に戦闘にいったじゃないですか」パチン
剣士「ええ」パチン
メイド「あの時の大規模戦闘なんですけれど、勇者はなんだか堂々としていて」パチン
剣士「……」パチン
メイド「なんとなく、逆らう気が失せたっていいましょうか」パチン
剣士「……そう」パチン
メイド「あ! 王手ですわ!」パチン!
剣士「……」
メイド「どういたします?」ニヤニヤ
剣士「……降参」
メイド「やったー! ついに勝ちましたわー!」バンザーイ
剣士「飛車・角落ちのハンデ付きだけどね」
メイド「それでも勝ちに違いはありませんわー!」バンザーイ
剣士「……ふう」
メイド「勝った後のお茶はおいしいですわー」ズズ……
剣士「……でもそうなると魔王がかわいそうよねー」ズズ……
メイド「……あ」
剣士「唯一頼りにしていたメイドも助ける気がなくなっちゃうなんて」
メイド「そ、それは……」
剣士「それは?」
メイド「……」
剣士「……」
メイド「魔王さま、今助けに!」
剣士「させないわよ」サッ
メイド「きゃっ」コケ
勇者「仲がよさそうで何より」
剣士「あ、おかえり」
勇者「ただいま」
メイド「どうでした?」
勇者「かよわい者ほど危険って身にしみたよ」
メイド「なんですのそれ?」
勇者「いいや、こっちのことだ」
勇者「とりあえず三種族の協力は取り付けた」
剣士「じゃあ、第一段階はクリアね」
メイド「次はどうなりますの?」
勇者「教習に入る。とりあえず戦術の基本を頭に入れてやって、実地訓練を積ませるんだ。
できれば戦術だけじゃなくて戦略も叩き込ませたいけど、俺にもよくわかってないから無理だな」
メイド「戦術と戦略ってどう違いますの?」
勇者「俺もよくは呑み込めてない。
戦に勝って何をするのかが戦略で、戦にどうやって勝つかが戦術、かな?
とにかく戦略の方が上位なんだ」
メイド「難しいんですのね」
勇者「ああ、でも戦術だけでも事足りるはずだ。
早速明日から訓練だよ」
剣士「わたしも行ってみたいけど」
勇者「留守番を頼む」
剣士「そうよね」
メイド「わたくしはどうしますの?」
勇者「大人しくしていてくれるならどちらでもいい」
メイド「じゃあ――」
・
・
・
メイドさんの行動安価:勇者についてくor留守番
現レス番+2
※ストーリーの大筋に影響なし。気楽に
ついてく
52:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/03(金) 21:44:02.37:SdirUp2Qoメイド「ついていきますわ」
剣士「……なんで?」
メイド「え? なんとなくですが」
剣士「だってあなた戦は嫌いって」
メイド「そういえばそうですわね。あれ、なぜでしょう?」
剣士(この娘……)
メイド「まあ、いいじゃありませんか」
勇者「その方が安全と言えば安全だしな」
剣士「……分かったわ」
勇者「それじゃ」
メイド「わたくしも失礼します」
ギィィ バタン
剣士「……」
剣士「……気にいらない、わねえ」
剣士「……」
剣士「……!」ハッ!
剣士「だめだめ、ここで余裕を失っちゃだめよ剣士。
もっとどっしり構えなさい。ファイトよ、ファイト」
剣士「……でもねえ」
剣士「……あの娘、勇者に惹かれてるのかしら?」
<翌日>
ザワザワ ザワザワ……
勇仮「……」ツカツカ……
「お、来たぞ。あいつが噂の……」
「確かに魔王さまの剣だ……」
「あれを使って先陣を切り、鬼のような強さでこないだの人間の軍を蹴散らしたとか……」
メイド(だいぶねじ曲がって伝わっているようですわね……まあどうでもいいですけれども)
勇仮「あー、諸君、静粛に頼む」
――シーン
勇仮「ありがとう」
勇仮「では、お初にお目にかかる方が大勢なので改めてごあいさつ申しあげよう……」
勇仮「我輩は先日魔王さまの急な任命によりその側近職に就任した仮面人、である。
この間の騎士軍との戦闘で指揮をとり、その撃退に努めたのを知ってる方もおられるかもしれない」
勇仮「我輩は魔王様より一つの使命を頂いておる。
それを成すために全てを賭してかかるようにと」
「それは、一体?」
勇仮「魔王軍の軍事力、その底上げである」
「……」
勇仮「我輩が諸君らにできることはそう多くない」
勇仮「我輩は諸君らの強化を助けることはできるかもしれないが、実際強くなるのは諸君らである」
勇仮「身命を賭して諸君らを鍛える。諸君らも全力でそれに応えてほしい」
「……」
勇仮「……よいか!」
「……!」
勇仮「諸君らは確かに魔界のあらゆる種族の中で下位の位置にあるかもしれない!」
勇仮「だが! それは持てる能力の使い方を知らない、ただそれだけのことである!」
勇仮「我輩は諸君らに飛び方を教える! それをしっかりと頭に刻み込め! 身体に覚えさせろ! その血肉に嫌という程叩き込め!」
勇仮「そして誓えッ! そうして得た力の全てを魔王さまのために! あの方のためだけに行使すると!」
「……!」
「おお……!」
「おおお!」
勇仮「……我輩からは、以上だ」
勇仮「諸君らの頑張りに期待する」
メイド(まったく口が達者なことですわね)
勇仮「さて……」
勇仮「今日はこれから、そうだな、簡単なテストを受けてもらう」
勇仮「メイド、説明してやってくれ」
メイド「かしこまりました!」
メイド「ええと、皆さんはこれから各隊に分かれてあの遠くに見える山までの道を往復していただきます」
メイド「簡単にいえばこれだけです」
「それだけ?」
勇仮「ああ、今日明日はそれだけだ。ただし真剣にやってくれ。
これはテストであるが、大事な下準備でもある」
「……」
勇仮「うむ、諸君はいい目をしておる」
勇仮「そんな諸君によい知らせだ!」
「なんだなんだ?」
勇仮「優秀な成績を残した、つまり往復して一番に戻ってきた指揮官には褒美を与えよう!」
「褒美?」
勇仮「諸君! ここにいるメイドについてどう思う!?」
「可憐だ」
「可愛い」
「抱きしめたい」
メイド「え? え?」
勇仮「うむ。皆も我輩と同じ感想を持っているようだな、よかったよかった」
勇仮「さて! 優秀な成績を収めた指揮官! そなたにはこのメイドから愛情のこもったキスをプレゼントする!」
「なんだと!?」
メイド「なんですって!?」
勇仮「と、いうわけで頑張ってくれ。
おっと、女性指揮官には別途賞与を用意するから安心してほしい」
メイド「ちょ、ちょっと!」
勇仮「では出発だ!」
「おおおおおおおおおおおお!」
勇仮「頑張ってくるのだぞー!」
メイド「ま、待って――」
ドドドドドドドドドドドドド!
メイド「ああ、待ってくださいましー!」
勇仮「はーっはっはっはっはっはっは!」
メイド「……」ムスー
勇者「いたた……」ヒリヒリ
剣士「……お疲れ様」
メイド「わたくし、あんなふうに訓練のダシに使われるのはもう嫌ですわ!」
勇者「でも効果はてきめんだった。
みんなあれほど熱心に……」
メイド「わたくしの意思はどうなりますの!」
勇者「今回は女性指揮官が優勝だったし。結果オーライ」
メイド「それを盲目と言うんです! 結果以外にも目を向けてくださいまし!」
勇者「結果は結果」
メイド「と・に・か・く! もう一度あんなことしたらただでは済みませんわよ!」
勇者「でも」
メイド「……」キッ!
勇者「分かりました」
メイド「よろしい」
剣士(お茶おいしい)ズズ……
剣士「ところで、今回の訓練にはどんな意味があったの?」
勇者「ああ、強化という視点では別に大した意味はないよ」
メイド「破ァッ!」バキ!
勇者「へぶし!」
メイド「何の意味もなくあんなことを!?」
勇者「落ち着くんだ。その手に持ったフォークを下ろしなさい」
剣士「……」ズズ……
勇者「まあ、平たく言えば、現状把握だよ」
メイド「現状把握?」
勇者「ああ。現在の実力が分からないとこれからの計画も立てにくい
だから移動・機動の速度や手際、そして団結力、統率力を見る必要があった」
剣士「なるほど」
勇者「大体わかった。三つの種族のどの部隊も平均して集団行動は得意だ
でも本能や経験に頼る面が大きくてなかなか効率的じゃない
だからこれからそれを補っていけばいい」
メイド「……」
勇者「そろそろフォークを下ろしてもらえる?」
メイド「……はあ。仕方ないですわね」
勇者「さて、本腰を入れなきゃな。これから訓練することはいくらもある」
メイド「頑張ってくださいまし」
勇者「何言ってるんだ? 君も勉強すべきだよ」
メイド「え?」
勇者「俺に何かあったときは君が対処できるようにする必要がある」
メイド「そんな」
勇者「まあ一応ね、一応」
メイド「わたくし戦は」
勇者「嫌いな食べ物は食べなくてもいいって? それは違うだろう
別に実際戦うわけじゃなくても知っておいて損はない」
メイド「……分かりました」
勇者「うん、そういうわけでこれからもよろしく」
メイド「はあい……」
<魔界.会議堂>
ザワザワ ザワザワ……
勇仮「――静かに。それではこれから講習を行いたいと思う」
「実際に身体を動かす訓練はしないのですかー?」
勇仮「実地訓練は後だ。諸君らにはまず、座学によって戦術の基本を学んでほしい」
「……そんなもの役に立つのか?」
「実際に身体を動かして鍛錬を積んだ方が……」
勇仮「諸君らの思いももっともである。だが諸君らは今まで漫然と戦ってきただろう。
それでは良くないのだ。戦い方と言うものを体系的に学んでもらいたい」
「でも」
勇仮「我輩とてそのように学んできたのだ。その前提は呑み込んでくれ、頼む」
「……」
「仕方ないな」
「俺も了解だー」
勇仮「分かっていただけたか、感謝する。では講習に入ろう」
勇仮「まず戦いにはいくつかの原則がある。それを頭に叩き込んでくれ」
勇仮「まず一つに『目標の原則』だ」
勇仮「目標をしっかり把握しておくこと。簡単にいえばこれだけだ」
勇仮「だがこと戦場においてはそれすらできていない輩がたくさん出てくる」
勇仮「それは仕方のないことかもしれない」
勇仮「だがそれによって自軍を危険にさらしてしまうならばそれは悪だ!」
勇仮「……だから、『今自分が"何のために""何をしているか"』。それを忘れるな」
勇仮「次に『統一の原則』」
勇仮「集団戦においては、全員がばらばらの行動をしていたのでは勝てない」
勇仮「だから、各人の行動を一つにまとめる必要がある」
勇仮「そのために最高指揮官を一人に定める事が必要だ」
勇仮「二人の指揮官で行動すれば二倍の戦果が望めると思うか?」
勇仮「否! その効率は格段に落ちる! ……四分の一程度だと思っておけ」
勇仮「さらに主導権を常に握っておくことを説いた『主導の原則』」
勇仮「戦力を一点に集中させることを説いた『集中の原則』」
勇仮「相手の意表をつく『奇襲の原則』」
勇仮「集団の移動について。『機動の原則』」
勇仮「その他『経済の原則』『簡明の原則』『警戒の原則』などがある」
「仮面人殿、一つよろしいか?」
勇仮「うむ、聞こう」
「聞いていれば当たり前のことではないか。そんなものに時間をかけたのか?」
勇仮「……諸君らは歴戦の戦士だ。当然このようなことは経験的に知っているだろう」
勇仮「だがどうだろう。諸君らの内にこれらの事を明言した者はいたか?」
勇仮「それを書物にのこした者はいたか?」
「それは……」
勇仮「それが人間たちと諸君らの大きな違いだよ。
人間は弱いなりにこのような事をしっかり認識するだけの知恵があるのだ」
勇仮「いいか、原則を甘く見るな、おろそかにするな」
勇仮「そうすればそれらの認識は君たちを強くしてくれるだろう」
「……」
・
・
・
・
・
・
メイド「ええと、以上が戦闘の原則でしたわね」
メイド「……よし」
メイド「次にやったのは、戦いの基本となる四つの部隊」
メイド「すなわち……ええと」
メイド「前衛部隊、射撃部隊、機動部隊、兵站部隊……」
メイド「……だったでしょうか、たしか」
メイド「他にも発見、拘束、制圧、機動、打撃……」
メイド「そういう『仕事』という面から部隊をまとめる見方もあるそうですわね」
勇者「まだまだ兵科という分け方もある」
メイド「あ、勇者」
勇者「騎兵、歩兵、魔術兵、工兵、伝令兵エトセトラエトセトラ……」
メイド「あわわ」
勇者「まあ少しずつ覚えていけばいいさ」
メイド「頭が痛いですわ……」
勇者「いや、メイドは頑張ってるよ」
メイド「これからこれが続くと思いますと気分が重くなります」
勇者「もっと頑張ってくれ」ポンポン
メイド「気安く頭をタップしないでくださいまし。まったく……」
<牢屋>
魔王「……」
魔王「魔王です」
魔王「……ぼくのこと覚えてる人はいるんでしょうか」
魔王「寂しい」
魔王「でも、何気に慣れてきちゃったっていうのが、悔しいです……」
魔王「魔王です……」
剣士「哀れね」
魔王「あ、剣士さん……」ススス
剣士「なんで逃げるのよ……って仕方ないか」
魔王「なんですか、ぼくを笑いに来たんですか?」
剣士「なんか卑屈になってるし」
魔王「ふ。ぼくなんて勇者に勝てず、なおかつ死ぬこともできないただのゴミですよ……」
剣士「そんなに落ち込んでるならいっそ餓死でもして見せなさい。いつも食事は残さず食べるくせに」
魔王「だっておなかの虫が」
剣士「殺虫剤あるわよ」
魔王「死にたくありません」
剣士「どっちなのよ、まったく」
剣士「……」
魔王「……?」
剣士「……ふう」
魔王「どうかしましたか?」
剣士「いえ、別に――っていえるほど強くないのよね、わたしも」
魔王「はい?」
剣士「愚痴ってもいい?」
魔王「聞く義理はありません」
剣士「そうよね」
魔王「……でもぼくはゴミなので勝手に話されても止めることはできません」
剣士「……あなた優しいのね」
剣士「じゃあ、壁に向かって話すわね。
……あるところに女の子がいました。
彼女は父親に厳しく鍛えられてとても強い女の子でした」
魔王「……」
剣士「彼女の父親は名のある、強い剣士でした。
息子がいればその子を鍛えていたのでしょうが、残念ながら男の子が生まれる前に妻が死んでしまいました。
だから一人娘のその女の子を鍛えたのでした」
魔王「……」
剣士「つらく長い鍛錬。女の子は次第に疲弊し疲れ、すりへってしまいます。
それでも父親は訓練と称した暴力をやめてはくれません。
女の子はとうとう家を飛び出しました」
魔王「……」
剣士「女の子には行くあてがありません。
仕方なく魔王を倒すために家を飛び出したのだと思い込むことにしました。
もしくは魔王に殺されたかったのかもしれません。
そんな時、ある男の子に会いました」
魔王「……それって」
剣士「……」
剣士「男の子は一緒に行こうと言ってくれました。……相棒だと言ってくれました。
女の子はうれしかった……
でもその男の子は今は別の娘と仲良くしています。
女の子は寂しくて仕方ありません」
魔王「……」
剣士「おしまい」
魔王「……」
剣士「悪かったわね、変な話して」
魔王「……別に。ゴミですから」
剣士「ふふ、そうだったわね」
剣士「ま、そういうわけなのよ」
魔王「ゴミなので聞いていませんでした」
剣士「……徹底してるわね」
魔王「ゴミなりのプライドです」
剣士「あんまり卑屈になると後でつらいわよ」
魔王「後……ってなんでしょう?」
剣士「別に殺すわけじゃないんだからいつかは出られるでしょ」
魔王「いつか……いつですか?」
剣士「さあ?」
魔王「ええ、期待していませんでしたとも」
剣士「聞いてもらったお礼よ。いや、聞いてはないんだっけ。
まあ、なんでもいいわ。あなたも何か話すといいわよ。
わたしは聞き流すから」
魔王「話すこと……何かあったでしょうか」
剣士「天井のしみの数とか、ネズミとの共同生活とか」
魔王「……。そうですねえ」
剣士「……」
魔王「じゃあ、一つ疑問が」
剣士「……?」
魔王「女の子っていいますけど、もうそういう年齢じゃない人もいますよね」
剣士「殺す」
――ギャアアアアアア!
メイド「……?」
勇者「どうした?」
メイド「何か聞こえたような気が」
勇者「そうか? 俺は聞こえなかったけど」
メイド「空耳でしょうかねえ」
勇者「ま、そんなことはともかく勉強勉強、ほら」
メイド「ううう、頭痛いですわー……」
<十数日後.魔界.平原>
メイド「……」
ザワザワザワザワ……
メイド「……全軍、前進です」
――オオオオオオオオオオ!
――ザッザッザッザッザッザッ!
メイド(わたくしの軍も相手の軍も横陣……
ただし相手の方が千名程多い……)
「相手軍も前進を始めました!」
メイド(相手は数を生かしてこちらを多方面から攻撃する手法を取ってくるでしょう。
大勢を一点に集中させる手法によって。つまり外線作戦です)
メイド(ならばわたくしたちは各個撃破、つまり内戦作戦で対抗すればよい)
メイド(……そうでしたわよね、勇者様?)
「衝突まであと少し!」
メイド「今です! 斜行陣に移行を!」
――オオオオオオオオオオオ!
メイド(右側を多く、そして前へ。左側を少なく、そして後ろへ)
メイド(右側がせり出した斜め陣です!)
「右側が敵軍と接触いたしました!」
メイド(さあ、どうなります!?)
カン! ガコン! バキ! ドゴウ!
メイド「押しもせず押されもせず……互角ですか」
――オオ、オオオオオオ……
メイド(勝機はまだ見えませんが……それでもまだいい方でしょうね)
「……大変です。相手軍も陣の変形を始めました」
メイド「報告なさい」
「こちらを相手の右翼がこちらを囲いこむように伸びてきています。
これではこちらから見て左側が囲まれるのも時間の問題かと……!」
メイド「……」
「どうなさいます?」
メイド「ふふ……」
「……?」
メイド「計画通り! ですわ!」
メイド「では、左側背後に用意していた予備を前進させなさい!」
「は!」
メイド「いいですか、変形した相手陣の、屈折点を狙うよう厳命なさい! わかったわね!?」
「合点承知!」
メイド「さあ、これで完了ですわ」
ザッザッザッザッザッザッザッザッザ!
メイド「わたくしの力、思い知りなさい!」
ドゴ! ドガッ! ガゴ!
「……」
メイド「……」
オオオオオオオオオオオオオ!
「成功です。相手の本体と回り込んだ隊とを分断いたしました」
メイド「やったっ!」
「後は各個撃破ですね」
メイド「そこら辺は各指揮官がうまくやってくれるでしょう」
「お見事です」
メイド「ふふふ。もっと褒めてもよいですわよ」
――オオオオオオオオオオオオオ……
メイド「勇……仮面人さまー!」タッタッタ
勇仮「おお、よくぞ――」
メイド「やりましたわ、やりましたわよー!」ダキツキ!
勇仮「うおっと!」
メイド「このメイドやりました! 褒めてくださいまし!」
勇仮「うむ、よくぞこの訓練を乗り越えた。褒めてつかわそう」
メイド「……」ムス
勇仮「すごい。びっくりした」ヒソヒソ
メイド「!」パアァ
勇仮「では今回の模擬戦闘はメイド軍の勝ちである。
残念ながら相手軍の指揮官はメイドとのデート権を逃したわけだな」
指揮官「ちくしょー!」
メイド「べー、ですわっ」
勇仮「だが両軍とも見事であった。この短期間でよくぞここまで成長してくれた。
我輩は誇らしく思うぞ」
「仮面人さまの教え方がうまいのですー」
「私たちも自信がつきました!」
勇仮「うむ、よいことだ。だが慢心するなよ。
落とし穴は常に足元に開いているのだから」
「はい!」
勇仮「では今日は解散だ
皆の者、お疲れ様」
「お疲れさまでーす!」
<魔王城>
メイド「王手!」ビシィ!
剣士「……」
メイド「どうします?」
剣士「……完敗だわ」
メイド「ふぅ、そろそろ勝ち飽きましたわね」フフン
剣士「なんだか鬼のように強くなったわね。
まさかハンデもらって五戦全敗とは思わなかったわ」
メイド「わたくしの成長幅は天井知らずですわ!」
剣士「確かに横幅も増えてきたような」
メイド「えっ」
メイド「ど……どどどどどういう意味ですの!?」
剣士「あなた最近運動してる? 勉強ばっかりじゃなかった?」
メイド「そ、それは!」
剣士「そのくせ食いしん坊だし」
メイド「うぐ……」
剣士「ちょっとは散歩でもしてきなさい」
メイド「……吸血鬼は日光に弱いのです」
剣士「今更何言ってるのよ普通に浴びてたじゃない」
勇者「そういえばなんで日光平気なんだ?
吸血鬼は日光に弱いって嘘なのか?」ズズ……
メイド「あ、いえ、わたくし実はクォーターですの」
剣士「……ってことは吸血鬼の血は薄いってこと?」
メイド「ええ」
剣士「ますます吸血鬼関係ないわね」
剣士「ほら、とにかく散歩してきなさい。勇者も太った娘は嫌いでしょうよ」
メイド「! 行ってきます!」
剣士「いってらっしゃーい」
ガチャ バタン
勇者「なぜそこで俺が出るんだよ」
剣士「分かってるくせに」
勇者「……」
剣士「はぁ、まったく」
剣士(……わたしだって)
勇者「……お茶飲むか?」
剣士「……いただくわ」
勇者「ほい」コト
剣士「どうも」
勇者「……」ズズ
剣士「……」ズズ
勇者「……」
剣士「……」
勇者「行かせてよかったのか?」
剣士「メイド? 大丈夫。今のあの子ならあなたに逆らうことはないでしょうよ」
勇者「……」
剣士「それより聞かせてちょうだい」
勇者「なんだ?」
剣士「いつまでこんなこと続けられると思うの?」
勇者「こんなことって?」
剣士「こんなこと、よ」
剣士「わたし、留守番してる間魔王城の資料室にも何度か足を運んだの」
勇者「……」
剣士「それで、色々な統計――と言えるほど立派なものじゃないけど――を見てわかったわ」
勇者「何が?」
剣士「魔界は何もしなくてもそのうち人間に負ける」
勇者「……」
剣士「魔界の未来は決まっているのよ」
勇者「……」
剣士「言ってることが分からないなんてことはないわよね」
勇者「……ああ」
剣士「魔王軍は、その軍事力を最大限に発揮するための基盤を持ってないのよ」
勇者「分かってる」
剣士「政治も経済も商業も工業も。みんなみんな未熟すぎるの。
軍を支えるだけの兵站が整ってないの」
勇者「分かってる」
剣士「このまま続ければ必ず敗北がやってくる」
勇者「分かってる。いままで互角にやってこれた……ように見えたのは、ただの錯覚だ」
勇者「魔界は常に攻め込まれる側だったし、なんとか自分の陣地で待ち受けることでしか対抗できてなかった」
剣士「……」
勇者「魔獣がうろついているから人間の少数行動は制限される。人間の領域でないから兵站能力も少しは落ちる。
また、人間は疫病に対する対抗策をまだ見つけておらず、そのおかげで何とか滅ぼされずに済んでいる」
剣士「そうよ。人間はうかがってるの。確実に勝てるタイミングをね」
勇者「俺のやっていることは……応急措置だ」
剣士「いいえ、それすらできていないかもしれない」
勇者「俺は彼らに戦術を教えたが、戦術は戦略なしには意味がない。
その戦略を支える政略なしには機能しない」
剣士「……」
勇者「分かってるんだ。そんなこと」
剣士「……」
勇者「分かってる……」
剣士「それでも?」
勇者「ああ、それでも」
勇者「それでも、俺はあがくよ。物事が手の届く範囲にある間は、ずっと」
剣士「……」
勇者「それに剣士は勘違いしてる」
剣士「勘違い?」
勇者「俺たちの目標は、延命であって勝利じゃない」
剣士「……?」
勇者「人間を打ち負かせばいいってもんじゃないってことさ」
剣士「……」
勇者「俺たちがすべきことは、ただ一つ」
剣士「……魔界、人間界間の争いの調停」
勇者「そうだ」
勇者「……いい機会だから話そう」
勇者「いいか。俺は勇者じゃない」
剣士「前にも言ってたわね。どういうこと?」
勇者「俺はただの暗殺技能者だ。騎士軍によって作られたコードネームが勇者というだけの、ね」
剣士「……?」
勇者「勇者計画という。
人間の限界を超えた人間によって魔王を排斥しようという計画だったんだ」
剣士「人間の限界を超えた?」
勇者「これで人間の限界値を超えてるんだよ。一応はな」
剣士「……」
勇者「俺より強い候補者はいくらでもいたよ。それこそ極大広域消滅魔術なんて反則技を使う奴もいた」
剣士「でもあなたが生き残った?」
勇者「そうだ。俺は目的だけは忘れなかったからな」
剣士「生き延びること……」
勇者「ああ。後はそのためにできることをすればいい。
手の届かない範囲に物事があるんだったら手の届く範囲にもってくればいい」
剣士「……」
勇者「極大広域うんちゃらなんて馬鹿らしいものはいらないんだ。
人間なんて耳元で爆竹鳴らせば気絶する。
それだけのことなんだ」
剣士「つまり?」
勇者「目的達成のための力さえあれば後は不要。十分量以上は望むな。
……とは師匠の弁だけどな」
剣士「……」
勇者「話を戻すと、俺は余分なものは求めない。手の届く範囲で何とかする。そういうことだ」
剣士「それでも」
勇者「……?」
剣士「それでも失敗した時は――わたしと逃げてくれる?」
勇者「……」
剣士「ずっとわたしと一緒にいてくれる?」
勇者「……約束は、できない」
剣士「……」
勇者「……」
剣士「それなら話はシンプルよ」
勇者「え?」
剣士「失敗しちゃいけないものは成功させればいい。
一緒に居たければそばに寄ればいい」
勇者「……手の届く範囲にないものは手の届く範囲にもってくればいい」
剣士「いい? 勇者。いえ勇者じゃないかもしれないけれど。
それでもわたしはあなたのそばを離れないわ。ずっとよ」ツカツカ
勇者「……」
剣士「ずっとよ……」ギュッ
勇者「……ありがとう」
剣士「馬鹿……」
<牢屋>
魔王「HAHAHAHA、それは本当かいジョン!」
魔王「本当だともトム! ぼくのママはその時奴に言ってやったんだ、玉無しクソ野郎って!」
魔王「でもジョン、ぼくはその先を知ってるぜ、そいつは既に玉を犬に食いちぎられてたってね!」
魔王「HAHAHAHA!」
魔王「……」
魔王「いまいちですねえ……」
ギィィィィィ ガチャン
魔王「! メイドさん!」
メイド「……」
魔王「助けに来てくれたんですか!? よくあいつらの隙を突けましたね!」
メイド「……」
魔王「どうやったんですか!? あ、いやそんなことより早く出して下さい!」
メイド「……」
魔王「よーし、これで魔王復活です! 見てなさいあの二人!」
メイド「……」
魔王「再びぼくの力を見せつけて……?」
メイド「……」
魔王「……」
メイド「……」
魔王「……どうかしましたか?」
メイド「魔王さま……」
魔王「はい?」
メイド「わたくし、どうしちゃったんでしょう……」
魔王「……はい?」
・
・
・
魔王「……なるほど、そんなことが」
メイド「……」
魔王「……鍵を開けては……もらえませんよね?」
メイド「……はい」
魔王「……」
メイド「わたくしは、今はあの方の嫌がることをしたくないのです、何故か」
魔王「……」
メイド「どうしてしまったんでしょう……」
魔王「……」
メイド「誓って申し上げますのは、決してあなた様への忠誠が薄らいだわけではないことです。
でも何故か今のわたくしにはできない……」
魔王(……なるほど)
メイド「わたくしは……」
魔王「はい」
メイド「……わたくしは」
魔王「はい」
メイド「わたくしは……っ」
魔王「メイドさん」
メイド「はい……」
魔王「ゆっくり、話してください。ゆっくりでいいです」
メイド「はい……っ」
メイド「どこから、何を話しましょう」
魔王「どこからでも、話しやすいことを」
メイド「はい……では。わたくしは楽しいです。いえ、楽しかった……」
魔王「はい」
メイド「あの方と一緒に勉強しているのが……」
魔王「ええ」
メイド「だからそれを壊したくない。どうしてもです」
魔王「はい」
メイド「どうしてもどうしても」
魔王「……」
メイド「初めは嫌いでした、あんな方。妙にひょうひょうと人を馬鹿にしているようで。
見下されているようで嫌でした」
魔王「……」
メイド「でも接してきてみてなんとなくわかりました。あの方はそういう意図があったわけではないと」
魔王「……はい」
メイド「優しかった」
魔王「……はい」
メイド「優しかったんです……」
魔王「……ええ」
メイド「あの頭をぽんぽんと撫でてもらったとき、勉強を教えてもらって目が合ったとき、抱きついて体温を感じるとき」
魔王「……」
メイド「わたくしは胸の奥にぬくもりを感じずにはいられなかった」
魔王「……っ」
メイド「……」
魔王「……」
メイド「……っ」
魔王「……?」
メイド「……っ……っ」
魔王(……泣いて、るんですか?)
メイド「……ひぅっ……ヒック」
魔王「メイドさん」
メイド「っ……ハイ……っ」グス
魔王「ぼくにはメイドさんの話はよく分かりませんでしたが、でもこれだけは分かります」
メイド「なんでしょう……?」
魔王「彼女が何を言ったからといって、気にしちゃダメです。
あなたはやりたいようにやるべきだ」
メイド「……」
魔王「あなたはふるまいたいように、ふるまうべきだ。
遠慮しちゃいけない。気持ちに素直になってください」
メイド「……」
魔王「多分、その方がメイドさんらしいから……」
メイド「っ……」ゴシゴシ
魔王「……ね?」
メイド「はい」
魔王「負けないでください」
メイド「え……?」
魔王「諦めないでください」
メイド「……」
魔王「くじけないでください。絶対に勝ってください」
メイド「……っ」
魔王「応援、しますから」
メイド「はい……!」
メイド「魔王さまのいうこと、よくわからないけど、分かります」
魔王「うん」
メイド「わたくし、がんばりますわ!」
魔王「……うん」
メイド「では、お仕事に戻ります」
魔王「……」
メイド「……お助けできなくて、申し訳ありませんでした」
ギィィィ……バタン
魔王「……」
魔王「……」
魔王「まったく……」
魔王「メイドさんはああ見えて――かどうかは分かりませんが――天然ですから、
本当に自分のことに気付いてないのかもしれませんね」
魔王「……まったく」
『はじめまして、今日からわたくしがあなたのお世話をさせていただきます! よろしくお願いしますわ!』
魔王「……」
魔王「あーあ……」
魔王「ちょっと、寝ようかな……」ゴロン……
魔王「……」
魔王様。・゜・(ノД`)
183:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/05(日) 21:36:13.74:B/++CPHjo<魔界>
鬼人族長「……」
鬼人従者「報告は以上です」
鬼人族長「……」
鬼人従者「どう、思われます?」
鬼人族長「……よくない前触れだと」
鬼人従者「同感です」
鬼人族長「弱者どもが力を伸ばしておる、ということだが」
鬼人従者「ええ、仮面人を名乗る者によってです」
鬼人族長「何者だ?」
鬼人従者「分かりません」
鬼人族長「分からない?」
鬼人従者「調査に行った者たちが帰ってこないのです」
鬼人族長「……?」
鬼人従者「魔王城です」
鬼人族長「……」
鬼人従者「ここのところの魔王城は何か様子がおかしい。人の出入りが制限され、中の従者たちも家に帰れていない……」
鬼人族長「そして魔王さまの姿は見えず、仮面人という新参者が出しゃばっておる……」
鬼人従者「極め付けが今回のことです」
鬼人族長「うむ……」
鬼人従者「しかし様子を見ようにも、仮面人に心酔した者たちのせいで近付けません」
鬼人族長「……」
鬼人従者「どうなさいますか?」
鬼人族長「皆の者を集めよ」
鬼人従者「……」
鬼人従者「は!」
<魔王城>
勇者「人間界に行くぞ」
剣士「えっ」
メイド「えっ」
魔王「えっ」
メイドさんはクォーターだから人に紛れても気付かれにくいか
194:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 08:57:02.44:aTEo4bBjo<ある村.宿>
?「あー」
主人「……」
?「……腹減った」
主人「そうかい」
?「おう」
主人「ならそのまま餓死しちまえ。その方が世のためだ。
金も払えねえくせにずっとここに居座りやがって」
?「悪いなあご主人」
主人「あ?」
?「いつも宿代も出せないのにごちそうしてもらって、悪いなあ」
主人「……」
?「意味もなくごちそうしてくれるなんて、うれしいなあ……」
主人「とうとう頭がやられたか」
?「意味もなくごちそうしてくれるなんてうれしいなあッ!」ガバア!
主人「やかましいわ!」
<魔王城>
剣士「人間界に」
メイド「行く」
魔王「ぞ?」
剣士・メイド・魔王「……」
剣士「ちょっと待って、どういうことよ」
メイド「そうですわ、いきなりなにを言いだしますの」
魔王「ていうか出てきてよかったんですかぼく」
勇者「まあ、順番にいこうじゃないか」
魔wwww王wwwww
204:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/06/06(月) 17:06:44.74:8h0ohbjJ0
もう魔王がかわいそうwwwwww
つかかわいいwwwwww
207:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 17:22:09.59:aTEo4bBjoつかかわいいwwwwww
勇者「まず、人間界に行く第一の目的。それは俺の師匠に会うことだ」
剣士「勇者の、師匠?」
勇者「ああ」
メイド「先生ですの?」
勇者「先生……か。あの人がそんなできた人かはともかくとして、確かにいろいろ教えてもらったな」
魔王「いろいろ?」
勇者「拳法、兵法、暗殺術。騎士軍で学んだよりも多くの事。
あの人がいなければ今の俺も魔王軍もない。
戦闘の原則や兵科の分類なんかもあの人が考案したからね」
メイド「そんなすごい人ですのね……」
勇者「そう。だから師匠ならばこの閉塞した状況も打破できるんじゃないかって」
剣士「こちらに入れられれば心強いわね。魔族に理解はあるの?」
勇者「どうだろう……? 結構適当な人だけど、分からないな」
メイド「その人はどこにいますの? 人間界といっても広いですわよ?」
勇者「ああ、あの人のいるところはわかってる。そこは心配しなくていい」
剣士「でも」
勇者「ああ、魔王城を留守にすることか。まあ大丈夫だろう。
魔王を手元に置いとけば、魔王城の連中も無茶はできないよ」
剣士「でも、前も報告した通り――」
勇者「ああ、あれか……」
魔王「?」
勇者「まあ、大丈夫だろう。妖精族長あたりに魔王城の警備を頼むよ」
剣士「不安ね……」
勇者「あとは見た目の話だが、幸い魔王もメイドも完全に人型だ」
メイド「わたくしには人間の血も入ってますし」
剣士「さすがに近くで見ればバレるだろうけどね」
勇者「まあ、そういうわけだ。準備してくれ」
魔王「まだぼくが出ていい理由を聞いてませんが」
勇者「出たくなかったのか?」
魔王「いえ、そういうわけじゃないです」
勇者「そうだな、それは第二の目的に関係しているが……」チラ
魔王「……?」
勇者「まあ、なにはともあれ、お前の力が必要なんだよ」
魔王「はあ」
・
・
・
メイド「準備できましたわー♪」
剣士「こっちもOKよ」
魔王「ええと、はい、できました」
勇者「ん、了解」
メイド「見てくださいまし勇者さま! わたくし、どうでしょう!?」
勇者「どうって?」
メイド「……」ムスー
勇者「冗談。可愛いよ」
メイド「本当ですの!?」
勇者「ああ、ワンピースドレスがよく似合ってる」
メイド「ありがとうございますぅ!」ダキツキ!
剣士・魔王「……」
剣士「……ゴホン。勇者」
勇者「うん、黒いシャツにベージュのスラックス。剣士らしいな」
剣士「似合ってる?」
勇者「最高に」
剣士「よろしい」
勇者「魔王は半ズボンなんだな」
魔王「え? いけませんか?」
勇者「いや、ある意味一番似合ってる」
魔王「そうですか」
剣士・メイド「……」
剣士・メイド(……なんか複雑)
剣士「……それで、移動はどうするの? まさか正門から堂々と出るわけにもいかないでしょう?」
勇者「それだな。魔王、お前は転移魔術を使えたよな?」
魔王「え、あ、はい、使えますが?」
勇者「じゃあ、それを使って目的地まで移動しよう」
魔王「ちょっと待ってください、転移魔法は奥義の一つです。
そんなにホイホイ使えるもんじゃありませんし、長距離も移動できませんよ?」
勇者「そうだな。だから今回は魔術の併用を行う」
メイド「魔術の併用……ですの?」
勇者「人間の魔術を覚えているか?」
メイド「血陣魔術、でしたか?」
勇者「あれは大規模かつ精密な魔術をするのに適しているってのは前にも言ったな。
その性質を利用するんだ」
剣士「合成魔術ってことよね? そんなの危険じゃないの?」
勇者「そうだな、あまり例はない」
剣士「じゃあ血陣魔術単体で行なった方が……」
勇者「いや、実は血陣魔術というのはまだまだ発展途上で、物を転移させるほど高度な魔術は使えないんだ。
せいぜい高速移動させるだけ」
魔王「なるほど」
勇者「だから、危険可能性があるからといって尻込みはできない。
事態はこう見えて緊急を要するんだ」
剣士「……」
メイド「……」
魔王「……」
勇者「ついてきてもらえるかな?」
剣士「もちろん」
メイド「聞くまでもないですわ」
魔王「ぼくは怖いです」
勇者「ありがとう」
魔王「え? ぼくの意見は?」
勇者「じゃあ、準備を始めるからちょっと待っててくれ」
メイド「わたくしも手伝いますわ」
勇者「そう? じゃあ頼むよ」
魔王「ですからぼくの意見は……いやもういいですが」
・
・
・
勇者「じゃあ、そっちのはしを引っ張ってくれ」
メイド「アイアイサー、ですわ」
魔王「……ふう」
剣士「……ちょっといいかしら?」
魔王「あ、剣士さん」
勇者「じゃあ、ちょっと失礼して」ザシュ ブシャ
メイド「あ。血……」ソワ……
魔王「なんですか剣士さん?」
剣士「いえ、大したことじゃないのだけれど」
魔王「はい」
剣士「あなたずいぶん大人しいじゃない、前はあんなに血の気が多かったのに」
魔王「……」
剣士「何かあった?」
勇者「ええと、確かここがこうで、あっちがこうで……」
メイド「……」ソワソワ
魔王「……」
剣士「どうなの? 何もないならいいんだけど。
でも何かあるのよね。わたしにはわかるわ」
魔王「まあ……はい……」
剣士「聞いてあげなくもないわよ」
魔王「……」
勇者「まあ、ざっとこんなもんかな」
メイド「……」ジー
勇者「どうかした?」
魔王「いえ、大したことじゃないんですけど」
剣士「ええ」
魔王「その、気になる人が、ちょっと違うところ向いてるというか……」
剣士「……」
魔王「まあ、そんな感じです」
メイド「あの」ゴゴゴ……
勇者「な、なに?」
メイド「ちょっと失礼しますわ」グワシ!
勇者「え? え?」
剣士「なるほど、ね」
魔王「……ぼくは諦めるべきなんでしょうかねえ」
剣士「なんで?」
魔王「邪魔しない方がいいかなって。ぼくはゴミですし……」
剣士(後でつらいって言ったのに)
メイド「……」ペロ……
勇者「あ」
メイド「……」ペロペロ
勇者「ちょ、ちょっと……」
魔王「自信ないんですよ。ぼくなんかじゃ見向きもされないって分かってるんです」
剣士「……」
魔王「ゴミはゴミらしくしてるのが一番なんですよね……」
剣士「はぁ……やめなさいよそういうの」
魔王「え?」
ペロペロ
227:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 18:43:10.38:aTEo4bBjoメイド「ん……」チュパ
勇者「う……」
メイド「はぁ……ムチュ……」ヌロリ……
剣士「やめなさいっていってるの。見苦しいわよ」
魔王「そんなこと言っても……」
剣士「見苦しいの。いいからしゃんとしなさい。男の子でしょう」
魔王「まあ、ついてますが」
剣士「だったら根性見せなさい」
魔王「……」
勇者「悪い……これ以上は……」
メイド「あ……ご、ごめんなさいっ」
剣士「いい? わたしの前で今後一切そんな弱音は吐かないこと。
理屈なんてどうでもいいわ。わたしが嫌なの」
魔王「……」
剣士「……大丈夫」
魔王「え?」
剣士「あなたの優しいところは、みんな好きになってくれるはずよ」
魔王「あ……」
剣士「自信もって、ね?」
魔王「……はい」
勇者「……終わったよ」
メイド「……」ソワソワ
剣士「……あなたたちわたしが見てないところで、なんかとんでもないことしてなかった?」
勇者「いやその別に……」
メイド「否定しますっ、否定しますわ!」
剣士「……まあ、いいけど」
魔王「ぼくはさらに死にたくなりました」
勇者「ま、まあなにはともあれ準備はできた。
みんな荷物を持って魔方陣の中に入ってくれ」
剣士「入ったわよ」
メイド「おっけーですわ」
勇者「そしたら後は魔王が発動権を握ってる」
魔王「ぼくですか?」
勇者「ああ、目的地は設定してあるから、あとはいつもの感覚で魔術を使ってくれ」
魔王「分かりました。では――」
魔王「“瞬、転”!」カッ!
・
・
・
<国境近くの村>
――シュン!
勇者「……」
剣士「ついた、のかしら?」
メイド「小さな村ですわね」
魔王「なかなかいいところじゃないですか」
勇者「ああ……久しぶりだ」
剣士「師匠はどこに?」
勇者「大体この時間にいるところは決まってる。
あっちだ、行こう」
<安宿前>
勇者「ここなんだが」
メイド「この中ですの? じゃあ入りますわね」
――ガチャ
メイド「ごめんくださあい」
?「……」
メイド「あ、こんにち――」
?「お前は」
メイド「はい?」
?「お前はだんだん俺に飯をおごりたくなーる……」ウニョロウニョロ
メイド「な……」
メイド(なんか変なことをつぶやきつつ指をくねらせてるー!?)ガビーン!
?「うう、腹減った……」ガク
メイド(しかも力尽きたー!)ガビビーン!
勇者「お久しぶりですお師様」
メイド「えっ」
剣士「……」
魔王「はい?」
師匠「お?」
勇者「いきなり押し掛けて申し訳ありません。知恵を拝借に参りました」
師匠「……お前か」グキュルルル……
勇者「はい、勇者です」
師匠「恥ずかしげもなく勇者を名乗るようになったのか。は、上等じゃねえか」キュルルン……
勇者「……」
師匠「お前みたいなやつが名乗っていい称号じゃねえだろ」グギュルギュル……
勇者「……はい」
師匠「分かったら俺に飯おごれ」
メイド(結局そこに行きつくんですのー!?)ガビビビーン!
ガビビーン
256:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/06(月) 22:32:31.34:aTEo4bBjo・
・
・
師匠「なるほど、魔界と人間界の調停ねえ……」パクパク
勇者「ええ」
師匠「ずいぶんと身の程知らずなことしてるじゃねえか」
勇者「はい」
師匠「お前には無理だ。わるいことは言わない、やめとけ」
勇者「……」
メイド「ちょっと! なんですのその対応は!」
師匠「あ?」
メイド「勇者さまは真剣にことに取り組んでるんですのよ!
それをお食事をたかりながらちょっと聞いただけで!」
師匠「そんなこと言ったって、こいつがよくわかってるだろ」
勇者「それは……はい」
メイド「勇者さま!」
剣士「あなたは黙ってなさい」
メイド「剣士まで!」
魔王「メイドさん、少しだけ我慢しましょう、ね?」
メイド「……分かりましたわ」
勇者「……お師様」
師匠「あん?」
勇者「それでもやりたいんです」
師匠「……」
勇者「やらなければ、ならないんです」
師匠「……」
勇者「俺だけじゃだめなのは分かってます。
だからみんなここにいてくれますし、また、お師様に会いに来ました」
師匠「……」
勇者「だから、力を、貸してください」
師匠「……フゥゥゥ」
勇者「……」
師匠「俺に得は?」
勇者「満足感が」
師匠「……上等だ」
メイド「ってことは!」
師匠「別にお前らのためじゃないけどな」
メイド「やった!」
師匠「つってもなー、ぱぱっとアイディアなんて浮かばない。
ちょっと待ってもらうことになるが、いいか?」
勇者「かまいません」
師匠「じゃあ、適当に待っててくれ。主人!」
主人「んだよ!」
師匠「上の部屋借りるぞ」
主人「好きにしろ。金払ってくれるならだれでもいいやい」
師匠「一部屋でいいか? 勇者と嫁三人だし」
勇者「え?」
剣士「は?」
メイド「はい?」
魔王「???」
師匠「ん?」
師匠「違ったか?」
勇者「ええ、かなり」
魔王「ぼくは男です」
師匠「お? おお……マジか」
剣士「わたしたちは女だけど、嫁じゃないわね。まだ」
メイド(まだ?)
師匠「なんだ、そうか」
勇者「というわけで四部屋ほしいんですが」
師匠「あるように見えるか?」
勇者「いえ」
主人「あと二部屋しかないぞ」
剣士・メイド「!!」ガタタ!
魔王「……!」ビク!
・
・
・
剣士「ここは魔界組と人間組で分かれるべきだと思うの。
だってその方が気心知れてるわけだし」
メイド「異議あり! やはり教師と教え子は一緒にいるべきですわ!
というわけで少なくともわたくしと勇者さまは一緒の部屋です!」
勇者「……」
魔王「普通に男女で分かれれば……」
剣士・メイド「……」キッ!
魔王「ごめんなさい」
魔王「まあ結局男女別なわけですが」
勇者「正直ほっとした」
魔王「……」ジト
勇者「ああ、贅沢な悩みだと自覚してはいるよ。
でも怖いものは怖い」
魔王「あーあ、これだから嫌なんです」
勇者「悪いね」
魔王「気分が悪いです。ちょっと散歩行ってきます」
勇者「ああ、行ってらっしゃい」
魔王「まったくもう……」
<村>
「――ねえねえ、あの子可愛くない?」
「え、どの子どの子?」
「あの子よあの子」
「あ、かわいー!」
魔王「?」
「あ、こっち向いたわよ」
魔王「何か、用ですか?」
「キャー! 声も可愛いわ!」
「本当、可愛い可愛い!」
魔王「かわ、いい……?」
魔王「一応確認します。ぼくのことですか?」
「うんうん、君のこと君のこと」
「鈍いところも可愛いー!」
魔王「ええと」
魔王(これはもしや……)
「ねえねえ、抱きしめてもいーい?」ギュッ
「あ、抜け駆けずるーい!」
魔王(間違いない! ぼくの時代、到来!)
<宿>
メイド「……」
剣士「……」
メイド「……」チラ
剣士「何よ……」
メイド「いーえ」
剣士「……」
メイド「……」スク
剣士「……どこへ?」ピク
メイド「いえ、どこにも」トサ
剣士「……」ムクリ
メイド「……」ピク
剣士「何よ?」
メイド「いえ、どこか行くのかと」
剣士「ただ身体起こしただけじゃない」
メイド「それはすみませんでした」
剣士「……」
メイド「……」
剣士・メイド(どうにかして勇者(さま)のところに行けないかしら……)
剣士・メイド「……」チラ
剣士「何?」
メイド「そちらこそ」
剣士・メイド「……」ソワ……
勇者「……」
『お兄ちゃんは、誰?』
勇者「……」
『そうですか。ぼくも勇者候補なんですよ』
勇者「……」
『じゃあ、ぼくと友達になってください!』
勇者「……」
<村>
「ほら、あーん」
魔王「あーん」デレデレ ニヨニヨ
「はい」
魔王「ん」パク
「おいしい?」
魔王「美味です!」
「本当? 良かった!」
魔王「もうひとついいですか~?」デレニヨ
「もう、食いしん坊ね♪ ほら、あーん」
「あなただけ独り占めずるいわ。今度はあたしよ。ほら、あーん」
魔王「あはは、困っちゃいましたね~」ニヨヨ
少年「……」コソ
魔王「……?」
少年「!」ササッ!
魔王「あの隠れてる子はなんですか?」
「え? ああ、あの子はあたしの弟よ。ほら、出てきなさいよ」
少年「……」オズオズ……
魔王「こんにちは」
少年「こ、こんにち、は……」
「ごめんね、この子人見知り激しいの」
少年「お、お兄ちゃんは、誰?」
魔王「え、あ、ええと、ぼくは遠くから来たんだよ?」
少年「お、お客さんだ」
魔王「うん、そうだね」
少年「じゃ、じゃあ――」
『――ぼくと友達になってください』
魔王「っ……?」ピクリ
<帝国.宮殿>
元帥「皇帝陛下」
皇帝「元帥か」
元帥「失礼ながら挨拶は省かせていただきます」
皇帝「急ぎの用か」
元帥「は」
皇帝「申せ」
元帥「魔術士計画の準備が、整いました」
皇帝「……! まことか」
元帥「は!」
皇帝「では……分かっておるな」
元帥「もちろんでございます。必ずや魔界の全てをあなたに献上いたしましょう」
皇帝「ふ、楽しみにしておるぞ」
<数刻後.帝国.騎士軍事務所>
――コンコン
元帥「入れ」
?「……」
元帥「! これはこれは……」
?「久しぶりだな」
元帥「まったくですな。お変わりありませんでしたか」
?「まあ、な」
元帥「……何故剣聖のあなたがここに?」
?「このたびの戦、俺も連れて行ってもらえぬだろうか」
元帥「あなたが!?」
?「駄目か?」
元帥「……断っても、来るのでしょう?」
?「ふふ……」
元帥「よろしいでしょう、ならばあなたの力をお借りします」
?「それでよい……」
<村>
少年「お兄ちゃん、そっち行ったよ!」
魔王「オーライ! それ!」
少年「わーい!」
魔王「……」
魔王(さっきのは、なんだったんだろう?)
『友達になってください!』
魔王「まだ聞こえる……」
魔王(ぼくはこの声に聞き覚えがある……?)
少年「お兄ちゃーん!」
魔王「はいはーい!」ダダ!
<宿>
メイド「……」スク
剣士「どこへ?」ピク
メイド「……お手洗いですわ」
剣士「そう。行ってらっしゃい」
メイド「ええ」
・
・
・
メイド「……ふぅ」
メイド(勇者さまの部屋は、ここ……でしたわね)
メイド「あ」
メイド(少し開いてる……)
――ギィィ……
勇者「すぅ……すぅ……」
メイド「あ……眠ってらっしゃいましたか」
勇者「ううん……」
メイド「……」ソロソロ……トサ
メイド「こうしてみると、精悍な顔つきながら、なかなか可愛い寝顔ですわね」
勇者「zzz……」
メイド「……」ウズ……
メイド「……」ソー……
メイド「っ……」ペロッ
勇者「んん……」
メイド「!」ササ!
メイド(唇舐めちゃいましたわ……!)ドキドキ
勇者「……」ゴロン
メイド「……」ソー……
メイド「ん……」カプ
勇者「んあ。……何をしてるんだ?」
メイド「! こ、これは!」
勇者「……」
メイド「その、申し訳ありません……ちょっと血が飲みたくなって」
勇者「……」ムクリ
メイド「……駄目でしたでしょうか」
勇者「いや……」
メイド「……じゃ、じゃあ」
勇者「少しだけならね」
メイド「は……ん……」チュウ……
勇者「……」
メイド「んむ……チュパ……」
勇者「……」
メイド「チュルルル……」チロ……
勇者「……ねえ」
メイド「はぁ、ん……なんでしょう?」
勇者「一応聞いておきたいんだけど」
メイド「はい」ペロペロ
勇者「吸血って、君たちにとって、どんな意味があるんだい?」
メイド「意味、とは?」ヌロリ……
勇者「つまり……そうだな。
補給行為として特に感慨はないのか。
それとも親しみとかそういう意味があるのか、あるいはその逆なのか」
メイド「……」
勇者「確認しておきたいんだ」
メイド「……わたくしのおばあさまは……血を吸った人間と結ばれました」
勇者「え……」
メイド「わたくしのお母様も、血を吸った魔族と結ばれました」
勇者「……それじゃあ」
メイド「ええ……そういうことです」ムクリ
勇者「……」
メイド「……」
メイド「……」ガバ
勇者「っ」ドサ
メイド「ああ勇者さま……」
勇者「ちょっと待ったっ」スッ
メイド「……勇者さまはわたくしのこと、お嫌いですか?」
勇者「好きだな。だからこそ流されるようなことはしたくない。
君にも失礼だ」
メイド(……わたくしは、かまいませんのに)
勇者「離れてくれ」
メイド「わたくしは! 勇者さまの事が好きです!」
勇者「……」
メイド「やっと気付いたんです。わたくしはずっと勇者さまといたい……!」
勇者「……」
メイド「聞かせてください。勇者さまはわたくしと剣士、どちらが好きなのですか?」
勇者「剣士だ」
メイド「え……」
勇者「どちらかを選べと言われるなら、俺は迷うことはない」
メイド「……」
勇者「理由も言える。彼女は本気だからだ」
メイド「わたくしだって本気です!」
勇者「ごめん、そういう意味じゃないんだ。
でも、君は俺を勘違いしているよ」
メイド「勘違い?」
勇者「俺は弱いよ」
メイド「そんなことありませんわ!」
勇者「ほら、それが勘違いだ。剣士なら言うさ。俺が弱いってね」
メイド「……そんなこと」
勇者「彼女は俺の弱さを知った上で、ずっとそばにいてくれると言った。
本気だ」
メイド「わたくしに時間をくれればもっと勇者さまの事を知ることができます」ギュッ
勇者「……」グイ
メイド「そん、な……」
勇者「本当にごめん、それも多分ごまかしだ」
メイド「……」
勇者「俺は剣士が好きだ」
メイド「……」
勇者「あの長い黒髪が好きだ」
メイド「……」
勇者「その髪からするいいにおいが好きだ。彼女の目が好きだ。
そのたおやかな立ち居振る舞いが好きだ。
強いところが好きだ。それでいて優しいところが好きだ」
メイド「……っ」
勇者「だから、ごめん」
ガチャ バタン
勇者「……」
勇者(これで、良かったんだよな……)
勇者「これで……」
ガチャ
剣士「後悔してるなんて言わせないわ」
勇者「……剣士」
剣士「というより、後悔はさせない。してほしくない」ツカツカ
勇者「……」
剣士「……」スル……
勇者「……」スッ
剣士「ん……」ギュッ
・
・
・
剣士「ん、はぁ……あ……」
勇者「……剣士」
剣士「うん……」
勇者「もう、俺……」
剣士「うん、きて……」
勇者「……ありがとう」
――ヌチ……
『愛しているぞ……我が娘よ』
剣士「や……!」
勇者「……? どうした剣士?」
剣士「や、やだ……!」
勇者「どうした……!?」
剣士「や、やめて……!」
勇者「大丈夫か剣士?」
剣士「も、もう逆らわないから、もうしないからやめて……!」
勇者「剣士! 剣士!」
剣士「いや! 助けて勇者っ!」
勇者「俺だ! ここにいる!」ギュッ!
剣士「ハァ、ハァ……!」
勇者「……大丈夫か?」
剣士「うん……大丈夫……ありがとう」
勇者「……」
勇者「ごめんな剣士……」
剣士「いいえ、あなたのせいじゃないわ」
勇者「……」
剣士「でも、ごめんなさい。わたし、今はできない」
勇者「したい。けど無理強いはしないさ」
剣士「ありがとう……」
勇者「……やっぱり」
剣士「ええ」
勇者「……くそ!」
剣士「……」
勇者「約束するよ。君を、絶対救ってみせる」ギュッ
剣士「ええ……」
勇者「それから、愛してる」
剣士「……ええ。わたしもよ」
――チュ……
うおおおお
306:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 10:30:33.34:OaS0/vZfo<宿>
魔王「ただいまですー」
勇者「ん?」
剣士「あら」
魔王「……なんで剣士さんがこっちの部屋にいるんですか?」
剣士「部屋割変更よ。あなたはあっちの部屋ね」
魔王「そんな勝手な……って、メイドさんは?」
剣士「そっちの部屋」
魔王(やっほい!)
勇者「魔王、頼みたいことがある」
魔王「なんですか? 今のぼくならなんでもできますよ!」
剣士「あの娘をお願いね」
魔王「……?」
ガチャ
魔王「ただいまですー」
メイド「……」
魔王「メイドさん、どうも」
メイド「……」
魔王「メイドさーん?」
メイド「……」
魔王「……」
メイド「……」
魔王(何があったかわからないけど重傷……いや致命傷だこれは)
魔王「……そんな端っこに座ってないでこっちに来てください」
メイド「……」
魔王「じゃあぼくがそっち行きますからね? いいですね?」
魔王「……」チョコン
メイド「……」
魔王「……」
メイド「……」
魔王「……なんとなく予想はつきます」
メイド「……」
魔王「頑張りましたね、メイドさん」
メイド「……」グス……
魔王「ちょっと休みましょう。ね?」
メイド「ハイ……」
メイド「わたくし……」
魔王「ええ」
メイド「……駄目でした」
魔王「……ええ」
メイド「もう……死んでしまいたい……」
魔王「駄目です。それは許しません」
メイド「だって……だって……っ」ヒック
魔王「ほら、顔を上げて」
メイド「……」
魔王「……」ニコー
メイド「……なんですか?」
魔王「ちょっとだけ、笑ってみましょう」
メイド「無理です……」
魔王「まあ、そうですよ。当たり前です」
メイド「……」
魔王「でも、笑っちゃいけないなんてことはありません。だから、ほら」
メイド「……」
メイド「……」
魔王「……」ニコー
メイド「……」
魔王「……」ニヘラ-
メイド「……っ」ガバ!
魔王「!?」ドサ
メイド「ん……!」ガブリ!
魔王「いたっ! め、メイドさん!?」
メイド「――っ」チュルルルル……
魔王「あっ、あ……っ!」
メイド「ンチュ……」ペロ
魔王「うあ……」
メイド「ジュルルルル……!」
魔王「メ、イド、さん……」
魔王(死ぬ……ほど気持ちいい……!)
メイド「ハァ……ハァ……」
魔王「メイドさん……!」
メイド「……」グイ
魔王「ちょっと……!」
メイド「魔王さまの、おっきくなってますわ」
魔王「何を!」
メイド「チュパ……」
魔王「うわぁ!」
メイド「ん……ジュル……ムチュ」
魔王「う……ああ、ああ」
メイド「――っ」ヌルルルル……
魔王「や、め……」
メイド「――」ジュル ジュル……
魔王「で――」
メイド「ん――っ」
メイド「魔王さまの、たくさん……」
魔王「ハァ、ハァ……」
メイド「入れますわね……」スッ
魔王(メイドさん……泣いてる?)
メイド「一緒に"良く"なりましょう……」
バチン――ッ!
メイド「いたっ!」
魔王「ふぅっ、ふぅっ……メイドさん!」
メイド「魔王さま……」
魔王「メイドさん、やめてください! こんなの違います!」
メイド「魔王さま……泣いてるんですか……?」
魔王「こんなの間違ってる!」
メイド「……」
魔王「あなたは確かに振られたかもしれない。悲しいのは分かる!
でも、こんなことで解決なんて、絶対するものか! 絶対に!」
メイド「……」
魔王「それに言わせてもらうぞメイド! ぼくは勇者の代わりじゃない!」
メイド「っ……」
魔王「もうひとつ! ぼくは君が好きだ!」
メイド「魔王、さま……?」
魔王「ああ、大好きだとも! 初めて会った時からずっとだ!」
メイド「魔王さま……」
魔王「だからこんなの余計に許せない……」
メイド「……」
魔王「立ちましょう、メイドさん」
メイド「は、い……?」
魔王「今こそ立つべきだ。崩れ落ちそうな今だからこそ」
メイド「それは……」
魔王「君は勇者を諦められますか?」
メイド「……それは」
魔王「諦められないなら、諦められるまで頑張りなさい。
ぼくはその後ろを全力で追いかけます。はさみうちです」
メイド「……」
魔王「先に相手に追いついた方が勝ちです、いいですね」
メイド「でも……」
魔王「でもも糞もあるかあッ! 決めたぞ、ぼくは君を絶対に落として見せるからなあ!」ブンブン!
メイド「……」
魔王「ハァ、ハァ……」
メイド(……)
メイド「クス……」
魔王「フゥ……やっと笑いましたね」
メイド「あ……」
魔王「そしたら後は泣きなさい。胸なら貸します。初回限定無料セールです」
メイド「……」
魔王「ほら」
メイド「……では、少しの間だけ、お借りします……」スス……ギュッ
魔王「……」ナデナデ
メイド「ふっ……くっ……うう」グス
メイド「うぐ……ヒック……」
魔王「……」ナデナデ
勇者「……」
剣士「……」
勇者「あっちは大丈夫かな」
剣士「大丈夫よ。魔王は思いやりにかけては世界一だから」
勇者「そうか。そうだな」
剣士「わたしたちはもう寝ましょう。明日も早いわ」
勇者「ああ、そうだな……」
剣士(頑張りなさいよ、魔王……)
<数日後>
勇者「お師様、いかがでしょう」
師匠「うーむ、それなんだがな……」
剣士「どうなのよ?」
師匠「いや、どう考えても無理難題すぎて」
勇者「お師様でも、無理ですか……」
師匠「いや思いついたには思いついた。が、これはそれこそ子供にでも思いつく」
剣士「どうするの?」
師匠「皇帝への直談判」
勇者「直、談判……」
剣士「……呆れたわ」
剣士「そんなのアイディアと呼べないわよ。
皇帝に会うには一級の兵士たちの防衛を越えたうえで、さらに実力でのし上がってきたあの元帥を排除しなければいけないわけで」
勇者「皇帝もこれまで幾度も死線を抜けてきた。
そんな大人物が頷くとも思えない……」
師匠「俺だってわかってるよそんなこと。ただ、現状思いつける一番のアイディアってったらこれくらいで」
勇者「でもそうですね。簡明でなおかつ相手が予想だにしない方法だ」
師匠「簡明の原則と奇襲の原則だな」
剣士「でも、ねえ……」
師匠「まあ、いいじゃねえか。まだ時間はある。
……それよりあの坊主ともう一人の嬢ちゃんはどうした?」
勇者「ああ、彼らはまだ上で寝てます」
師匠「え? できてるのあいつら?」
剣士「あの子たちに限ってそういうふしだらなことはないわよ」
「チュルルル……ん……はぁ、ん……」
剣士「……た、多分」
師匠「思いっきり声が漏れて聞こえてきてるわけだが」
勇者「あれは吸血です」
師匠「どう違うんだ?」
勇者「……あまり違わないかもです」
<村>
少年「はぁ……お兄ちゃん来ないかなあ」
少年「つまんないなあ……」
?「やあこんにちは」
少年「え、あ……お、おじちゃん誰?」ササッ
?「はは、そんなに怖がらなくてもいいよ。ちょっと探してる人がいるんだけど、いいかな?」
少年「は、はい……」
勇者「――じゃあ、こんなところですかね」
剣士「あまり収穫はなかったけれど……」
師匠「そう言うなよ、俺だって珍しく頑張ったんだし」
剣士「でも毎日飯たかられてるしねえ……」
師匠「賃金求めちゃわりーかよ」
剣士「……なんでこんな人が勇者の師匠なのかしら」
勇者「これでも国立の大学に通っていたらしいよ」
剣士「マジ?」
師匠「大マジ」
勇者「もっとも途中で抜けたそうだけど。女性を追うためとかで」
剣士「ださ」
師匠「……大事な、人だったんだよ」
師匠「ま、そんなことより……」
――ゾク……
師匠・勇者・剣士「ッ――!?」
師匠「……勇者」
勇者「ええ」
師匠「上の坊主らを連れてこい」
勇者「了解です」タタッ!
剣士「……」スラリ……
師匠「いい剣だな」
剣士「……ええ」
魔王「どうかしました?」
メイド「なんですの?」
師匠「こっちに裏口がある。全員でそこから逃げるぞ」
魔王「逃げる?」
勇者「いいから。行こう」
ガチャ
?「おやどちらへ行かれるのかな?」
剣士「!?」
?「師匠を名乗る人物を探していたのだが……おや」
剣士「っ……っ……」ガタガタ!
?「ずいぶんと懐かしい顔がいるではないか」
勇者「どうした剣士……!?」
剣士「剣聖……!」
剣聖「お初にお目にかかる、剣を極めし者だ。そして……」
剣士「パパ……!」
勇者「何!?」
剣聖「その娘の、父親だよ」
剣聖「探したよ、我が娘。どこにいたのだ」
剣士「ヒッ……!」
剣聖「なぜ俺のもとから逃げたんだい?」
剣士「ヒッ……ヒッ……!」
勇者「剣士! しっかりしろ!」ギュッ
剣聖「おや、君が娘の良人候補か?」
勇者「どうだろうな」
剣聖「その娘は俺のモノだ。取るんじゃない」
剣士「違うッッ!! わたしはあなたのものなんかじゃない!」
剣聖「違うものか。お前のことならなんでも知っているよ。そう、なんでもだ」
剣士「やめて……」
剣聖「好きな食べ物、本、歌……」
剣士「やめてよパパぁ……」
剣聖「そして最も悦ぶ場し――」
剣士「やめてぇッ!」ダッ!
勇者「剣士、出るな!」
剣士「うわああああああッッ!!」ブオン!
剣聖「はぁ……」スカ
剣士(わたしの全力が……!)ヨロ
剣聖「ホントに分かってないなお前は」ガシ グイ!
剣士「いや……髪つかまないでぇ……!」
剣聖「お前は俺のモノなんだ。俺を斬れるわけないだろう?」ギギ!
剣士「うう……っ!」
勇者「剣士を放せ!」
魔王「剣士さん!」
剣聖「お前の剣は俺が与えたものだ。お前の技術も俺が与えたものだ」
剣士「放してよぉ……」
剣聖「そしてお前の艶やかな髪も恵まれた躰も、俺が与えたものだろう?」スッ
剣士「やめて、触らないで!」
勇者「くっ!」
師匠「出るな勇者!」
剣聖「君」
勇者「……なんだ?」
剣聖「この娘の事はどれくらい知っている?」
勇者「相棒だ」
剣聖「零点だ、答えになってない。そうだな、例えば」グニュ
剣士「あっ……」ピク……
剣聖「この娘はこういうふうに触られるのが好きなんだ」グニグニ
剣士「あっ、んっ……!」ビクン
勇者「貴様ァッ!」
剣聖「ふふふ……」ヌロリ
剣士「耳……だめぇ……」ビクビク
剣聖「俺のもとに帰ってこい」
剣士「いやぁ……」
メイド「そこまでですわ!」
メイド「喰らいなさい、持ってて良かった小型ボウガン!」シュッ!
剣聖「おっと」バッ
剣士「あ……!」ドサ
勇者「剣士!」タタッ
剣士「勇者ぁ……」グス
勇者「もう大丈夫だ。な?」ギュッ
剣士「悔しい……わたし悔しいよぉ……」グスグス……
勇者「……分かった」
剣聖「邪魔するな小娘。貴様も"汚して"やろうか……?」ギロ
メイド「っ……あ、あなたなんて怖くありませんわ!」
剣聖「そういうことを言う奴ほどいい声で鳴くのが面白い」
勇者「そこまでだ」
剣聖「ほお……」
勇者「あんたに会ったら一言言ってやろうと思ってた」
剣聖「よろしくお願いしますお義父さん、か?」
勇者「相棒を舐め腐りやがってッ! テメエは絶対許さねえッ! 殺してやるッッ!!」バッ!
剣聖「若さとはいいものだ。君も女に生まれるべきだったよ」
勇者「死ねぇッ! "爆拳"!」シュバ!
剣聖「来い、若造!」ジャキ!
――キャァン! ドゴッ!
勇者「がはッ!」ドサァ!
魔王「馬鹿な、勇者が!?」
メイド「えい!」シュッ!
剣聖「ふっ」カィン!
メイド「矢を斬り落としましたの!?」
剣聖「不意打ちでなければ喰らうことはない。当然だろう?」
勇者「く……」
勇者(太刀筋が、全く見えない……実力が違いすぎる。
超人のさらに上だ!)
剣聖「娘を返してもらおうか」
剣士「いや……!」
師匠「フッ――!」ズジャ――!
剣聖「なに!?」
師匠「"崩拳"!」
剣聖「チッ」ガキン
師匠「残念、防いでも無駄だ」
剣聖「ぬおお!?」ビリビリ
師匠「伝染する打撃……どうだ、効くだろう。この子たちの怒りだ」
剣聖「ぬかせ!」
師匠「勇者!」
勇者「お師様……?」
師匠「今は逃げろ、お前では敵わない!」
勇者「でも!」
師匠「まだ"お前の手の届く範囲"にいないんだよ! 分かれ!」
勇者「く……了解です! 逃げるぞみんな!」ダッ
剣士「うう……」
メイド「……行きましょう剣士」
魔王「急いでください!」
師匠「最後に勇者!」
勇者「はい!」
師匠「どんなにつらいことがあっても諦めるな!
お前の想い人がどんなに姿を変えようと、それでもそれはお前の想い人だ!」
勇者「……」
師匠「お前が諦めるな! 何かあるんだ! 奇跡はないかもしれないがそれと同じものが!
じゃなけりゃ、誰も生きてなんかいけるものか!」
勇者「……はい!」ダダ!
師匠「さて……」
剣聖「……貴様の経験談か?」
師匠「ああ……好きな人が、いや愛した人がいたんだよ」
剣聖「過去形か」
師匠「まあな。御託はいい。行くぞ」
剣聖「まあ、元は貴様に用があったのだ」
師匠「へえ?」
剣聖「騎士軍から勇者に協力する者は殺せとのお達しだ」
師匠「……あんたは強い。だから適当なところで逃げさせてもらうよ」スッ……
<村>
タッタッタッタッタッタッタッタッ――!
魔王「勇者、どうするんですか!?」
勇者「適当なところで紙かシーツを拝借する! それで転移魔方陣作って逃げるぞ!」
メイド「そんな都合よく手に入りますの!?」
勇者「今はそんなこと考えてられない。強奪もやむなしだ!」
魔王「! そうだ、いいところがあります!」
――ガチャ
少年「はい」
魔王「こんにちは」
少年「あ、お兄ちゃん! 遊びに来たの!?」
魔王「ごめん、そうじゃないんだ、借りたいものがあるんだけど、いいかな?」
少年「そうなんだあ……うん! わかったよ!」
魔王「ありがとう!」
勇者「よし、やるぞ」ビッ ツー……
カキカキカキカキ……
剣士「……」
メイド「剣士、元気出しなさい……」
魔王「……」
少年「ねえ、お兄ちゃん」
魔王「ん、なんだい?」
少年「お兄ちゃんは、人間じゃないよね? ぼくにはわかるよ」
魔王「……!」
少年「魔物さんかな。初めて見た」
魔王「そのことは、誰かに?」
少年「んーん。ぼくとお兄ちゃんは友達だもん。友達が困ることはしないよ?」
魔王「え……?」
少年「それよりお兄ちゃん、帰っちゃうんだよね?」
魔王「あ、ああ」
少年「また会いに来てほしいな……」
魔王「いいのかい?」
少年「駄目なの……?」ジワ……
魔王「いや、駄目じゃないよ! ……分かった。絶対会いに来る」
少年「ホント!?」
魔王「うん、ホントホント」
少年「じゃあさ――」
『指切りしましょう!』
魔王「……」
勇者「……よし、できたぞ! みんなの準備はいいか!?」
メイド「ええ!」
魔王「はい!」
勇者「じゃあ、魔王、頼む!」
魔王「合点承知!」
少年「ばいばい、お兄ちゃん」
魔王「うん、ばいばい……」
魔王「――"瞬転"!」
――ピシュン!
・
・
・
<魔界>
――シュン!
勇者「……」
魔王「着きました、けどここはどこでしょう」
勇者「細かい場所を設定する余裕はなかった。でも魔王城近くだ」
剣士「……」
勇者(剣士……)ズキ
メイド「では早く帰還しましょう!」
「お待ちください」
勇者「……!?」
妖精族長「ごきげんよう……」
妖精兵「……」ギリリ……
勇者(武装した妖精兵たち……!?)
妖精族長「はじめまして勇者」
勇者「……」
妖精族長「それともお久しぶりというべきでしょうかね? 仮面人さま?」
勇者「なんだと!?」
妖精族長「あら、わたしたちに情報収集を教えてくれたのはあなたじゃありませんか」
魔王「……」
メイド「……」
勇者「俺たちを、どうするつもりだ?」
妖精族長「……」
妖精族長「ついてきてください」
勇者「……」
妖精族長「……お願いします」
勇者「え?」
妖精族長「実は……」
妖精「魔界の危機なのです」
369:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 17:10:42.55:OaS0/vZfo
ごめんこれだけつぶやかせて
>>361のメイドさんがドンピシャすぎ
363:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 16:14:52.34:OaS0/vZfo>>361のメイドさんがドンピシャすぎ
上手すぎ鼻血出た
もう俺死んでもいい……
364:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県):2011/06/07(火) 16:16:38.98:h/C5BSO4oもう俺死んでもいい……
今は死ぬな!
完走してから倒れろ!!
373:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 17:59:43.32:OaS0/vZfo完走してから倒れろ!!
鬼人従者「族長、魔王城の掌握が完了しました」
鬼人族長「うむ」
鬼人従者「これで、準備が整いましたね」
鬼人族長「魔界の、大掃除の始まりだ」
鬼人従者「わたくしはおそばに」
鬼人族長「……すまぬ」
<魔界.天幕>
――ファサ……
勇者「……」
「おお、あれが……」
「あれが仮面人の正体……!」
「人間……勇者だ」
妖精族長「どうぞこちらへ」
勇者「ありがとう」
剣士「……」
魔王「……」
メイド「……」
勇者「いつからばれてたんだ?」
妖精族長「あなた方が人間界に旅立つ少し前でしょうか」
勇者「なぜ放っておいた?」
妖精族長「"仮面人"の存在があまりにも大きすぎたのです。
考えなしに暴露すれば、せっかく築かれた団結が失われる恐れがありました
そうなれば人間に決定的な隙を与えてしまいます」
魔王「なるほど」
妖精族長「事実が判明した時は、妖精族の中だけでも大騒ぎだったんですよ?」
勇者「それはすまなかった……でいいのかな?」
妖精族長「ふふ……」
メイド「今はどのくらいの魔族が知っているんですの?」
妖精族長「魔界の、軍事に関わる魔族はほぼすべて」
勇者「それはなぜ? 何があったんだ? 魔界の危機とは何なんだ?」
妖精族長「それは一言で説明がつきます。クーデターです」
魔王「クーデター、ですって? 一体だれが!?」
妖精族長「鬼人族をご存知ですね?」
剣士「……最近魔王城に忍び込もうとしてた。わたしが捕まえた……」
妖精族長「ええ。彼らが魔王城を急襲したのです」
メイド「あの鬼人族が!?」
勇者「魔界の人型魔族の中で最も強く賢い種族か……」
魔王「なぜ?」
妖精族長「それは想像でしか分かりません。
これまでの魔王さまのやり方が気に食わなかったのか、それとも仮面人という存在のことを不審に思ったのか。
それともそれ以外の利権などの理由か……」
勇者「それではまだ魔界の危機というほどじゃないな。何が差し迫ってるんだ?」
妖精族長「……」
妖精族長「問題は、鬼人族がいまだ魔界全体を掌握できていないことにあります。
今はまだ魔王城のみ。他の魔族はいまだ魔王さまや仮面人を信奉しているのです」
勇者「そんな状態で迫っている危機……まさか!」
妖精族長「ええ、騎士軍です」
メイド「数は?」
妖精族長「およそ十万」
魔王「じゅ、十万!?」ガタ!
勇者「……こちらは?」
妖精族長「動員できるのはコボルト、ゴブリン、妖精のみ。
多く見積もっても三万です」
魔王「そ、そんな……」ズルズル……
勇者「早急に、対処する必要ありだ」
妖精種族「ええ。事態はわたしたちの手に余ります。あなたの、いえあなた様方の力が必要なのです」
剣士「無茶よ……」
妖精族長「ええその通りです。しかしあなた方に選択肢はないのです」
魔王「……」
メイド「……」
勇者「やりましょう」
妖精族長「ありがとうございます……!」
・
・
・
勇者「じゃあ、作戦通りに」
妖精族長「ええ」
メイド「任せてくださいまし!」
魔王「ぼくも、やります」
剣士「……」
勇者「剣士……もし無理だったら、休んでても」
剣士「……休むって何?」
勇者「え?」
剣士「安らかな場所は、あなたの手の届く範囲よ。なら行くしかないじゃない」
勇者「剣士……」ギュッ
剣士「……ちょっと、みんなが見てる……」
勇者「……」ギュゥゥゥ
剣士「……」……ギュッ
メイド「……」
妖精族長「……位置につきます。それではご武運を」
メイド「ちょちょいの、ちょいっと」ガチャ!
勇者「メイド」
メイド「地下道への入り口は開きました。それではわたくしはこれで」
勇者「メイド……」
メイド「行ってまいります。そちらも気をつけて」
勇者「メイド!」
メイド「……勇者さま」
勇者「……」
メイド「わたくしあなたのために戦います。魔王さまへと同等の忠誠をあなたに。
それでは」ダッ!
勇者「……君は、俺にはできすぎた生徒だったよ」
魔王(……メイドさん)
――コォォォォォォォォ……
勇者「では……」
仮面人「行こうか」
魔王「はい!」
剣士「ええ……」
389:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 19:28:51.76:OaS0/vZfo
鬼人従者「来ました! コボルト軍です!」
鬼人族長「弱者どもめ……蹴散らしてやれ!」
鬼人従者「は!」
「伝令です! 城内に不審な者が!」
鬼人族長「もしや……」
「正体がつかめました! "仮面人"です!」
鬼人従者「来ましたか!」
鬼人族長「ふ、ここまで通してやれ」
仮面「ふっ――」ザシュ!
鬼人兵「ぐはぁッ!」ドサ
仮面「……」ツカツカ ツカツカ……
勇者『いいか、作戦は単純だ』
勇者『メイドが騎士軍を抑え、俺たち三人が城内をかき乱す』
勇者『コボルト・ゴブリン・妖精の三種族小隊には、正門を押さえてもらおう』
勇者『俺たちにならできる。大丈夫だ……!』
仮面「……」ジャキ!
<玉座の間>
仮面「ずいぶんと、少ないのだな」
「は、余裕じゃねえか」
「確かに少数だが、鬼人族は人間の五倍は強いんだぜ!」
「覚悟するんだな!」
鬼人族長「よくぞ来たな、仮面人。大したおもてなしはできんがね」
鬼人従者「……」
鬼人族長「……いや、勇者か。お主の正体はばれておる。そのような仮面とローブ、暑苦しいだけだろう。外したらどうだ?」
仮面「……そうだな」
鬼人族長「その顔を、この老人に見せてくれ」
仮面「いいだろう」カポ
「!?」
「あれは、女!?」
鬼人族長「……誰だお主は?」
?「心強い相棒よ……」
剣士「勇者のね!」
鬼人従者「何!?」
――ズザァァァァァァァ!
勇者「"貫拳"!」
魔王「"炎牙"!」
ドゴドゴォッ!
鬼人族長「ぬぐッ!」
鬼人従者「ぬかった!」
剣士「奇襲、成功ね」
鬼人族長「この、弱者どもがァッ!」
勇者「弱者で結構、凡人で結構」
魔王「止めさせて、もらいますよ!」
<東平原>
――ヒュオオオオォォォォォォォォ……
メイド(……降るかしら)
「伝令! 騎士軍がやってきます」
――……ザッザッザッザッザッ……
メイド「あの時と同じですわね。いえ、あのときよりもちょっと敵の割合が大きいですか」
「どうなさいます?」
メイド「街道沿いの山は押さえましたわね?」
「ええ」
メイド「ならば後はやることはありません。待ちうけるのみ。
ここはわたくしたちの土地なのですから」
「かしこまりました」
メイド「挑戦、受けて立ちますわよ……!」
鬼人族長「ぬぅ……」
勇者「あなたの相手は俺が」
鬼人従者「……」
魔王「あなたの相手はぼくです!」
「くっ……」
剣士「あなたたち雑兵はわたしが片付けるわ」
勇者「先手必勝! "連拳"!」ズガガガガ!
鬼人族長「ふん!」パシ!
勇者「な! 左手が!」
鬼人族長「……」ニタァ……
勇者「っ!」ゾク……
鬼人族長「ふぬ!」グッ!
――バキャアァッ!
勇者「うわあああああ!?」
鬼人族長「我の武器は握力だ」スッ
勇者「ムグ……!」
鬼人族長「ほれ、今度は頭をつかんだぞ? 死ぬか?」ギリギリ……
勇者「ぐ、あ、あ……」
鬼人族長「そうかそうか死にたいか!」
鬼人族長「ならば、死ね!」
――ボグン!
魔王「"雷爪"!」バリバリ!
鬼人従者「……」ヒラリ……
魔王「当たりませんか……」
鬼人従者「わたしはそのような攻撃に捕まえられる程遅くはないので」
魔王「……」
鬼人従者「いいことを教えてあげましょう」
『いいことを教えてあげる』
魔王「え?」
鬼人従者「私は――」
『魔術の両断も得意なの』
魔王「……」ポカン
鬼人従者「……どうしました?」
魔王「いや、できすぎだなあと……」
鬼人従者「言ってなさい、あなたは私に斬られるのです」
魔王「そうですか」
鬼人従者「ふん……いざ!」ダッ
<東平原>
「伝令! 騎士軍動きません!」
メイド「ええ。見えてますわ」
「一体どういうことでしょう?」
メイド「わかりません……消耗でいえば、数も多く慣れない土地であるあちらの方が不利なのに……」
「迎撃に絶対の自信があるのか……」
メイド「しかし統率力と機動力は圧倒的にこちらの方が上ですわ」
メイド(しかし――あの妙な密集具合が、気になりますね……)
メイド「なんでしょう?」
「で、伝令!」
メイド「何かしら?」
「や、奴ら武器を持っていません!」
メイド「……なんですって?」
「一つも、何も持っていないのです! 本当です!」
メイド「罠……」
「と、思うのが自然ですな」
メイド「しかし……」
「どうなさいます? 我々はあなたに従います」
メイド「……」
勇者『選択肢がいくつかあって、どれも不確実なとき』
勇者『そんなときは、大胆な案を採用するんだ』
勇者『これが鉄則だよ』
メイド「大胆な、案……」
メイド「こちらに弓射・魔術部隊はいくらいますか?」
「およそ五千です。魔術隊はいません」
メイド「分かったわ、その隊で弓射を加えなさい。
ついで、戦闘機動に入りますわ」
「アイマム!」
メイド(勇者さま、わたくしを守って……!)
メイド「行きますわよ! 前進です!」
――オオオオオオオオオ!
メイド「右翼を伸ばしてそちらから囲むように動いて! さらに弓射を加えて! 手加減は無しですわ!」
――ドドドドドドドドド!
メイド(さあ……どうなります!?)
――カッ!
メイド「え?」
――ドゴオオオオオオウッ!
メイド「き、きゃああああああああ!?」
・
・
・
・
・
・
<十年前.どこか>
男子「ここ、どこだろう」
キチキチキチキチ……
男子「やっぱり騎士軍の人の言うこと聞いてれば良かった……」
ガサ……!
男子「っ!」ビビクン!
男子「な、何?」
ガサガサ!
男子「う、うひゃああああ!」ダダダ!
ガサガサガサガサ!
男子「お助けー!」
「よっと!」ガバ!
男子「わあっ」スッテン!
「あははははは!」
男子「だ、誰だよう……」
子供「お兄ちゃん、はじめまして!」
男子「え?」
子供「ぼく、魔物の子です! あのあの、ええとですね。ぼくと――」
『友達になってくれませんか!』
・
・
・
<現在>
鬼人族長「……」
勇者「……」
鬼人族長「これは、どうしたことだ?」
勇者「フゥゥゥゥ……」
鬼人族長「我の右腕が、動かん」
勇者「"崩拳"、了」
鬼人族長「なんだそれは? 我の右腕と関係あるのか?」
勇者「師匠の拳法、その奥義だよ」
鬼人族長「馬鹿な……拳を撃ち込む暇なぞなかったはずだ」
勇者「いや、拳は引いてない。押し当てたままだ。というより拳でなくともいい」
鬼人族長「……?」
勇者「爆発的な筋肉の振動。それが崩拳の正体」
鬼人族長「……」
勇者「その振動に触れれば筋肉が共鳴して機能不全を起こす」
鬼人族長「化け物かお主は?」
勇者「ただの暗殺技能者さ。弱者のね」
鬼人族長「……ふ……やれ」
勇者「"貫拳"!」ジャッ!
鬼人族長「ぐハァぁァッ!」
勇者「――終わりだ」
ドサァ……
鬼人従者「はああああああッ!」ブオン!
魔王「遅い! "炎牙"ァッ!」ゴウ!
魔王(……終わった!)
鬼人従者「ふん!」ザシュゥッ!
魔王「な!? 魔術を、斬った!?」
鬼人従者「予告したでしょうに」ユラアァ……
鬼人従者「終わりですッ!」ブオン!
魔王「ふ――っ」
鬼人従者(――?)
魔王「"貫拳"!」
鬼人従者「なぐハァァッ!!?」ドゴオッッ!
魔王「ハァ、ハァ……」
魔王「ぼくが、勇者にやられっぱなしなわけないでしょう……」
魔王「研究しましたとも、たくさん、たくさん」
魔王「コツさえわかれば大したものじゃありませんでした」
魔王「そして、あなたは魔術を切った後は、確実に斬るために近付いてくる」
魔王「チェックメイト、というわけです」
魔王「……や、やった」
魔王「やりましたよ、メイド、さん」ヨロ……
魔王「ふ、はあ……」ヘタリ
剣士「ちぇぇぇぇいや!」ズザシュぅッ!
「が……!」ドサリ
剣士「……終りね」
勇者「こっちも終わった」
魔王「ぼくもです……!」ヘロヘロ……
剣士「! 勇者、その手」
勇者「ああ、握りつぶされた」
魔王「痛そうです……」
勇者「ああ……クソ痛い……」
剣士「早く治癒魔術か何かを妖精に……」
「それは大変だ」
勇者・剣士・魔王「ッ――!」
剣聖「何を驚くことがあるかね」
勇者「お前……ッ! その肩に担いでいるのは!」
剣聖「ああ、"ごちそうさま"」ポイ!
メイド「」ドサリ!
魔王「メ、メイドッ!」
剣士「『ご、ごちそうさま』って……」フルフル……
剣聖「ああ、美味だったよ」ニタァァ
魔王「このおォッ!」ダッ
勇者「……」ガシ!
魔王「勇者!?」
勇者「落ちつけ」
魔王「これが落ち着いてられますか! メイドが! メイドさんが!」
勇者「そんな時間と余裕があったと思うか?」
剣士「あ……」
剣聖「チッ……その通りだよ。私は早漏ではないからな」
魔王「あ……よかった……」ヘナヘナ……
勇者「それより、どういうことだ」
剣聖「どういうこと、とは?」
勇者「お前が騎士軍にいたことは分かる。だが、どう考えてもここへ来るのが早すぎる!」
剣聖「兵は拙速を尊ぶ。巧遅よりもな」
勇者「ごり押しにしたって早い!」
剣聖「やかましいな、聞こえないのかあの音が」
魔王「あの、音?」
――カッ ドグォオオオオオオオオオオ!
魔王「う、うわ!」グラグラ……
勇者「まさか、『砲』が実戦投入されたのか!?」
剣聖「惜しいな」
剣聖「『砲』が開発されているのは帝国では公然の秘密だ。
だが、その裏にもっと大きな秘密が隠れていることに気付かなかったのか?」
剣士「秘密?」
剣聖「現在の技術で『砲』とタメをはれるものはなんだ?」
勇者「血陣、魔術」
剣聖「ビンゴだ」
魔王「え、あの血陣魔術!? で、でも」
剣聖「ああ、あれに速度はない。
注射器で血を抜いて、専用の道具を使って魔方陣を描写する手間は、戦場では致命的だな」
勇者「まさか!」
剣聖「その通り。『魔術士計画』だ」
剣士「魔術士、計画?」
剣聖「血陣魔術に必要なもの。血と魔方陣だ」
勇者「だが、血は人間の体内に充満していて、血管によって巡っている……」
魔王「つまり……?」
剣士「血管を魔方陣の効果があるように並び変えれば、描写の手間は要らない……!」
剣聖「その通り、愛しているぞ、我が娘よ!」
剣士「くっ……」
勇者「それに、メイドは負けたのか……」
メイド「ぅ……ぁ……」
魔王「酷い……こんな……」
勇者「……」スッ
メイド「ゆ……しゃ……」
勇者「ああ……」ナデ……
勇者「大丈夫、あいつは絶対ぶっ飛ばす……!」スク
メイド「……」
剣聖「ふふ、ははははははっ! その片方潰れた拳で俺と勝負するかね!?」
勇者「……」
剣聖「三分間待ってやる! その間好きなように治すがいい!」
勇者「……」……クル
剣士「……?」
勇者「……」ツカツカ ツカツカ……
剣士「な、なによ」
勇者「……」ギュッ
剣士「あっ……」
勇者「……勝ってくる」
剣士「……ええ!」
勇者「……」ザッ
剣聖「治療はいいのかね?」
勇者「お前もお師様とまともにやり合ってる。そんなに早く怪我が治るはずがない」
剣聖「……」ビリ……
勇者「お師様の崩拳をまともに受けたら握力にも異常が出てるはずだ」
剣聖「……」ペッ
勇者「イーブンだ」
剣聖「勘違いするな若造。俺は生まれながらにして人間の頂点だった。
少しぐらいの不調で揺らぎはせんぞ」
勇者「不調は認めるんだな」スッ
剣聖「……殺す」ジャキ!
勇者「……」
剣聖「……」
――…………
――ズダンンッッ!!!
勇者「シッ――!」ジャッ!
剣聖「ふ、破ッ!」キィン!
――ガキャンッ!
勇者「っ!」グググ……
剣聖「ぬ!」ギギギ……
――ッキャァン!
勇者「おおおおおおおおおおお!」
剣聖「はああああああああああ!」
ヂィン! ジャッ! ジャァン! ビシ! ガツン!
勇者「やっぱりだ! 今は見える!」ジャッ!
剣聖「く! だが右手だけでは防ぎきれんぞ!」ビッ!
勇者「いや、もう詰んでいる!」キィン!
剣聖「ほざけッ!」ビュッ!
バッ! ズザザザザザザザ……
勇者「ヒュー……ヒュー……」
剣聖「ふ……は……」
勇者「……」
剣聖「……」
勇者(これが……)
――これが最後だ
勇者(悔いはないか……?)
――あるものか
勇者(そうだ……いつだってそうだった……
手の届く範囲でやってるんだから、それだけでもう、十分だ……)
――……行こう
勇者「ああ、もちろんだともッ!」
ズ――ダンッッ!!
勇者「くらえやあああああああ!」
剣聖「ぬうううううううううん!」
――ガ……
勇者(ここだ……ッ! 今なんだッ!)
――ビィィィン!
剣聖「な!?」
勇者「その通り! 持ってて良かった小型ボウガン!」
剣聖(こんなもの! 打ち落とせる!)
剣聖(どんなに刹那の間であろうと、俺の剣の方が速い!)
勇者「――って思ってるんだろ?」
剣聖「!?」
勇者「あめえんだよッ!」ズギュウウゥゥ!
――ガキイイイイイィィィィィィンッ!
魔王「あ……!」
剣士「うん……!」
勇者「ああ!」
剣聖「がハアああああああ!」カラーン……
勇者「当然だ。矢を撃ち落とそうと思ったら、矢の通る軌道に剣が入る。
その瞬間をねらって崩拳を叩きこめば――」
剣聖「腕が……! 腕が……!」ビリビリビリビリ!
勇者「こうなるってわけだ」
勇者「終わりだッ!!」
剣聖「くそおッ!」
勇者「"貫拳"!」カアァァァァン……!
剣聖「ぶごふッッッ!!!」
――ドシャア!
勇者「俺の手の届く範囲に入ったこと……それがお前の敗因だ。覚えとくといい」
剣士「勇者!」
魔王「勇者!」
勇者「ふぅ……あれ……」ヨロ……
剣士「っと……」ガシ
魔王「大丈夫ですか?」
勇者「もう、だめかもな」
勇者(でも、悔いはない……)
「お前の手の届く範囲に入ったことが俺の敗因ならば……」
勇者「何!?」
「俺を殺さなかったことがお前の敗因だよ……」
――……ゴウッ!
勇者(しまった、投擲剣!)
――ザグンッッ!
「が……は……」
勇者「な……!」
剣士「メ……」
魔王「メイドさんッ!」
メイド「勇、しゃ……さま……」ドサリ……
魔王「あ……」
――……ドクン
勇者「……メイド!」
魔王「ああ……」
――ドクン!
剣士「――ッ! ――ッ!」
魔王「あああ……」
――ドクンッ!
魔王「ああああああ……」
勇者「どうした魔王、しっかりしろ!」
魔王「あああああああはははははっはははっははははは!」
――ぴいいいぃぃぃぃぃいいん
剣士「何の音!?」
魔王「ふふふああっははははふははふっふふふふはははは!」
勇者「魔王! 魔王!」
魔王「……死ね」
――ゴゴウン!
勇者「……広域極大消滅魔術」
剣士「え……」
勇者「これが、それだ……」
魔王「――――」
剣士「そ、そんな、このあたりには今、たくさん人がいるのよ?
止めさせないと……!」
勇者「……」
剣士「勇者!」
魔王「――――」
勇者「魔王……」
魔王「――――」
勇者「滅ぼすのか? 全部」
魔王「――――」
勇者「お前らしくもないな」スッ
魔王「――――」
勇者「……」ナデナデ
剣士「勇者……!」
勇者「黙っててくれ」
勇者「聞いてくれるか、魔王」
魔王「――――」
勇者「俺はお前の事を覚えていたよ」
魔王「――――」
勇者「懐かしかった。うれしかった。
でも、お前は覚えてなかった……」
魔王「――――」
勇者「いろいろ記憶をいじられたんだな……かわいそうに」ギュッ
魔王「――――」
勇者「なあ、俺、もしかしたら世界を救うなんてどうでもよかったのかもしれない」
魔王「――――」
勇者「ただただ、お前に思い出してほしくて行動してた気がする。あのころを取り戻したくて……」
『ぼくと友達に――』
勇者「だから信じたかった。お前がまだ俺の手の届かない場所にいってしまってなんかいないって!」
魔王「――――」
勇者「帰ってこい! 魔王! お前、ふざけてんじゃねえぞ!」
魔王「――――」
勇者「いいか、五秒だ! それ以上は待たねえ!」
魔王「――――」
勇者「五、四、三」
魔王「――――」
勇者「二……一……」
勇者(ああ、俺、泣いちゃってるな……)
勇者「……ゼロッ!」バキイッ!
……カッ――――!
・
・
・
メイド「ん……」
勇者「メイド?」
メイド「あれ、わたくし……」
勇者「起きたか……」
メイド「勇者、さま……?」
剣士「おはよう」
メイド「剣士……」
勇者「大丈夫か? 痛いところとかないか?」
メイド「いえ……あの、わたくし」
勇者「ああ、死んでたのかもな」
メイド「! やっぱり……じゃあなぜ?」
勇者「……」チョイチョイ
メイド「……?」
魔王「スゥ……スゥ……」
メイド「魔王さま?」
勇者「ああ、そうだ、あいつのおかげだ。多分」
メイド「え? え?」
剣士「極大広域消滅魔術なんてものじゃなかったわね」
勇者「ああ、大魔術……いや魔法の領域だな」
剣士「あなたが殴ったからかしら?」
勇者「さあ? 殴らなくてもこうしてたのかも」
メイド「……魔王さま」
魔王「んん……」ハッ
魔王「……」ムクリ
メイド「魔王さま!」
魔王「……」
メイド「……魔王さま?」
魔王「~~~~~ッ!」ガバ!
メイド「きゃっ!」
魔王「よかった……よかったぁ……」グスグス……
勇者「ん……」
剣士「ふふ……」
魔王「もう、駄目かと……駄目かとぉ……!」
メイド「……ありがとうございました」
魔王「え、ぼく?」
メイド「はい、あなたのおかげで生き返ることができました」
魔王「え? え?」
メイド「……」チュッ
魔王「~~~~ッ!」
446:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:33:01.76:OaS0/vZfo
勇者「あー、盛り上がってるところ悪いが……」
魔王「はい?」
勇者「魔王、最後の仕事だ」
魔王「え?」
勇者「行くぞ」
魔王「ど、どこに?」
勇者「決まってる。平和な世界に、だよ」
・
・
・
勇者「じゃあ、行ってくる」
剣士「ちゃんと、帰ってくるのよ」
勇者「ああ」
メイド「魔王さまもですよ」
魔王「うん、分かってます!」
勇者「剣士。……頑張れよ」
剣士「……ええ」
魔王「?」
勇者「メイド、病み上がりのとこ悪いが戦の後始末を頼む」
メイド「かしこまりました!」
勇者「じゃあ――」
魔王「はい!」
魔王「――"瞬転"!」
――ピシュウン!
<魔王城.廊下>
剣聖「くっ……ふぅ……ぐふっ」ヨロ
剣聖「あの、若造め……!」
剣聖「待っていろ! 必ずやこの屈辱を……」
剣聖「……!」
剣士「……」
剣聖「なんだ、お前か……」
剣聖「どうした、抱かれにでも来たか……?」フフ
剣士「……」ポイッ カラン……
剣聖「剣……? 何のつもりだ……?」
剣士「必殺の距離」
剣聖「!」
剣士「パパが教えてくれた殺人の距離」
剣聖「……」
剣士「決闘よ」
・
・
・
剣聖「後悔するなよ……」
剣士「パパはするの?」
剣聖「くくっ……」
剣士「剣士に言葉はいらないわ」
剣聖「まったくだ」
剣士「……」
剣聖「……」
剣士(わたしは、後悔ばかりだった)
――手の届かない距離
剣士(いつもいつもあがいてて、でもようやく届く)
――泣こう
剣士(そうね。ちょっと泣いて……)
――……立とう
剣士(それから、穏やかに笑おう……)
――ブン! ヒュンヒュンヒュン――ザグン!
<帝都.宮殿>
――シュン!
勇者「……」
魔王「ここ、ですか」
「何者だ」
勇者・魔王「……!」
皇帝「この庭は、余の領域であるぞ。
どうやって入った」
勇者「皇帝陛下……」
皇帝「何者だ」
魔王「ぼくは! ぼくは……魔王です」
皇帝「……なんと」
勇者「わたくしはただの暗殺者です。勝手にあなたの領域に入ったこと、深くお詫び申し上げます」
皇帝「暗殺者……余を殺しに参ったか」
勇者「いえ」
魔王「あの!」
皇帝「ふむ?」
魔王「あの、ですね……色々いいたいことはあるんですが、それよりもまず……」
皇帝「……」
魔王「ぼくと――」
子供『ぼくと友達になってください!』
皇帝「友達……?」
魔王「はい!」
皇帝「馬鹿な、人間と魔族が友達などと……」
勇者「わたくしは、この子の友達です」
皇帝「……」
魔王「でも、具体的には……ええと」
勇者「魔界と人間界との間の休戦協定の締結、国交の回復、エトセトラエトセトラ……」
魔王「はい、それです!」
皇帝「馬鹿を言え、余がそれを飲むとでも?」
魔王「そうですよねえ……」
勇者「いや、いい案があるぞ」
魔王「なんですか?」
勇者「皇帝陛下を捕まえて人質にしてしまおう」
魔王「なるほど」
皇帝「……!」
皇帝「何を……!」
魔王「いえ、捕虜の生活も悪くないですよ」
勇者「経験談です」
皇帝「馬鹿を、言うな……!」
魔王「あの、勇者、思ったんですけれど……」
勇者「ん?」
魔王「皇帝も結構悪いことやってきたんですよね?」
勇者「ああ、そりゃもう」
魔王「じゃあ、ぼくよりも魔王じゃないですか」
勇者「……なるほど」
皇帝「……?」
魔王「つまり、これがホントの――」
勇者「魔王捕まえた、だな」
・
・
・
本文「……終わりだよ!」
ありがとうございました。口下手なんで言えるのはそれだけです
支援絵ももらってもう悔いもなく死ぬことができそうです
それじゃ一旦休みます
462:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2011/06/07(火) 22:45:04.29:3uYcjoNjo支援絵ももらってもう悔いもなく死ぬことができそうです
それじゃ一旦休みます
乙です。
463:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:45:53.87:ZtdSW0ng0
乙
面白かった うん
464:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/06/07(火) 22:46:38.72:S8K1MDG7o面白かった うん
乙
メイドさんペロペロ
465:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 22:46:59.85:OaS0/vZfoメイドさんペロペロ
あ、あと、最後時間の流れがおかしくなったりしてますね、お見逃しください
そして、約束を破ってごめんなさい
それと、今回の大規模戦闘はにわか勉強の知識ですのであまりに真に受けないでください
もしよければ参考文献もお知らせします
後日談は、三十分後くらいに始めたいと思います
470:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 23:01:07.46:ZtdSW0ng0そして、約束を破ってごめんなさい
それと、今回の大規模戦闘はにわか勉強の知識ですのであまりに真に受けないでください
もしよければ参考文献もお知らせします
後日談は、三十分後くらいに始めたいと思います
後日談あんのかwktk
471:後日談1:2011/06/07(火) 23:19:19.70:OaS0/vZfo<勇者と剣士>
剣士「処女よ」
勇者「えっ」
472:後日談1:2011/06/07(火) 23:20:42.65:OaS0/vZfo
剣士「何よその顔……うれしくないの?」
勇者「うれしいかどうかはわからないけれど、びっくりした」
剣士「まあ、そうよね」
勇者「いやだって普通……」
剣士「普通、何?」
勇者「いや」
剣士「……」
勇者「……」
剣士「……わたしは身体の隅々まで、パ……あの男に汚されてるの」
勇者「……」
剣士「顔も、首も、方も、背中も、もちろん乳房やお尻も」
勇者「……」
剣士「でも最後まで汚されなかった場所があるの」
勇者「……」
剣士「一番最後に残しておこうとでもしたのかしら。それともわたしがそれだけは本気で拒んだからかしら。
わからないけれどとにかく事実として残ってる」
勇者「……」
剣士「ねえ、勇者」
勇者「……ああ」
剣士「その……あの……今なら、ね……? なんとかなる気がするの」
勇者「……うん」
剣士「……行こう」
勇者「君となら、どこへでも」
最近下品な話ばかりでごめんよ
475:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/06/07(火) 23:23:54.79:S8K1MDG7o
かまわんよ
476:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2011/06/07(火) 23:23:54.94:3uYcjoNjo
よろしい続けろください
482:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 23:33:38.12:OaS0/vZfo
ちょっと筆がすすまないので後日談安価
「(キャラ)と(キャラ)」の形で行います
かぶった場合は下にずれる形で
では、>>483と>>484
483:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 23:35:01.50:16j1yZEIo「(キャラ)と(キャラ)」の形で行います
かぶった場合は下にずれる形で
では、>>483と>>484
師匠
484:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県):2011/06/07(火) 23:36:43.93:tZFfwr/Co
魔王
485:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 23:39:18.05:OaS0/vZfo師匠と魔王把握
<師匠と魔王>
魔王「とりあえず休戦協定が結ばれて一時の平和が――」
師匠「飯くれ」
魔王「来なかった!」
魔王「ていうかあなた生きてたんですね」
師匠「ずいぶんな言い草じゃねえか」パクパク
魔王「だってあのシーンは弟子を守って死ぬ感じじゃないですか」
師匠「それに乗っからないカッコよさ?」
魔王「邪道です」
師匠「だってよー」
魔王「だってもクソもありませんよ」
師匠「そんなこと言うとお前鍛えてやんないぞ」
魔王「勇者さんに学ぶからいいでーす」
師匠「あいつかー。立派になったもんだよな」
魔王「元帥補佐ですもんね」
師匠「実質最高権力者」
魔王「ですよねー」
魔王「ところで、勇者さんとの馴れ初めってどんなんだったんですか?」
師匠「ああ、あれはいつだったか……」
・
・
・
師匠「腹減った……」
勇者「奢りましょうか?」
・
・
・
魔王「……だけ?」
師匠「いやー、運命だな」シミジミ
魔王「どこが……」
師匠「お前空腹の恐ろしさを知らんのだな!」
魔王「まあ、知りませんが」
師匠「これだからボンボンは……」
師匠「もっと食い物の大事さをだなー」
魔王「あ、ごめんなさい、メイドさんが呼んでます」
師匠「そういえば最近嬢ちゃんとはどうなんだ?」
魔王「聞きます?」ニヘラ
師匠「やっぱりいい」
魔王「そんなこと言わずにー」
師匠「さっさと行った行った」
魔王「メイドさーん、今行きますよー」
師匠「やれやれ……人の気も知らずによ」
魔王wノロケんなw
493:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/07(火) 23:59:39.31:OaS0/vZfo
次
>>495と>>496
495:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2011/06/08(水) 00:10:51.76:MYvr6brko>>495と>>496
剣士
496:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 00:12:56.79:X31tn0tSO
メイド
502:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 00:25:42.78:N6YWZ/2jo<剣士とメイド>
剣士「……」
メイド「……」
剣士「あれ以来話す機会、なかったわよね」
メイド「そう、ですわね」
剣士「その、最近どうなのよ」
メイド「まずまず、ですわね」
剣士「……」
メイド「……」
剣士・メイド(なんとなく気まずい……)
剣士「あー……」
メイド(ええと……)
剣士「そう、そうよ、あれあれ」ゴソゴソ
メイド「?」
剣士「将棋よ」ドン
メイド「あ……」
剣士「久しぶりにどう?」
メイド「……わたくしに勝てますの?」
剣士「わたしもあれから勉強したのよ?」
メイド「だったら相手になりますわ」フフン
剣士「そうこなくちゃね」
メイド「……」パチン
剣士「……」パチン
メイド「なるほどそうますか……」パチン
剣士「少しは成長してるでしょ」パチン
メイド「そこそこ、ですわね」パチン
剣士「見てなさいよー」パチン
メイド「win!」エッヘン!
剣士「相変わらずでたらめに強いわね……」
メイド「ああ、頑張ったらお腹が好きましたわ」
剣士「お茶にしましょうか」
メイド「……」ズズ……
剣士「……」ズズ……
メイド「……」
剣士「……」
チュンチュン……
メイド「平和、ですわね」
剣士「平和ねー」
メイド「……」
剣士「……」ズズ
メイド「さて」スッ……
剣士「……?」
メイド「剣士」
剣士「なによ改まって」
メイド「わたくし、あなたに申し上げなければならないことがありますわ」
剣士「……何?」
メイド「ありがとうございます」ペコリ
剣士「え?」
メイド「剣士には感謝してますの」
剣士「やめてよすぎたこと」
メイド「いえ、あの頃の関連ではなく。
わたくしと友達でいてくれることに関してですわ」
剣士「友達?」
剣士「友達、友達……」
メイド「違いますの……?」シュン……
剣士「あ、いや、そうじゃなくて、どちらかというと仲間って方が近いんじゃないかしら」
メイド「なるほど、そうかもしれませんわね。
ともかくわたくし、同性の知り合いがいませんでしたから」
剣士「え? メイド仲間は?」
メイド「その、わたくしは人間の血が入ってますから、その……」
剣士「あーなるほど……」
メイド「そういうわけであなたには感謝してますの」
剣士「そういうことね……分かったわ」
メイド「はい……」
剣士「でも、それをいうならあなたにもお礼言わなきゃね。わたしだって同じだったから」
メイド「あ……」
剣士「だからおあいこ。これからもよろしく」スッ
メイド「握手ですわね」ギュッ
剣士「……勇者の事は任せて」
メイド「えっ」
剣士「えっ」
剣士「……」
メイド「……」
剣士「まさかと思うけど……」
メイド「はい」
剣士「まだ勇者の事諦めてないの?」
メイド「一応は」
剣士「何でよ! 最近魔王といい感じじゃない!」
メイド「それとこれとは話が別ですわ!」
剣士「呆れた……あなたってそんなに軽い女だったの?」
メイド「違います、純情なんですわ!」
剣士・メイド「むー!」
メイド「実は今度勇者さまとデートですの!」
剣士「ええ!? 聞いてないわよそれ!」
メイド「べー、ですわっ」
剣士「魔王にいいつけるわよ」
メイド「そ、それは……」
剣士「……」
メイド「ああ、板ばさみになるわたくし……」
剣士「ハァ……わたし、ちょっとこれからの付き合い方について勇者と相談してくるわ」
メイド「それならわたくしもいきますわ」
剣士「なんでよ!」
メイド「なんですか!」
ギャイギャイ ギャイギャイ……
<勇者と魔王>
勇者「よっ」
魔王「あ、どうも」
魔王「お茶どうぞ」コト
勇者「どうも」ズズ……
魔王「どうですか最近は?」
勇者「まあ、ぼちぼちかな」
魔王「そうですか」
勇者「……」ジー
魔王「……なんですか? ぼく男と見つめ合う趣味はありませんよ?」
勇者「俺もないけど」
魔王「じゃあ、なんですか」
勇者「思い出してはくれないのかな、って」
魔王「ああ、そのことですか……」
魔王「ぼくたちはもともと勇者候補生同士だった……でしたよね?」
勇者「ああ。別々のクラスで鍛えられてた」
魔王「勇者さんを信用しないわけじゃないですが、魔王の息子を勇者候補生にしますかね?」
勇者「……」
魔王「?」
勇者「あの頃のお前は、俺のことをお兄ちゃんと呼んだよ」
魔王「それが?」
勇者「いや……」
勇者「魔王の息子を勇者候補生とするか、という質問には、イエスとしか答えられない」
魔王「……」
勇者「魔王にも人間並みの情の厚さを求められるかといえば、疑問に思わざるを得ない。
しかし我が息子を簡単に殺す親はいないと判断された」
魔王「子供に親殺しさせようとしたわけですか……」
勇者「酷い話だよ」
魔王「じゃあぼく誘拐された子なわけですか?」
勇者「そうだ。そしてまた騎士軍の方から逆に魔界に誘拐された」
魔王「……」
勇者「そして魔術的処理によって記憶を改竄・消去されてしまった」
魔王「……」
勇者「……」
魔王「酷い、話です」
勇者「全くだ」
魔王「あの」
勇者「ん?」
魔王「ぼくの話をしてもらえませんか? ぼくはどんな子だったんでしょうか?」
勇者「……元気な子だったよ。いたずらが好きでね。一緒に騎士軍の監視をすり抜けては夜遊びに出かけた」
魔王「へえ……」
勇者「といっても、夜の森で星を見たり、蛍を追いかけたり、花の蜜を吸ってみたりだけどな」
魔王「……」
魔王「そうですか。ありがとうございます、勇者さん」
勇者「……」ジー
魔王「だから男と見つめ合う趣味はありませんって」
勇者「……」ジー
魔王「……あーはいはい、お兄ちゃん! これでいいですか!?」
勇者「もっと優しく」
魔王「……お兄ちゃん?」
勇者「もっと情熱的に」
魔王「お兄ちゃーん!」
勇者「もっと――」
魔王「遊ばないでくださいよ」
勇者「でも、結局完全には思い出してはもらえなかったな……」
魔王「なんかすみませんね」
勇者「いや……」
魔王「いや、でも……ほんの少しだけ」
勇者「?」
魔王「友達に――」
子供『ぼくと友達になってください!』
勇者「……ああ。お前の殺し文句だ」
魔王「え? ぼくそれいろんな人に言ってたんですか?」
勇者「『お兄ちゃん』と合わせて男女関係なく効く最終兵器だった」
魔王「は、はあ……」
勇者「今度メイドに『お姉ちゃん』って言ってみるといい」
魔王「やってみます」コクコク
勇者「よし、じゃあ行くかな」
魔王「もうですか?」
勇者「ああ、仕事が残ってる」
魔王「ええ、分かりました」
勇者「行ってくるよ」
魔王「行ってらっしゃい、……お兄ちゃん」
勇者「……効くな」
魔王「そうですか」
次、剣聖と幼剣士について
あんまりエロいのは期待しないでほしい
534:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 05:52:05.10:lEOBXK0DOあんまりエロいのは期待しないでほしい
何故か全身黒ずくめの極悪金貸し思い出した
535:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 06:00:27.47:N6YWZ/2jo
>>534
ぶっちゃけキャラの一人のモデルはずばりその人
性格から背景までかなり似せたつもりでありんす
536:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 08:38:29.54:73cqrJESOぶっちゃけキャラの一人のモデルはずばりその人
性格から背景までかなり似せたつもりでありんす
オーフェンか?
相変わらず好きだなwwwwww
545:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:27:10.21:N6YWZ/2jo相変わらず好きだなwwwwww
<剣聖と剣士>
――わたしの朝は、口腔粘膜の、ぬめり絡み合う感触から始まる
剣士「んん……」ヌチャァ……
剣聖「ん……」ピチャ……
剣士「んはっ……」ビクン!
剣聖「起きたか?」
剣士「ハァ……ハァ……」コクリ……
剣聖「なら鍛錬の用意をするんだ」
――そう言って男は去っていく。気絶から覚めた頭は重い
――朝の走り込み。ここに汚濁は潜まない。わたしの生活の中で唯一清らかな時間
剣士「ハッ、ハッ……」タッタッタッタ……
――透明な日の光の中、身体を引き延ばし拡張していく感覚
剣士「フッ、フッ……」タッタッタッタ……
――このまま帰りたくないとも思う。その意思とは反対に、奥底で疼く躰を見下ろしながら
――走り込みの後は剣をふるう。気の遠くなるような数を、這うような速度で踏んでいく
剣士「フッ、フッ……」ビュッ ビュッ……
――一振りごとに空間に切り傷が刻まれるのを感じる。それを一点にまとめる意識
剣士「フッ、フッ……」ビッ ビッ……
――鋭敏になる意識。だがそこに一筋の違和が差し込まれる
剣士「!」ビク!
剣聖「続けろ」
――躰を蛇が這う。そのように錯覚する。実際に這っているのは人間の腕だ
剣士「ヒュッ、ヒュッ……」ビシ ビシ……
――かざ切り音とともに躰に腕が食い込む。撫でられ、つままれ、痺れが走る。
剣士「くっ、うっ……」ビュン ビュン……
――次第に息が上がる。躰が震える。立っていられない
剣聖「続けろ」
剣士「……はい」
――それでも進まねばならない
――目の前の男を打ち倒すことができたらどんなにいいか。いつもいつも夢想する
剣士「……」ジリ
剣聖「……」
――だがその思いと裏腹に知っている、確信している。わたしは負ける
剣士「やああぁぁッッ!」バッ!
剣聖「……」シュッ!
――出た足を斬りつけられひるむ。その隙を、男は見逃さない
剣聖「……」シュッ ビッ バシュッ!
――一刀ごとに血が散るがごとくに服が裂ける
剣士「やっ……」
――閃きはやまない。服はすぐに原形をとどめなくなり、素肌が外気にさらされる
剣士「やだっ!」ダッ!
――思わず身をひるがえすその背中に、最後の一刀が浴びせられる
剣士「ひぐっ!」ドサァ
――背の真ん中を打たれ、痺れて立てない
剣士「あ……あ……」
――それでも這って逃げようとする背に、覆いかぶさる暗い影
剣聖「お前わざと負けているんだろう」
――するりと肌を何かが滑る
剣聖「俺に嬲ってほしいんだろう」
――違う! 叫ぼうにも声は出ない。背筋にぬめる何かが触れる。
剣聖「いいだろう、我が娘。愛してやるぞ」
――嫌悪感はすぐにかすれて消えていった
剣士「あっ……はっ……」
剣聖「……」ピチャ……ピチャ……
剣士「うあ、あ……」
剣聖「……」ヌロ……
剣士「ひぅ……!」
――躰に打たれた無数の痣。舌と指は、それを丁寧に撫でていく
剣士「いや……いやぁ……」
剣聖「……」ピチャリ……
剣士「パパぁ……」
剣聖「……」ギュッ
剣士「あぅ!」ビクンビクン!
・
・
・
――走っていた走っていた。朝の光の中どこまでも走っていた
剣士「……」タッタッタッタ……
――逃げようと決めたあの朝
剣士「……」タッタッタッタ……
――続く道をどこまでも走っていた
剣士「う……」タッタッタッタ……
――泣こうとして、泣けないことに気付いた
剣士「うう……」
――だから代わりに足を必死に動かした
剣士「ううう……っ」
――どこまでも走っていけそうな気がした
剣士「うぐ……ひぐ……」
――……どこにも行けないのに気付くのに、そう長くはかからなかった
剣士「ああっ! ああっ――!」
――嬲られていた。
剣士「うあ! ああっ!」
――どうしようもない程嬲られていた。
剣士「もうやめて! お願い!」
――夕方になって帰ったあの日。わたしはパパに汚された
剣士「お願い……!」
――もう大抵のことは響かない。信じていたそれはたやすく崩れ落ちる
剣士「きゃああああ!」
――圧倒的な快楽。飛ぶようでいて、なによりも速く落下するような。そんな感覚
会社でパンツを脱げと…
567:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 18:06:45.62:lEOBXK0DO
>>554
ネクタイと靴下つけてりゃ大丈夫だ、安心してパンツ脱げ。
555:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:35:22.41:N6YWZ/2joネクタイと靴下つけてりゃ大丈夫だ、安心してパンツ脱げ。
――悲鳴は口でふさがれた
剣士「――ッ! ――ッ!」
――くぐもって消える悲鳴。もしくは歓喜の声
剣士「……っ」
――ああ認めよう。あの時わたしは堕ちていた
剣士「……」
――唾液にぬめり、そして白濁にまみれ。熱を帯びて波打っていた
――認めよう。あの時わたしは堕ちていた
剣士「……」
――どこまでも底がなく落下していく何か
剣士「……」
――取り返しのつかない何か
剣士「……」
――あの時わたしは堕ちていた。最後まで行かなかったのは奇跡に違いなかった
剣士「……」
――どうしようもなくくだらない奇跡だった
――……
心の底に、みえない小さな器を用意した。
汚濁した何かによって満たされていくそれ。
泥のような中身はどんどんたまっていき、いつかは器からあふれるだろう。
その時は。
わたしはきっと今度こそここを出ていく。
出て行って二度と戻りはしないだろう。
――……
剣士「ねえ勇者」
勇者「何か?」
剣士「ごめんね」
勇者「……」
剣士「ありがとう」
勇者「……」ギュッ
剣士「……」
――あれはそれほど経たないうちに実現し、わたしは新たな世界に足を踏み出したのだが、それはまた別の話
剣士「……」
――身体の痣は消えたが、まだどこかに鈍い痛みは残っている
……底抜けにゴキゲンなリクエストを頼む
>>562
562:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:42:50.03:cYKHpjSIO>>562
剣士とメイドさんのキャッキャウフフ
564:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県):2011/06/08(水) 17:55:35.55:iRZGNmC/o
師匠の過去が知りたい。
565:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 17:59:30.62:N6YWZ/2jo
>>564
正直に白状すると師匠のキャラはオーフェンの丸パクなので(トレースしきれてないけど)、
過去ストーリーもオーフェン一巻の丸パクになる
それでもいい?
570:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県):2011/06/08(水) 18:19:40.94:iRZGNmC/o正直に白状すると師匠のキャラはオーフェンの丸パクなので(トレースしきれてないけど)、
過去ストーリーもオーフェン一巻の丸パクになる
それでもいい?
>>565
構わんよ。
オーフェンって読んだ事ないし見た事もないから俺は問題ない
573:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 18:55:29.27:N6YWZ/2jo構わんよ。
オーフェンって読んだ事ないし見た事もないから俺は問題ない
574:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/08(水) 20:26:17.73:N6YWZ/2jo
<メイドと剣士と後一人>
メイド「キャッキャ」
剣士「ウフフ」
<帝都>
メイド「楽しいですわねー」
剣士「そうね、楽しいわ」
メイド・剣士(今この場においてあなたさえいなければ!)
メイド「あれはなんですの? 露店? なんですかそれ」
剣士「あなたそんなことも知らないの?」
メイド「わたくしは勇者さまと話してるんですわっ
……ふむふむ、野外に出したお店ですか」
剣士「……」
メイド「え!? 何か買ってやる? ホントですの!?」
剣士「!」
メイド「ありがとうございます!」
剣士「……」ブス
メイド「~♪」ルンルン!
剣士「ねえ、勇者……いえ何でもないわ」
剣士(ここで欲しがっては、女がすたるわよ剣士……!)
メイド「ブレスレット~♪ 勇者さまから買ってもらったブレスレット~♪」
剣士「やめなさいよみっともないわ」
メイド「……」ジー
メイド「フッ……」ヤレヤレ
剣士(『悔しいんですのね』。そう言いたげでムカツク……)
メイド「あっちの広場が賑やかですわ! 行ってみましょう!」グイグイ
剣士「あ、ちょっと……」
剣士「……」ポツン……
剣士「――フッ……」カタスクメ
剣士「あんな娘に何ムキになってるの剣士。冷静に行きなさい、冷静に」
剣士「決して悲しくなんかないわ。だって冷静だもの」
剣士「だからこれは涙じゃないし、顔も歪んでなんか……」グス
剣士「……あーあ。本当に魔王に言いつけちゃおうかしら」
ポンポン
剣士「はい……って勇者」
剣士「!」ササ! ゴシゴシ
剣士「何かしら?」キリ!
剣士「……え。これ指輪」
剣士「高いものじゃないけどって?」
剣士「……そんなのどうでもいいわよ」
剣士「いい? あなたがくれる物は、例え生ごみだろうと宝物になるの」
剣士「だから」スッ
剣士「……」
剣士「……ちょっとくらいサイズが違おうとわたしの宝物になるの」
剣士(……ダイエットって指も痩せるかしら?)
剣士「メイドは?」
剣士「あっちで人形劇に夢中になってる?」
剣士「……子供ね」
剣士「……」ウズ
剣士「別にわたしも見たいなんてそんなことないわよ?」
剣士「……そこまで言うなら仕方ないわね。見てあげないこともないわ」
剣士「あ、ちょっと,待って」
剣士「……」グイ
――チュッ
剣士「……さあ、行くわよ」
剣士「別に赤くなってなんかないわ。ホントよ?」
剣士「ホント! 行くわよ!」グイグイ!
<魔族トリオ>
コボルト族長「おう」
ゴブリン族長「うむ」
妖精族長「~♪」
コボルト族長「生き残ったな」
ゴブリン族長「儂もお主も運が良かったとしか言いようがない」
コボルト族長「ああ、あの時の人間の火力は異常だった。あれは魔族並みだったのではないか?」
ゴブリン族長「仮面人、いや勇者が行っていたことが今ならわかる。実力が同じなら、人間の方が戦いは巧い」
コボルト族長「認めたくはないがな」
妖精族長「~♪」
ゴブリン族長「人間が撤退していなかったら儂もお主もここにはおらん」
コボルト族長「あれは一体どういうことだったのだ? なぜ人間たちは退いたのだ?
あのまま攻められていれば魔王城は陥落していたに違いないのに」
ゴブリン族長「儂も後から聞いた話にすぎんが。人間たちの使う魔術は血を使うことは知っておろう」
コボルト族長「ああ」
ゴブリン族長「単純に血液が足りなくなったのが一つらしい」
コボルト族長「何?」
妖精族長「~♪」
コボルト族長「なぜそんな間抜けな事態になったのだ」
ゴブリン族長「魔術士といってな、魔方陣を体内に持つ人間が騎士軍の主力だったそうだ。
魔術を使うごとに体内から血液を失う。それは表からは見えない」
コボルト族長「見誤ったのか」
ゴブリン族長「それともう一つ」
コボルト族長「何だ?」
ゴブリン族長「竜族だ」
コボルト族長「あいつらが?」
妖精族長「~♪」
ゴブリン族長「今回、魔界の危機ということで腰の重いあやつらがようやく動いた」
コボルト族長「本当にようやくだな。プライドばかり高いものぐさどもが」
ゴブリン族長「しかし実力は本物だ。その脅威によって人間は退いていった」
コボルト族長「なるほどな」
妖精族長「~♪」
コボルト族長「さて、一応休戦協定は結ばれたわけだが。これからどうなるのであろうな」
ゴブリン族長「そのうち両者の軍縮が始まるとは思うが、儂らの仕事はなくならんだろうな」
コボルト族長「なぜだ?」
ゴブリン族長「最低限の武力は残しておく必要があるからだ」
コボルト族長「ん?」
妖精族長「怪我のない喧嘩をするにも力が必要ということです」
コボルト族長「……?」
妖精族長「魔族であるあなたも知っているでしょう。本当に力のある者は大きな怪我を負う戦闘は原則しない。
力の弱い者ほど血みどろな戦いをするものです」
ゴブリン族長「そういうことだ」
コボルト族長「なるほどな」
妖精族長「今後わたしたちは抑止力としての働きを持つことでしょうね」
ゴブリン族長「うむ」
コボルト族長「我々は勝てなかったが、負けもしなかったな」
妖精族長「ですが旅立った者も多い……」
ゴブリン族長「儂らがまだ生きているのは、その散っていった者たちのおかげとも言える。
儂らで祈りを捧げよう」
コボルト族長「……そうだな」
――……ヒュルルルルルル
ゴブリン族長「! なんだ!?」
――ドォォォォンッ!
コボルト族長「敵襲か!?」
妖精族長「……ふふ」
・
・
・
――ヒュルルルルルル……ドォォォン!
コボルト族長「……」ポカン
ゴブリン族長「花火……?」
妖精族長「妖精族お手製ですよ」
コボルト族長「妖精族が?」
ゴブリン族長「なぜ?」
妖精族長「旅立った者を祝福するために」
コボルト族長「……」
ゴブリン族長「……」
妖精族長「妖精族はいたずら好きなんですよ」
――ヒュルルルルルル……ドォォォン……パチパチ……
コボルト族長「……」
ゴブリン族長「きれいで、あるな」
妖精族長「……祈りましょう。明日もまた、いい日であるように」
コボルト族長「……ああ」
ゴブリン族長「うむ」
そういえばクーデターとかで魔物勢力は変わったのか?
というか何種いるんだ?
624:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 14:38:28.18:kujgr3tloというか何種いるんだ?
>>621
ぶっちゃけ政治・経済が苦手で、固めすぎると書けなくなるとの予測のもとそんなに考察してない
俺の認識では、まず力が強いor数が多い種族として、
コボルト、ゴブリン、妖精、鬼人、竜、巨人、次点で吸血鬼なんかがいる感じ
魔族全体の種族数は細かいのも合わせると数十くらい? 設定の練り込みが足りないや
今回の騒動は至極短期間だったため、そんなに勢力変化はないと思ってる
ただ、今回いち早く騒動の沈静に努めたコボルト、ゴブリン、妖精の発言力が強まり、鬼人の発言力はほぼゼロになったんじゃないかな、と
騒動では、鬼人の軍部が暴走したとの認識の下、指導者は更迭、ペナルティで、種族の指導は妖精が行なっていると思う
多分……
628:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 18:07:35.41:F1DmGitfoぶっちゃけ政治・経済が苦手で、固めすぎると書けなくなるとの予測のもとそんなに考察してない
俺の認識では、まず力が強いor数が多い種族として、
コボルト、ゴブリン、妖精、鬼人、竜、巨人、次点で吸血鬼なんかがいる感じ
魔族全体の種族数は細かいのも合わせると数十くらい? 設定の練り込みが足りないや
今回の騒動は至極短期間だったため、そんなに勢力変化はないと思ってる
ただ、今回いち早く騒動の沈静に努めたコボルト、ゴブリン、妖精の発言力が強まり、鬼人の発言力はほぼゼロになったんじゃないかな、と
騒動では、鬼人の軍部が暴走したとの認識の下、指導者は更迭、ペナルティで、種族の指導は妖精が行なっていると思う
多分……
絵描きによる閑話休題
メイド「わたくし……脱いでもすごいんです」
剣士「どこで買ったのよそんなエロ下着!?」
tp://belluna.jp/ryuryu/01/010201/d/NE8Y/00613/goods_detail/ ←ここ
メイド「甲冑で嵩増ししている誰かさんには似合いませんわよ?」
剣士「ぐ……ッ!!」
メイド「これで勇者様を悩殺ですわ~♪」
そしてメイド撃沈(お約束)。
侮りがたし無料通販カタログ……!
630:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 18:32:25.42:CWcq7UcIOメイド「わたくし……脱いでもすごいんです」
剣士「どこで買ったのよそんなエロ下着!?」
tp://belluna.jp/ryuryu/01/010201/d/NE8Y/00613/goods_detail/ ←ここ
メイド「甲冑で嵩増ししている誰かさんには似合いませんわよ?」
剣士「ぐ……ッ!!」
メイド「これで勇者様を悩殺ですわ~♪」
そしてメイド撃沈(お約束)。
侮りがたし無料通販カタログ……!
>>628
剣士が可愛すぎます
632:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2011/06/09(木) 18:41:19.00:T/p2ta7Bo剣士が可愛すぎます
>>628
ふぅ・・・
635:じゃあ、失礼ながら投下するよ:2011/06/09(木) 19:33:26.90:kujgr3tloふぅ・・・
<剣士とメイドと後一人>
剣士「キャッキャ」
メイド「ウフフ」
剣士「楽しいわねー」
メイド「楽しいですわー」
剣士・メイド(今この場においてあなたさえいなければパート2!)
<帝都>
剣士「これはどういうことなのかしら」
メイド「どう、とは?」
剣士「わたしは勇者とデートしていたと思ったら何か余計なものがついてきていた。
非常に恐ろしいものの片鱗を味わってるわ」
メイド「別に超スピードでも催眠術でもありませんけどね」
剣士「ええそうね、あなたが軟派な女ってだけよね」
メイド「純情なだけですわ!」
剣士「純情の使いどころ多分間違ってる」
<店>
メイド「勇者さま! これはいかがですか!?」シャ!
剣士「……」
メイド「じゃあ、こちらは!?」シャ!
剣士「……」プル……
メイド「ふむぅ、ではこれでどうでしょう!?」シャ!
剣士「……」プルプル……
メイド「あら剣士、どうしましたの? あなたも試着しませんの?」
剣士「あなたって痴女だったのね」
メイド「え?」
剣士「勇者も勇者よ! 下着のお店に一緒に入ってどういうつもり!?」
メイド「ほらほら、剣士も試着しませんと!」グイグイ
剣士「ちょ、ちょっと!」
メイド「えい!」シュババババ!
剣士「きゃ!」
メイド「完成ですわ!」シャ!
剣士「……」
メイド「勇者さま、いかがですの!?」
剣士「……っ」
剣士「~~~~ッ!」シャ!
メイド「ああ! なんで隠れるんですの剣士!?」
剣士「見ないで勇者ぁぁぁッ!」
店員「どうしました殿方、やや前かがみでは立ちにくくありませんこと?」
店員「お気になさらず? はぁ……?」
店員(二人もきれいな女性をお連れして……一体この殿方は何者でしょう?)
<夜>
剣士「ああ、もう、今日は散々だったわ」
剣士「勇者、あなたもそう思うでしょう?」
剣士「……どうしたのよ、そんなにそわそわして」
剣士「ちょっとどこ触ってるのどこ見てるのどこおっ立ててるの」
剣士「まったく」
剣士「いえ安心したわ。あなたもちゃんと男なのよね」
剣士「いいわよ……来て」
剣士「んっ……」
剣士「あ、そうそう、今あの下着つけてるの。だから――キャッ!」
剣士「……もう、がっつかないの! わたしは逃げはしないわ」
剣士「うん、そう。ずっと一緒よ。ね?」
剣士「……一緒に――」
<哀愁二人組>
元帥「最後に見せ場がやってくる。そんな風に考えていた時期が私にもありました……」
皇帝「最後に見せ場はあったが、何か釈然とない扱いであった……」
元帥「皇帝は今何をなさっているのですか?」
皇帝「今は密かに魔王城で暮らしておる」
元帥「敵地の真ん中で捕虜ですか。心中お察しします」
皇帝「……」
元帥「……?」
皇帝「……メイドとは良いものだ」
元帥「おいこら」
こwwっうwwwwwwてwwwwっうぃwwwwww
652:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2011/06/09(木) 21:02:57.45:F+yMnX4Lo
皇帝とは思いの外友達になれそうで
安心した
654:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 21:50:06.57:kujgr3tlo安心した
お師様編完成
やっぱりオーフェン一巻のダイジェスト風味になったので注意をば
655:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/09(木) 21:51:11.34:kujgr3tloやっぱりオーフェン一巻のダイジェスト風味になったので注意をば
『この物語において、奇跡あるいはそれと同じ何かは起きなかったことを報告する』
――彼女は泣き虫だった俺にいつも言っていた
『泣いちゃだめよ。あなたが悪いんだから
手の届かない範囲に手を伸ばそうとしたのが駄目なの』
――最後においても彼女は言っていた
『泣いちゃだめよ。わたしが悪いんだから』
――彼女の言葉を忘れた日は、ない
<十年前>
女「やっふー!」ガバ!
男「うわあ!」ヨロ……
女「ふふ、元気?」
男「いきなり飛びつかないでよ……」
女「スキンシップスキンシップ♪」
男「全くもう……」
女「大学の講義、どう? タルくない?」
男「いや別に?」
女「そう? あたしはタルいわー」
男「それは姉さんがあまりに頭がいいからだよ」
女「褒めてもキスくらいしかできないわよ?」
男「ちょっ……そんな軽々しくキスとか……!」
女「ん? 何? 期待した?」
男「べ、別にそういうわけじゃないよ」
女「……後であたしの部屋に来なさい」
男「え、え!?」
女「バーカ、期待するんじゃないわよ。
あんたも大概頭いいから、見てもらいたいのがあるだけ」
男「な、なんだ」
女「そんなにがっかりしないの。あんたには期待してるんだから」
――それが最後に見た彼女の姿だった
「あ……あ……」
――彼女はゆっくりと人間をやめていった
「うあ! ああ!」
――それは悲鳴にも歓声にも聞こえた。人間をやめることを彼女が望んでいたならば、それも間違っていなかっただろう
「がああああああ!」
――肉が裂け、崩れ、また膨らみ、はじけ、散り
「……見ないで」
――しわがれた声で最後にそう告げると、彼女はすっかり変わってしまった姿を引きずって、空に消えた
「まさか、あの彼女が……」
――酷く耳障りだった
「実験に失敗……」
――耳障りだった
「魔術士計画の……」
――耳障り、耳障り、耳障り、耳障り……
「魔族の体組織の組み込み……」
――叫んでいた。一人一人殴りとばしていた。取り押さえられるまで暴れ続けた。
「――大学の汚点……」
――それでもどうしてか、涙は止まらなかった
教官「討伐隊を組むことになった」
男「……」
教官「彼女は既に人間をやめている。すぐに排除しなければ帝国が危うい。わかるだろう?」
男(大学の立場が危ういの間違いだろう……!)
教官「君も協力してくれるね?」
男「……お断りします」
教官「君には期待してるんだ」
『あんたには期待してるんだから』
男「期待……期待ってなんですか。彼女を殺すことを期待されても困ります。
彼女は、ぼくの姉なんだ」
教官「だった」
男「……?」
教官「過去形だ。今は違う」
男「違わない!」
――彼女の討伐隊は、その夜出発した
男「……」
――俺は、何もせずに部屋でうずくまっていた
男「……」
――場所は分かっている。彼女には会いに行くことができる
男「……」
――あそこにいるだろう。昔彼女と一緒に暮らしていた場所。そんな気がした
男「……」
――だが動けなかった
男「っ……」
――怖かった。彼女を直視するのが。変わってしまった彼女に会うのが
男「っ……っ……」
――泣いていた。しばらく泣いて、気付かぬうちに眠っていた
◆◇◆◇◆
少年「うわぁぁん……」
「こら、泣かないの」
少年「だって……だってっ……」
「手の届かないことに文句を言っても始まらないわ」
少年「死……母さんがっ……ヒック」
「泣いちゃだめ」
少年「うわぁぁぁぁぁん!」
「……」
少年「グス……グス……」
「……あたしはずっとそばにいてあげるわよ」
少年「……」
「だから泣きやんで。お願いだから。ね?」
少年「……うん」ヒック
◆◇◆◇◆
――部屋を飛び出した
男「……っ」
――暗い夜の道を、どこまでも走った
男(まにあえ……まにあえ!)
――母の生家。そこに向かって脇目もふらずにどんどん走った
男「っ……っ……」
――視界がにじんだ。よく見えなかった
男「姉さん!」
――それでも、走った
男子「おい、やっぱりやめようよ……」
子供「お兄ちゃんは怖がりですね」
男「君たち! ……このあたりで、そうだな、大きな音がしたりしなかったかい?」
子供「ええ、あっちからしましたよ」
男「ありがとう!」
――終わっていた
男「ッ……」
――着いたときには、全てが終結していた
男「……」
――そこには討伐隊と、躯しかなかった
男「姉さん!」
――まだ焼かれた熱が残っている死骸。火傷するのにもかまわずすがりついた
男「姉さん……」
――その時気付いた。彼女は見る影もなく変わってしまったが、ほぼ躯となってしまった彼女の細い吐息は、昔のままだと
『……』
――姉の目が開いた。薄く、弱く
男「姉さん……!」
『――泣かないで』
男「……姉、さん」
・
・
・
師匠「ううん……」
魔王「おはようございます」
師匠「……よう」
魔王「姉の夢、ですか?」
師匠「憧れだった」
魔王「……」
師匠「愛していたよ。本当に」
魔王「……」
師匠「気付くのが遅かったんだ。たとえ姿が変わっていようが、彼女は彼女のままだって」
魔王「師匠さん……」
師匠「気付ければ、奇跡かそれと同じ何かは起きていたかな」
魔王「……」
師匠「……いや、不毛か」
師匠「さて、腹も膨れたし俺は行くよ」
魔王「師匠さん」
師匠「ん?」
魔王「……いえ、なんでもありません」
師匠「そうか」
魔王「でも、これだけは」
師匠「なんだ」
『泣かないで』
師匠「……」
魔王「……」
師匠「……分かった。それじゃあな」
ガチャ……バタン
――彼女のことは、忘れない
<魔王とメイド>
魔王「お姉ちゃん」
メイド「ブフォッ!」
メイド「な、なんですのそれは」ボタボタ……
魔王「メイドさん、鼻血はないでしょう鼻血は」
メイド「だ、だって」
魔王「お姉ちゃん」
メイド「~~~ッ!」ブシャ!
魔王「まったくもう……」フキフキ
メイド「ずびばぜん……」
魔王「いや、ぼくもごめんなさい、遊びすぎました」
メイド「吸血鬼が逆に血を噴き出すなんて屈辱ですわ……」
魔王「その考え方は吸血鬼らしいんでしょうかどうなんでしょうか?」
メイド「もしかして勇者さまですか、入れ知恵したのは……」
魔王「良く分かりましたね」
メイド「いえ、あの方常々魔王さまに『お兄ちゃん』って呼ばれたがってる節がありましたから……」
魔王「そ、そうですか」
メイド「それにしても……」
魔王「……?」
メイド「……」フルフルフルフル……
魔王「???」
メイド「あーん、魔王さまかーわーいーいー!」ガバ!
魔王「わわ!」
本文「濃厚な吸血タイムだよ! しばらく待ってね!」
魔王「……っ」ピクピク
メイド「ごちそうさまでした」
魔王「お……お粗末さまでした」
メイド「魔王さまがかわいすぎるのが良くないんです」
魔王「褒め言葉として受け取っておきましょう……」
魔王「でもぼくだって格好いいところはあるですけれど」
メイド「そうでしょうか?」
魔王「ありますよ!」
メイド「ちょっとよくわからないので実演してもらえますか?」
魔王「分かりました。ぼくの本気、受け取ってください」
魔王「あー、こほん……」
メイド「♪」ワクワク
魔王「メイド……」
メイド「!」
魔王「君が欲しい……」
メイド「……」
魔王「……ど、どうですかね?」
メイド「……」
魔王「メイドさん?」
メイド「――ッ!」ブバ!
魔王「ああ!? 出血過多!?
メイドさん! メイドさーん!」
・
・
・
<魔王と剣士>
魔王「お姉ちゃん」
剣士「……」
魔王「あれ?」
剣士「何それ?」
魔王「え? いや、別になんとなく……」
剣士「そう……」
魔王(さすがに効かないかー)
剣士「――」
魔王「……?」
剣士「……わたしには勇者がいる、わたしには勇者がいる、わたしには勇者がいる……」ブツブツ
魔王「……」
剣士「……浮気は駄目よ剣士、いいわね……」ブツブツ
魔王(思いのほか効いてた)
剣士「……よし」
剣士「ところで、最近あの娘とはどうなの? 進んだ?」
魔王「聞きます?」ニヘラ
剣士「聞かなくても分かった」
魔王「そんなこと言わずに聞いてくださいよー!」
剣士「いいけど……あまりにムカツクこと言ったら帰るわよ?」
魔王「話せるならなんでもいいです!」ニヨニヨ
剣士「今からしてもうムカツキはじめてるわけよ」
魔王「じゃあ、話しますよ。最近一緒に出かけたんですが……」
剣士「……」
・
・
・
魔王「それでメイドさんにお姉ちゃんって……」
剣士「……」
・
・
・
魔王「それからそれから」
剣士「……」
・
・
・
魔王「――というわけです!」
剣士「え? あ、終わったの?」
魔王「さては聞いてませんでしたね!」
剣士「聞いてたわ、一緒に出かけたあたりまでは」
魔王「それ一番最初じゃないですか!」
剣士「でも安心したわ。あの娘と仲悪いわけじゃないのね」
魔王「そんなわけないじゃないですか」
剣士「最近ちょっと心配だったのよ。
あの娘あまりに勇者にべたべたするもんだから、あなたと上手くいってないんじゃないかって」
魔王「え!?」
剣士「一応友達だから心配なの」
魔王「勇者とべたべた……?」
剣士「あ、聞かなかったことにして」
魔王「勇者と、べたべた……」
剣士(しまったわね)
剣士「あー……うん、でも安心なさい」
魔王「何がですか……」
剣士「あの娘、あれでも勇者のこと諦め始めてる節があるから」
魔王「根拠は?」
剣士「女の勘?」
魔王「剣士さんってそんなの持ってたんですね」
剣士「どーいう意味よ」ツネリ
魔王「あいたたた……」
剣士「ま、あんたも頑張んなさい。
その方がわたしも助かるから」
魔王「頑張ります」
剣士「じゃあね」
魔王「はーい、さようならお姉ちゃん」
剣士「……」ツー
魔王「剣士さん、鼻血です」
<皇帝陛下と主人公四人組>
メイド「こーてーへーか、朝ですわ」
皇帝(妻に欲しい)
・
・
・
魔王「おはようございます、おじいちゃん♪」
皇帝(息子に欲しい)
・
・
・
剣士「突然だけど皇帝と童貞って響きが同じよね」
皇帝(妾に欲しい)
・
・
・
勇者「ご機嫌麗しゅう、皇帝陛下」
皇帝「死せよイケメン」
勇者「えっ」
712:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 17:36:53.74:RoG4jT3IO
死せよイケメン
718:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 21:46:49.80:lsBUaxylo<世界は――>
勇者「……」
剣士「こんなとこにいたのね勇者」
勇者「剣士か」
剣士「ええ、邪魔しちゃ悪かったかしら?」
勇者「いや……」
剣士「何か考え事?」
勇者「ああ」
剣士「聞いてもいい?」
勇者「うん、いいよ」
勇者「……俺はね」
剣士「うん」
勇者「親がいないんだ」
剣士「……」
勇者「家族のことも、覚えてない」
剣士「……」
勇者「いや、だからどうってわけじゃないんだけど」
剣士「……」
勇者「でも何かが欠けてる気がして、ここまでずっとあがいてきた」
剣士「……」
勇者「手の届く範囲でしか物事は動かせない。それを知っていてもつらかったな」
剣士「……そう」
勇者「でも」
剣士「?」
勇者「今は、違うかな」
剣士「……」
勇者「……」
剣士「……」
勇者「結婚しよう」
剣士「うん……え?」
勇者「結婚しよう。大事なことだから二回だ」
剣士「え? え?」
勇者「……もしかして嫌だったか?」
剣士「そんなわけないじゃない! でも……」
勇者「俺は君以外目に入らない」
剣士「……!」
勇者「……それじゃ、駄目かな?」
剣士「いいえ、十分よ」
勇者「……」
剣士「……」
勇者「夕日がきれいだな」
剣士「ええ」
勇者「……」
剣士「……」
……オーイ!
勇者「ん?」
魔王「何してるんですかー、こんなところで」
メイド「わ、きれいな夕日ですわねー!」
剣士「ここは特等席なの」
魔王「ご一緒してよろしいですか」
勇者「かまわないよ」
勇者「……」
剣士「……」
魔王「……今日が終わりますね」
メイド「……はい、魔王さま」
勇者「でもまた日は昇る」
剣士「そうね」
魔王「明日はどんな日になりますかね?」
メイド「わたくし、勇者さまとなら――いいえ、みんなとならどんな日でもかまいませんわ!」
勇者「俺もだ」
剣士「わたしも」
魔王「もちろん、ぼくもです!」
――世界は
コボルト族長「きれいな夕日だ」
ゴブリン族長「うむ」
妖精族長「~♪」
――時に酷く残酷で
元帥「陛下、ご覧ください」
皇帝「うむ、美麗である」
――だがそれでもどこか美しく
鬼人族長「……」
鬼人従者「……」
――手の届くところに答えを置いていく
師匠「ああ、腹減った……」
――きっとそれは何かの奇跡だろう
子供『……』
男子『……』
――生きようと思えるなら
勇者「……」
剣士「……」
魔王「……」
メイド「……」
――必ずまた、日は昇る
title:勇者「魔王捕まえた」
~了~
本文「――以上、厨二病棟からお送りいたしました! それじゃあばいばい!」
乙、次回作もwktkして待ってるよ
737:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/10(金) 23:48:22.99:6WWfkF1IO
乙
剣士が幸せ荘で何より
さぁ妖精族長の後日談を作る作業に戻ろうか
739:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/11(土) 00:22:09.39:1ioD4eGQo剣士が幸せ荘で何より
さぁ妖精族長の後日談を作る作業に戻ろうか
745:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2011/06/11(土) 11:32:13.18:ihdFrIQRo
>>739
やだ可愛い
757:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県):2011/06/13(月) 00:49:38.51:/pMrDujJoやだ可愛い
>>739
おぱいがあるように見えるぞ
758:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/06/13(月) 02:24:17.42:jkl5xHc6oおぱいがあるように見えるぞ
既に10枚も上げてたとか気付かんかったwwwwwwwwww1スレ内でのうp記録更新だわwwwwwwwwwwww
>>757
おぅふ、修正しまんた。寝る前に覗いて良かった…
ついでに目に付いたところを微修正&トリミング位置を若干変更
740:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県):2011/06/11(土) 00:24:19.84:w6SSc2a1o>>757
おぅふ、修正しまんた。寝る前に覗いて良かった…
ついでに目に付いたところを微修正&トリミング位置を若干変更
乙
面白かったぜ
751:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2011/06/12(日) 16:06:50.62:oA2xpfnWo面白かったぜ
乙
おもしろかったよ
次へ
おもしろかったよ
コメント 15
コメント一覧 (15)
絵心ない俺には無理なんで誰か漫画にしてくださいw
までしか読んでないが
これはひどい
末期の厨2病じゃないか
入院してこい
面白かった
剣士の生い立ちが自分と似ていて読むのちょっと辛くなったが
元気もらえた
死せよイケメン
魔王もメイドも可愛い
またかいてほしい
上手すぎwww
剣士√行くと知ってから
急につまらなくなってしまった
てっきり魔王と剣士が結ばれるのかと
あぁ、これがカプ厨のつらいところよ
次回作にも期待したいなぁ
剣士かわいいよ剣士